第28話 ダンドン

 * * *


 名前:鬼月火猿

 種族:魔族・赤の鬼人

 性別:男

 年齢:2ヶ月

 レベル:41

 戦闘力:40,800

 魔力量:25,500

 スキル:怪力 Lv.2、威圧 Lv.2、破壊の一撃 Lv.1、加速 Lv.2、気配察知 Lv.2

 特殊スキル:鬼術 Lv.2、武器創造 Lv.1

 装備:魔鋼の鎧、魔鋼の靴、魔鋼の籠手、魔鋼の鉢金、疾風の腕輪、怪力の指輪

 称号:無慈悲、非道、殺人鬼、盗賊狩り



 レベルが五十に上がれば、また進化でもするのではないか。


 火猿はそう感じているが、実際のところはわからない。


 少なくとも既にBランクの力を有しているので、人類からすると相当な脅威になっているはず。


 そもそもどこまで強くなるのか不明で、もはや人類には到達できない高みにもあっさり到達してしまうかもしれない。


 そのときにどうするかは考えていない。カンストのような概念があるのなら、そこまで突き詰めてみようと思っている。


 さておき。


 レンギフを離れてから十日。


 火猿たちは、ダンドンに到着。まだ数キロ離れているが、外壁が見えている。



「問題は、リナリーの冒険者証を使えるかどうかだな」


「うん……。ダメだったらどうしよう?」


「そのときは逃げるだけだ。どうしてもダンドンに行かなきゃいけないわけでもない」


「ちゃんとわたしも連れて逃げてよ?」


「ティリアが無様に衛兵に捕まる姿を眺めるのも悪くないな」


「酷い! カエン、性格悪いよ!」


「性格の良い人殺しなんているわけないだろ」


「そうだけど! そういう問題じゃなくて!」


「安心しろ。捕まっても後で助けてやる。拷問だか処刑だかされるギリギリ手前で」


「カエン! そういうの、冗談にならないからね!」



 ティリアは少々ご立腹で、火猿をバシバシと叩く。火猿は既に気配遮断のローブを着ているのだが、隣を歩いているのはわかっているため、手を振れば火猿に当たる。


 軽くじゃれ合いながら進み、昼前に火猿たちはダンドンに到着。町は広い方らしいが、この辺りは魔物も少ないからか、外壁の高さは低め。火猿なら軽く飛び越えられる。


 町に入るのに順番待ちなどはなく、ティリアはリナリーの冒険者証を門番に見せる。何も問題なければ、軽い確認だけで門を通れるのだが……。



「おい、待て」



 槍を持つ門番に呼び止められる。リナリーという人物はダンドンでそれなりに有名だっただろうか。


 相手の反応次第ではティリアを担いで逃げよう。警戒して、火猿は構える。



「お前、余所の町の冒険者だな? ここは冒険者でも通行料がかかるんだ。三万ゴルド払え」


「さ、三万ゴルド、ですか? 冒険者証があるのに?」



 冒険者証があれば、通常は通行料が無料。本人が負担するのではなく、冒険者ギルド側が一定の料金を支払う仕組みになっているらしい。


 冒険者証を見せなかったとしても、相場は五千ゴルドで、高くても一万ゴルド。


 この門番は、法外な金額をふっかけてきている。



「嫌なら帰れ。ただし、それで門番の手を煩わせた手数料で、一万ゴルドいただくがな」



 門番は、顔の見える鎧を着ている。その口元は下品に歪み、目には嘲りの色。



「通らなくてもそんなお金を取るなんて……」


「金を払えないなら、体で払ってもらうことになるなぁ」



 門番はさらに笑みを深める。



(……悪徳領主がいる町には、ゲスな門番がいるってことか。安っぽい悪人だ)



 火猿としては殺してしまっても構わないのだが、町に入る前から騒ぎを起こすのは問題がある。カエンは手を出さず、ティリアの対応を待つ。



「……お金は、あります。どうしてもというなら払います」



 ティリアは鞄から小さめの革袋を取り出し、銀貨を渡す。


 兵士はにやりと笑い、それを受け取った。


 ティリアは溜息をつきつつ、門を通り抜ける。



「……あいつの話、絶対嘘だよね? 嫌な門番」


「ここはそういう町なんだろ。わかりやすく腐敗してる。ま、ここを出るときに取り返せばいい」


「そうだね」



 二人でひそひそと会話して、ティリアがクスリと悪い笑みを浮かべた。


 町の中は、どうにも活気がなかった。門番があの状況なので、どうせ町の状態も悪いだろうと火猿は予想したが、その通りだった。


 通りを行く人の顔は暗く沈んでいて、元気そうなのは見回りをしている兵士たちばかり。



(違法に女を買う悪徳領主、か。ろくに市民のことを考えていないんだろう。俺からすると殺しやすくて助かる)



「とりあえず、宿を探すね」


「ああ」



 ティリアは町の人に安い宿を尋ね、その場所に行ってみる。


 特に綺麗でもない安い宿のはずなのだが、一泊で五万ゴルドらしい。



「……他の町の十倍くらいしますけど、この町ではそれが普通なんですか?」



 ティリアの問いに、受付の青年が申し訳なさそうに頷いた。



「ごめんね。三年くらい前には適正な価格で商売をしていたんだけど、今は領主が変わって、特に旅人には多額の金銭を要求するようになってしまったんだ……。それ以外にも色々と大変で……」


「そうなんですか……。町を出ようとは思わないんですか?」


「出られないんだ。領主が市民の出入りを制限している」


「なるほど……」


「昔はもっと活気のある町だったんだけどね……。旅の人にも、こんな寂れた町を見せるのは心苦しいよ……」


「領主様が悪いんでしょうか?」


「……これ以上のことは言えないかな。君も、町中で余計なことを口走らないようにね。侮辱罪だかで捕まるかもしれない」


「わかりました。気をつけます」


「うん」



 ティリアは部屋の鍵をもらい、二階の一室へ。一人用の部屋で少し狭いが、野宿を続けてきた身からすると良い環境だ。



「……カエン、いるよね?」


「いるぞ」



 誰も見ていないので、火猿は一度ローブを脱ぐ。ティリアはにんまりと微笑んだ。



「もしかして、カエンが領主を殺すと、カエンはこの町の英雄になっちゃう?」



 ティリアの目がキラリと光る。



「……英雄は言い過ぎだろ。俺はただの人殺しで、悪党だ」


「それでも英雄になっちゃうんだよ。なんか、いいね! ダークヒーローだ!」


「やめろ。俺はヒーローなんざごめんだ。結果的に勝手に救われる奴がいるのは構わんが、俺に何かの正義を期待されるのはうっとうしい」


「ま、それもそうだね。カエンはただ気ままに人を殺すだけの悪党だ」


「そういうことだ」


「ん。それで、これからどうする? すぐに殺しちゃう?」


「殺したら町は混乱する。その前に食料調達やらを済ませておこう。準備が終わったらサクッと殺して町を出よう」


「食料調達は大事だけど、ここで買うと高くつきそうだなぁ……」


「心配するな。領主を殺して、領主がため込んでるだろう金をいただく。問題ない」


「なるほどね! じゃあ、問題ない!」



 悪い相談も終えて、ティリアは良い笑顔を浮かべる。


 とても悪事を働く者の笑みとは思えず、火猿は苦笑した。

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