第33話 素質
* * *
名前:鬼月火猿
種族:魔族・紅の鬼人
性別:男
年齢:2ヶ月
レベル:1
戦闘力:52,800
魔力量:36,400
スキル:怪力 Lv.3、威圧 Lv.3、破壊の一撃 Lv.2、加速 Lv.3、気配察知 Lv.3
特殊スキル:鬼術 Lv.3、武器創造 Lv.2
装備:疾風の腕輪、怪力の指輪
称号:無慈悲、非道、殺人鬼、盗賊狩り、王の素質を持つ者
火猿は進化を経て、再び万全の肉体を取り戻した。失われた左目も元に戻っている。
体がまた少し大きくなり、身長は百六十センチ程度になった。黒剣の獣人少女から奪った装備はサイズが合わなくなったので脱ぎ捨て、ただの服だけ着ている。後で装備は見繕う予定。
火猿が気になったのは、王の素質を持つ者という称号。
魔族の王になる素質があるということで、倒した魔族を従者として従えることができるようになった。また、同じく素質を持つ者を十人倒すと、今度は魔族の王という称号に変わる。そうなると、今度は無条件に普通の魔族を従えることができる。
ただし、王の素質を持つ者とその従者は別。倒さなければ従者にできない。
ちなみに、現在、魔族の王はいないらしい。
火猿としては、魔族の王となることにあまり興味はない。強くなることは考えているが、軍隊を編成して世界を制したいわけでもない。
ただ、同じく素質を持つ者から狙われる可能性も出てきた。それは迷惑な話なので、火猿としては魔族になるべく遭遇したくない。
「心配かけたな、ティリア。次は屋敷内にある金目のものでも奪って、さっさと出立するか」
「……ん」
ステータスの確認、ティリアとのちょっとした情報共有なども終わり、火猿はティリアの手を引いて部屋を出ようとする。
そこで、死んでいるはずのリシャルの体がピクリと動いた。
「……なんだ? 死んでなかったのか?」
魔族の生命力の高さは実感していた。体が半分以下になっても頭部が破壊されていなければ死なない、と言われても、火猿は信じる。
火猿は槍を作り、リシャルの頭を貫こうとする。
「待って。もう戦うつもりはない」
リシャルの顔が動き、火猿を睨む。敵意があるというより、酷く不満そうだ。
「……死んだフリをしておけば俺は勝手にいなくなっていた。あえて声をかけたってことは、俺に何か用か?」
「あなた、進化して魔族の王の素質を持ったでしょ」
「ああ、そうらしい」
「だったら、私も連れていきなさい。それが素質を持つ者の責任でしょ」
「……なんだそれ? そういうもんなのか? というか、やはりお前は魔族でいいんだな?」
「私は魔族よ。にしても、あなた、何も知らないのね。その強さで、まだ生まれてさほど時間も経っていないの?」
「そうだな。他の魔族に会ったのもお前が初めてだ。魔族の事情は全く知らない」
「そう……。強いだけのお子様が私の主になるだなんて、酷い話だわ……」
「俺からすれば、いきなり俺の従者になろとする奴がいても迷惑な話だ」
「うるさい。もう、これだからお子様は!」
リシャルは片腕を使って地面を這い、体の片割れの側に行く。それから切断面をくっつけて、何かの魔法を使い始める。切断面の損傷は激しかったが、次第に回復していった。
「へぇ、その傷でも治るのか。魔族の生命力は異常だな」
「誰でもできるわけじゃないわ。私が回復魔法も得意だから、簡単には死なないってだけ。普通の魔族ならこの傷で死んでる」
回復したリシャルが立ち上がる。服はボロボロだったが、室内にあった領主用と思しきコートを奪って肌を隠す。
「もう人間のフリをしておく必要もないわね」
リシャルの肌が薄紫色に変わる。そして、側頭部から山羊のような角が生えた。
「姿を変えられるのか?」
「姿を変えるというか、人間に化ける魔法ね。そういうのも得意なの」
「ふぅん……なかなか使い勝手が良さそうだ。他には何ができる?」
「一番得意なのは風魔法。次に魔族だけを回復する回復魔法。魔族の姿を人間に変える魔法も使える。他の属性の魔法も使えるけど、風魔法に比べればお遊び程度」
「そうか。ふむ……なかなか有用だな」
回復も助かるし、人間に化けられるようになれば、気軽に町に入れる。人間のフリをして情報を集めることも可能。
火猿としては、リシャルを連れて行くのは悪くないと思えた。
「……カエン、こいつ、連れてくの? さっきまで敵だったのに?」
「俺の称号については話しただろ。敵だったが、たぶんもう俺の言いなりになっているはずだ。危険はないだろう」
「本当に大丈夫?」
「実際にどうかはわからんな。おい、リシャル、ひれ伏せ」
リシャルが悔しそうな顔をして、土下座のようなポーズをとる。
感情までは制御できないが、行動は支配できるようだ。
「俺がお前に勝ったから、お前は俺に逆らえない、ということか?」
「そうよ。忌々しいことにね」
「俺がお前を置いていくと言ったらどうなる?」
「……私は死ぬ」
「自害するということか?」
「ええ、そうよ。必要とされない従者は、自ら命を断つ」
「ふぅん。お前は俺に逆らえない?」
「ええ」
「ティリアには手を出すな、と言えば、そうなるんだな?」
「ええ」
「それが真実かどうか、証明する術はあるか?」
「証明はできない。でも、あなたならわかるはず。私はもう、あなたのモノ」
「そうだな……なんとなくは、わかる」
火猿にはそれが直感的にわかる。称号の効果だろう。
「ティリア。こいつは安全だ。使い道もありそうだし、連れて行こう」
「むぅ……」
ティリアはなおも不満そう。
「何か心配か?」
「……こいつがいると、わたしの存在価値がなくなる気がする」
「ティリアにはティリアの価値がある」
「例えば?」
「俺はリシャルを便利な道具としか見ていない。ティリアは対等に付き合える人間だ」
「……他には?」
「生活魔法は意外と便利だな」
「……戦いでは役に立てない」
「それは仕方ない。気にするな」
「うん……」
「俺だっていつもいつも戦ってるわけじゃない。戦っていない時間の方が長い。戦い以外で協力しあえるなら十分。お前が戦えないことは、大した問題じゃない」
「……ん。わかった」
ティリアはなおも思案顔だが、ひとまず頷いた。
「リシャル。もうその姿勢はいい。金目のものがどこにあるか知ってたら案内しろ」
「……場所はわかる。けど、その前に、あなたには一つやることがある」
「やること? なんだ?」
リシャルは顔を上げ、骨になった領主を見て唇を歪める。
「ジドは燃え尽きたわね。なら、あれが暴走するわ。まぁ、安心しなさい。今のあなたにとっては大した敵じゃないでしょう」
直後、屋敷全体を揺るがす咆哮が響き渡った。
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