第2話 家事見習い

 一年前、お義母さまから突然言われた言葉。


「今日からあなたは召使いよ! 働きなさい、私たちの為に!」


 めしつかい。

 飯使い。

 なるほど、飯をつくれと。

 え? お腹は空いてない?

 目失解?


 首をかしげる私の前にどさりと置かれたのは、うちのハウスキーパーさんたちが着ている制服だった。

 こ……これはもしや……噂の家事見習いというやつ!

 そっか……私も、もう十五歳ですものね……いつまでも親の脛かじってないで、自立しろってことだ!

「お義母さま! 私、頑張りますわ!」

 私は制服を握りしめ、ハウスキーパー長に頭を下げた。

「あの、リーダーって呼べばいいですか?」

 そう言ったら、ハウスキーパー長さん泣いちゃった。

「どうしてお嬢様がこんな……ひどいです!」

 リーダーはお義母さまに聞こえないところで小さく叫んだ。

「え? ひどいってなに? 私、なにをさせられるというの?」

「シンディお嬢様には、主に掃除と他のお嬢様方の世話を焼くようにと御主人様から言われております」

「そうなんだ、お掃除とお姉様たちのお世話ね! ラジャー!」

 私はリーダーにかっこよく敬礼してみせたわ。

 でも、今までお世話をしてもらってばかりいたから、お掃除の仕方とか、ちゃんと教わらなくっちゃ。

 こうして、私のハウスキーパー修行は始まったの。

 

 慣れない内は大変だったわ……

 バケツをひっくり返してお姉様たちのお部屋を水浸しにしてしまったり……

 トイレ用の雑巾でお姉様たちのお顔を拭いてしまったり……(テヘペロ)


 でも、一年も経った今じゃ、もう家事のプロよ! どこでだって生きていけるわ!


 ん? ハウスキーパー長が泣いてる……え? なんで?

「本当なら、お嬢様だってパーティに行くお立場ですのに……しくしく」

 パー、ティー。

「それ、いったい何の話? 美味しいものでも食べられるの?」

「お城の王子様のお妃様探しパーティですよ。食事を楽しむ会というより、お妃様にふさわしい作法を身につけているかどうかを見られる会でしょうね。上の二人のお嬢様方、めちゃくちゃお化粧に気合入れていたでしょう?」

「なんだぁ、ごちそうじゃないのか……あー、でもそういえばそうだったかも……確かいつも二回塗りのとこを、三回塗ってたな……大して変わんないのに、化粧品もったいないなって思ってたんだ! あはは!」

 お姉様たちが使っている化粧品は、高級ブランドだから高いし。

「シンディ様は、お化粧なしでも十分お美しいですから、必要ありませんけどね」

「美しい、ねぇ……この髪と目の色は、遺伝だからなぁ……それに、人間は見た目より中身だよ! 私は楽しく生きられればそれで満足だから、お妃様探しパーティはいいや。じゃ、お風呂掃除行ってきますね!」

 張り切ってデッキブラシを肩に担ぐ私に、ハウスキーパー長は再び泣いていた。

 きっと私が立派に育ったから感涙しているに違いない。

 いやあ、良かった、良かった!

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