事後処理と双子姫(双子姫ではない)
ファーニィ二度目のチャレンジでユーカさんの傷は完全に治った。
「ふふふ……やりましたよアイン様……なんと発動点が右3個、左2個まで出せるようになりました」
「ごめんいまいちわからない」
「つまりやろうと思えば二人同時治療ができるってことですよ! しかも右は通常よりも速く! 我ながらキモい!」
「そ、そうなんだ?」
「まあ多分実用上は一人ずつ癒す方が早いんですけど。加減も利くし……でも私一人でそこらの治癒師二人前の能力が開花したってことです。自慢していいんですよアイン様。ウチの下僕超美人でしかも有能! って」
「いやそこは有能を先にアピールするとこじゃない? あと下僕は君が自称するのは諦めるけど僕は言いたくないよ。人格を疑われる」
「ちょっとぐらい人格破綻してると思われる方がウケるんですよ?」
「何の話!?」
彼女の言うことは時々よくわからない。
で、治ったとはいえ町は
絶対安全と思っていた王都に、聞いたこともない巨大モンスターが上陸したことに恐怖を感じ、街を出ようとする住民もいれば、討伐された
「フルプレの奴が倒した、ってことになるのが一番なんだけどね。さすがに人間がガチンコで倒した、なんてのは実物見ると信じられなくなっちゃうみたいでさ。やれ王家の隠してた秘密の究極魔術だの、東大陸から運ばれた秘密の古代兵器だの、暗黒教団の呪われし秘呪だのいろいろと憶測が出てるわけよ」
街をブラブラしてきたアーバインさんがその噂の数々を教えてくれる。
「さすがにアレ殺すのにそんな仰々しい奴はいらねーだろ」
「まあ俺らの感覚だとそうなんだけどさ。イッパンシミンって奴は大げさに言いたがるんだよ」
「なんか軽く言ってますけどユー死にかけたしフルプレさんじゃ討伐には不足だったんですよね……?」
「フルプレなー。あいつの最大火力があの『フルプレキャノン』だからなー。あれ確かに何にでも効くっちゃ効くんだけど……ああいう再生能力とか持ってるモンスターとは完全に正面からの削り合いになるから、一人でやるとものすごくキリがない感じになっちゃうんだよね。魔力切れたら後方に逃げて休んで、の繰り返し。だから結局相手も潮時となったら逃げちまうし、ソロだとああいう超大型相手の討伐実績ないんだよ」
なんかパッとしないような言い方してるアーバインさんだけど、あなたも刺さらないからどうのこうのってボヤいてましたよね。
「リリーちゃんかクリスがいればもっと話は早かったんだけどね。あの二人なら普通に三発か四発くらい直撃カマせば倒せたと思う。変な耐性持ちでもなさそうだったし」
「そんなに強いんですかあの二人の魔術」
「ヤワいリスクを差し引いてまで超大型討伐に参加する超一流魔術師の火力が
「……ま、まあ、そうかもしれないですけど」
僕が組んだことある魔術師って、駆け出しの冒険者ばっかりだからなあ。
それぐらいのレベルだと、数メートル級のワイバーン相手には呪文一発じゃ致命打にならないくらいが関の山。
犬みたいなクラスの小型のモンスターには確かに手っ取り早いし、駆け出しのころはそもそも前衛の戦士もワイバーンにはロクに攻撃が通らないので頼れるのは間違いないんだけど。
「魔術師がそんなに強いなら、今回の戦いにも参戦してくれても良かったんじゃないですかね……王都には普段机仕事してる魔術師とかいないんですかね」
「いるっちゃいるだろうけどな。……まあリリーちゃんやクリスもそうそういるレベルじゃないってこった」
「トップクラスの魔術師がやる芸当を、いくらかランクが劣る連中が協力して真似する……ってのも、できなくはないんだけどな。練習メッチャ大変なんだよ」
アーバインさんの説明をユーカさんが補足する。一応魔術師の家系出身だからか、あるいはリリエイラさんの親友としてのフォローか。
「まず複数人で魔術を分担するのはみんなで力合わせて綱引きするのとはわけが違う。詠唱を渡すタイミングとか、お互いが出した魔力の扱い方とか、即興じゃ絶対うまくいかねー要素がたくさんあるんだ。その上、実力以上の魔術を分担作業で安定させるには余剰の魔力も必要で、性質上一日に何度も練習できねー。モノにするには組ませて半年以上は必要だな」
「まあ、普段から危機感持ってなきゃまず使えない、ってことよ。格落ち魔術師が何人いてもさ」
そう考えると確かに簡単にはいかないか……。
と、腕組みしているところに、スッと部屋の扉が開く。
「その点に関しては、兄とスイフトがそれぞれの騎士団内で改めて訓練を始めるようですわ。騎士団付きの魔術師は数が少ないですし、実戦向きでないものばかりですから前途多難ですが」
「……えーと……」
現れたのはフードをかぶっているが、あの姫君。と、知らない少女。
どっちの姫君なのかわからないのでとりあえず。
「どちらさまです?」
「まあ、つれないこと。あんなに熱い夜を過ごしたのに忘れてしまうなんて」
「過ごしてません」
「ミリスですわ。妹は城に残しております。揃って出歩くと城の者に叱られますので」
……とはいうものの、一応背後に数人のお供は連れている。護衛らしい強面の男たちと、侍女らしい女性が一人。
で。
「そちらの人は?」
「影武者のムリス(仮)ですわ」
「命名適当過ぎません?」
「ちなみにマリスの方にはメリス(仮)がついております。あと補欠にモリス(仮)も用意しておりますわ」
「……ええと」
どこまで本気なんだかわからない。ちなみにムリス(仮)ちゃんは背恰好以外全く似ておらず、髪もこげ茶で癖毛、そばかす顔のいかにも庶民の子だった。
「そもそもお忍びの外出に影武者要るんですか……?」
「まあ半分は遊び相手ですわ。せっかくの外出に護衛と目付け役しかいないのは退屈ですもの」
「えっマジです!? 私いざとなったら身代わりに死ぬものと思ってビビり倒してたんですが!」
「あら、曲者が出たら申し訳ありませんがそうなってしまうかもしれませんよ?」
「ひぃぃ」
振り回されるわ脅されるわ、なかなか可哀想だなムリス(仮)ちゃん……。
まあそれはそれとして。
「よくここがわかりましたね……って、カミラ嬢か」
鎧を作ってもらってるドラセナとの連絡をつけるため、一応カミラ嬢には逗留先を教えておいたのだった。
「ええ。まあカミラに聞くまでもなく、戦いの直後からあなた様の行方は追わせていたのですが」
「……気づかなかったんですかアーバインさん」
「いやー……まあそんな本気で隠れて逃げたわけでもないじゃん? フルプレが湖から上がってこないうちにって急いだだけだし?」
アーバインさんの対人斥候スキルは今後もあんまり信用しないことにしよう。
「兄には、ユーカ様たちはすぐに旅立ったと伝えております。なんだか満足して『まあ、今しばらく考える時間はいるだろう』とか言っていたので、フラれたとは全く気付いていないようでしたけれど」
「あ、ありがとうございます」
「城下には討伐に関して様々な噂があるようですけれど。騎士団が一部始終を見ておりましたので、ユーカ様はもちろん、アイン様やアーバイン様が大きく貢献されたことは父も承知しております。なんなら時期をずらしてでも、その功績を内外に知らしめても良いと思いますわ」
「いや、いいよ……あ、いいです。ほぼほぼユーカさんの功績だし、ユーカさん自身は……」
「アタシはあんま今の恰好知られたくねーんだ。褒美とかもいらねーし」
「……だそうです」
「それは残念。……アイン様の功績だけでも発表させてはいただけませんの?」
「それ意味あります?」
「ふふっ。妹の将来に関わる話ですわ♥」
まだ狙ってるんだ……フルプレさんといい、一度狙ったらなかなか諦めないなあ王族。
いや、ビシッと断ればいいんだろうけど、今は険悪にはしたくないし。
「じゃあ俺だけでも……ってのは冗談で、ま、フルプレが倒したってことでいいじゃん。そこそこ痛い目には合わせたのも事実だし、嘘じゃねーだろ?」
と、アーバインさんが提案する。
ミリス王女は頬に手を当てて残念そうに。
「そうしておくしかありませんわね。あの兄に余計な実績を与えるのは気が進みませんが」
「別にいいだろそんなの……」
ユーカさんが呟くが、ミリス王女は首を振る。
「『フルプレート』という仮面をまだ使いたい兄は、それを自分の実績と一般に知らしめるのを躊躇しておりましたが……これでそれを使わず、正式に『第一王子兼騎士団長ローレンス』の実力をアピールすることになってしまいますもの。今まで以上に調子に乗りますわ」
「……あー」
ユーカさんは納得した顔をする。
そしてミリス王女、お兄さんやっぱり嫌いですか?
「……しかし、そう望まれるのであれば致し方の無き事。そのように取り計らいますわ。……しかしアイン様、我々王家は此度のあなた様の働き、決して無かったことにするつもりはありません」
「は、はぁ」
「いずれ志を遂げた時、またお会いしましょう。……楽しみにしておりますわ♥」
微笑みを残し、姫君はまたふわりと去っていく。
侍女がドアを音もなく閉め、しばらくしてムリス(仮)ちゃんの声が廊下から。
「あの、姫様? あのメガネの人がそんなにいいんです? 私あっちのエルフの人の方が……ひゃっ、えっ、待ってこんなとこでそんなの、あひぃっ」
……何してるんだろう。
「あの子、見る目あるな……後でちょっとコナかけに行こうかな」
「めんどくせーことはやめとけよアーバイン? 遊びてーなら色街で済ましとけ。城の女で遊び過ぎるとマジでフルプレの奴から手配されるかんな」
「ありそう……そうする」
そうして下さい。……それでもなんか面倒な因縁作りそうな人ではあるけど。
ちなみにファーニィは話にまたも全然混ざれなくていじけていた。
「戦いでも結構頑張ったんですけど……」
「ぼ、僕はちゃんと覚えてるから」
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