第3話 「教室の生徒さん」

 20代後半、パソコン教室のインストラクターの仕事に就いていた。個人指導の予約制で、予約の三田さんが連絡なしの欠席。まじめな生徒さんなので無断欠席は今まで一度もない。翌日も予約が入っていたので、今日の予約は間違えたのか忘れていたのかもしれない、ひとまず、翌日の予約時間まで待ってみることにした。

 するとその日、三田さんがわが家を訪ねてくる夢を見た。

「なかなかいいところに住んでるね」

「あれ、三田さん、今日予約入っていましたが、来られませんでしたね。忘れてました?」

「いやー、ごめんね、もう行けないんだ」

「なんで?・・・」

 夢の中でしばらく世間話をしたようだが、内容は覚えていない。

「おっと、もう家に帰らんといけん、今日は僕のために会社の人や友達が家に来るからね」

「はぁ?なんでだろう、三田さん」

 翌朝、いつもどおりパソコン教室に出勤し、三田さんの予約の時間まで待ってみたもののやはり来ない。スタッフの一人が自宅に電話することにした。

「三田さんのお宅ですか?パソコン教室の佐藤ですが、予約の時間になっても三田さんが来られないのでお電話しました」

「・・・・・・・」

「えっ、ホントですか?」

スタッフの佐藤さんは電話でしばらく話を聞いたあと、

「はい、わかりました」

と受話器を置いた。

「どうしたん?」と私。

「三田さん、亡くなられたんだって・・・」

「えー!!」

 駅伝の練習中に心臓発作で倒れて亡くなられたらしい。37歳だった。今日は、亡くなって約三週間後の供養の日である三七日(みなのか)で、会社の人や友達が家に来られるので、もし都合が良ければ来てくださいと奥様に言われたとのこと。

「じゃあ、昨晩、夢でうちに来られたのは三田さんの霊…、みんなが三田さんの家に来るって言ってたし」

 業務終了後20時頃、スタッフ3人でお焼香に行った。

「ごめんください、遅い時間にすみません。パソコン教室の者です」

 玄関ドアは開いたまま。

「いらっしゃい、どうぞ、どうぞ、今、ちょうど会社の方々が帰られたばかりで散らかっていますが、どうぞ」

 仏間のテーブルの上には食事のあとのお皿やビールの空き缶などがたくさん置いてある。ついさきほどまで故人を偲んでの宴会だったようだ。

「主人のために、みなさんが賑やかにしてくださったんですよ、すぐに片付けますから」

 私たちは仏壇にお線香をあげて手を合わせた。私は遺影の写真に向かって、

「昨晩、うちに来られましたね、残念です、寂しいです」

と心の中で言った。遺影の写真が一瞬ニコッと笑顔になった。

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