第21話 戦利品

 名前:鬼月火猿

 種族:魔族・赤の鬼人

 性別:男

 年齢:2ヶ月

 レベル:20

 戦闘力:28,500

 魔力量:19,700

 スキル:怪力 Lv.2、威圧 Lv.2、破壊の一撃 Lv.1、加速 Lv.2、気配察知 Lv.2

 特殊スキル:鬼術 Lv.2、武器創造 Lv.1

 装備:魔鋼の鎧、魔鋼の靴、魔鋼の籠手、魔鋼の鉢金はちがね、疾風の腕輪、怪力の指輪

 称号:無慈悲、非道、殺人鬼、盗賊狩り



(盗賊十五人で、レベルが六上がったな。魔物を殺しまくってもろくにレベルが上がらないのに、随分とあっさり上がるもんだ。俺にとっては人間がメタルなスライムか)



 盗賊を殲滅した後、火猿は一度洞窟の外に出て、ティリアを招く。



「終わったぞ。もう敵はいない」



 ティリアが駆け寄ってきて、火猿の状態を確認。



「怪我はない? 大丈夫?」


「俺は大丈夫だ。怪我も何もない。敵が弱かった」


「そっか。良かった。やっぱり火猿は強いね。この盗賊たち、そんなに弱い雰囲気じゃなかったのに、火猿なら圧勝だ」


「こいつら、弱い部類じゃないのか?」


「一般的なレベルの盗賊だと思うよ。その辺の冒険者が遭遇してたら危なかった」


「そうか。まぁ、今の俺の敵じゃないな」


「だね」


「中に盗品が転がってる。使えそうなものは持ってくぞ」


「うん。わかった」



 火猿とティリアは一緒に洞窟内へ。中には魔法具の明かりが灯っていて、視界は確保できる。死体が転がっているし、血の匂いが漂っているが、ティリアは平気そうだ。



「お前、こういうのを見ても何とも思わなくなったな」


「ああ、うん。死んでる人は襲ってこないし、怖くはないかな」


「その発想もどうかと思うがな」



 火猿は苦笑しつつ、盗品が集められている一角を物色。


 装備品については特に有用そうなものはない。回復ポーションなどのアイテム、貴金属、お金は回収。



「なぁ、この金、いくらくらいあるんだ?」


「んー、五百万ゴルドくらいはあるかな」



 ティリアは銀貨を手にしながらも、あまり興味がなさそうに答えた。



「物の相場がわからん。どれくらいの価値だ?」


「んー、大人が二年くらい働いて得るお金、かな? 物価の話をするなら、一般的な一日の食費は千ゴルドから千五百ゴルド。一人暮らしの借家の家賃は、月に三万ゴルドから四万ゴルド。ロングソード一本で三十万ゴルドくらい」


「そうか。なんとなくイメージは沸いた」



 日本円の感覚とそう大きくは変わらないらしい。


 金貨、銀貨、銅貨の入った革袋は、ティリアの運ぶ鞄に入れる。



「わたしが全部持っててもいいの?」


「俺が持っても仕方ないだろ。人間の町に入ることもできない」


「それもそっか。……やったね。持ち逃げして大金ゲット!」


「一人で生きていく自信があるならそうするといい」


「嘘嘘。この金額持ってたって一生安泰ってわけでもない。わたしはカエンと一緒にいる」


「そうか。……ん? なんだ、このローブ。ただのローブじゃないな」



 魔力が宿っている気配を感じる。


 火猿はローブを手にしたままステータスを確認。



「……気配遮断のローブ?」



 文字通りの意味であるならば、気配を隠すためのローブだろうか。


 火猿はそのローブを羽織ってみる。



「わ、カエンが消えちゃった! それ、すごいローブだよ!」


「へぇ……。姿を隠せるアイテムか。ティリア、俺の声は聞こえるか?」


「うん。聞こえる。声が聞こえる方向もなんとなくわかる。でも、カエンの存在を上手く認識できない。わたしにはカエンが消えたように感じるよ」


「となると、これを使えば町に入ることも可能だな。もう一枚ないか?」



 火猿はローブを脱ぐ。二人でもう一枚探してみるが、残念ながらなかった。



「そのローブ、たぶんかなり貴重な品だと思う。ただの盗賊が一枚持ってるだけでも珍しいんじゃないかな」


「そうか……。二枚あればティリアも気軽に町に入れるんだが……」



 ティリアは人間なので、町に入ろうと思えば入れる。しかし、ティリアという少女が魔族に協力していて、共に消息を絶っているという情報くらいは、冒険者ギルド間で共有されているはず。黒剣の弓使いも逃亡している。


 その場合、ティリアが自身の冒険者証を使って町に入ろうとすると、犯罪者として捕まる可能性がある。


 冒険者証を使わずに町に入ることも、不可能ではない。その場合、通行料が高く、町によっては細かく素性を尋ねられる。口頭質問だけのこともあるが、魔法具を使って真偽を確認される場合もあるらしい。


 身分証なしで町に入れるかもしれないとしても、用心のため、ティリアにも気軽に町に入る手段が欲しいところだった。


 カエンは何かないかと探していると、先にティリアが金属のプレートを拾い上げる。



「あ、これ、冒険者証だ。リナリーだって。生まれの年からすると、今は十五歳。出身地はテルペン。あんまり良い想像はできないけど、この盗賊たちが殺したか、誘拐して売り払った子かな……」


「……ティリア、その冒険者証で、町に入ることはできるか?」


「できるんじゃないかな。まだE級だし、名前も知られてないはず。この付近の町だともしかしたら知り合いがいるかもしれないから、離れた町がいいと思う」


「そうだな。しかし、その冒険者証は使えそうだ。死亡者扱いとかされてる可能性もあるが……」


「これ、一応持っておくね」



 他に、食料だけはもらったが、それ以外で使えそうなものはなかった。気配遮断のローブを見つけただけでも上等だった。



「戦利品はこんなもんだな。ティリアも、もういいか?」


「うん」


「妖魔の森ももう抜ける。どこかの町に行こう」


「町に入って、どうする?」


「盗賊や犯罪者について情報が欲しい」


「それを調べて、殺す?」


「そういうことだ。俺のレベル上げのため、糧になってもらう」


「わぁ、カエン、悪い顔してるぅ」


「俺は無闇に人を殺そうとは思わん。しかし、悪人なら殺したって構わんだろ」


「まぁ、そうだね。悪人、たくさん狩っちゃおう」



 ティリアは無邪気に微笑んでいる。悪人相手であっても、殺人の話でそんな笑みを浮かべられるのが、ティリアの抱える闇。


 火猿は、それを心地良く感じる。



「行くぞ、ティリア」


「うん!」


「ああ、一応、死体は焼いて埋めておいてやるか」



 火猿は火の鬼術で死体を焼いていく。最後に骨と衣服だけが残るという奇妙な死体ができあがり、穴を作ってそれを埋めた。


 森を進み始めると、ティリアが腕を組んでこようとする。とっさの動きに支障が出るので、火猿は払いのけた。ティリアがむくれるのは無視した。

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