四章 流水海域攻略編

第102話 私のスキル

 

 ──茹だるような暑さの夏が終わって、季節は食欲の秋。

 雑貨屋の子供店長であるアーシャこと私は、お店のカウンター席に座って、朝から取り締まりを受けていた。

 誰からって? 七三分けのお役人さんからだよ。名前は知らない。


「……店主、これはなんだ?」


 お役人さんは険しい表情をしながら、商品棚に置いてあった下級ポーションを手に取り、私の目の前で揺らして見せる。


「それは……その、見ての通り、ポーションです……」 


「そう、ポーションだ。どうしてポーションが、商品棚に置いてある?」


「それは……その、街のみんなが、困っているから……」


 最近は市場にポーションが出回らなくて、冒険者や市民たちの不満が溜まり続けている。

 何故、そんな事態になっているのかというと、私たちが暮らしているアクアヘイム王国の御上が、ポーション集めに躍起になっているからだよ。


 今、この国では、ポーション生産に従事している人たちに、『ポーションを納品せよ』という強制依頼が出されている。

 これは、貢献度が低いと罰を与えられるから、悪魔染みた依頼なんだ。


 そんな状況で、私は納品する分を減らして、お店の商品棚に少しだけポーションを並べていた。

 街の人たちが可哀そうだし、私は今日までに沢山のポーションを納品してきたから、貢献度はもう十分だと思う……。

 それなのに、私がポーションを売り始めるや否や、すぐにお役人さんが現れて、この有様だよ。


「ポーションは全て、国に納品したまえ。店主の貢献は目覚ましいため、今回限りは厳重注意で済ませるが、二度とこのようなことがないように」


「は、はひぃ……」


「では、これで失礼する」


 私が商品棚に並べたポーションは、お役人さんが全て回収してしまった。

 彼が立ち去った後、私はへなへなとカウンターに突っ伏す。


「こ、怖かったぁ……。逮捕されるかと思った……!!」


 もう二度と、御上のご意向に反するようなことはしない。

 長いものには巻かれないと、生きていけないんだ。そのことを改めて心に刻み、私は困っている冒険者や市民たちから目を逸らす。


 ごめんね、ごめんね、と心の中で謝罪していると──自室がある二階からフィオナちゃん、裏庭からローズとミケがやって来た。


「アーシャ、無事? 生きてる? 役人は帰ったわよね……?」


「妾としたことが、なんたる不覚……!! あの役人が怖すぎて、裏庭に逃げてしもうた……!!」


「みゃ、みゃーは全然ビビってにゃいよ? ただちょっと、裏庭に野暮用があっただけにゃ……」


 三人ともお役人さんを恐れて、避難していたみたい。私を置き去りにして、ね。

 思わず恨みがましい目を向けてしまったけど、ポーションを商品棚に置いたのは私だから、みんなを責める訳にはいかない。


「はぁ……。やっぱりしばらくは、休業しないと駄目だね……」


 私は溜息を吐いて、店内の商品棚を見回す。

 もうね、スッカラカンだよ。ちょっと前まで、幾つかの売れ残りがあったけど、それすらも全部売れてしまった。

 国からの強制依頼を受けている間は、お店を閉めてもいいって言われているから、外に『閉店中』の看板を出しておく。


「アーシャの今日の予定は? 暇なら、あたしたちの冒険に付いてくる?」


「ううん、行かないよ。ポーションを作らないといけないから、魔力を温存しないと」


 フィオナちゃんに誘われたけど、お断りさせて貰った。

 仮に魔力が有り余っていても、私は滅多に冒険なんてしない。

 危ない、怖い、辛い。この三拍子が冒険には揃っているんだ。


「そっか……。ま、仕方ないわね。それじゃ、あたしは行ってくるわ!」


「うん、行ってらっしゃい。気を付けてねー」


 私はフィオナちゃんをお見送りしてから、自分のステホを確認する。


 アーシャ 魔物使い(20) 土の魔法使い(12)

 スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】

     【魔力共有】【光球】【微風】【風纏脚】

     【従魔召喚】【耕起】

 従魔 スラ丸×3 ティラノサウルス ローズ ブロ丸

    タクミ ゴマちゃん グレープ


 孤児院を卒業した直後と比べると、レベルが随分と上がったし、スキルも従魔も結構増えた。

 暇を持て余しているから、久しぶりに一つずつ再確認しよう。


 【他力本願】──攻撃系以外のスキルの効力を高めて、特殊効果を追加する。

 デメリットは他者に攻撃出来なくなって、攻撃系のスキルを取得出来なくなること。

 これは、私が職業選択をする前から持っていた先天性スキルで、デメリットに大きな不満はあるものの、今ではあって良かったと思えるチートスキルだよ。


 【感覚共有】──私と従魔の感覚を共有する。

 追加されている特殊効果は、私と同等の五感を従魔に付与するというもの。

 これによって、視覚、嗅覚、味覚を持たないスラ丸とかに、それらを与えたり出来るんだ。

 とても便利な魔物使いの職業スキルで、使用頻度は物凄く高い。


 【土壁】──土の壁を生成する。

 追加されている特殊効果は、この壁を利用して修行すると、経験値効率が上がるというもの。通称『壁師匠』だよ。

 これは魔法使いの職業スキルで、危機的な状況を何度も救って貰ったことがある。

 

 【再生の祈り】──指定した対象にバフ効果、再生状態を付与する。

 追加されている特殊効果は、若返り。これは私が抱えている秘密の中で、最も重たい厄ネタだと思う。だから、この特殊効果に関しては、誰にも教えていない。

 このスキルは、聖女の墓標で入手したスキルオーブを使って、取得したんだ。


 再生状態の間は、どんな怪我でも急速に治る。欠損した部位ですら、綺麗に再生するので、最上位の回復魔法だと考えていい。それと、バフ効果の持続時間は三日間もあるよ。


 スキルの演出で、女神っぽい存在が宙に現れるので、強力な効果と相まって、私が祭り上げられる恐れがある。

 ちやほやされるのは好きだけど、行き過ぎた信仰は受け止められない。

 そんな訳で、特殊効果を抜きにしても、慎重に使う必要があることを肝に銘じておく。


 【魔力共有】──私と従魔の魔力を共有する。

 生産系のスキルを持っている従魔に、魔力を供給することが出来るから、私のお店経営の主柱になっているスキルだね。

 追加されている特殊効果は、私が持っている魔法系のスキルを一つだけ、従魔と共有するというもの。一度設定したら、変更は出来ない。


 これによって、私は【土壁】を従魔と共有している。

 従魔は【他力本願】を持っていないから、【土壁】の強度は私が使ったときほど高くはない。けど、多少は頼れる場面もあるんだ。


 【光球】──周囲を照らす光の球を生成する。

 追加されている特殊効果は、照らしている対象の体力と魔力を自動回復させるというもの。

 従魔全員を照らしておくと、使える魔力がどんどん増えるから、ポーションの生産効率が大幅に上がるよ。


 【微風】──微かな風を吹かせる。

 追加されている特殊効果は、精神を鎮静させるというもの。

 これは世間一般だと、魔法使いの職業スキルの中で、一番の大外れという扱いだった。

 でも、私の場合は特殊効果のおかげで、重宝しているんだ。


 【風纏脚】──指定した対象の足に風を纏わせて、移動速度を上げる。

 追加されている特殊効果は、宙を蹴って跳躍出来るようになるというもの。

 この特殊効果は凄いんだけど、常軌を逸したバランス感覚がないと使いこなせないから、運動音痴な私にとっては意味がない。


 走る速度は凡そ四倍まで上がって、持続時間は三日間。

 私が四倍速で走ろうとすると、足が縺れてしまうから、自分自身に掛けることだけを考えると、全く使えないスキルかな……。

 ただ、私の仲間たちが、それなりに使いこなせているので、取得出来て良かったと思っている。


 【従魔召喚】──魔法陣を描いて、従魔を召喚する。

 追加されている特殊効果は、召喚直後の従魔が少しの間、パワーアップするというもの。

 この特殊効果に関しては、現状だとあってないようなもので、有効活用出来た例がない。


 魔法陣は召喚する従魔の強さに比例して、大きくて難しいものを描く必要があるから、戦闘中に使うのは難しいんだ。

 インクにもお金が掛かるし、使い難いスキルではある。それでも、重宝していることは間違いないけどね。


 【耕起】──土を耕す。

 追加されている特殊効果は、地味を肥やすというもの。

 このスキルを特殊効果込みで使うと、家庭菜園で育てている作物の品質が、大きく向上する……だけなら良かったのに、なんと魔物化までしてしまう。


 多分、私が持っているスキルの中で、一番危険なやつだ。

 魔力の消耗量は大したことがないから、平穏な森を容易く魔境に変貌させられるよ。勿論、そんな馬鹿なことをやらかすつもりなんて、微塵もない。

 

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