第6話 拾う
矢は狙ったコースを逸れて飛び……槍使いの喉を貫く。
(おっと、脇腹を狙ったつもりが、運良く喉に行ったな。これは致命傷だろ)
槍使いが倒れ、剣士二人が周囲を警戒し始める。
「敵だ! あそこにいる! ん? あれ、魔族か……?」
「どうでもいい! ぶっ殺してやる!」
(もう一発……)
火猿はもう一度矢をつがえ、放つ。大柄でリーダー格らしき男を狙ったのだが、残念ながらかすりもしなかった。
(ちっ。しっかり狙いを付ける余裕がなきゃ、まともに当たりゃしねぇ)
火猿は弓を置き、右手に剣、左手に棍棒を持ち、剣を構える男たちの方に駆ける。
「おおおおおおおおおおおおおお!」
怪力スキルで走る速度を上げ、十メートルの距離を即座に縮める。
「速い!?」
「なんだこいつ!」
火猿はまず、左の棍棒を大柄な方の剣に叩きつける。武器防具破壊の効果が滞りなく発揮され、剣が砕けた。
「何!? 剣が!?」
動揺している隙をつき、右の剣を男の心臓に向かって一突き。武器防具破壊の効果も相まって、剣は金属製の鎧を貫通、胸の中心辺りに深々と突き刺さった。
「がはっ……。そんな……バカな……」
「次」
崩れ落ちる男から、火猿は剣を引き抜く。
仲間がやられて動揺している最後の一人に、火猿は接近。
「ひぃっ」
(武器を破壊するまでもない)
火猿は棍棒で男の右手を狙う。メキリと嫌な音を立てて男の手がひしゃげ、剣が落ちた。
「うああああああああああああああ! 手があああああああああああ!」
「手よりも命の心配をしろ」
火猿は右の剣で男の首を一突き。男の首が落ちる。傷口から吹き出す生温かい血液が、火猿の体を濡らした。
「……呆気ない」
この冒険者三人が弱かったのか、自分が想像以上に強いのか、まだ答えは見えない。
「あ……ああ……」
一人残った青髪の少女は、腰を抜かしてその場に座り込んでしまう。
「……やめて……来ないで……っ」
「ふん。別に殺しはしないさ」
この少女に戦う意志はないだろうと、火猿は死体を物色する。
(剣はこっちの奴の方が上等だな。棍棒はもう捨てて、こっちをもらおう。槍も使えるか? あまり荷物は増やしたくないが、適性を見て槍に切り替えるのもありだな。一応持っておこう。鎧は……サイズが合わないか。残念だ)
食料、諸々のアイテム、使えそうな武器。
回収を終わらせ、火猿はその場を去ろうとする。
しかし、まだ腰を抜かしたままの少女に気づき、立ち止まる。
「お前、まだここにいたのか。早く帰れよ。魔物に襲われるぞ」
「……か、帰れない、です。一人で帰っても、魔物に殺されるだけ……」
涙目の少女。火猿は少々複雑な気持ちになる。
(まったく、男ってのは本当にしょうもない。この程度で心を動かされてたら、この先ちょっとした拍子で死んじまうぞ……)
火猿は深く溜息。
生きていようが、死んでいようが、どうでもいい相手なのは確か。
ただ、この少女は自分を殺そうとしたわけでもないのだから、あえて見捨てたいとも思わない。
(……利用価値はあるか。色々と聞きたいこともある)
「おい、条件次第では、お前を森の外まで送ってやってもいい」
「本当ですか!?」
「ああ。まぁ、条件云々以前の前提として、お前が魔族を信用するなら、だが」
「……あなたは、わたしを殺せるのに殺していません。殺すつもりはないんだと信じてます」
「そうか。なら、あとは条件次第だ」
「わたしに、何をしろと……?」
「人間社会について、知っていることを話せ。それが条件だ」
「人間社会について……。知って、どうするんですか……?」
「それは聞いてから決める。知らないことが多すぎるから、とにかく今は情報が欲しい」
「そうですか……」
「話したくないならそれでもいい。俺はもう行くがな」
「ま、待ってください! 話します! お願い! 見捨てないで!」
「……交渉成立だな」
(しっかし、この気の弱そうな奴がなんで冒険者なんてやってるんだ? 真っ先に死ぬだろ、こんなの)
火猿は怪訝に思いながら、少女に立つよう促す。
「移動する。血の匂いにつられて魔物が集まるからな」
「そ、その……た、立てない、です」
「……ちっ」
火猿は少女の体を持ち上げ、肩に担ぐ。今の火猿は十二、三歳程度の小柄な体格のため、大変バランスの悪い姿勢になった。
「わ、ちょ、ちょっとぉ!」
「うるさい、大人しくしてろ。放り捨てるぞ」
「はい……」
火猿は、一旦放置していた諸々の荷物も回収しつつ、森の出口に向かって移動開始。
(ひとまず、これでこの世界のことも多少はわかるだろう)
その後のことは、まだこれから考えることにした。
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