第46話 支配者
* * *
火猿はティリアの変貌に少し驚いたが、問題はないだろうとも感じた。
元々、ティリアはどこか危うい子だった。今更それをこじらせたところで、何も問題は起きない。
そして、一時間もすると、ティリアの左腕に描かれた模様が消滅。
ティリアはふと我に返り、少し気恥ずかしそうに俯いた。
「あ、わたし、今、何か変だったよね……?」
「まぁ、ちょっとな。もう平気か?」
「たぶん……。さっきまで妙に気分が良かったけど、今は普通……」
「ならいい。ちなみに、今のはなんだったんだ?」
「なんだろう……?」
「ステータスに変化は?」
「えっと……あ、呪詛の支配者っていう称号がある。わたし、呪いも呪いの武器も、自由に扱えるようになったみたい」
「へぇ、それは便利だな。ってことは、上手く使いこなせばティリアも戦力になるってことか?」
「きっとそう! やった! わたしもカエンと一緒に戦える! ねぇ、ファリス! わたしはもうどんな呪いも大丈夫だから、わたしにもっと呪いを付与して!」
ティリアの目が爛々と輝いている。
一方、ファリスは及び腰だ。
「ちょ、ちょっと待って。呪いを使いこなせる……? 本当に……? ティリア、一体何者なの……?」
「わたしはただの人だよ?」
「ただの人は呪いを支配なんてできないの! まぁ……呪いに馴染む性格や性質を持つ人は、確かにいる。そういう人は呪いを自在に武器にすると聞いたことがある……」
「じゃあ、わたしはそれなんだね! ねぇ、とにかくわたしに呪いを付与して!」
「やってみるけど、少しずつね? どこかで限界が来るかもしれないし、そうなるとティリアの命が危うい」
「わかった! それでもいいよ!」
ティリアの頼みで、ファリスは再びティリアに呪いを付与する。
何度か実験していくうち、ティリアに呪いを付与する際のメリット、デメリットも見えてくる。
メリットとしては、ティリアの能力が向上することと、様々な呪いの力を扱えるようになること。
能力が向上すると戦闘力は二万以上になり、並の相手であれば十分に戦える。
さらに、自分に付与された呪いを呪詛使いのように操り、他人を攻撃することもできる。その際、ティリア自身にダメージはない。
ただし、呪いの制御にはティリアの魔力を消費していくので、長くは戦えない。せいぜい一時間が限界だ。
また、ファリスがティリアに呪いを付与しても、それだけでは発動しないようになった。ティリアの意志でオンオフを切り替えられる。永続する呪いを付与されても問題ないだろうと思われたが、まだ様子を見ることに。
デメリットは、呪いを制御しているとき、ティリアの性格が変わること。やたらとハイになり、警戒心も危機感も薄れてしまう。
戦闘力二万はそれなりに強いが、火猿にもリシャルにも及ばない。元々の戦闘力からすると破格の強さを身につけていても、最強などではない。
呪いの力を使うとき、ティリアはいわばバーサーカー状態のため、無謀な戦いを挑んで命を落とす危険もある。
使いどころを間違えれば、ティリアはすぐに死ぬだろう。
じっくり時間をかけて検証と経過観察をする必要がある。ティリアが無闇に呪いの力を使わないよう、火猿はティリアに注意した。
そうこうするうちに一日が終わり、翌日。
現状、火猿たちを討伐しようとしている者はいない。火猿たちが魔族だった場合、戦いになれば市民も町もただでは済まない上、討伐できる可能性も低い。そのため、様子を見ている状態だ。
ただ、ファリスに協力してもらいつつ情報を集めたところ、先日殺した兵士たちが、ルゲニアという町から来ていたことがわかった。
そこの領主はまだ若く、一年ほど前に爵位を継いだばかり。しかも、両親も兄弟姉妹も不審死している。
おそらく魔族と一緒になって何か悪事を働いている。火猿は次の標的に決めた。
そして、火猿たちが旅支度を整えるために市場を見ていると、ふと気づいたとき
(なんだ? 何故こんなところにいる?)
何者かに攻撃されている。火猿は警戒して刀を一本作り出す。そこで、不意に現れたワンピース姿の少女に声をかけられた。
「……君たちでしょ。兵士たちを殺しまくって、ボクの邪魔をしたの」
身長は百三十センチくらいで、容姿も声も幼い。ミディアムにした紺色の髪は美しいのだが、寒々しい雪景色を想起させた。
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