その日に起きたこと
クリス君……というより彼の保護者のメルウェンさんによって、僕たちはザッとあのダンジョンで当日に起きたことを聞き取られた。
まあ僕たちの方はいいとして、マキシムパーティがどういうつもりでダンジョンから出そびれたのかは僕も興味があり、それもマキシムの証言によって明らかになった。
「こいつらと別れた後、意見は分かれた。余力はまだあった。目の前であのスパイダーゴーレムを倒された以上、こちらもそれに相当するくらいのモンスターを倒さなければ……と気勢を上げたのがボルト。流れがどうとか言って探索終了を主張したのがハーディ。俺は……どちらにもつかなかった。王都で姫に尻尾を振っているはずの弟に会ったのが意外過ぎて、それどころじゃなかった」
「……言うじゃないか」
「俺の記憶では、お前は暇さえあればマリス、マリスと、そればかりだったと思うが」
「…………」
マキシムの「弟」像がだんだん掴めてきた。
天性の剣の才能は認めている。しかしそれを鼻にかけがちのナルシストで、しかも王女にいいように飼い慣らされ、弄ばれている子供。
……まあ、実際その通りか。多分クロード本人はもっとスマートに生きているつもりなんだろうけど。
「結局少し激しい言い合いになって、二人の頭を冷やすために休憩を取ったんだ。……俺たちがわざわざゼメカイトを離れたのは実力を培うためだ。実力を証明する戦果が欲しいというボルトの言い分も理解はできる。だがまたあれが出たとして、アインのように一瞬で仕留めるのは俺たちでは無理だ……改めてパーティ戦術を練ってからでないと、犠牲が出かねない……」
「へえ。わりと冷静に自分のパーティの分析してるんだね」
クリス君がちょっと小馬鹿にしたような口調で言う。
まあ、クリス君は誰に対してもこんな感じだ。良く言えば自信家で不敵、悪く言えば生意気。
しかし彼の変幻自在かつ超火力の魔術は冒険者全体でもトップクラス。しかも一番得意とするのが、妨害されにくい無詠唱魔術。
ムッとして掴みかかったところで、大抵の大人は吹き飛ばされてしまう。
不遜な態度を取るだけの実力はあるので、みんな渋々彼のそういう物言いはスルーしている。
「あのハーディって人、そんなに火力に難があるんです? わりとデキる人っぽかったけどなー」
そのハーディが置いて行ったお菓子をもぐもぐしながらファーニィが純真な目で言う。
魔術師というのは一般的に群れへの先制、もしくは大物へのトドメ役だ。各ロールでの協力を軸にするなら、だいたいは魔術師の能力の強弱がモノを言う。
「奴の十八番は攻撃範囲が広すぎるんだ。威力は十分だが巻き込まれると大惨事になる。使い方を工夫しないと味方の方が被害が大きくなる」
「あーあーなるほどねー。あるよねそういう迷惑な魔術」
クリス君はヘラヘラと。
「個人的にはそんなの何にでも撃とうとするんじゃないよって言いたくなるけど、まあ魔法一個覚えるのも凡人だと半年がけとかそんなペースだもんね。なんとか活かすしかないってことか」
「クリス君。あんまり煽らないの」
「別に本人が聞いてるわけでもないんだし、いいでしょ?」
「そういうところよ」
メルウェンさんが叱ってくれる。
まあ実際、この調子だと敵多くなるよなあ。
今はまだ子供だからそれでも庇ってもらえるけど、十年後にはひどい扱いになりそうだ。
……こんな少年がそれでも溶け込んでたユーカさんパーティって、いろんな意味で凄かったんだなあ。
「それで休んだんだが、迷宮は時間が読めない。どれくらいで進むか引くか決断すべき、とも決められない。結局、出るに出られず進みもせず……とやっていたら、奴らが現れたんだ」
「なるほど。あとは奴らのマンハントから逃げ回るのに精いっぱい、ってところかな」
「……概ね」
こういうの聞くと思うのは、パーティの意思統一って重要なんだな、ということ。
僕たちはそういうので揉めたことはないけど、それは僕がユーカさんの判断なら大丈夫……いや、大丈夫だから従ってるというより、もし大丈夫じゃなくてもまあ諦めもつくかな、みたいな感じで従ってるわけだけど。
ファーニィはなんだかんだで僕には逆らわないし、クロードもそう。アーバインさんはそもそも他人を統率するスタイルじゃないし、ほっといても一人でなんとかなる人。新参のリノ&ジェニファーは言わずもがな。
序列がしっかりしているので、僕たちは行動に際して意見が割れることがない。これは本当に強みだ。
そして、そういうパーティばかりじゃないことは、ゼメカイトでの臨時パーティで幾度も経験している。
「リーダーシップは大事だぜ、後輩。そういう時に、強引にでも『俺についてこい』って言えないと、いずれ仲間殺すことになるぜ。冒険中にパーティが割れるなんて、あっちゃならねえ」
「……反省は、しています」
アーバインさんの助言には素直に頷くマキシム。
そしてクリス君はまた無意味に胸を張る。
「その点、この僕のパーティは団結力抜群だからね。見習いなよ。ここに来てすぐに“お抱え”になったくらいさ」
「はいはい」
メルウェンさんはクリス君を撫でて満足させた。
実際はこの人のリーダーシップでまとまってそうだな。この女性集団をこの性格のクリス君がまとめられてるとは思えない。
事情聴取の結果は斡旋所に提出され、いずれ領主まで報告が上がるだろう、ということだった。
特に非となるほどの行いがあったわけではないので、多分また数日したらダンジョンへの入場が許される見込みらしい。
何日もかかるのは回される部署数の問題もあるし、領主があまり熱心ではないので、すぐ処理してくれるとも限らないかららしい。
「こんな特殊な制度で回してるのに、領主が不真面目なんて……」
「そういうもんだろ。世襲の貴族様って」
ユーカさんはあまり気にしていないようだった。
そして事情聴取に唯一参加しなかったリノを見に、獣舎を二人で訪れる。
……さすがに宿に比べると獣のあんまり清潔でない臭いが濃い。
「おーいリノ。いるかー」
扉を開けてユーカさんが無造作に踏み込むと、獣舎の壁際で伏せていたジェニファーが顔を上げて、片手をゴリラハンドにして指を口元で立てる。
「…………」
人間臭いっていうか、ほぼ人間の仕草じゃんそれ。
と僕たちが絶句する中、ジェニファーは彼のお腹に身を預けるようにして昼寝するリノを視線で示す。
寝てるから起こすな、と言いたいらしい。
「おお……いいなー……!」
「ユーってわりとジェニファーに関すること、何でもうらやましがるよね」
「いや、普通こういう寝方は夢だろ!? でっかい動物と仲良く寝たいだろ!? 馬とかだと迂闊にやると危ないけどさ!」
「あんまりその感覚わかんないなあ……」
ユーカさんって変なところ子供みたいだよね。
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