第36話 登録
ダンドンを出て五日。
火猿たちが街道を歩いていると、五百を越えるだろう兵士たちの姿を見かけた。
自分たちを討伐しにきた連中かと疑ったが、火猿たちには全く関心を示さない。近くの森の方へと歩いていく。
「……なんだ、あれ。まさか、また十二死星が関わってるとかじゃないだろうな?」
火猿はリシャルを見る。
「さぁ? 私は十二死星の他の連中が何をしているかなんて知らないわ」
「お前、それでも幹部かよ」
「幹部っていっても、人間みたいに組織をきっちり運営しているわけじゃない。特殊な魔法具を作るとかで必要なときには協力しあうこともあるけど、だいたいは集まっても雑談するだけ。どこそこの町を滅ぼしたのが面白かったとか」
「……本当にろくでもない組織だな」
人間が考えるような組織をイメージしてはいけないのだろう。人間基準で言えば、おそらく組織としては破綻している。
それでも、大義のためでも、金を集めるためでもない組織なので、ふわふわした状態で辛うじて組織の体裁を保っている。
実態はわからないが、おそらくはその程度の組織。
煩わしい何かがあれば、すぐにでも分解してしまう。
リシャルから十二死星についての情報を得るのは難しそうだと、火猿は諦める。
「ティリアは、あいつらが何をしようとしてるか、見当がつくか?」
「うーん……森に魔物が増えすぎたから間引きに来たとか、強力な魔物が出たから討伐に来たとかじゃないかな?」
「魔物の討伐は主に冒険者が請け負ってるんだろ?」
「うん。でも、必ずしも町に強い冒険者がいるとは限らない。大量の魔物とか、強力な魔物が出たときには、軍隊が討伐に当たることもあるよ」
「なるほど。なら、魔物を退治しに来るのかもな」
魔物を討伐するまっとうな兵士なら、火猿が手を出す相手ではない。
そして、魔物を倒してもレベル上げにもならないので、獲物を横取りする理由もない。
それ以上は関心を持たず、火猿たちは街道を進んでいく。
それから一時間ほど歩いて、火猿たちはライカンという町に立ち寄った。
町に入る際、ティリアは身分証を使わなかった。リナリーを名乗る冒険者がダンドンの領主殺害に関わっている、という話くらいは、近隣の町に伝わっているかもしれないからだ。
ティリアはリファという偽名を名乗りつつ、身分証を持たない旅人として町の中へ。青髪の少女ということでやや警戒されていたが、連れがリシャルだったから問題なく通れたようだった。
リシャルはいくつか持っていた身分証の一つですんなり通過。火猿だけは気配遮断のローブで姿を隠して、内部に潜入。
何かトラブルが起きれば逃げるつもりでいたのだが、どうにかスムーズに進んだ。
町の中に入ったら、火猿はローブを脱ぐ。容姿が人間のものになっているため、町の人に騒がれることもない。
それから、盗賊などに関する情報を集めてみようと、一度冒険者ギルドに向かう。
ギルド内にいる半数ぐらいは、素行の悪そうな連中。他で働けない者たちがやる仕事だというのも、火猿は実感。
火猿は、ひとまず冒険者証というものを作ってみることにした。身分証があると何かと便利らしいのと、単純に少し興味があったから。
火猿と一緒に、ティリアも改めて冒険者登録を行うことに。データが一元管理されているわけではないので、同じ人が二つの町で二重に登録することも不可能ではないらしい。バレると罰があるが、トラブルでも起こさない限りバレることはない。
受付で諸々の手続きを済ませ、注意事項も聞いたら、仮登録が完了。
「念のためですが、魔力診断を致します。この水晶に触れてください」
「魔力診断? なんだそれ?」
女性職員が持ってきた水晶玉を見て、火猿は首を傾げる。
「人間と魔族を見分けるための魔法具です。魔族がこれに触れると色が黒く濁ります」
「ほぅ、便利なもんだ」
便利なものだが、状況は良くない。
(俺が魔族だとバレるか? そうなると厄介だな……)
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