改めて稼ごう
探索許可が再発行された。
「えー、今回の事件に関しては被害は極めて軽微であり……違反行為についてはあくまで今回に限って認められるものであり、本来は重罰も有り得るものであると警告したうえで、温情としてダンジョンへの入場を特別許可とする決定をここに下す」
持ってきた書面を、なにやらとても役人っぽい節回しで読み上げた役人は、鼻を鳴らしてその書面を宿のローテーブルに放り出して背を向ける。
「よかったな。次はないぞ」
「人助けと追い剥ぎ退治までやったのに、なんでこんなに邪険にされるんですか」
ファーニィがぶーたれる。
まあまあ、とアーバインさんとクロードが彼女を押さえ、役人はシルベーヌさんがひらひらと見送る。
「領主たちからすれば、冒険者も山賊も、素性の怪しい荒くれ者にしか見えてないのさ。冒険者なんてどこだってそうだし、事実そいつら元冒険者っぽかったんだろ?」
「そうですけどー」
「あの役人を言いくるめたってなんにも変わらないさ。俺たちは正義の味方じゃない、ただの金目当ての労働者ってなもんよ。『どんな善行を積んだか』よりも『どれだけ掟に歯向かったか』の方が偉い奴にとっちゃ重大なんだ」
「掟にだって歯向かいましたかね? 一度は許可されたダンジョン入っただけじゃないですか」
「あの日は一度しか許可されてない。それに山賊相手だって殺しは殺しってことだよ。山賊が『俺たち悪党でござい』と名乗ったわけでもなし、傍から見たら不法侵入者であることは俺たちも山賊も同じってわけだ」
まあ俺は二度目は入ってないけどな、と呟くアーバインさん。
「えー……生き残ったはずの残党はどうしたんですかね。ダンジョンの中に二人ぐらいいたはずですけど」
「そいつらを絞ったおかげでこの裁定なんだろうよ。皆殺しにしてたらちょっとヤバかったかもな」
……外に出てクロードとマキシムを囲んでた奴らは、一気に殺っちゃったからなあ。
加減して倒す技も真剣に身につけないといけないな。……マキシムなら知ってるかな。
「そんなんどうだっていいだろ。さあ、晴れてこれから稼ぎ時ってわけだ! 切り替えていくぜ!」
ユーカさんが拳を突き上げ、リノが「おーっ」と乗る。
……前回の稼ぎだけではさすがに宿代が精いっぱいで、リノが自分やジェニファーのために贅沢をするだけの余裕はなかったのだった。
リノはマイロンでのサーカス極貧生活の名残で、お世辞にも綺麗な恰好ができているとはいいがたい。服がところどころ継ぎ当てがしてあるし、それでなくても着古して色がだいぶ褪せている。
私物と言えるものもほとんどないし、もうちょっと稼がせてあげたいよな。
しばらくぶりで斡旋所に行くと、ちょうどマキシムとハーディもいた。
「やあ、そっちも今日から?」
「アイン。まあ、そうなんだけど少し肩慣らししようと思ってね。外の依頼を見てるんだ」
ハーディが指差すのは積まれた依頼書の束。
ダンジョン探索以外の冒険者の仕事もここには全部集められている。その中から次の仕事を探しているらしい。
もちろん、本来はそれらはダンジョンに入るには心もとない腕の初心者たちに回るべきもの。ダンジョンで稼げるクラスになったら、あんまり取ってしまうのもちょっと大人げないのだけど、マキシムたちとしては例のパーティ戦術を研究したいんだろうな。
同士討ちのリスクがあるなら、ダンジョンでぶっつけ本番をやるのも怖いし。
……僕たちも外の依頼を少し考えた方がいいかもな。なんだかんだで慣れてない奴が半分なんだし……と思うものの、稼ぐぞーと気勢を上げた直後にそれはちょっとテンション下がるか。
「そっちはダンジョンか? 気をつけろよ、俺たちだって別に恨みを買ったわけじゃないのにアレだったからな」
「わかってる。まあアーバインさんがいるから平気だよ」
「いいなあ……」
ハーディが羨ましそうな顔をする。
自信がなくなったというわけではないだろうが、冒険に一流冒険者が付き合ってくれるという安心感は格別だ。
地味に金になる素材にも詳しいしな、アーバインさん。
「……お前ならアーバインさん抜きでも充分にやれるだろう」
ぼそりとマキシムが言い、ハーディが一拍置いてびっくりした顔をする。
「マキシム!? どうした、おい!」
「何を慌ててる」
「いやマキシムがそんなこと言うのおかしいだろ!? いくらあんな無双してたとは言ってもアインだぞ!?」
「……少しは剣を覚えさせた。いつまでも先輩頼りの冒険生活は本人も望んではいない」
「マキシムが……デレてる……!?」
「黙れ」
ハーディを突き飛ばしてマキシムは出て行ってしまった。
呆然と見送る僕とハーディ。
「……あんなとこあるんだなあマキシムって」
「あんなとこ?」
「いや、俺たちが言うのもなんだけど、マキシムってやたらと使える他人、使えない他人の見極めが早いっていうか……人の評価を変えてるとこ見たことないからさ」
「あー……なんかわかる」
貴族の社会では当たり前なんだろうな、そういうの……と、他の事例を見ても思う。
でも、そんな彼に認めてもらうってのは、実際結構嬉しくて。
マキシムパーティが、結構しっかりマキシム中心にまとまっている感じなのも、なんとなくわかる。
……僕もそういう「この人に認められたら強い自信になる」みたいな人物になれるかな。
なんて、僕も結構チョロいかもな。
あんなに「嫌な奴」としか思ってなかったのに。
前に入ったダンジョンとは違うダンジョンを割り当てられ、僕たちは意気揚々と侵入。
「あ、全員耳塞いでおいて。特にエルフの二人」
「なに?」
「えっ、アレやるんです!?」
「今!?」
アーバインさん、ファーニィ、ユーカさんがそれぞれ違う反応をしながら慌てて耳を塞ぐ。
クロード、リノ、ジェニファーは「?」という顔。
……歓迎とばかりに襲い掛かってきたモンスターたちに、僕は。
「ほっ!」
右手を突き出し、指を、弾く。
ドォン! ドォン! ドォン!
三発。
……出てきたモンスターたちは色々な種類の混成だったが、どれも闇に適応しているだけあって音への反応は敏感だったようで、覚えたての魔術で光を作って照らしてみると、ほとんどが気絶して地面に倒れていた。
「クリス君に魔力の扱いについて習ったから、多分
「えげつねえな……」
「って、今までノータイムじゃなかったんです? もしかしてすごい使い辛い技だったんですこれ?」
ユーカさんとファーニィがそれぞれに驚愕の表情。
そして、なんか静かだなと思って後ろを見ると、ジェニファーが泡を吹いて横に転がって、リノも虫の息だった。
クロードはちょっとふらついているが、さすがの精神力でなんとかセーフ。
……
「……ファーニィ。治癒術かけてあげて」
「わー!? 大丈夫!?」
僕はモンスターのトドメを刺して回り、リノとジェニファーは五分ぐらいして何とか持ち直した。
……これはダンジョンでは最後の手段にしよう。
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