二章 子供たちの冒険編

第29話 孤児仲間

 

 本日より雑貨屋を開店した幼気な美少女、アーシャこと私は、スラ丸を枕にしながらカウンター席に突っ伏していた。

 一応は店番をしているけど、当店の主力商品であるローズの花弁が完売したから、お客さんが来てくれないんだよね。


 のんびりした時間は好きだけど、ちょっと暇だから刺激が欲しい。

 こんなときに活躍するのが、私が持っているスキル【感覚共有】だよ。

 これによって、魔物使いである私は、自分の従魔と感覚を共有出来る。


「スラ丸三号の視点で、ルークスたちの冒険を覗き見──じゃなくて、応援しようかな」


 私は目を瞑って、ルークスたちに貸し出したスラ丸三号と、視点を共有させて貰った。

 スラ丸の種族はスライムなので、人間らしい視覚は有していない。だけど、そこは私の先天性スキル【他力本願】が役に立つ。

 このスキルは、攻撃系以外のスキルの効力を増幅させて、本来は備わっていない特殊効果まで追加してくれるんだ。

 デメリットとして、虫一匹殺せなくなり、攻撃系のスキルを取得出来なくなるんだけど、それは今は置いておく。


 【他力本願】のおかげで、【感覚共有】には『私と同等の五感を従魔に与える』という、便利な特殊効果が追加されている。

 スラ丸三号は、突然自分に備わった視覚に驚いて、一瞬だけ身体をプルっとさせた。けど、すぐに落ち着いてくれた。

 今現在、この子を抱きかかえているのは、林檎のように赤い髪をツインテールにしている少女、フィオナちゃんだ。

 彼女の瞳は橙色で、ちょっとだけ目尻が吊り上がっているから、勝気な印象を受ける。結構強引なところがあって、おませさんな一面もあるけど、私の大切な孤児仲間の一人だよ。

 フィオナちゃんの近くには、彼女と冒険者パーティーを組んでいる他の孤児仲間が集まっていた。


 まず一人目、柔らかい金髪と碧色の瞳を持つ少年、ルークス。

 彼の顔立ちは柔和でありながら、その眼差しは誰よりも真っ直ぐで、力強い意志を感じさせる。

 とっても仲間思いで、いじめられっ子だった私を幾度となく助けてくれた過去があるから、私にとっては特別な存在だよ。……まぁ、別に恋愛感情がある訳じゃないけどね。


 お次は、くすんだ銀髪と猛々しい鳶色の瞳を持つ少年、トール。

 顔立ちには野性味があって、目付きが常に剣呑なので、子供なのに全然可愛くない。肌は健康的な小麦色で、他のみんなの肌が白いから、やや浮いている。

 こいつが私をいじめていた馬鹿なんだけど、今はいじめっ子を卒業したよ。トールの行動は、好きな子にちょっかいを掛けてしまうという、思春期特有の男の子あるあるだったから、私は寛大な心で許してやった。


 最後に、緑色の髪と山吹色の瞳を持っている少年、シュヴァインくん。

 彼は身体も顔も丸っこくて、太っちょな男の子だ。背が低くて、いつもオドオドしているから、頼りない印象を受ける。……それなのに、パーティーでの役割はタンクなんだよね。

 今更だけど、大丈夫かなって、少し心配になってきた。

 ちなみに、シュヴァインくんは優しい子だけど、ハーレム願望を持っている説が浮上しているから、要注意人物だよ。


 これは余談だけど、シュヴァインくんとフィオナちゃんは相思相愛で、定期的にイチャイチャしている。

 生涯独身のアラサーという、壮絶な前世の記憶を持つ私にとって、他人の甘々でラブラブな雰囲気は猛毒になってしまうので、スラ丸にはその辺を留意しておいて貰いたい。

 あの二人がイチャイチャし始めたら、きちんとそっぽを向いてね。


「──よしっ! これでオレたちも、今日から冒険者だね! 頑張ろう!!」


「俺様の英雄譚が、遂に始まるってワケだ……ッ!! テメェら、足引っ張ンじゃねェぞ!?」


 ルークスとトールがステホを掲げて、冒険者ギルドの前で気炎を揚げていた。

 どうやら、みんなは冒険者登録が終わった直後らしい。


 この『ステホ』とは、片手で持てるサイズの水晶板で、正式名称は『ステータスフォン』だよ。これには自分の職業やスキルを確認したり、撮影や通話などが出来る機能も備わっている。

 この世界の現代文明はあんまり発達していなくて、第一次産業革命すらまだだから、ステホは完全にオーバーテクノロジーなんだ。


 ステホは身分証明書の役割も果たしていて、ルークスたちが持つステホには、冒険者の証である剣と靴のマークが浮かんでいた。

 銅色だから、銅級冒険者の証だね。冒険者はみんな、ここからスタートするみたい。


「つ、次は……いよいよ、ダンジョン……!! フィオナちゃんっ、絶対にボクが守るから、離れないで……!!」


「シュヴァインってば、とっても頼もしいわよ! 背中が大きく見えるわ!!」


 うっ……。シュヴァインくんとフィオナちゃんが、早速イチャイチャしてる……。

 シュヴァインくんの職業は騎士で、フィオナちゃんの職業は火の魔法使い。

 つまり、前衛と後衛だから、役割的には何も間違ったことは言っていない。けど、私の正気度がちょっと削れた。


 冒険者の仕事は大きく分けて、二種類ある。

 一つはギルドで依頼を受けて、それを達成すること。

 もう一つはダンジョンに潜って、様々な成果を獲得すること。

 新米冒険者になったルークスたちは、後者の仕事で生計を立てるつもりだよ。

 銅級冒険者の場合、前者の仕事は日給が銅貨数枚から、数十枚にしかならない。そのため、生計を立てていくのが難しいんだ。


 彼らが挑むダンジョンは、『流水海域』と呼ばれている。

 防寒具さえあれば、新米にも打って付けの難易度で、安定した収入が見込めるらしい。しかも、ダンジョン内にはお宝が生成されるから、一攫千金のチャンスも転がっているよ。

 流水海域を目指して、みんなが移動を始めたから、ここで彼らの職業とスキル、それから装備を再確認してみよう。


 ルークス 暗殺者(10)

 スキル 【鎧通し】【潜伏】

 装備 渇きの短剣 防寒具


 ルークスの優しい性格からは考えられない物騒な職業、暗殺者。

 彼は自然に溶け込むのが上手いという、天性の才能を持っているから、それ故に選ぶことが出来た職業だね。

 実際に誰かを暗殺した経験や、暗殺するための訓練を受けていた訳じゃないよ。


 この職業はレベルが上がることで、敏捷性が大きく伸びていく。レベルが10ともなると、常人の倍くらいは素早いかな。

 スキル【鎧通し】は相手の防御力を貫通する刺突攻撃で、【潜伏】はコソコソしている間、気配を消せるという効果がある。

 ルークスのパーティーでの役割は遊撃だね。


 渇きの短剣はマジックアイテムで、突き刺すと相手の血を奪い、刃の耐久度を回復するという効果が備わっている。

 今のルークスにとっては、あんまり関係ない話だけど、マジックアイテムは五つまでしか装備出来ないから、この短剣で枠が一つ分埋まっているよ。


 トール 戦士(10)

 スキル 【鬨の声】【剛力】

 装備 鉄の鈍器 防寒具


 トールは好戦的な性格にピッタリな職業、戦士を選んでいた。

 この職業はレベルが上がることで、筋力と体力が大きく伸びていく。

 【鬨の声】は雄叫びを上げて相手を怯ませ、味方の士気を高めてくれるよ。

 【剛力】は常に自分の筋力を底上げしてくれる。これがあるから、今のトールは大人用の鉄の鈍器を軽々と振り回せるんだ。

 パーティーでの役割は、正面から敵を薙ぎ倒すアタッカーだね。


 シュヴァイン 騎士(10)

 スキル 【低燃費】【挑発】【炎熱耐性】

 装備 鉄の大盾 防寒具


 シュヴァインくんはフィオナちゃんを守りたいという一心で、防御力が大きく伸びる職業、騎士を選んでいた。敵を倒して守るのではなく、身を挺して守ろうとする辺り、彼の優しさが感じられる。

 【低燃費】は先天性スキルで、体力や魔力など、リソースを消耗する全ての行動の燃費が良くなるという、中々のチートスキルだよ。

 デメリットはカロリーの消耗まで抑えてしまうから、太りやすくなること。彼の丸っこい体型の原因は、間違いなくこのスキルにある。

 【挑発】は敵視を自分に集めることが出来て、【炎熱耐性】は名前の通り、炎熱に対して強くなれる。

 パーティーでの役割は、さっきも言ったけど、敵の攻撃を受け止めるタンクだ。


 フィオナ 火の魔法使い(10)

 スキル 【火炎弾】【爆炎球】

 装備 防寒具


 フィオナちゃんは火属性の魔法に特化した職業、火の魔法使いを選んでいた。

 魔法使いはレベルが上がるのに比例して、魔力も上がるんだけど、身体能力は少しも上がらない。そのため、とにかく打たれ弱いという欠点がある。

 そこはシュヴァインくんに、カバーして貰う感じだね。

 【火炎弾】は拳大の炎を結構な速度で撃ち出して、敵単体を燃やす攻撃魔法。

 【爆炎球】は直径五メートルくらいの炎の球を緩やかに飛ばして、着弾と同時に爆発させる範囲攻撃魔法だ。

 パーティーでの役割は固定砲台で、唯一後衛に配置されているよ。両手が空いているから、スラ丸を持ち運ぶ役目もあるみたい。


 バランスの良いパーティーだから、初めてのダンジョン探索もきっと上手くいく。そう信じて、私は覗き見を続けた。

 

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