ver.6 あるお嬢様と執事、電車でお出かけをする。

同じ方向へ向かう人間の渦。


その先頭にあるのはとある駅の改札口。


そこは、多くの路線の沿線であり、人の行き来の激しい駅だった。


「うー、いくらなんでも混みすぎよ。…あんた、この人混み一秒で消しなさい」


「お嬢様、それはいくらなんでも無茶というものでございますよ。わたくしはただの執事であり、魔法使いではございません」


「じゃあ魔法使いでも魔王でも魔女でも〇リー・〇ッターでも呼んできなさい」


「お嬢様、少々何をおっしゃっていらっしゃるのか理解しかねます」


「じゃあ空飛びなさい」


「お嬢様、落ち着いてくださいませ」


人ごみに疲れすね始めたせいか、執事に無茶ぶりをしまくるお嬢様。


「じゃあ私を電車まで運びなさい」


・・・・不敵な笑み


「なによ」


「お嬢様、それならば実現可能でございますが、いかがなさいますか」


「・・・・(何言ってんのこいつ『いかがなさいますか』とかマジ頭のネジとれてるんじゃないの運びなさいとかマジ冗談だったしほんとに運ぶとなると多分お姫様抱っk――うぅっ想像するだけでなんか暑くなるのなぁぜなぁぜ)」


「お嬢様、お顔がお赤くなられておりますが」


「・・・・(うるさい黙れこの女たらし)」


「お嬢様、ICカードのご準備を」


「・・・・(うるさい黙れこの女たらし)」


執事の問題発言に顔を赤くしているのが彼にばれないように(もうすでにバレているので無意味だが)下を向いてカバンの中のカードを探しているふりをしながら、横を歩く女たらしに悪態をつくお嬢様。


「・・・・(さっき私が『じゃあよろしく』とか言ったらどうなってたんだろーなぁ、まさかほんとにお姫様抱っk——うーん、またまた暑くなってくるのなぁぜなぁぜ?)」


照れ隠しでさらに下を向き、ほぼサダコ状態になったお嬢様は、前を向いていなかったせいで、


「ぐふ」

「お嬢様⁉」


改札に衝突した。


「お嬢様、お歩きになる際はきちんと前をご確認なさってくださいね」

「・・・・(元をたどればあんたのせいなんですけどねぇぇぇっ⁉)」


「お嬢様?」

何でもないわよ棒読み


そうして人混みと女たらしと改札によってひどい目にあわされたお嬢様は、小さくため息をついて、ホームへと向かったのだった。


—————————————————――――――――――――――――――――


≫次は〇△ー〇△ー、お出口は右側です――


車内に流れたアナウンスで、片手でつり革を握り、片手で本を読んでいた執事が手元から顔を上げた。


「もう降車駅についた」


小さくつぶやいて、目の前に座るお嬢様に目を落とす。


「すー」


お嬢様、熟睡中。


「・・・・(寝てる。寝顔可愛いなんちゃって)」


0.1秒ほどニヤつく女たらし。


≫まもなくー、〇△ー〇△ー、お出口は右側です――


二回目のアナウンス。


お嬢様はまだ目を覚まさない。











執事は読んでいた本をぱたりと閉じた。



































そして、
























































少し手を伸ばして、





















































――ぽんぽん。







































「⁉⁉⁉⁉⁉⁉」


とたんにお嬢様は目を覚ました。







そして、現在の状況を把握したお嬢様は、驚きのあまりものすごい勢いで顔を上げ、







勢いあまって後ろの窓ガラスに後頭部をぶつけ、あまりの痛さに悶絶した。



「おはようございます、お嬢様」


そんなお嬢様の心境もいざ知らず、執事はにこやかに声をかける。


「到着いたしましたよ。——お頭、大丈夫でございますか」


「・・・・(その言い方、まるで私の頭がパッパラピーみたいじゃない)」


「お嬢様」


「・・・・(はいはいわかったわよ降りればいいんでしょもう)」


なぜかムキになるお嬢様であった。



———————————————————――――――――――――――――――



「お嬢様、急にお頭をおぶつけになられましたが、大丈夫でございましたか」

「・・・・さぁ」

「お嬢様、お顔がお暗いですよ。——まさか、わたくし何かよろしくn——ぐはっ」


執事の横腹に、お嬢様がパンチをした。


「ど、どうされました」

「どうされましたじゃないわ。わざわざあんな起こし方しなくたって起きるわよ」

「仕方がございません。わたくしの腕は二本しかございませんので」

「・・・・(何こいつ私のことバカにしてるわけ)」

「お嬢様、誤解をされては困りますよ。わたくしは決してお嬢様をバカにしているわけではございません。ただ、わたくしは片手でつり革につかまり、片手で読書をしておりましただけでございます」


どうかお許しを、と執事。


「別に怒ってるわけじゃないけど」

「さようでございますか」



事実、お嬢様は照れ隠しで怒ってる風を装っていただけなのだ。



そうして二人は、駅から出て、帰路についたのだった。












































その帰り道、執事が、



『あー、なんかお嬢様、最後のほう照れ隠し感がバレバレだったなぁー』


とか、


『あー、あのまま乗り過ごしたふりしてお嬢様の寝顔を眺めてるってのも悪くなかったかもなぁー』


とか思っていたかどうかは、誰にも知り得ないことである。


☞ The end.

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