第11話 頼もしい仲間、気がかりな事情

 僕たちが教会の食堂に着くとちょうど修道女のひとりが食事を温めなおそうと鍋を火に戻しているところだった。それにお礼を言って、温まるまで待つ。僕たちがいただく、遅くなってしまった朝食は麦のお粥だった。朝ごはんとしてはよくあるものだ。ベイオルの教会でも朝から豪勢と言うことはないらしい。怪我人に食事を施してからだったので遅くなってしまいました。と修道女が気を遣って言ってくれたけれど僕たちの方がフラフラしていたから遅くなったのでそんな風に言われるとちょっと心苦しい。僕たちの方こそすみません、と謝ると修道女は優しく微笑んだ。

「今日の天地の恵みに感謝いたします」

 僕たちはラズヴィーンさんに倣って日常の省略された祈りを捧げてから食べる。僕は村ではちゃんとこういうことをしていたけれど、アリオールさんと旅をしてからは祈りなんて捧げてこなかったことを思い出す。アリオールさんは魔術師だからなのか、この人は神に祈る仕草を今までしていない。信心深い人にとって魔術師はほぼ異端、と司祭様は言っていたけれど、なら魔術師にとって教会はどういう風に見えているのだろうか、とそんなことが気になってしまった。それで二人の様子を見るとラズヴィーンさんはフードを被ったまま、アリオールさんはと言うといつの間にかすっかりフードをとってしまっていた。

 それはそうと麦粥の方はちゃんと手をかけて作ったもののようで塩を振っただけでも十分おいしい。僕はもう食べ飽きていると思っていたけれど、久しぶりに食べるとおいしく感じてしまうのは調子のいいことかもしれない。

「あ、そうですわ。わたくしも付いて行きますから」

「え、何にです?」

 突然テーブルの対面にいたラズヴィーンさんが僕の方を向いて言った。初めは何のことかわからなかったからそう言ってしまったけれど、朝に連れまわされたから今度は僕たちの用事に付き合ってくれるってことかも知れない。でも特に予定もない。どうしようか。そう思っていたら僕の横でアリオールさんがムスッとした表情をしていた。

「何、ってあなた、あなた方の旅に決まっているじゃありませんか」

「は⁉ 何で! 僕たちの行先はアリオールさんの師匠のところですよ?」

 全く予想していなかった答えだった。でも僕たちの目的地に付いて行ってもラズヴィーンさんに何かいいことがあるようには思えない。

「わたくしはここから去ります。けれどわたくしだってひとりきりでは無謀ですもの。それにアテもありませんし。何か途中でわたくしにふさわしい場所を見つけたらそこで分かれますから、いいじゃありませんの」

「ええー……、アリオールさんに聞いてください。」

 この旅の主導権は僕にはない。悔しいけれど、今はどうしてもアリオールさんが僕の命綱だ。僕はラズヴィーンさんがついてくればそれはそれで頼もしい気もするけれど、アリオールさんの計画とか、あるいは今後も身軽がいいとかそういう部分があるかも知れないからアリオールさんに決めてもらうより他は無い。

「だそうですわ。アリオール、わたくし使えますわよ?」

「ふん、どうせそのつもりだったくせに。私とエリーだけで十分だもんね」

 さっきの表情はこれを分かっていたからだったようだ。僕はその気配に全く気が付いていなかったけれど、アリオールさんはいつ気が付いたのだろうか。さっきの不機嫌な顔のまま、からかうような調子でラズヴィーンさんの同行を拒否してしまった。

「またそうやって。哀れなわたくしを助けようと思ってくれてもいいじゃないの!」

 ラズヴィーンさんも納得いかない様子で食い下がる。この人お願いする立場なのに高圧的と言うか、何で喧嘩腰なのだろうか。切羽詰まった感じでもあるが。

「けっ、やっぱり食えない。こっちが折れるまで続ける気だろうに。もういいさ、好きにしなよ。ただエリーにも言ったことだけど、死んでも知らないよ」

 ものすごく不満そうに、心底仕方なさそうにアリオールさんが折れた。確かにラズヴィーンさんならこっちがいいというまでゴネ倒しただろうと嫌な確信が湧く。

「やった……、あ、いえいえ。それでいいのです、ふふん。殊勝な心掛けですわ」

 対して同行を受け入れてもらったラズヴィーンさんはほんの一瞬、一目でわかるほど安心したような笑顔になったけれど、何故かすぐに取り繕うようにお高くとまる。この人も素直じゃないというか難儀な負けず嫌いと言うか、損な人だ。素直にさえなれたなら誰もがこの人を可愛らしい人だと思うだろう。それこそ守ってあげたくなるほどに。まあそんな意地っ張りな様子も子供っぽい可愛らしさに見えて僕は嫌いになれない。

「やっぱりダメって言いたくなってきた」

 さすがのアリオールさんも呆れた様子でそんなことを言った。

「ふふん、わたくしの腕っぷしには期待してくれて構いませんわ。……それ以外には期待しないでくださいましね。特に権威」

「もう貴族じゃないんだもんね? 全く……。君をほったらかしにしたことがあの騎士に知られてもなんか面倒そうだし……、貧乏旅にようこそ」

「ふふ、ふたりともよろしく」

 話はまとまった。これから三人での旅になる。……まあちょっと不安だけれど。早速アリオールさんとラズヴィーンさんの様子がおかしい。どっちも強い人だからなのかなんとなくピリピリするような、もしくは相手を推し量るような変な気配がある。仲良く手を取り合う関係と言うよりも、お互い思い切りぶん殴ってから始まった仲のような変な雰囲気。だからそんな空気に怯えて僕の言葉もおかしな調子になってしまった。

「よ、よろしく、お願いします?」

 この先を予見するようなつっかえた言葉が出て、僕の不安を煽った。

「最後に確認だけど、私は君の家出の手引きをするわけだ。もしも……そうだな、言っちゃ悪いけど追っ手が来ても困るわけだよ。まして貴族の娘をかどわかした咎で処刑なんて笑えない。その辺本当に大丈夫だろうな」

 アリオールさんが突然そう言い出した。確かにそれは僕も思ったところだけれどすごく聞きにくいし、ある意味君はいなくなってもいい人なのか、と言うどうしようもなく嫌な確認を含む質問になる。

「はぁ……まあ仕方ありませんか。わたくし、もともとお母様と折り合いが悪くてね。婚約者と揉めて遂に勘当と言うのは本当。相手方はお母様の生家なの。ただうちと向こう様は昔の因縁で仲が悪くてね、察しがつくと思いますけれど、お母様はだからこそベイガーへ嫁いで、そしてせっかく繋げた仲をわたくしがまた壊したのよ」

 話しながら徐々に神妙な顔になっていくラズヴィーンさんだった。ほんのささやかな変化ではあったけれど全力で前を向いているような人だからこそ、きっとそこには言葉にしない後悔とかそんなものがあるのだろうと思わせるには十分なほどの変化に見えた。

 それでもこの人はそういう部分を悟らせたくはないらしい。僕たちの視線を受けて一瞬だけ言葉に詰まった様子だったけれど、すぐに見慣れた表情になって、今度は必要以上に何かを振り払うような、あるいは僕たちに向けた挑発的な振る舞いで言葉を続けた。

「それでお母様はわたくしに見切りをつけたの。そうやって教会に押し込まれることになった人を連れ戻すかしらね? わたくしのことはそれでいいでしょう?」

「えー、なんか不安だ。実際のところはどうなんだか」

「ふん、何がどうであれ、わたくしは行くと言ったではありませんか!」

「頑なだなあ、悪くすれば何もかも捨てることになるというのに」

「う、別に、そんなつもりじゃありませんもの……ううん、それならそれでいいの!」

「はー……君、そういうのよくないぞ」

 アリオールさんはどうしたのか、感情の色のない顔になって呆れたようにラズヴィーンさんをじっと見つめる。静かな言葉ではあるけれどそこに込められているものはあまり穏やかには感じられなかった。ラズヴィーンさんもそれに気づいてなのか、憮然としてアリオールさんに詰め寄る。

「どういう意味よ」

「いいや、別に。まあ、覚悟の上くらいは言ってくれると思っていた」

 何ともつまらなそうな言い方だった。僕の聞いた限りではアリオールさんは家を飛び出して魔術師に師事している。それでどうなったかは分からないけれど、もしかしたらいまだに家と仲直りができていないのかもしれない。だから、もしかしたらアリオールさんはラズヴィーンさんにもそういう覚悟を求めているのだろう。結果、どんなことになっても受け入れられるように。でも当のラズヴィーンさんはむしろ手柄を上げて、それで身を立てて凱旋するくらいの気持ちでいるような様子に見える。

 それでわずかに会話が止まったけれど、アリオールさんのあまり良くない表情を見たラズヴィーンさんが少し不安げな様子で押し黙って、それで今度は口を開いたと思ったら急に口を閉ざしてもじもじし出す。そんな様子に僕もアリオールさんも顔を見合わせてしまった。ラズヴィーンさんにはまだ何かあるらしい。切り出し方を見失った様子だったけれど、これもなんだかかわいそうだと思っているうちにアリオールさんも同じだったようで続けるように促した。

「今さら躊躇わんでいいから、何か他にも何かあるなら言いたまえよ」

 お膳立てが必要なことにうんざりしつつ、それでも多少は相手を慮るような雰囲気だったのを受けてラズヴィーンさんがぽつりぽつりと話し始めた。

「その、もう一つの理由と言うか……何を意気地のない、わたくしは……ええい! 単純なことです! その、わたくしの力が、というか、それこそが諦めることを許しません!」

 最初こそ歯切れの悪い様子で器の中のお粥をスプーンでぐるぐるしていたけれど、遂にそんな風にしているのに気づいたのかうじうじした態度を止めて勢いよく身を起していつもの気迫で宣言するけれど、自分の仕草が恥ずかしかったのか赤くなった顔をゆがめて、それさえ無理矢理引っ込めてから今度は取り繕ったように冷静な様子で話し始めた。

「私の家は名にある通りゴルガン一世が開祖ですわね。さる貴族の食客が、戦の武功のみで今の地位までのし上がったわけですけれど、言い伝えでは非常な力持ちだったそうですわ。ほら、私の槍、あれが我が家に伝わる初代の武器。本物よ?」

「ゴルガンの槍、現存するとはね」

「有名なんですか?」

「まぁね、一度は実在が確認されていて、その神秘の程は別として祝福を受けた伝承がある物のひとつだね」

「使い手がいる限り、決して折れないと言われておりますわ。故に、あの折れず曲がらず錆びもせず、いつまでも鋭い槍は我が一族の繁栄の証明とされておりました」

 僕はあの武骨な槍を思いだした。全部が金属の異様な槍を持っている人は他にはいなかったし、かなり異質な武器ではあると思っていた。なんだか歴史のあるものらしいので僕はそのこと、というよりはその人について聞きたくなって二人に尋ねた。

「その、持ち主はどういう人なんです?」

「ああ、伝説みたいなものだねぇ。立身出世の見本、歴史に刻まれた勇士。大力のゴルガン。あとは……ええと、いや何でもない」

「別にごまかさなくてもいいですわよ。初代ゴルガン、血まみれゴルガンですわ」

「なんか二つ名がすごく物騒なんですが……」

「魔術の達人とか偉大な将軍とか、知恵や知略じゃなくて個人の武勇が伝説になった人だからねぇ。語り草では怪力無双の勇士だとか、恐ろしき戦士の長だとか言われるね。前に立つ者は、敵も味方もすべて……って逸話まであるけどね」

 一応アリオールさんは僕の誤解で伯爵家の名誉を汚さないように説明してくれた。それでさえ物騒だったけれど、それを聞いていたラズヴィーンさんは何故か満足げだった。

「父祖の自慢をするつもりではないのですけれどね。ともかく非凡な戦士だったそうですわ。でもお父様もお兄様もそんな風ではございませんの。あの槍が重すぎて実用の武具ではなく宝物扱いしていたくらいですから。過去には確かに振るわれていたというのに。そんな中でわたくしが、そう、わたくしだけが……何故か槍を振るうに値する力を持って産まれましたわ」

 先祖の話からラズヴィーンさん自身のことに話が繋がった。家族に気を遣ったのか、何か負い目に感じるのか、最後少し歯切れの悪い様子で手元の器の中に視線を落としてラズヴィーンさんがそう言うと、それに珍しくアリオールさんが興味を持った様子で「ふぅん」と声を漏らしていた。それを聞いたラズヴィーンさんはさっと顔を上げて、口を引き結んでアリオールさんを睨んだけれど、それで何かを察したのか硬い顔をやめて、ふっ、と短いため息の後また視線を下げた。僕はそれでアリオールさんの様子が気になった。

「それで?」

 アリオールさんはいつものへらへらと茶化す様子ではなく、いくらか真面目な顔だった。それでいてちょっとの同情とか思いやりみたいな優しさが含まれるような気配がある言い方で先を促した。

「父や兄にないものを持って産まれましたから。それには何か訳が、いえ使命が、ううん、どの言い方も気に入りませんわね……ああそうですわ、使いどころがあると思っています。だから何もせずこのまま定めに流されるのではなくて、わたくしの行くべき道を探すしかありません、きっと。たとえ誰にも望まれないことだとしても。どれほど疎まれたとしても。……それに宝物庫から槍を持ち出しておりますからね」

「ふぅん、そういうことね。なんだか大変だなあ」

「っ……あなただって絶対何か……まあいいですわ。あなたのことはまた今度にしてあげます。ふん!」

 初め反撃するような勢いがついていたものの、その後すぐにそんな気配を引っ込めて不満そうにではあるが、ラズヴィーンさんは可愛らしい鼻先をツンと上に向けて言った。

「本題からそれましたわね、わたくしのことはどうでもいいのです。どのみち我々がここを出て、我が家がそれを知るのはずっと後。身内があなた方のことを何と言っても誰かの失態にしかなりませんし、わたくしの……ふっ、そうね、阿婆擦れ具合に押し付けておけば万事解決ですわ。そのくらいは皆わかっているでしょう」

 その話を聞いて、本当にそうなるかなぁと思えて仕方がない。確かに正しい理解なのかもしれないし、実際すんなりどこへでも行けるかもしれないけれど、この人の慕われ具合を見るとそう簡単な話かは分からない予感がする。むしろいつぞやの騎士みたいに大切だからこそ見送ったり、逆に引き留めたりしそうな気がしてならない。

 僕の予想をよそに、今度はラズヴィーンさんがアリオールさんに視線を向ける。

「今度はわたくしが聞くべきかしらね、旅の結末にも関わりますから。それで、なんでまたエリーを連れて行こうなんて思ったんですのよ、不思議でなりませんわ。どう考えてもあなたがするべきことではないでしょうに」

「ああー……まあ魔術師の定めと言うかなんというか……そんなところ」

 ラズヴィーンさんの問いに今度はアリオールさんが歯切れ悪くそう言った。

「いや、僕のことを応援してくれたんでしょうに。……って言いたいですけれど、でも実は僕も何でこんなに良くしてくれるのかは気になっていました……あっ」

 僕が思っていたことが思わず吹き出してしまった。慌てて取り繕うとしたけれど、呆れた調子のアリオールさんが落ち着けと言う風に手を振った後、気楽そうに話し始めた。

「君がそれを言うのか。んー、まあそうね、ふたりは『魔術師にはなるべくしてなる』と言う言葉があるのは知ってる?」

「知りません」

「知りませんわ」

「知ってるわけないか。つまり必要なのは才能でも努力でもなくて、そうなる定めだけ、ということなのさ。どんなに魔術師向きの人間でもなれない定めならばなれないし、逆にどんなに資質がなくとも、そういう定めならば魔術師になることからは逃れられない。だからなるべくしてなる」

 アリオールさんは右手の人差し指を上に向け、もう片手を胸に当てて、だんだんと得意げな様子になりながら言った。

「わたくしそういうの嫌いですわ。なんて後ろ向きなのかしら」

 対するラズヴィーンさんはそれを聞いてふんふんと鼻息荒く怒り出した。さっきまで自分の道は自分で決めると話していたばかりなのでこの話が性に合わないのはわかる。

「まあ実際はそれ程深刻な話でもなくて、その人を取り巻くすべて、それが運命と言う考え方なのさ。いろいろな理由で夢は終わるし、終わってほしい悪夢ほど続く。すべては坂を転がるようにして収まるべき所へ……ってね。だから私を見つけたエリーの夢はまだ終わってない。でも私に会ったから終わることになるかもしれない。そうだとしてもそれは今じゃない。なら私はひとまず応援すると決めたのさ、それもまた運命ってね」

 今度は手を下ろしてテーブルの上で両手の指を組み、何故か遠い目をしてアリオールさんは言った。その様子は自分のことを語るような不思議な口ぶりと言うか、自分の中でいまだ折り合いの着いていない、諦めるような気持ちと抵抗したい気持ちの両方が透けるようだった。

「僕はその……アリオールさんに会えてよかったと思っています。今後がどうであれ」

 多分今しか素直に言葉にできそうにないので言えるうちに言っておきたいと思っていたことを言ってしまった。でもこれは僕の本当の気持ちなので仕方がない。まだほんの短い付き合いだけれども、この人に出会えなかったならきっとこのような状況にはならなかった気がする。それが良いことなのか、悪いことなのかは今の僕にはよくわからないけれど、少なくとも今の僕にはこれでよかったと思える。

「エリーは私の事大好きだもんな。もう愛されすぎて困るなー」

「そ、そんなんじゃないやい!」

 いつも通りへらへらとたわごとを言う赤毛に思わず僕はそう叫んだけれど、ラズヴィーンさんは僕たちの様子を見て、今度はこの人が呆れ顔で笑っていた。

「ふふ、楽しい旅になりそうですわね」

「そうだといいんだけどね。この先何があるかわからないし、これから北上する経路はちょっと前までなんかゴタゴタしていたみたいだから安心できないよ?」

 ラズヴィーンさんの感想にアリオールさんは現実に引き戻すようなことを言って釘を刺した。もはやこの後は僕には想像もつかない世界の話なので何も言うことができない。

「ふん、揉め事、望むところですわ。我が名誉の糧になればなお良し」

「それじゃ困る。私たちの旅は安全重視。荒事目当てなら他当たりなよ?」

 ささやかな会話でもまた傍にいてハラハラする空気になりかけている。どっちも本気じゃないにしても旅の目的の食い違いが滲み出ているようでこの先が不安になる。

「僕としては……なんにしてもいい巡り合わせがあればそれでいいです」

 僕がおそるおそるそう言うとラズヴィーンさんはニヤリとアリオールさんを見た。アリオールさんも僕がふたりとの出会いのことを言っていることには気づいているのでこれ以上何も言おうとはしなくなった。僕の方を見て、次にラズヴィーンさんの方を向いてから顔を逸らし、ハァ、とため息をついて僕の肩を掴んでぶんぶんとゆすってきた。根本的な解決にはならないけれど、ひとまずはこれで落ち着いたようだった。事実、僕は自分の巡り合わせには感謝している。こればかりは神様に感謝すべきなのかもしれない。危ないこともあったけれど、僕はみんなのおかげでここに居られているわけだから。

「なんでもいいけどー。まだ何にも終わってないんだからねー。命あってのことだし、それだけは何を言われても曲げないから。ふん」

 僕がそんな風に思っていると、アリオールさんは不貞腐れたように僕の肩から手を離し、代わりに体重をかけて腕をどっかりと僕の肩にのせながらツンと横を向いてそう言った。

「大丈夫ですよ。わかっています。アリオールさんのこと信じてますから」

 僕がそういうと「むぅぅ」と唸ってアリオールさんはそのままの体勢を続けた。

「なんだか二人の距離感がわかりませんわねぇ……まあ別にいいのですけれども」

 僕たちがそうしている時にラズヴィーンさんが呆れたように呟いたのを聞いた。そう言われても僕たちは旅の連れ合いで、それでこうならこれでいい気がする。

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