第18話 埋葬

 火猿は黒剣の三人の死体を漁り、まずは使えそうな装備を奪った。



 装備:魔鋼の鎧、魔鋼の靴、魔鋼の籠手、魔鋼の鉢金はちがね、疾風の腕輪、怪力の指輪



 装備品のほとんどは獣人がつけていたもの。火猿でも使えるサイズだったのは幸いで、軽量で動きやすいのも、火猿は気に入った。


 また、魔法使いが身につけていた紫狐しこのローブと帽子は、ティリアが使うことになった。本来は魔法使い用ではあるのだが、ティリアが使っていた革の鎧よりは防御力が高い。


 他にも、火猿は利用できそうなアイテムも貰い受けた。


 魔法の地図、魔法の敷物、魔法の掛け布団、回復ポーション、魔力回復ポーションなどだ。


 魔法の地図については、周辺十キロくらいの地形と自分の居場所がわかるという優れもの。スマホのない世界では、大変重宝することだろう。



「うーん、流石Cランク冒険者たち……。良いもの持ってるなぁ……」



 ティリアが魔法の敷物の上に寝そべりながら呟いた。


 その敷物は大きさをある程度自由に変えられて、かつ、非常にふかふかである。


 いつも野宿で堅い地面に寝ている身からすると、非常にありがたい逸品。



「……あまり気を抜くな。いつ魔物が襲ってくるかわからない」


「そのときはカエンが助けてくれるもん」


「俺は護衛でも騎士でもないぞ」


「わたしにとってはそうだもん。カエンがいれば、わたしは安心なの」


「買いかぶりすぎだ」



 何が嬉しいのか、ティリアは火猿を見上げながらニヘヘと笑う。


 無邪気で可愛らしい女の子の振る舞いだが、すぐ近くにはまだ三人分の死体が転がっている。この状況で緩い雰囲気になれるのだから、ティリアの精神は一般的とは言い難い。



「……あいつら、埋めてやるか。とりあえず、焼こう」



 火猿は三人の死体に火の鬼術を使う。


 火猿の手から放たれた拳大の炎は、人の体に触れると素早く燃え広がっていく。



「うぇ……」



 ティリアが鼻を押さえて、燃える死体から離れる。



「……二回目だけど、人間が焼ける匂いってやっぱり気持ち悪い……」


「そうか? まぁ、臭いのは確かだが、そこまで気にならないな」


「カエンは魔族だから……。わたしにはきついや……」


「そうか……。悪い」



 十分ほどで、死体は完全に骨になった。壱のときはもう少し焼死体の雰囲気が残っていたが、弐となって威力が上がっているらしい。


 次に、火猿は大鎚を作りだし、破壊の一撃で地面を穴を開けた。そこに三人分の骨を放り込む。



「カエンが埋葬なんて珍しいね。いつも死体は放置なのに」


「……まぁ、そういう気分のときもある」


「ふぅん? どうして? 魔法使いと獣人の子が可愛いから?」


「はぁ? なんでそんな話になる?」


「……なんとなく。カエンが他の女の子に興味持っちゃうの、やだなー……」


「ふぅん……」


「興味なさそうな反応! 魔族だって人間と似た見た目してるんだし、人間の女の子に興味持っても良いと思うな!」


「逆に、ティリアは俺に興味があるのか?

魔族だぞ?」


「わたしにとっては、少し見た目が違うだけの男の子だよ。興味は普通にあるよ」



 その興味は、異性に対するものらしい。火猿は元人間なので、それくらいわかる。


 ただ、相手は中学生くらいの子供。精神年齢二十歳の身からすると、恋愛対象として考えられる相手ではない。



「……ま、そういう話は大人になってからだな」


「カエンの方が小さいくせに、大人ぶっちゃって!」


「俺は生意気なガキなんだ」


「ふん。もういい。……っていうか、やっぱり不思議だなぁ。どうしてカエンが急に埋葬なんてしてるんだろう?」


「さぁな」



 返事は濁したが、そういう気分になった原因を、実のところ火猿は概ね理解している。


 ティリアと過ごす未来を少しだけ思い描いてしまったから、最低限、人間に寄り添うような行いをしても良いと思ったのだ。


 魔族が悪だとしても、悪だって死者の埋葬くらいはするものだろう。


 悪とクズはまた別、と火猿は思っている。



(……まぁ、ちょっとした気の迷いかもな。平穏なときくらい、気の迷いも悪くはない)



 埋葬が終わり、火猿は墓の上に剣士の折れた剣を立てる。


 死者の冥福は祈らない。そこまでの思い入れはない。



「……終わった。ティリア、行くぞ。荷物をまとめてくれ」


「うん」



 ティリアは、魔法の敷物を小さくして鞄に収納。


 火猿が歩き出したら、ティリアが腕を組んできた。



「なんだ」


「む。せっかく女の子が密着してるのに、なんだ、はないでしょ?」


「何を企んでいる?」


「何も企んでない! わたしをなんだと思ってるわけ!?」


「魔族の手先」


「合ってるけどそうじゃない! わたしはただ、カエンに近づきたいだけ!」


「急に魔物が現れたときに危険だ。離れろ」


「冷たすぎ! バカ!」


「状況を考えずにまとわりつく方がバカだ」


「……いつか刺す」


「ティリアの場合冗談にならないからやめてくれ」



 まだまとわりつこうとするティリアを、火猿は軽く押して引き離す。


 ティリアは不満顔で離れるが、手は繋いだまま。


 火猿はそれも引き離そうとするのだが、ティリアは意地でも離さない。


 火猿は面倒くさくなり、ティリアの好きにさせることにした。



「わたしの勝ちっ」



 何が勝ちなのか火猿にはわからないが、嬉しそうに微笑んでいるので放っておいた。



(黒剣は倒したが、まだまだ力は足りない。人間を殺すのが手っ取り早いな。人里に近づいてあえてこっちを襲わせるのも悪くないか。いや、そんな性格の悪いやり方より、盗賊を狩るとかがいいか。そういう連中を探してみよう)



 火猿はティリアと共に、さらに東へ向かう。


 未来がどうなるかはまだまだ未知数だが、少なくとも暗い予感ばかりではなかった。

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