ダンジョンの街
冒険産業
デルトールはゼメカイトよりも都市としては小粒だが、周辺地域には数十のダンジョンが集中している。
さぞかしモンスターで満ちあふれているのだろう、と思ってしまうが実はそうではなく、ひとつひとつのダンジョンは大した難易度ではなく、また封鎖管理も徹底しているために周辺は意外と穏やからしい。
なんでそんなに冒険者に都合がよくなったのかというと、それまでの長い歴史の中でに高難度ダンジョンのコアだけを高名な冒険者たちが停止させ、低難度ダンジョンを資金源として保護する政策を取ってきたためで、それによる素材探掘に依存した「冒険産業都市」というのがデルトールの通称になっている。
そのあたり、世界的冒険者でも手に負えないほどのダンジョンや大型遺跡をいくつか抱えてしまっているため、管理も充分行き届かないゼメカイトとは少々趣が違う。
ゼメカイトはワイルドな夢を描く冒険者たちの晴れ舞台だとするなら、こちらは堅実に溜め込む商業的冒険活動の中心地、という具合。
「考え方としては否定しねーんだけどよ。やる前からタカの見える仕事ってなってくると、他の仕事でもいいんじゃねーかって気もするよな」
その辺の事情を語ってくれたユーカさんは、なんだか興ざめのようにそう総括する。
「……計算外のことが起きづらいなら、修行にしろ金策にしろ理想的な感じもしますけど」
クロードはわかりかねるといった顔でそう言う。
ユーカさんは半目でクロードをしばらく眺めて、「まあお前はそんなもんでいいんだろーな」と溜め息。
「アタシはな、冒険ってのはモンスター退治も宝探しも意義の一つではあるが、何より自分への挑戦だと思ってんだよ。想像を超えてこないようなモノしか出ないんじゃ、自分の本当の限界も試せない。ヒリつかねえ危険なんてそう何度も味わっても退屈なだけだろよ」
「俺ユーカのそういうとこ好き」
ニヤニヤしながら頷くアーバインさん。
一流ともなると多かれ少なかれ、似たような危険への誘惑を楽しむ気質を持つのかもしれない。
そしてファーニィは肩をすくめる。
「そうは言ってもユーちゃんやアーバインさんレベルの退屈って、私らにはまだまだガチの奴じゃないですか?」
「そりゃファーニィちゃんもアインも成長途上だしな。しばらくは楽しめると思うぜ」
そして、それを聞いて相変わらずリノだけが怪訝な顔。
「……アーバインさんはまあ、凄いのはわかったけど……この子?」
「にしし」
リノの視線に相変わらずニヤニヤするだけで何も語らないユーカさん。
僕たちもそれに合わせる。
ユーカさんのことについては「そのうち本人が話すと思うよ」とみんな口裏を合わせた感じになっていて、どうしてもリノが知りたがったり、知る必要が出てきたときにはユーカさんの判断で話させよう、とみんななんとなく合意している。
単に説明が面倒臭いので放り出しているだけとも言う。
「冒険産業都市」デルトールには他と違った制度がある。
まず「冒険者の酒場」がない。
正確には、それに相当する業務を役人が管理しているので酒場は単に酒場の機能しか持たない。
なんで役人がそんなことをしているかというと、モンスターやダンジョン素材の買い上げを領主が一元的に管理しているためで、それを効率的に進めるためにダンジョンの入場パーティ数や探掘完了日を厳密に記録し、できるだけダンジョンアタックに空振りが出ないようにしているのだ。
ダンジョンのモンスターや素材はある程度決まった期間を経ることで元に戻る。それを無視してダンジョンに入っても何の実りもないし、僅かな利益を巡って不和が発生し、冒険者同士が無益な殺し合いになったことも一度ではないという。
そういった事態を防ぎ、冒険者による安定した探掘で収益を上げ続けるため、領主は少なくない維持費を費やして領内のダンジョンの管理網を敷き、そのついでとして、周辺の通常モンスター依頼も暇な冒険者たちに振り分けられるように、全て握り込むことにしたらしい。
「他でもこういう制度にしたらいいんじゃないかな」
僕が「冒険斡旋所」の説明を聞いてその感想を漏らすと、説明をしてくれた中年の役人はハハハと笑った。
「これだけの数のダンジョンがあるからこそ、安定的に運営できるんだよ。……それに指図を嫌う冒険者も多い……困ったものだよ」
「そうは言っても、従わないと稼げないんでしょう」
「それはそうだが、こちらの指示の通りにやると均等の利益しか上げられないからね。それ以上の大金を手にしようとして、こちらの許可以上のアタックをしようとする冒険者は後を絶たないんだ」
「え、でもそれだと……」
「もちろん空振るって結果も多いが、こちらもダンジョン内環境回復の仕組みは経験的にしか理解していないから、回復中のダンジョンを漁るのは必ずしも無駄ではなかったりもするんだ。結果として全体のスケジュールが無茶苦茶になるし、もちろんそうやって余計に取った素材は真っ正直に
「はい」
……なるほどね。
「な? つまんねーだろ?」
ユーカさんの囁きに頷いておく。
これじゃ冒険というより農作業だ。
とはいえ、戦闘は確実に発生するだろうし、素材の買い取りもそこそこいい稼ぎなのは間違いないし、僕らのような二流以下のパーティが腕を磨く意味では、しばらく滞在する意味はあると思う。
「ところで冒険者同士が交流する場はどことかってわかりますか?」
「なんだ、仲間探しかい?」
「それもありますし、ここで心得ておくべきことを先輩たちから直に聞きたいんです」
まあ仲間は今以上に増やす意味はあまりないから、本気で探すつもりはないけど、一応「もしかしたら組むかも」みたいな雰囲気で話す方が円滑にいきやすいので、そういう体で会話はすることになる。
本当に連れて行くこともあるかもしれないしね。あまり大所帯だと進むも戻るもひと仕事になるからやめておきたいけど。
「そういうのならここの南の丁字路、突き当たりの酒場が冒険者に人気だよ。地元の者は眉をひそめているがね」
「どうも」
役人に礼を言って「冒険斡旋所」を出る。
「どうすんだ?」
「まずはジェニファーをどこに滞在させるか。冒険者同士でそういうの聞く方が期待できるだろ」
「あー、それがあるか……」
ジェニファーとリノは街の外で目立たないところに座らせている。
最悪そこにテントでも買って設営することになるな……。
そして、酒場に入る。
依頼が乱雑に張られた壁こそないが、昼間から乱暴そうな連中が集まるこの雰囲気はなんだかホームに来た気分だ。
……そして。
「…………!?」
「貴様……」
ぐるりと見まわしたら、目が合ってしまった。
立派な鎧の伊達男。
他の見覚えのある連中とともにそこにいたのは。
「マキシム」
「……アイン・ランダーズ……何故ここに」
こっちのセリフだ、と言いたいけど、言うといざこざの端緒になりそうだな。
……まさかここで会うなんて。
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