ver.8後日譚 アレのその後。

佐都紀たちと別れ,お屋敷へと帰ってきたお嬢様は,自室に戻って荷物を置くと,ハッと何かを思い出したかのように部屋を出た。



——————すたすたすたすた



なぜだか早足のお嬢様は,



「緑埜,部屋にいるかな?」


ひとり呟き,ある一室の前で立ち止まる。


そしてノックをするでもなく—————




——————がちゃっ




「緑埜ーっ」



突然入っていくスタイル。




「ワォ!」



なぜかアメリカンな返事をする緑埜。




「どうされました絢音お嬢様」

「あなたさ、天羽の代わりに車乗って帰ったでしょ?」

「はい,そうです」


「車の中に,ペットボトルのレモンティー,落ちてなかった?」


お嬢様がすっ飛ばしてから,天羽が自分でそれを持って帰っていたような気がしなかったのである。



お嬢様に問われ,緑埜はハッとした表情になる。



「あぁ,ありましたよ。運転席の床に転がっていました」

「やっぱりね。今持ってる?」

「はい,ありますよここに」




そうして緑埜は、とんでもない事実を口にした。


















「—————わたくしが少し飲んでしまいましたが」
















「・・・・えっ、えええぇぇぇぇぇぇぇ——————っ!?!?」





思わず絶叫するお嬢様。




「どうされました!?わたくし、何かよろしくないことを」


困惑気味の緑埜。



「い、いやべつにいいの・・・。でも,ちょっとそれ貸して?」


「はい、どうぞ?」


「ありがと。——————おりゃぁぁぁぁぁ」




「お嬢様,何を!?」







急に気合いの叫びを始めたお嬢様に,さらに困惑する緑埜。







その視線の先で,お嬢様。











「・・・・・・(な,何がしたいんだろぉ!?)」



緑埜が止めるべきかほうっておくべきか迷い始めた頃,お嬢様はやっとボトルを振る手を止めた。



「ふう。腕が疲れたからこのくらいでいいや」

「お嬢様,いったい何をされたかったのでございますか」

「特に意味はないわよ。なんとなく振ってみたくなっただけ。じゃ,ありがとね」


何が何だか彼が把握する前に、お嬢様はレモンティーを持って去っていったのだった。



—————————————————————————————————————



レモンティーをふりふり,お嬢様はまた別の部屋の前へやってきた。



——————がちゃっ


「ねえ!」



「わ、わぁ。お嬢様なんのご用ですか」


「ふんつまんないわね。てっきり紅茶でも優雅に飲んでる頃かと思ってたのに」


「お嬢様、つまりそれは、わたくしに紅茶を噴けとおっしゃっておられるのでございますか。それはいくらなんでもおひどいかと。それではわたくしのギャラがh ————おっと、なんでもございません」


「・・・・(自分のギャラの心配をしやがったわね)」


「お嬢様?」


「ううん,なんでもないわよ!」


にっこりと作り笑顔を作るお嬢様。


そして本題だ。


「ところで天羽。これ、あなたのでしょ。さっき緑埜からもらってきたの」


ずいとペットボトルを差し出すお嬢様。


「おお,ありがとうございます。忘れておりました」


受け取り,無意識にキャップを開けて中身を口にする執事。


「・・・・!?」


思ってたんと違うと言う顔を浮かべる執事。


それを見て微笑を浮かべ,でもその後重大な事実を思い出しハッとした表情に変わるお嬢様。


「どうかされました?」

「い、いや、なんでもない。———ねぇ、あなたさぁ」



少しばかりの好奇心から,お嬢様は口を開く。


「き,昨日なんか,間接キスがどどどどうのとか言ってたじゃない?」

「お嬢様,動揺されているのでございますか」

そんなことないわよ失礼ね!※誤魔化しています


思い切りムッとした表情を作ってから,お嬢様は続ける。



「あなた,今までに誰かと,その,ほら,キストカシタコトアルワケ※超絶早口です?」


「ありません」


「あ、そーなんだ・・・(てっきり何度もあるんじゃないかとかおもってたわ)」


意外な返事にお嬢様は地味に驚き,まあその気持ちは隣に置いておいて,ズバリと悲報を告げた。


















「おめでとう。あなたのファーストキスの相手は緑埜ってことになったわよ」







「はぁ!?」





これには執事もビックリ。





そして反射的に手元のペットボトルを見て,もう一つの悲劇に気がついた。




「わわわぁぁっ、レ,レモンティーがなんかものすごくお泡立ちになられてる!」


「・・・・(こいつはレモンティーも人間扱い,と)」


「な,なぜこんなことに・・・・さっきずいぶん不味いと思ったら!」




「わたしがジャカジャカ振ってたからよ」

「なぜ振ったのです・・・」



お嬢様の謎の行動に,執事は首を傾げるのであった。




こうして,お屋敷はいつも通りのゴタゴタぶりなのであった。



☞ The end.





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