足りない色を憶うとき
藤井明日花
プロローグ
野上奏多は今日も三センチほどしか開かない窓から、夏の気持ち良い風に当たっていた。手元にはノートを開き、ぐんじょういろの色鉛筆を持ちながらとても綺麗な青空を眺めていた。
しかしながらま窓から見える景色はいつだって同じだ。中庭はあるけれど、大きな木や花壇に囲まれていてコンビニなどの看板や街並み特有の家や電柱の姿は見えない。そして、常に聞こえてくる音は看護師の白衣の腰のフックに繋がれている多くの鍵同士が当たる音と、全ての扉についている鍵の開け閉めをする音だった。
奏多は今、精神科の閉鎖病棟に入院している。
病室にはベッドと扉の無い本棚が一つあるだけで、天井の右上には監視カメラがついている。手荷物をして持ち込める物は、病院側の厳重なチェックを通った物のみが持ち込んで良い私物となる。奏多の手元に残った物は…雑誌、筆箱、ノート、二十四色入りの色鉛筆セットだった。その他の物は生活に必要な最低限の物だけだ。ティッシュやタオル、下着や紐類を抜かれた洋服、プラスチックで作られた置き時計のみである。それでも奏多はノートとペン、色鉛筆があるだけでとても満足だった。
この三つの物は奏多にとって、とても特別な物だからだ。
足りない色を憶うとき 藤井明日花 @fuji-san333
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