梅の園

藤泉都理

梅の園




 長年眠りに就いていた吸血鬼が目を覚ました時。

 吸血鬼も吸血鬼の獲物となる生物も絶滅していた。

 植物と微生物と虫と魚介類と、そして、AIロボットだけが存在する世界になってしまっていたのだ。






「ああ。ひもじい」

「申し訳ありません」

「なに。君が謝る事はないよ」


 白梅、紅梅、桃梅、黄梅が咲き誇る大地にて。

 吸血鬼は笑って、AIロボットを見た。

 吸血鬼が目覚めた時に傍らにいたこのAIロボットが、現状の世界について説明してくれたばかりか、こうして同行までして、代替血液を製造して提供してくれているのである。

 感謝してもしきれない。


「君が作ってくれる代替血液の味は、私が望む味となんら変わりはない。ただ、私は、血液を身体に取り入れるだけでは満足しないらしい。嚙みつくという行為がなければ。魚介類は受け付けないし。はは。まったく。わがままな身体だ。だから、君が気にする事はないよ」

「部品さえそろえば、私の身体に代替血液を取り入れて、あなたが噛みついて代替血液をすすれるようにできるのですが」

「いやいや。そんな事はしなくていい。こうして傍にいて代替血液を作ってくれるだけで十分だ。本当にありがとう」

「………はい。では。梅の花、椿の葉、寒鰤の骨で代替血液を製造しますので、少々お待ちください」

「ありがとう」


 地に腰を下ろした吸血鬼は微笑を湛えながら見つめていた。

 梅の花を丁寧に摘んでいくAIロボットを。

 疼く牙をなだめながら。


「かぐわしい匂いだ」

「ええ。そうですね」











(2024.1.31)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

梅の園 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ