第10話 オーク

 ティリアと出会った翌日。


 歩き回っていたら、火猿は今までと少し違う魔物と遭遇した。


 豚のような顔で、体は筋肉質な人間。身長は百六十センチ程度。肌は緑で、その手には身長大の戦斧。



「……あれは、オークか?」



 木陰に隠れつつ、火猿はティリアに尋ねた。



「オークですね。Dランクの魔物です」


「Dなら、まだ俺よりは弱いな」


「はい。でも、Dランクの中では上位です。気をつけてください」


「……そうか。今までのように圧勝とはいかないかもしれないが、これくらいは倒せないとな」



 黒剣が迫っているかどうかはわからない。しかし、黒剣に限らず、人間には基本的に追われる身。まずは可能な限り強くなる必要がある。



「相手は一匹か。都合がいい。ティリアはちょっと隠れてろ」


「はい。カエンさんも気をつけてください」


「ああ」



 火猿はロングソードを一本持ち、下段に構えつつオークに接近。十メートルほどあった距離を一気に詰める。


 なるべく足音を消していたが、特別な技術もスキルもない。オークが火猿の接近に気づき、戦斧を振り上げる。



(いかにも破壊力がありそうな武器。剣で受け止めるには厳しかろうな)



 火猿は真っ直ぐ突っ込むふりをする。オークがタイミングを合わせて戦斧を振り下ろすが、火猿の思惑通りの動き。火猿は右に逸れて戦斧を避けつつ、剣をオークの腹に滑らせる。


 オークの腹を半ばまで裂くつもりだったのだが、以外と皮膚が硬く、想定より傷は浅かった。



(ちっ。強い魔物になると、見た目通りの防御力ってわけでもないんだな)



 オークは重そうな戦斧を小枝のように振り回す。横薙の一撃を、火猿は身を屈めてかわす。


 火猿はオークに向かって踏み込みつつ剣を突き出す。怪力スキルを駆使した全力の突きだったのだが、切っ先がオークの腹で埋まる程度にしかならなかった。



(硬い。地道に削っていくしかないか。あるいは、急所を狙うか)



 表面だけでも切り裂けるなら、首筋を狙うのが良いだろうか。


 火猿はオークが振り回す戦斧を再度かわし、首筋に向けて刺突。刃がオークの首筋を深く切り裂き、血が飛び散る。



(首の皮膚は腹より柔いな。これで殺せたか?)



 オークは左手で首を押さえつつ、右手で戦斧を振り回す。


 勢いの減じた攻撃で、火猿は余裕で対応。回避するだけではなく、オークの手首を切る。切断には至らないが、戦斧を動かすのに支障が出るだろう傷にはなった。



(放っておけば死にそうだが、再生能力でも持っていたら厄介だ。とどめを刺そう。とはいえ……削っていくしかないか)



 火猿は、鈍ったオークの首を狙い続ける。首を跳ねることはできなかったが、やがてオークは膝をつき、そのまま倒れた。出血多量で動けなくなったらしい。



「とどめを刺したいところだな……」



 火猿は、うつ伏せで倒れたオークの首に、剣を突き刺す。相変わらず体は硬く、切っ先しか刺さらない。



「ちっ。武器防具破壊ってスキルはあるのに、魔物の体は貫けないのか……。変な仕組みだな」



 同じ箇所を何度も執拗に突き刺していくと、やがて剣が少しずつ深く刺さっていく。何度目かわからなくなるほど突き刺して、ようやくオークの首を切断できた。



「はぁ……。Dランクでも、なかなか苦戦させられるもんだ……。こいつは防御力が高い部類だったのかもな……」



 戦闘は終了……と言いたいところだったのだが。



「カエンさん、向こうにもいます」



 近づいてきたティリアが、小声で火猿に告げた。



「ちっ。オークの仲間か……」



 まだ距離は数十メートルあるが、オークを二匹発見。二匹を同時に相手にするのは厳しいと、火猿は一時撤退を決める。



「ティリア、一旦隠れるぞ」


「はい」



 まだオークは火猿に気づいていないらしい。火猿はティリアの手を引き、その場から離れた。

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