第11話 悪

 場所を変え、火猿でも容易に倒せる魔物しか出現しない場所で、火猿たちは一息つく。



「Dランクの魔物がいる場所にはおいそれと侵入できないな……。早く遠くに行きたかったが、そう簡単にはいかなさそうだ」


「そうですね……。先ほどの戦いを見るに、カエンさんがオーク程度に負けることはないでしょうが、単独では苦戦する場面もありそうです」


「Dランクでも、あいつらは一撃の破壊力と防御力が高いって感じだった。俺も腕力はある方だが、まだ足りない。この先、オークより硬い奴なんていくらでもいるだろうからな……。地道に力を付けるしかないか……」



 じっくり時間がとれるのなら、地道に強くなる方針で構わない。いきなり最強になるなんて望まない。


 今は時間がないかもしれないので、火猿は焦ってしまう。



(人間の村でも襲えば、手っ取り早く強くなれるか……? いや、流石に戦闘員でもない奴を殺すのは忍びないな……)



 最良の行動を考えつつ、火猿は現時点でのステータスを確認。



 名前:鬼月火猿

 種族:魔族・鬼人

 性別:男

 年齢:0ヶ月

 レベル:27

 戦闘力:12,750

 魔力量:7,830

 スキル:怪力 Lv.2、威圧 Lv.2、武器防具破壊 Lv.1、身体破壊 Lv.1

 特殊スキル:鬼術 Lv.1

 装備:ロングソード、革の鎧

 称号:無慈悲、非道



(……身体破壊が増えたのはいいとして、非道ってなんだよ)



 非道:死体を破壊する際、戦闘力にプラス補正



(……いらねぇ。俺がオークの首を落とすのにこだわったから、こんな称号がついたのか? 誰が決めてんだよ、これ……)



「どうしました?」


「……なんでもない。それより、ティリアはここが森のどの辺りかわかるか?」


「うーん……そういうスキルはないので、どの辺りっていうのはわかりません。太陽の動きからして東に向かってるなって言うだけです」


「ずっと東に向かうと何がある?」


「特に障害もなければ、二十日ほどで森は途切れます。森を抜けたら平原があって、そこかしこに町があります」


「なかなか広い森だ……。黒剣はどこまで追ってくるか……」


「流石に、見つかるまで何ヶ月でも探すということはないと思います。魔族は世界中にいて、町の近くから追い払えたなら、延々と追いかけることはしません」


「そうか。まぁ、そんなに暇なわけはあるまい。となると、黒剣に見つからないように注意しつつ、魔物を倒してレベルを上げる……くらいしかできないな」


「ですね……」



 火猿は眉間にしわを寄せるが、ティリアも何故か渋い顔をしている。



「なんでティリアまで悩ましそうにしているんだ。ティリアからすれば、黒剣に見つかったところで問題ないだろ? 無事に保護されてフォルスに帰れるってだけだ」


「む……。カエンさんこそ、何を言ってるんですか? カエンさんは魔族ですけど、ただの悪じゃないって、わたしはもう知ってます」



 ティリアが火猿を軽く睨む。



「あ、ああ……」


「正直……人の町にいるときより、カエンさんといる方が落ち着けるとも思ってます。わたしのこと、バカにしたり蔑んだりしませんし……。レベル上げも手伝ってくれます。カエンさんが討伐されたら嫌だなって、普通に思いますよ」


「そうか……。しかし、俺が人間を殺すところも見てるくせに、よくそんなことを言えるな……」


「あなたが人を殺すところを見ました。でも、わたしを守ってくれるところも見ています。人殺しが全て悪なら、冒険者だってだいたい悪です。盗賊討伐の依頼とかで、人を殺すことはあるんですから」


「……そうだな」



(日本とこっちでは、人殺しのイメージもだいぶ違いそうだ。日本だと、犯罪者相手だろうが、殺人は悪だからな……)



「わたし、カエンさんに死んでほしくないです」


「俺だって死ぬつもりはない」


「頑張って生き残りましょう! わたしができることはあまりないですけど……」


「気にするな。特に期待はしていない」


「あ、酷いです! 男の子は女の子に傷つくことを言っちゃいけないんです!」


「またそれか……」



 火猿が呆れると、ティリアがまた何かを言い募る。火猿は適当に聞き流した。



(こいつ、年相応に情けないところもたくさんあるが、ただのガキってわけでもないな。日本よりもシビアな世界で生きてきたのがわかる)



 ティリアが落ち着いたところで、火猿は再びオークのいる方へ向かうことにする。



「もう行くぞ」


「む。わたしの話なんてどうでもいい、みたいな顔して! 女の子にもてませんよ!?」


「どんな態度だって、魔族の俺が人間の女にもてるわけもない。どうでもいい」


「もう……」



 ティリアが不満顔でついてくる。


 火猿は過剰にティリアに構うことなく、黙々と進み続けた。

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