鎧完成、さらば王都
服以外にも古くなってきた袋類など物資の更新やらなんやらこなしつつ、鎧を最終的に受け取ったのは三日後。
「ドラセナ印のドラゴンミスリルアーマー! って行く先で宣伝してきてくれよな!」
「長いなあ」
「だってミスリルアーマーってだけじゃつまんないだろ? ドラゴンミスリルアーマー! いいじゃんそれで!」
「……まあいいけどね」
革鎧だの剣だの、自分の持ち物にそんなに立派に名付けるほどのものが今までなかったから照れ臭いだけであって、モノ自体はちゃんとそれに値するというのはわかる。
綺麗に形を整えられ、
それでいて防御力は飛躍的に上がっているという。さすがにいきなり耐久力テストをする気はないけれど、いざという時に命を預けるものがソフトレザーからミスリルに変わったと思うと、ちょっと笑えるほどの落差だ。
例えるなら石斧から銘刀に持ち替えたようなものだ。形式としてもギリギリ最低限という武装から、一気に自慢できる代物になってしまったのだから、シルクの服同様にまだまだ自分が着られている感が強い。
……とはいえ、姿見で改めて自分の姿を見れば、もちろんぴったりと体に合っていて違和感など微塵もない。
職人のオーダーメイドというのはこんなにも見事に個人に合わせるもんなんだな、とちょっと感動した。
違和感は要は僕自身の主観の問題でしかない。そのうち、これも込みで自分の姿として慣れていくのだろう。
「請求は城に回しとくんでいいのかい?」
「あー……一応は蓄えがあるからそれで」
「いや、城に全部回しちまえ。どうせフルプレから見りゃ大した額じゃねー」
きっぱりとユーカさんは言い切った。
そしてアーバインさんもうんうんと頷き。
「あのバカ、一発二発叩いてあと大半泳いでただけの体たらくだしね。アインはそれくらいの働きはしてる。自信もって奢らせよう」
「そういうのって後で面倒臭くならないですかね」
「大丈夫大丈夫。これでみみっちいこと言うようならその程度の王子様ってことさ」
なんというか……本当にこの人たちの中でのフルプレさんって、扱いが酷いよなあ……いや、まあ、あの素行だとそうなるのもわかるんだけど。
「お前が背伸びすれば払える程度の額なんて、ドラゴン討伐の報酬としちゃささやかなもんだろうよ。納得しとけって」
「……うん」
ユーカさんに従うことにする。
こんな調子でやってていいのかなあ、とも思うが、貰っていいものなら遠慮しない、というのも、冒険者としては大事なことだ。
結局フルプレさんに義理を通しに行くわけにはいかないけれど、僕たちが所有権を主張せずにドラゴンの死骸を譲ったことで、フルプレさんも損はしていないはずだ。
なんとか自分に言い聞かせて納得した僕を横目に、ファーニィがちょっとアンニュイな顔。
「これで王都での用事は終わりですか。もうちょっと王都のスイーツ楽しみたかったところですけどねー」
「別に楽しんでてもいいぞ? アタシらは次行くけど」
「ドライが過ぎないかなユーちゃん!?」
「冒険者なんてそんなもんだ。いつ誰が抜けてもおかしくねー。冒険中に怖気づいてやめるとか言い出す奴だってたまにいるくらいだ。街で抜けるってんなら円満ってもんだぜ」
「抜けないから! 今の時点で抜けても私ちっともおいしくないから!」
ファーニィは本当に自分に正直な子だ。
ある意味で信用できる気もしてきたけど気のせいかもしれない。
そして、ドワーフたちの鍛冶工房から出ると、旅装を整えたクロード少年が待っている。
「家の連中に止められなかったか」
「ええ。元々、話は通っていましたので」
「……ホント、かわいくねえガキだなあ」
ユーカさんがつまらなそうな顔をしたのは、彼が家に止められなかったということ以上に「話が通っていた」という言い方だろうな。
15歳やそこらで、いかにも政治慣れした感じの言い回しは、僕が聞いてもちょっと怖いなあ、と思う。
貴族として生きていくっていうのは、そういうことなのだろうけど。
「ついてくるのはいいが、帰る時も自分で歩けよな。ここまで送ってなんかやらねーからな」
「ははは、仰せのままに」
クロード少年は実に余裕。もしかしたらこのパーティで一番大人びているかもしれない。
ファーニィもアーバインさんも、わりとどうでもいいとこで張り切ったりムキになったりするタイプだしね。
……そして、僕たちは。
「これで全員かい? ルト通貨で500だ。値切りはお断りだよ」
「大丈夫です」
復旧が始まっている港の隅から、レンダー湖に漕ぎ出す横断連絡船に乗り込む。
とりあえず陸路よりは船の方が速く王都から距離を取れるし、ウロウロしているところでフルプレさんに改めて鉢合わせ、というのだけは避けやすいのが船を選んだ理由。
別に改めて結婚お断りしてもいいんだけど、鎧代を払ってもらうぐらいまではのんびりといい気にさせておく方がいい、ということでこうなった。
「しかし皆さん、この前この湖からドラゴンが出たってのによく船に乗る気になりましたよね……」
ファーニィが水面を不安そうに見つめる。
が、ユーカさんとアーバインさんは笑い飛ばした。
「逆だろファーニィ。この湖があれのテリトリーだったんだから、今は安全ってこった」
「ドラゴンは縄張り意識すごいから。同じ湖に二頭も三頭もいるってことはまずないよ」
「えぇ? こんな海みたいに広い湖でもですか?」
「まあこのぐらいの大きさだと一頭だよ。海でも一日で船が走れる範囲に二頭いることはほぼない。……まあ俺あんまり海で戦ったことないから、リリーちゃん曰く、だけど」
「まあしばらくしたらあのサカナワイバーンみたいなのがここらに住み着くかもしれないけどな。やったぜヌシがいなくなった! ってんで」
「なんですそのサカナワイバーンって」
「アインが初めて倒したワイバーン」
「
ファーニィあの時いなかったもんな。
……本当にいなかったっけ? って少し考えちゃうくらいにはファーニィは馴染み始めてるし、まだその戦いもついこの間の話なんだけど。
「あん時こいつまだゴブリンにビクビクしてたくせに、ほぼ独力で10メートル級仕留めたんだぜ。すげーだろ」
「ほへー。どうやって」
「独力じゃないよ……ユーがワイバーンぶん投げてくれなきゃ勝てなかったよ」
「ぶん投げた!?」
「投げたんだよ……」
「10メートル級ですよね!?」
「投げられちゃったんだよ……本当に」
「あの目がピカー光ってる時みたいな感じで!?」
「光ってなかったよ……普通に素で投げるんだよこのひと」
今考えてもすごいな。
……船の上ではその話をしているうちに、気付くと対岸が近づいてきていた。
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