向かうべきは
戻り道にはいまだに多くのモンスターの死体が散乱している。
……というか、もうダンジョンがそれを「回収」することはないので、あとは腐っていくのを待つだけなのだろう。
「我ながら冷静に見ると酷いな……」
バラバラに解体されたモンスターの首、四肢、胴体……それらが無秩序に散乱し、体液が混じり合い、静寂に包まれる暗闇。
ふと、これが「人間」と「モンスター」が逆だったらと思うとゾッとする。
「冷静に見なくても超酷いと思います」
「賛成」
「ガウ」
「いや、進んでる時は見返してる暇なかったし……だいたい、普通にみんなで進んでる時も戦い終わったらこんなものだろ」
「これを一人でやり切って全くいつも通りなのが怖いのよ。ちょっとはテンション上げるとか誇るとかしてよリーダーも」
「
「じゃあ
「そこは緊急度の問題というか」
「そういうところよ」
ま、まあ、言わんとするところはわかる。
大仕事をやり切ったのだから、それなりに普通じゃない興奮や疲労感などを表に出していてくれないと、まさに普段お茶してるような顔で殺戮する異常者に見えてしまう……ということなのだろう。
でも、核破壊もできるだけ早くやらないと、最悪もう一度
「そういうところで隙がないから鬼畜呼ばわりされるんですよ?」
「元々は違う感じのニュアンスだったと思うんだけどなあ」
あと、今さら暴れながらテンション上げて高笑いとかしたら、それこそ鬼畜っぽくないだろうか。
……難しいぞ、脱「鬼畜メガネ」。
改めて見ると分岐がいくつかあったが、死体がたくさん転がっている方を選んで歩けばいいので、さほど迷わずにロゼッタさんといたところに戻る。
「戻りましたー」
「おー。やったじゃねーか。ロゼッタが視てたぞ」
「……正直、ワイバーンに踏み潰されたところでもう駄目かと思いましたが……」
「ふん。モンスターに好きにさせるのは精進が足らんのだ。ワイバーン如き、初手から正面勝負で頭を叩きのめし続ければすぐ終わる」
フルプレさんは厳しいことを言う。でもまあ、それができるのはあなたと
「それですけどやっぱりアイン様にソロでやらせる意味ありませんよね。私たちパーティなんですから仲間を当てにして何が悪いんです? 使えるものは何でも使って勝つのが冒険者の流儀でしょう」
珍しく果敢にファーニィが抗議する。
近くにいたアテナさんとクロードも、それはそう、と頷いた。
「ぬ。……しかしだな、これから相手にする怪物は、こんな小ダンジョンの主とは桁が違うのだぞ。吾輩やユーカが万全であってさえおぼつかぬ相手に、しかしこの女商人やユーカは、小僧ならば切り札足りえると豪語したのだぞ」
「そうだとしても今じゃないでしょうに! 騎士団だったらそういう思い付きの試験でいくら団員使い潰しても次のなり手はいるかもしれませんけど、アイン様は貴重なんですよ!?」
いいんだけどファーニィ、「貴重」じゃなくて「代わりはいない」と言ってほしいな。そこは。
いや強さ的な問題じゃなくて、いくら探してもユーカさんの「
……で、まあ、そのユーカさんはケラケラと笑って。
「まーいいじゃん。実際こうしてほぼ無傷で勝ったんだし」
「ドン引きしましたよ! ちょっとはケガしててもよさそうなもんですよ!」
ファーニィ、君は何を主張したいんだ。
いや主張はさっき言った通りだろうけど、そのままのテンションで喋らないでほしい。
「でも戦いながら、今ここにファーニィいたらなぁ、クロードいたらなぁ、ってずっと思ってたよ」
「えへへ。そんな素直なアイン様が好き♥」
急にテンションが変わった。
いや、それでも
うん。それ以上近づかなくていいよ。
僕も早くデルトールの宿跡地キャンプに帰って、改めて汚れを落としたい。
「私やジェニファーに関しては思わなかったのか」
アテナさんがちょっと不服そうにしている。
「もちろん思いましたよ。アテナさんなら僕が暴れるまでもなく全部撫で斬りにするのになあ、って」
「いや、君にそこまで期待されると少し困るが……」
「らしくないな、戦女神アテナ・ストライグともあろうものが」
急に煽ってくるフルプレさん。
だがアテナさんはそれには涼しげに。
「私は常人なのでね。王子のように無尽蔵の魔力があるわけでも、アイン君のように“斬空”を無拍子で撃てるわけでもない。何より冒険は初心者だ。あまり大口を叩くのもね」
「むしろユーカの穴を埋めるのは貴様かスイフトだと思っていたのだが」
「私やスイフト団長ではアイン君が本気になったら勝てないよ」
「ぬう……そこまで認めるのか」
いや、アテナさんやミリィさんには現状全く勝てないと思いますよ僕。
と、そのへんでマード翁が仲裁に入る。
「まあまあ。ここでガーガー言い合っても仕方なかろう。とにもかくにもロゼッタちゃんの生活環境整備が先じゃ。それと今後の行動方針じゃの。……今から絨毯作ってシャムリアに急行しても、おそらく意味はあるまいて」
「ああ……確かに」
そちらに急げば、近くにアーバインさんやクリス君がいるはず、というのが目当てだったのだ。
その二人が既にやられてしまった以上、そちらに行っても時間の空費になる可能性が高い。
「それなのですが」
クロードが口を開いた。
「一案があります。……よろしいですか?」
一応王子であり、この場で一番偉ぶっているフルプレさんに発言許可を求めるクロード。奥ゆかしい。
フルプレさんが頷くと、クロードはひとつ呼吸を置いて。
「……この際です。なりふりは構っていられないでしょう。叔父を……ロナルド・ラングラフを見つけ、招聘するのはどうでしょうか」
「おいおい……」
ユーカさんが凄く嫌そうな顔をした。
僕も「おいおい……」と言いそうになった。
「奴を御すことができる目算はあるのか」
フルプレさんが重々しく言う。
クロードは首を振り、しかし顔を上げて。
「ですが、アインさんやユーカさんに再戦を約したのは、才気ある強者との戦いを期待したからのはず。それ以上の、至上の力を持つ
「……一理はあるが、よしんば勝っても後が面倒な話になるな」
兜の中から唸るような声を漏らすフルプレさん。
ユーカさんは肩をすくめ。
「出来れば共食いしてくれれば、ってトコか?」
「もし呼びつけられたとして……その戦いで勝とうが死のうが、ラングラフは英雄となる。生き延びた場合、そのまま王家に改めて仕えるなら話は簡単なのだが、改めて漂泊や敵対を選ぶとなれば王家の面目は潰れることになろう」
「あー……そっか、冒険者じゃねーんだもんな……確かに面倒臭そう」
冒険者なら、仕官を蹴っても「冒険者とはそういう生き方だ」でカドは立ちにくい。
だが、ロナルドは元騎士団長で山賊だ。そうはいかない。
その一騎当千の力に魅せられた者たちや王家に不満を持つ者たちが傘下に集まれば、内乱に近い状態になる可能性もある。
それぐらいなら、今の「見失ったことにして互いに距離を置いている」状態の方が都合がいい、ということか。
だけど。
「……悪くない案かも」
「アインさん」
「もともといつ再戦になるかわからなかった。今なら望める中で最高の戦力が揃う」
覚悟を決める時、かもしれない。
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