第11話勇気

「はぁ……はぁ……ふぅー」

咲奈はつっかえそうに息をしながら、女から隠れていた。

息を潜め、耳を澄ませると走ってきた方からは鎌を引きずる音がゆっくりとだが、着実に咲奈の方へと近づいてきていた。

「お願い……」

咲奈は神に祈るように、両手を前で握りしめた。

すると幸運にも女は、咲奈が隠れている場所を見ることなく去っていった。

「ん……いった?」

咲奈がゆっくりと身を出したその時、女は咲奈がどこに隠れているか知っていたのか物音一つ立てていなかったのに振り返った。

「ひっ」

咲奈はばたばたと、音が鳴る程全力で走った。

運動会で走ったのが、全力じゃないと思えるほどのスピードを出して走った。

息をすればする程、口の中の血の味は濃くなり吐き気を催した。

何度か躓きながらも、止まらずに走り続けていると、まだ工事途中であろう縄に吊るされた鉄骨を見つけた。

「これを使えば!」

咲奈はそのまま鉄骨を吊るしている縄の後ろへと回った。

そこで乱れた呼吸を整えていると、鎌を引きずって追いかけてきていたお目当ての女が現れた。

「さて……成功するかな」

咲奈は冷静に女の動きを見ていた。

どんな動きをしても対応できるように。

女は気付かなかった。

狩人と獲物の立場が逆転しているのに。

女は縄を綺麗にスパッと切った。

小鳥を真っ二つにした時と同じく綺麗に断ち切った。

ドーンっと大きな音を立てて落ちた鉄骨に下半身が潰された。

咲奈はふと、怖いもの見たさの様な何かが心に芽生え、下半身が潰された女の顔を見た───見てしまった。

「お……母さん?」

途端、私の頭の中にはお母さんとの一緒に遊んで楽しかった記憶、怒られて悲しかった記憶色々な記憶が蘇り───

「あ⋯⋯ああ⋯⋯あああああああああああああああ!」

泣き叫んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る