第21話 夜に来るのはテンプレ
———誰もが寝静まった夜。
俺は目を開け、ベッドから降りる。
窓から見た外には綺麗な月のような天体が浮かび、その光によって俺の部屋が淡く照らされていた。
「あの天体、何だったっけな」
そんなことを思いながら、俺はパジャマ的な服を脱ぐ。
そしてタンスに隠した師匠との修行の時に来ていた服に着替え……軽く伸びをする。
ポキポキと小気味良い音が背中から鳴る。
「ん〜〜はぁ……よし、それじゃあ暗殺者退治と行くか」
俺は指輪があるのだけを確認すると、音を最小限に扉を開いて廊下に出る。
普段はメイドや執事達が忙しなく行き来している廊下は、流石に真夜中ということもありシンと静まり返っていた。
「まるで俺が暗殺者みたいだな……」
苦笑しながら、極限まで意識を耳に集中させる。
確かに俺に魔法は使えない。
魔力がないから魔力感知も出来ない。
ただその代わり———身体の性能は既に人外の域をも裕に飛び越えている。
「〜〜〜〜♪」
俺は、人間が聞き取れる限界を超えたヘルツの音を出す。
同時に極限まで集中した俺の聴覚は、普段より遥かに拡張され、先程俺が出した高音の反響で位置が分かるまでに向上する。
俗に言う、エコーロケーションと呼ばれる技術だ。
普通の人間でも習得出来るとか何とか聞いたことあるが……俺のモノは次元が違う。
恐らく東京ドームと同等かそれ以上あるこの豪邸全体を一気に把握出来る。
更に大体の姿形まで分かるのだ。
勿論、全く同じヘルツで打ち消されることもあるだろうが……まぁ人間には到底不可能である。
そして【エンチャント・ステルス】や【透明化】はただ気配が薄くなったり透明になっているだけで、音は普通にぶつかるし反響もする。
なので……どれだけ熟練の者でも、この世に存在しないモノ以外は俺の耳を誤魔化すことは出来ない。
「1……2……3、4……6人か」
俺は音を出さないように廊下を掛けた。
「———カハッ……!?」
「よし、これで5人目か。今のところ全員サーシャ狙いだな」
「イルガ様っ、この人も同じ情報でした」
俺は5人目の暗殺者を一撃の内に昏倒させると、サーシャの魔法で必要な情報を記憶から読んで貰う。
しかしどうやら、全員同じ情報しか持っていないようで『これで5回目です……』とサーシャが残念がっていた。
「そうか、ありがとう。……最後の奴が何かしらコイツらとは別のことを知っていると考えた方がいい、か……」
1人だけ建物の外だったので後回しにしていたのだが……どうやらミスだったらしい。
最後の暗殺者が物凄い速度で逃げていく音が聞こえた。
「サーシャは此処で待っていてくれ」
「え、あ、はいっ」
俺はサーシャの返事を聞くと同時に窓を開けて跳躍。
同時にくるっと空中で目的地と真反対の方向を向くと———。
「———はっ!!」
拳を振り抜いた時の拳圧で加速すると、一陣の風の如く一直線に暗殺者へと向かう。
空中での戦闘は殆ど経験したことないのでまだ慣れないが……やむを得ない。
どうやら暗殺者は森の中に逃げ込んだようで、俺は内心ラッキーと思いながら少し遅れて森に入る。
「ククッ、此処からは俺の独壇場だな」
何せ、師匠やセニアとの修行は基本ずっと森の中だったのだから。
俺は地面を蹴って一気に加速。
障害物は持ち前の動体視力と反射神経で避け、最短ルートで暗殺者を追う。
その時間———僅か10秒足らず。
「ククッ、初めましてだな」
「……っ、チッ」
暗殺者は俺の言葉を無視すると、此方に針みたいなのモノを投げて来る。
それは全て俺の身体に刺さった。
表面に何か付着していた様だが……ふむ、どうやら毒が付いているみたいだ。
「まあ、この程度なら全く問題ないがな」
「っ!?」
全く毒が効いた様子のない俺を見て、今度こそ取り乱す暗殺者。
そんな暗殺者の懐に一瞬で入ると、鳩尾に拳を入れる。
「———っ!?!?」
暗殺者は顔を歪めながら吹き飛び、近くに生えていた木に激突した。
俺はすかさず追いかけ、逃げられない様に関節を決める。
「ぐぁ……」
「もう逃げられん。大人しくしろ」
俺は暗殺者の顔の下半分を隠すフードのようなモノを無理やり取る———。
「———おいおい……何でお前が……」
透き通った綺麗な漆黒の瞳と物凄く整った顔立ち。
瞳と同じ漆黒の髪が月光に照らされて輝いていた。
そいつの名は、ゼロ。
ゲームで何度も主人公達の前に現れ、度々ヒントをくれる魔族側の裏切り者。
その裏切り者が、何故か目の前に居た。
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