第124話 チートスキル

 

「そ、そんな……いいんですか……?」


「バリィ曰く、今回の最大の功労者、ということですからね。実際、この場にいる全員が、貴方に命を救われています」


 ツヴァイス殿下の言う通り、私は確かに彼らの命を救った。その自負はある。

 でも、ぽっと出の私が、裏ボスのドロップアイテムを貰うなんて……本当にいいのかな?

 バリィさん、カマーマさん、ライトン侯爵に目を向けてみたけど、誰からも異論は出なかった。 


 うーん……。うん! 一応、私もファーストキスを犠牲にした訳だし、こうなったら遠慮はしないよ! 一番いいものを貰ってやるんだ。

 話が纏まったところで、ツヴァイス殿下がみんなを代表して、宝箱をパカッと開けた。


 もっと引っ張って、ドキドキさせてくれてもよかったけど、躊躇いなく一気にいったよ。

 私たちは雁首を揃えて、中に入っているお宝をステホで確認していく。

 大半は綺麗なだけの金銀財宝で、マジックアイテムでもなんでもない代物だった。大きな価値があるものは、全部で五つ。



 一つ目は『極大魔法の鍵・水氷一斉掃射』──これは、高純度、高密度の水と氷の魔石によって、形成されている鍵だよ。

 大きさはニ十センチくらいで、ピッカピカに光っており、物言わぬ道具でありながら、凄まじい存在感を放っている。


 この鍵は一度しか使えない消耗品で、使うと極大魔法が発動するらしい。

 その魔法の具体的な内容は、指定した一帯に、水と氷の弾幕を張り巡らせるというもの。

 鍵の使用者が任意で止めるか、あるいは死亡するまで、弾幕は永遠に止まらない。シャチの攻撃と同じやつだね。

 言うまでもなく、ツヴァイス殿下が渇望していたマジックアイテムだから、これは彼の手に渡る。この瞬間に、次の王様は決まったのかな。



 二つ目は『青色の上級ポーション』──これは、見ているだけで心が洗われるような、美しい光輝を宿している液体だった。二本もあるから、三つ目のお宝も同じものだよ。

 青色で上級ということは、魔力欠乏症を治すためのアイテムだね。

 魔力欠乏症とは、魂が損耗、あるいは損傷していることが原因だって言われているから、このポーションは魂を回復させる代物ということになる。


 世の中には、自分の魂をリソースにするスキルが存在しているんだ。それらは例外なく、非常に強力らしいけど、魂は時間経過で回復しない。

 そんな訳で、青色の上級ポーションの価値は、計り知れないのだとか。


「ブヒィ……っ!? 青色の、上級ポーション……!!」


 このポーションを見て、ライトン侯爵が目の色を変えた。

 娘であるスイミィ様のために、欲しいのかもしれない。

 以前、彼女はスキル【生命の息吹】を使って、自分の生命力の半分をシュヴァインくんに譲渡したんだ。その際に、魂の半分も譲渡している可能性が高い。


 生命力と魂は同じものなのか、それとも別物なのか……。その辺の詳しい事情は、全く分かっていないよ。

 でも、【生命の息吹】を無機物に使うと、それが一つの生命になって、動き回るようになるらしい。これって、魂も与えているんじゃないかって、賢い人たちは考えているみたい。



 四つ目は『シャチの戦術指南書』──これは、高級感溢れる一冊の本で、藍色の装幀が施されている。表紙絵には、海面から跳ね上がるシャチの、勇ましい姿が描かれているよ。

 なんと、この本は魔導書と呼ばれるマジックアイテムで、立派な武器だった。


 角で殴るとか、そんなチャチなものじゃない。装備すると、水属性と氷属性の魔法の威力が二倍になって、魔力の消耗量が半減するんだ。

 しかも、水属性と氷属性の魔法を使った際に、得られる経験値が二倍になり、戦局に応じて使うべき魔法が、直感的に分かるようになる。


 ステホには、このアイテムに纏わる伝説とやらも表示された。

 曰く、大海原で生きるシャチが、我が子のために書き残した指南書。百戦錬磨のシャチが考案した無数の戦術が、この一冊に纏められているのだとか……。

 これは紛うことなき、伝説級の装備だね。水の魔法使いとか、氷の魔法使いにとっては、垂涎の代物だと思う。



 五つ目は『スキルオーブ』──これは、手のひらサイズの宝玉で、神々しい輝きと、無数の青い象形文字が内包されている。

 額に押し当てると、スキル【水の炉心】を取得出来るみたい。


 これって、シャチに無尽蔵の水属性の魔力を供給していたスキル、だよね……?

 い、いいの? シャチが裏ボスたる所以みたいな、途轍もないチートスキルなのに、人間が取得して許されるものなの……?


 純度百パーセントの水属性の魔力だから、他の属性の魔法には使えない。

 私は水属性の魔法を持っていないし、水属性の魔物もテイムしていないから、【水の炉心】があっても意味がない。だけど、そんなのは今だけの話だ。

 水の魔法使いに転職するための方法なら、既に知っている。水属性の魔物だって、これからテイムすればいい。


 正直、このチートスキルが一番欲しいなぁ……。

 でも、ツヴァイス殿下だって、これが欲しいよね。子飼いの人材に、取得させたいはずだよ。



 ──シャチの目ぼしいドロップアイテムは、以上の四種類。

 ポーションが二本だから、合計で五つだね。

 聞くだけタダだし……私は早速、ツヴァイス殿下におずおずと、自分が欲しいものを伝える。


「こ、このスキルオーブ……!! 私っ、欲しいです……!! あ、無理ならその、全然、諦めるので……」


「いえ、構いませんよ。裏ボス攻略における功績、ワタシの呪いの解除──それから、今後ともアーシャさんと仲良くしたいという、ワタシの気持ち。その他諸々を考慮して、最も価値のあるものを貴方にお譲りしましょう」


 ツヴァイス殿下はニッッッコリと微笑んで、私に謎の圧力を掛けてきた。

 ええっと、今後とも、仲良く……?

 ハッ!? この人っ、私を子飼いにするつもりだ!!


「お、お友達で、いいですか……?」


「ええ、それで構いませんよ。今日からお友達です。よろしくお願いしますね、アーシャさん」


 彼はニコニコしながらそう言って、私にスキルオーブを差し出してきた。

 駄目だ、スキルオーブの誘惑に勝てない。厄介事に巻き込まれそうだけど、これを貰わないと一生後悔しそう。

 若返りのスキルを持つ私の一生は、とっても長いんだ。


 シャチの弾幕に曝されて死に掛けたとき、死は永遠の暗闇なんじゃないかと思って、底知れない絶望感を抱いた。

 だから、私は死にたくない。永遠に生き続けたい。

 更に付け加えるのであれば、友達の助けになりたいし、強くて可愛い魔物も沢山テイムしたいし、自堕落なスローライフだって送りたい。

 我儘な私の欲望を全て叶えるために、強力なスキルは必要不可欠だよね。


 永遠に生きると考えれば、ツヴァイス殿下が持ってくる厄介事なんて、刹那の苦労でしかない。であれば、選ぶべき道は決まっている。


「──はい、よろしくお願いします。ツヴァイス殿下」


 私は彼からスキルオーブを受け取って、そそくさと自分の額に押し当てた。

 新スキル【水の炉心】を取得した直後、私の心臓からサラサラした魔力が、無尽蔵に溢れてきたよ。……なるほど、これが水属性の魔力なんだね。

 

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