第4話
家に着くと飼い猫のミルが二階からやって来た。白い毛がミルクみたいだからミルという。
「ミャー」
「ただいまミル」
少し顎を撫でてあげると満足したようで、すぐに二階に戻って行った。気まぐれなニャンコである。リビングに入ると妹である蓮華が、話しかけて来た。
「兄貴おかえり、父さんと母さんは今日も遅くなるってさー」
だらしなくソファに座り、足を伸ばす。身内贔屓な部分はあるが、うちの妹は可愛い。俺の一つ年下で、赤みがかった茶髪に身長は百四十九センチで小柄で抱きしめたくなるような大きさなのである。オタクとしてはこんな妹が部屋着でソファに座ってるだけで絵になるのだ。断じてロリコンでもなければシスコンでもない。
「……何無言で眺めてるの? 変態」
「いや、俺の妹可愛くねって思って」
「知ってる知ってる」
「自分で言うのは流石に痛くね?」
我が妹ながら自信満々である。
「あのねぇ兄貴。可愛い子はみんな可愛いって自覚してるんだよ。だから可愛いって言われても、心の中では当たり前だろうが刺すぞって思ってるよ」
「世の美人たちは、そんな物騒な事を考えてるのか」
「そう言うもんよ。あーでも陽奈だけは別ね。あの子天然だから」
「確かに青木ちゃんはそんな感じするな」
青木陽奈。妹の蓮華の友達で、蓮華と同じような身長。小動物のような見た目をしていて見ていて癒される。さらに明るい性格で、人懐っこい笑顔が素敵な子だ。髪色は元々天然の茶髪で綺麗だったのだか、俺が黒髪ショートの女の子が好きと言う情報を蓮華から聞き、最近茶髪から黒に染めたらしい。
「兄貴そろそろ陽奈に答えてあげなよー。どうせ告ってくれる相手なんて、いたとしても瑠奈姉くらいでしょ?」
「……っ」
今日の出来事を思い出す。一ノ瀬に告白されたあの場面を。するとみるみる顔が赤くなっていくのが、自分でも分かった。
「え? 何その反応。もしかして本当に瑠奈姉に告白でもされた?」
確かに瑠奈とも似た雰囲気にはなったが、あれは告白とは言えないだろう。
「されてないよ」
「え? じゃあだれよ」
「なんで告白された前提で話してる」
蓮花は鋭いかバレると思っていたが、こんなに早くバレるものか? いやまだ舞える。
「だって照れてるじゃん。それで誰にされたの?」
「誰か言っても分かんないだろ? それに断ったし」
はい、舞えませんでした。
「何でよ勿体無い! はぁ、私兄貴の将来が心配……いや瑠奈姉も陽奈もいるし大丈夫か」
何が大丈夫か分からないが、なんか納得したようだった。
「……晩飯何食う?」
「炒飯で」
「はいよ」
両親が共働きで忙しい為、普段は俺がご飯を作っている。蓮華はその代わりに掃除や洗濯をしてくれているのだ。
この日は蓮華とご飯を食べて、風呂に入ってそのまま眠った。一日で考える事が多すぎたのですぐに眠れる事が出来た。
翌日、瑠奈の言った通りHRでグループ決めが行われた。
「おーい、お前らなんかグループ決めないと行けないみたいだから、適当に作ってくれ。委員長、後は任せた。私は寝る」
担任の宮前梨花先生がぶっきらぼうにそう言い放った。基本的に放任主義な先生だが、締めるところはしっかり締める先生だ。去年の担任も宮前先生だったからよく知っている。
「はい。四人グループを作ります。教卓にグループメンバー記入の用紙があるので、グループが決まったらこの用紙に記入して下さい」
瑠奈の一言で周りの人達が動き出した。ちなみに、俺達は既に記入を済ましている。朝一で瑠奈が記入してくれていた。クラスでは陽キャグループ、隠キャグループと後は中立と言えば良いのだろうか、たまにどちらのグループにも入れる奴が居るが、あれは隠キャに理解のある陽キャなのである。そう言った奴らは、余った枠に自分から入って行くのが見受けられた。優しい人達だ。
「一ノ瀬グループ組もうぜ」
一人の陽キャ君が、一ノ瀬に話しかけた。よく見れば半年前に隠キャ君に絡んでた彼だった。名前は知らないが。興味のない人を覚えるのって結構難しいものだ。
「私もう組んでるから」
「誰と?」
何か嫌な予感するな。
「瑠奈と涼平あと……橘だ」
あの、俺の名前呼ぶ時だけ声細めて顔赤らめるのやめて貰えません?
「橘? ええと、あいつか」
嫌な予感と言うのは、意外と当たるもので陽キャ君が俺の方に歩いて来た。俺の席は廊下側の一番後ろで、話しかけられまいと廊下の方を向いていた。そんな抵抗は直ぐに無駄に終わる。
「よう。橘、早速で悪いんだが、グループ変わってくれよ」
俺に肩を組みそう言って来た。隠キャだからって舐めてるんだろう。
「おい。翔太からその薄汚い手を離しなさい」
やっぱりこうなったか……瑠奈が俺の席の前まで来た。
「あ? 委員長が何の文句があるんだよ」
「いいから離せって言ってるだろ?」
瑠奈に続き、涼平も俺の助けに来てくれた。陽キャ君の肩を掴み、俺から遠ざけてくれる。まあ、ありがたい事にはありがたいんだけど、流石に陽キャ君が二人に気圧されてる。
「何なんだよ。別にグループ変わってくれないかって聞いただけだろ?」
「あのさ、あんた何なの。橘の事下に見てるよね? そういうの大っ嫌い」
さらに陽キャの後ろから、一ノ瀬が追い討ちを掛けた。辞めたげて! 陽キャ君のライフはもうゼロよ!
「一ノ瀬、お前こいつの事が好き何だろ? だから庇ってるんだ」
何処かで見た光景が繰り返された。学ばない奴め。ここまで来ると自業自得だろう。さぁ一ノ瀬適当にあしらってやってくれ。
「好きだよ! 私は橘が好きだ!」
「……は?」
少しクラスの注目を浴びすぎていた。クラス中が一気に静かになった。それもそうだろう。ここまで言い争っていれば嫌でも目立つ。極め付けに、一ノ瀬の衝撃的な発言。ひそひそと「一ノ瀬さんって、橘君の事好きなんだー」「え? 公開告白?」などの声が聞こえてくる。次第に騒ぎは段々と大きくなる。全員の注目が俺に映った時だった。
「全員静かに!」
宮前先生の声が響いた。
「もう少し静かにしろ。うるさくて寝れないだろうが」
みんな宮前先生に毒気を抜かれたのか、俺たちに向けていた視線を辞めてそれぞれのグループで話し始めた。
「お前も、もう戻れよ」
「……ああ」
涼平に急かされて、陽キャ君は帰って行った。勿論納得した様子は無かった。きっと彼は一ノ瀬の事が好きなのだろう。だから、一ノ瀬が俺の事を好きと言った時、ずっと俺の事を睨んでいた。
「橘、大丈夫か?」
「うん。というか大丈夫じゃないのは、一ノ瀬の方じゃないか?」
「良いんじゃない? これで翔太と椿に変な虫が着くこともないだろうし」
「一ノ瀬はともかく、俺はないだろ」
思った事をそのまま言った。すると三人は顔を揃えて言った。
「それはない」
こいつら、俺の事過大評価し過ぎて怖いんだけど。
「翔太は自分で隠キャって言ってるけどさ、全然そんな事ないぞ。俺は昔翔太に助けられたし」
瑠奈と同じように、涼平にも暗い過去がある。今でこそ爽やかイケメンだが、涼平は昔凄く太っていた。優しく言わないのであれば、おデブだった。そんな涼平と出会ったのは中学生の頃、好きなアニメが一緒で意気投合。
それからしばらくして、いじめられた。直ぐに庇いに行ったが、瑠奈の時と同じで返り討ちにあった。当然だ、人数差が違いすぎる。何人居たかは覚えてないが、恐らく六人くらいだ。そこから涼平はダイエットする事を決意し、イケメンにまでなった。
イケメンになってから周りの女子の反応に拒絶反応を起こした。それもそうだろう、今まで自分の事を馬鹿にして来た奴らが言いよって来たのだ。怖く思っても仕方ない。同年代の女子が受け付けられなくなっても人間だ、勿論性欲はある。そこで涼平は熟女趣味になった。優しいお姉様方が素敵なんだと言っていた。
そんな事があって涼平は、俺の側にいる。俺がした事は、横で一緒に殴られただけだったのに、全くもって変な奴だ。
「私も長年見てるけど、翔太はオタクだけど明るいし正義感がある。隠キャみたいにキョドる事もないしね」
「私もそう思うぞ! 橘はかっこよくて……えっとその、優しくて! あとあとは……」
「椿ちゃんほんと可愛い」
瑠奈は椿に抱きついき、頬ずりをし始めた。
「瑠奈、椿の前だけキャラ変わり過ぎじゃね?」
「昔はずっとこんな感じだったぞ。あの事があってから俺以外に心開かなくなった感じだし」
「ああ、例の」
瑠奈と涼平には昔、お互いの過去を話し合って貰った。境遇は似てるし、友達になれそうだと思ったからだ。結果は成功して、今に至る。これがきっかけで友達が増えるかと思ったが、厳しかった。まだ怖さがあるんだろう。無理に作る必要はないし、無理に連んでもそれは友達とは言わない。
「なぁ、瑠奈に橘。あと一応涼平。みんなの過去の話聞かせて欲しい。折角友達になれたし、色々知りたい。無理にとは言わないけど」
一ノ瀬なら本当の意味で二人の友達になれると思う。
「俺は良いけど……瑠奈と涼平はどうする?」
「そんなのいくらでも話してあげる」
「面白い話は出来ないけどな。……あと、一応は余計だ!」
「気付くの遅」
その後、放課後に集合するという事で、話がまとまった。
「グループは決まったな。あとはどこに行くかだが、学年主任のクソ鬼塚のせいで山に決まった」
宮前先生の一言により、クラス中から愚痴が溢れる。宮前先生も嫌なのだろう。学年主任をクソ呼ばわりしている。
「どうにかならないんですか?」
一人のクラスメイトが宮前先生に言ったが……
「出来たらしてる……私は水族館が良かったんだ! あそこなら熟睡出来るのに! 山なんかどうかしてる! 虫がキモ過ぎる!」
こいつ本当に先生か? と思われる様な発言である。ただ、みんなそんな宮前先生の願望に笑い始めた。
「というわけで私も嫌だが、決まってしまった物は仕方ない。虫除けスプレーは私に任せろ。二十本もって行く」
待って行き過ぎだろ。とも思ったが、宮前先生のすごい所が垣間見える。さっきまで沈んでいたクラスを、明るい雰囲気に変えた。恐らく狙ってやっているのだろう。適当に見せているが、腐っても教師だ。
「それじゃあ、スケジュールの確認をするぞ」
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