第44話 依頼

「強い武器を作ってあげるって約束したでしょ? その約束を果たしに来たんだ」



 ファリスの言葉は、火猿には意外だった。



「わざわざそんなことをしにくるとはな。そもそも、よく俺たちの居場所がわかったな」


「それは、ちょっとあって。後で説明する。それにしても……普通に町中にいるとはね。見た目も少し変わってるし……」


「ああ、こっちにもちょっとあってな」


「そっか。少し、折り入って話がしたい。たぶん、あんたにも有益な話。いいかな?」


「有益な話だって言うなら、聞こう」


「ありがとう」



 誰にも聞かれたくない話だというので、宿を取ってその一室に入った。


 二人部屋で、椅子とベッドを利用して四人が座る。そして、ファリスが口を開く。



「先に話しておくけれど、あたし、実は暗殺者ギルドに所属してるの。ただ、使えるのは呪詛っていう特殊なスキルで、直接的な戦闘はほばできない。色々な方法で暗殺対象に呪いをかけて、遠隔で殺す。……殺さずに済ませることも、一応あるけれど」


「へぇ、一般人ではないと思ったが、暗殺者だったか」


「……うん。褒められた仕事ではないってわかってる。でも、必要とされる仕事ではある」


「需要はあるだろうな。それで、暗殺者が俺に何の用だ?」


「カエンは、悪人の情報が欲しいんでしょ? 暗殺者ギルドには、表に出てこない色んな情報が集まる。その情報、欲しくない?」


「それは欲しい。強い武器よりよほど欲しいな」



 ファリスがニヤリと笑う。



「あたしが情報を集めてあげる。それをどうするかはカエンの自由。殺しにいくのなら、殺せばいい」


「俺に暗殺代行をさせようってか?」


「そういうこと。とはいえ、悪人だからって、必ずしも暗殺対象になっているとは限らないけどね」


「まぁ、そうだろうな」


「それと、もう一つ。十二死星って、聞いたことある?」



 その組織名を聞いて、火猿はベッドに腰掛けるリシャルを見た。



「最近知った。そこのリシャル、十二死星の幹部らしいぞ」


「……は?」



 ファリスがポカンと口を開ける。



「え、待って、どういうこと? 本当なの?」


「さぁな。詳しいことは知らん。リシャルがそう言っているだけだ」


「そもそも、この人は誰なの?」


「俺と同じ魔族だ。魔族を人に化けさせる魔法が使える。そして、色々あって今は俺の従者としてついてきている」


「……何がどうしてそうなったのか気になるけど、それは後回しでいいや。それが本当だとして、もしかして、十二死星って魔族の組織なの?」


「そうらしい」


「……カエンは、人間の悪人を殺したいんだっけ?」


「そうだ」


「参ったな……。あたしはカエンに十二死星の関係者を殺してほしかったのに……。あいつら、裏では結構有名な悪の組織だから……」



 ファリスは溜息をつく。



「十二死星自体は魔族の組織だが、連中は人間をたそそのかして悪事をさせることも多いみたいだ。きっかけは魔族の誘いだったとしても、やってることが悪なら悪人だろ。その悪人を殺すついでに、十二死星の連中を殺してもいい。情報料の対価だ」


「え? で、でも、むしろこれはあたしが対価を払うようなことで……」


「裏社会の情報を得る手段が俺にはない。得られないということは、価値が高いということだ。ついでの魔族退治くらい引き受けてやるさ」


「本当に? いいの?」


「ああ」


「あ、ありがとう……」


「礼はいらん。お互いの利害が一致しただけだ」


「……あんた、本当に変わった魔族ね」



 ファリスが微笑む。普段の険しさが薄れ、年相応の柔らかさが感じられた。


 ここで、リシャルが言う。



「ねぇ、カエン。十二死星と敵対するのも、十二死星を潰すのも、好きにすればいいと思う。ただ、十二死星の関係者には、今のカエンより強い奴もいるわよ? 返り討ちにあう可能性も高いけど、本気で戦うの?」


「その辺は計画的にいこう。十二死星と関わるのはなるべく強くなってから、とかな」


「そ。まぁいいわ。あなたが死ねば私は自由だし、成り行きを見ておくのも面白いわ。それともう一つ言っておくけど、いっそカエンが十二死星を乗っ取っちゃえば? あなたならできるわよ。私を従えているみたいに、他の連中も従えればいい」


「なるほど。それもありだな」



 強くなるために強くなる、という状況だったが、一つの目標として、裏組織を掌握するのも悪くない。


 個人ではなく、組織としての強さも得られる。


 もっとも、その力で何をするかなど、何も案はないのだが。



「せいぜい頑張ってみなさい。どうせ従うなら、私もそれなりの力を持つ相手がいいわ」



 それきり、リシャルは口を閉ざす。



「ティリア。ちっとばかし危険がつきまとう旅になりそうだが、反対するか?」


「しないよ。カエンのやりたいことをすればいい。わたしはそれについて行く」


「そうか。じゃあ、決まりだな。ファリス、これから俺に情報を寄越せ。お前が殺したい相手、俺が殺してやるよ」


「……わかった。できる限り情報を集める。あ、ちなみに、情報を買うためにお金があると助かるんだけど、そっちから出してくれる?」


「いいぞ。まだ十億以上あるから、必要なときに言え」


「十億……。それってダンドンの領主から奪った奴よね? 途中で立ち寄って話は聞いた……」


「ああ、その領主から奪った。ファリスはそれを咎めるか?」


「いいえ。あたしにそんな資格はない。あたしだって、悪人の一人だもの」


「そうか。話が早くていい」



 話はまとまったが、続けてファリスは武器について話をした。


 素材となる武器があれば、そこに呪いの効果を付与して、強力な武器にできるらしい。ただし、使っていると全身に痛みが走るような、使い勝手の悪いもの。


 火猿はそんなものはいらないと断ったが、ティリアが興味を持った。



「呪いでもなんでもいい。わたし、もっと強くなりたいの。何か方法はない? 強烈な痛みが走るとしても、身体能力が上がったりする武器とか、ない?」


「……そういう目的なら、おすすめはしないけど、体に呪いを宿すっていう方法もある。精神的にも身体的にも削られてしまう代わり、能力を飛躍させたり、特殊な攻撃をできるようにしたりできる」


「それ、わたしに使ってほしい。わたし、カエンに追いつきたい」


「どうしてもっていうなら、試してみるのはいい。たぶん、すぐに音を上げるとは思うよ……」



 ファリスは本当に気が進まない様子だったが、結局、試してみることになった。

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