義眼製作の諸問題
「天眼」。
それを保有するモンスターは限られ、現在しっかり確認されているのはダンジョンの
そして本来は文字通り「第三の眼」であり、両目に備えるものではない。
性質的に何かを見ようとすれば常に魔力を使ってしまうため、普通にモノを見るためには通常の性質の目を使い、透視・遠隔視能力はここぞで活用する方が合理的だからだろう、ということらしい。
だから「邪神もどき」が両目に仕込んでいたのはイレギュラー。オーバースペック。
一個でも充分に視えるので、そんなことをする意味は本当にあるのか不明なんだそうで。
「なんで二個付けてたのかはわかんねーけど、せっかくダンジョン外で手に入る貴重な機会なんだ。活用するっきゃねーよ」
「それはそうじゃが……」
持っているのが
が、高難度ダンジョンは最深部から入り口まで下手すると数日も歩かなくてはならない場合もある。
高性能素材を傷つけずに
もちろん核破壊なんてしたら、ただでさえ貴重な素材は未来永劫取れなくなってしまう。悩ましいことだ。
そういった難題をクリアし、ようやく作られたのがロゼッタさんの眼だったので、今回のチャンスがどれだけ破格か、というのは苦労したユーカさんやマード翁こそ身に染みるのだろう。
「でもぉ。『合成』ならともかく、魔導具として埋め込むなら精細な加工が要るわよねぇ」
シルベーヌさんがそれを指摘し、ユーカさんとマード翁がビクッと震える。
「……えっと、シルベーヌお前……やれない?」
「保障はしかねるわぁ。『合成』しちゃうなら簡単なんだけどぉ」
「それだと
「それはそうなんだけどぉ……生体素材の魔導具化って、事前にかなり周到に設計しておかないといけないじゃなぁい? 素材があるってだけでぶっつけ本番で作るのは、怖いもの知らずにもほどがあるわよぉ」
「……アーバインは何年も準備してたし、リリーはそういうの超得意だったからなー……」
「かしこさ担当全員不在のワシらじゃあ、扱い切れんかのぅ。……しかし、性能を妥協したらなんとかならんか。今のロゼッタちゃん、モノ見ようとするたびに痛そうな顔するんで見ちゃおれん」
言われてみれば、元“邪神殺し”パーティの六人のうち、比較的頭が回る方の三人がいなくなり、筋肉と勢いで片付けがちな三人が残ってしまった……とも言えるか。
無論、マード翁もユーカさん自身も、鋭い知性を見せることは皆無ではないけれど。
……フルプレさんに関してはまあ、ノーコメントで。
結局、「天眼」に関してはどう処理するかは保留となった。
ロゼッタさんの額に今収められている方の「眼」を手本にしてやればいい……というのが妥協点であるが、そもそも生体型の魔導具はじっくり見て真似をするのも難しい。
あんまり長いこと放置してしまうとやはり腐敗のリスクも上がってくるし、モタモタする時間もあまりない。でも、なんとなくノリと勢いでやるには、あまりにも難易度が高すぎる。
どうしたものだろう。
というか、本当にリリエイラさんもアーバインさんも凄い人材なんだよなぁ、と再確認。
最悪、腐らないうちにその辺のウサギか何かに眼だけ「合成」して、魔導具としての設計をする時間を稼ぐという手もあるらしいのだけど、高等モンスターの器官を合成してしまうと、そのせいで小動物さえ半端に強いモンスターになってしまう危険性も否定できない。
何より可哀想だしね、ウサギ。
……でも、正攻法で取る難しさを考えると、そういう倫理的な問題を云々していられない……いや、そんなに焦る必要はないんだけど。しかしなあ。
と、うなり倒していたところにあの男が接触してきた。
「本来ならそうまで貴重な生体魔導具素材、少々強引にでも確保したいところだけれど、アレを仕留める君らにはぜひ味方でいて欲しいからね。……ツテのある魔導具職人たちを総動員して協力しようじゃないか」
ルザーク・スイフト。
例によって、僕たちの戦いぶりは遠見の魔術を部下に使わせてしっかり把握しており、既に彼によって王都方面には僕の手柄は響き渡っているらしい。
既に一週間以上経っているんだし、ルザークはその気になれば一日二日で王都まで行ったり来たり出来るんだから全く不思議ではないけれど。
そんなに僕の名前を喧伝して本当になんの意味があるんだろう。ちょっと怖い。
「でも、魔導具職人といっても……シルベーヌさんほどの魔術師でも音を上げてるのに、そこらの職人が数を揃えたって無理じゃないんですか?」
僕は素朴に切り返す。
シルベーヌさんが少なくとも魔獣合成界隈において相当な大物であることは、もう疑いない。
それほどの魔術師でもできないことが、魔導具職人に可能なんだろうか。
……と、思ったが、ルザークは苦笑した。
「シルベーヌ女史の偉大さにケチをつけよう……というつもりじゃないことは、理解して聞いて欲しい。シルベーヌ女史にとってたまたま難しいことが、どんな職人にとってもそうだとは限らない。特にそういった高度な素材で特殊な魔導具を仕立てることに関しては、まんべんない経験値がモノを言うとは限らないものだよ。発想、設計、加工技術……今回に限って使う多くの要素をマッチングさせるには、それを数多の才能から選び出せる充分な頭数と、彼らを納得させる報酬や権力が必要になる。それを今の君らがすでに持っているというなら、こちらの提案は余計な世話でしかないがね」
「…………」
ペラペラとよく舌が回るなあ、と、そっちの方に感心してしまう。
言ってることが正しいかどうかを判断しうる知識がないというのもあるけれど、僕の疑問に対してそうまでスラスラと言い返せるその弁舌に感心してしまった。
「こういう時の貴族の助力は活用するものだ。なに、次の
ルザークが覗き込むように目つきを変える。
……ああ。
言われてみれば、「邪神もどき」騒動が解決した……色々と疑問はあるけど、とにかく当面は解決したから、次は彼の領地のドラゴンをなんとかする番か。
それを差し置いてモタモタして欲しくないのか、と思うと、ストンと納得がいく。
ちらりとユーカさん、それにリノに視線を送ると、二人はそれぞれに。
「ま、言ってることはもっともだ。シルベーヌに経験か準備があればよかったが、ねえんじゃまず関連魔術研究から入らなきゃならねー。職人の方がスタート地点が前ってこた、有り得るよ」
「眼だけ魔導具にするって本当に特殊な感じだから。しかも全盲の人向けのローコスト発動重視って、言われれば納得するけど普通そういうニーズ考えないし。っていうか、そういうハンデの人が超高級素材融通される状況が、もうレア中のレアだから。……何十人も職人揃えてもうまくいくかわかんないけど」
と、コメント。
「もちろん、もしも駄目なら混ぜっ返した分の補償はさせてもらうよ。……さあ、あとは君の判断だ。最終的にアレを倒したのは君だから、君の同意がなければ手出しはできない」
彼としては、ここで恩を売り、確実にドラゴン撃退を遂行して欲しいんだろう。
信用されてないなあ、と思うが、まあ僕たちは根無し草だし、これほどの大仕事を超えれば王国からの報酬も相当に期待できる。瀕死にまでなったし、ここで気が変わって引退と言い出したって全くおかしくない。
そう考えれば、ここで便宜をぐいぐい押しつけてくるのは当然ではあるか。
メガネを押して。
「……それじゃあ、お願いします」
僕は、決断する。
まあ、デメリットは少ない。ドラゴンとの戦いから降りられなくなるだけだ。
元々降りる気もなかった。
「わかった。期待しててくれ、“妖光の鬼畜メガネ”」
「その二つ名なんですけど、それできれば変えてもらえません?」
「今回の戦いでなおさらマッチしていると思ったよ。特に終盤、胸の光が薄紫に染まってからが圧巻だったね。近々、家付きの詩人に歌を作らせるつもりだ」
「さては完全に広める気しかないなこの人」
諦めた方がいいんだろうか。
でも絶対後世で悪役扱いされるよね、そんな名前の冒険者。
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