第3話 魔法の鏡

 なんか、主様あるじさまの人相……悪くなったよなぁ……

 昔はあんなに可愛らしかったのに……


 私は誰かって?

 自らの意思を持ちそれを伝えられ、しかも魔法まで使えるという優れもの。

 この家の女主の鏡さ。

 かつて大魔法使いだった主様の母君が、ごく普通の物言わぬ鏡に魔法をかけ続けた結果が、この私。


 だから、今の主様の小さい頃もよぉく知ってるわけよ。

 好奇心旺盛な、魔女っ娘らしい可愛い女の子だったんだよ?


 ケチのつき始めは、やっぱり一番始めの夫だろうなぁ……

 酒を浴びるほど飲んで、女と遊んで、ぽっくりとね……よからぬ病気でも、もらったんじゃないのかねぇ……


 まあ、そんな夫が自業自得で死んで、今度はハンサムで人のよさそうな男と再婚できたってのに、あっさり事故死さ。

 主様は、なんの心の準備もできないまま、ぽーんと喪失感という名の沼に放り込まれてしまった。


 不幸だったのは、それだけじゃない。

 残された血の繋がらない娘がまた、美人で父親譲りの人のよさなのだ。

 そう。主様の実の娘と正反対なわけ。


 でさ、その人の良さってのは、本人が黙ってても内側から滲み出てくる。

 だから、似たような人間が寄ってくるもんなんだよ。

 さらに相当なプラス思考。

 大したもんだと思うくらいのレベルのね。

 こんなだから、シンディという名の娘は、不幸なはずなのに自分を不幸だと思わないのさ。


 ……はぁ……


 こうなってくると、シンディを凹ましたい主様とその娘二人は、さらに人相が悪くなってくる。


 シンディを召使いに落として早一年。

 一向に凹まない彼女に、主様たちは人相が悪くなるばかりさ。

 

 まったくの悪循環……

 どうにかならないもんかねぇ……

 やっぱりシンディには、他所に行ってもらうしかないんじゃないか……

 え? 城のパーティがある? しかも、お妃様を探すのが目的だって⁉


 これだ、もうこれしかない!

 え? お妃様に選ばれるのは誰かって……

 御主人様、それ聞いちゃいます?

 えーと、えーと……

 こ、ここはやはり気を使わないと……


『う、上のお嬢様でございます!』

 あー……嘘ついちゃった……

 ま、いっか……主様、とりあえずご機嫌で出ていったし。


 仮に嘘をついたことがバレたら、めっちゃ怒られるだろうな。

 でも、どんなに怒られても壊されはしない。

 私は世界に二つとない、特別な魔法の鏡なんだから。

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