第22話 

 ———ゼロ。

 この女はゲームの中で、唯一の魔族側の人間として出てきたキャラクターだ。

 詳しく言えば、半魔という人間と魔族のハーフであるが、魔族の父親が母親を惨殺した事によって魔族に恨みを抱くようになった。

 そこから半魔という立場を利用して、最終的には魔族の幹部にまで成り上がる。


 ただ……コイツは俺と同じく、途中で死ぬ運命にあるキャラである。

 まぁ自分の父親を殺してからの自殺なので十分回避のしようはあるだろうが。


「…………」

「……何此方を見ている?」


 俺が月光に照らされた黒髪の輝きに目を奪われていると、此方に懐疑的な視線を向けて来るお助けキャラのゼロさん。

 と言うか、人間なのに良く魔族側を信頼させたよな、この女。


「———あー、取り敢えずお前は不問! これ以上俺達の家の事に関わらない、という条件付きだがな」

「……何が望みだ?」


 俺の突然の手の平返しに、ゼロが訝しげに睨んで来る。

 だが、本編でお前が主人公達を助けるからとはとても言えないので、このまま家に関わって欲しくない的なことを適当に言うか。


「お前にはこの件に関わって欲しくないんだよ」

「だから何故貴様が私にそのようなことを言うのかと聞いているんだ」

「……お前が魔族側の人間で尚且つ魔族を憎んでいるのを知っている」

「っ!? き、貴様———うぐっ」


 俺の言葉に殺気の帯びた瞳で此方を睨み、暴れようとしたので少し強く関節をキメる。

 ただ、それだけではすり抜けそうだったので、関節をキメていない方の肩をやむを得ず脱臼させた。


「おい、少しは話を聞け。それにもし俺がお前の敵なら既に殺している」

「ぐっ……だが……」


 あぁコイツ面倒臭いな!


「お前の命も情報も、今は俺が握ってんだ。全てバラされたくなければ黙って俺に従え」

「…………本当にその条件だけでいいのか?」


 どうやら俺が信用ならないらしい。

 まぁ俺が逆の立場でも『全ての情報も命も見逃してやるから金輪際この件に関わるな』とだけ言われて流されそうになったら同じ反応をするだろう。

 ふむ……だが、俺的には別に魔族と戦う気もそこまでないし、そもそもゼロじゃないといけないって用件もないんだよな。


「じゃあ……今後、オリバーに何かあったら助けてやってくれ」

「何だと? オリバーとか言う奴を助けるだけていいのか?」

「ああ。あのソイツを助けてくれるだけでいい」


 因みにオリバーは、正真正銘この世界の主人公である。 

 現在は国の外れの村で魔族の手先となったモンスターを倒しながら暮らしているはずだ。

 

 俺がそう頼むと———ゼロは小さく頷いた。


「……分かった。その依頼、必ずや遂行しよう」

「よし、それでいいから早く逃げろ。あ、お前の手下は……」

「どうでもいい。アイツらは今回偶々付けられただけの人間だ」


 なるほど……じゃあ特に情報も持ってない雑魚だったし、殺すとしよう。

 いや……サーシャに任させているが、もしかしたら既に死んでいるかもしれないな。


「この恩———忘れはしない」

「ああ、是非とも助けてやってくれ」


 俺はゼロの後ろ姿を見送った後、我が家へと戻った。









「———い、イルガ様……!」


 俺が家の中に戻ると、俺の部屋に焦った様子のサーシャの姿があった。

 見た感じ傷はない。

 

「どうした?」

「じ、実は……暗殺者の人達が……」

「死んだのか?」

「は、はい……突然口から血を流して動かなくなりました……」

 

 ま、予想通りだな。

 寧ろ殺さなくて良くなった分ラッキーだと思おう。


 俺はサーシャの頭に手を乗せて撫でる。


「お前の落ち度じゃない。寧ろ勝手に死んでくれて良かったじゃないか。どうせどっちにしろ殺すつもりだった」

「…………」

「別にお前に殺せとは言わん。元々俺がやる予定だったからな」

「……いえ、その内私も誰かを殺さなければならないと思います……」


 いや、そんな覚悟ガンギマリにならなくてもいいからね?

 それにまだ貴女は8歳なんだから、もっと殺人に忌諱感を持ってくれてもいいんだけど。


 それに比べて俺は既に精神年齢は殆ど大人だし、貴族の当主になるにはどうせゲイルはその内殺さなければならない。

 ゲイルが俺の言うことを聞くなど絶対にあり得ないからな。


「———サーシャ」

「は、はい……っ!?」

 

 俺はサーシャを優しく包み込む。

 サーシャは一瞬驚いたように身体をこわばらせたが、すぐに弛緩させて俺に身を任せた。


「サーシャ、お前はまだ8歳だ」

「……はい」

「俺は立場上絶対に人を殺さなければならない日が来るが、メイドのお前はそうじゃないだろう?」

「……で、ですが……」

「お前は俺を支えてくれるだけでいい。汚れ仕事は俺の役目だ」

「…………」

「目の前で人が死んでショックだったんだろ。今は自分を慰めとけ」

「…………すいません……」


 そう言って、サーシャは小さく嗚咽を漏らした。

 やはり大人びていても、まだ8歳の子供なんだと、思い知らされた瞬間であった。


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