第19話 当主戦の始まり

「———誰かのせいで本題に入るまで時間が掛かったが……」


 全員が此方を見て来たので取り敢えず口笛を吹いて誤魔化した。

 テンプレなら此処で皆んな諦めてくれるのだが……どうやらコイツらにはテンプレが通用しないらしい。

 より視線が鋭くなっただけであった。


 バルガスは頭が痛いとばかりに眉間を押さえた後で、魔力を声に乗せたのか、やけに聞いていて身体が強張る感覚に苛まれる。

 それは他の2人も同様のようで、マイロンは比較的涼しい顔をしているが、ゲイルは完全に俺と同じような感じだった。

 まぁ俺は慣れたが。

 

「我はこの3人の誰がなろうと相応しいのであれば誰でもいい。ルールなど生温いモノはない。何でもアリだ。イルガが15歳になるまでに決める。その間は我は一切関与せん」

「と、当主様……!」


 ゲイルが手を上げる。

 バルガスが無言で『言ってみろ』とばかりに頷いた。


「例えばこの戦いで誰かが死ぬのは……」

「言ったはずだ。我は一切関与せん、と。ここで死ぬ様な奴に用はない」


 その言葉には些かマイロンもゲイルも驚いたらしく、目を見開いていた。

 ダダ俺は原作を知っているので、大して驚かない。

 イルガが勝った本編では、将来2人がイルガに殺されて生きていないことも、勿論知っている。


 ただまぁ……随分と酷い話だよな。

 息子達の死がどうでもいいとか、親として終わってるよほんと。


「早速今日から始めてもいい。我はもう行く」


 投げやりにそう言うと、テレポートをするためか魔力を練りながら、最後に俺に目を向けた。


「イルガ……我にあれ程ほざいたのだ。我をガッカリさせるな」

「まぁ気長にお待ちください、当主様」


 俺がそう言って礼をすると、ふんっと鼻を鳴らして消えていった。













「———い、イルガ様……どうでしたか?」

「ああ、何とかなった。短剣を突き付けられたがな」

「ええっ!?」


 俺は、外で待っていたらしいサーシャと共に自分の部屋に戻る途中に、部屋の中で起こったことを一通り説明していた。

 案の定サーシャは俺の言葉を聞いて顔を青くさせたり驚いたりと忙しなかったが。


 当主のバルガスが居なくなると、途端に皆それぞれ帰路につき出した。

 エレノアとゲイルには親の仇の如く睨まれたが、取り敢えずにこやかに笑ってやった。

 それで更にキレていたのは言うまでも無いだろう。


 因みに俺に短剣を突き付けていた執事は、気絶していたらしいが骨が1、2本折れた程度で済んだらしい。

 骨が折れて『程度』はおかしいのかもしれないが。


「な、何故そんな状態になったのですか!?」

「……俺が『魔力なし』なのがバレた」

「ええっ!? でもマグナス様は大丈夫だって……」

「ああ。今度しっかりと問い詰めてやる」


 あの爺さんのせいで俺がどれだけアドリブで切り抜けなきゃいけなかったか。

 それを考えただけで頭が痛くなる。

 

 本当は闘神の弟子というのはまだ隠しておきたかった。

 まぁ俺が闘神の弟子というビッグネームの肩書きを手に入れたわけだから、あの2人のいい牽制になったので、結果オーライか。


「本当に大丈夫だったん……ですよね、イルガ様なら」

「まぁそうだな。あの執事が100人いても絶対負けない自信があるな」


 多分あの執事は、俺が師匠に修行を付けてもらう前よりも弱いと思う。

 まぁその当時でさえクソ頑張ればA級倒せる俺のスペックがおかしいのだが。


「さて……サーシャ。これから忙しくなるぞ」

「は、はいっ!」


 頑張りますっ、と意気込むサーシャを撫でながら……サーシャに1つのお願いをする。


「その前に———サーシャ、俺の研究室からアレを持って来てくれ」

「えっと……あ、もしかしてまた耐性を付けるのですか?」

「まあそういうことだ」

「は、はいっ! 直ぐに持って来ます!」


 そう言ってタタタッと風魔法の補助を使いながら物凄い速度で廊下を掛けるサーシャを笑顔で見送った俺は———。



「———行かせねぇよ?」

「っ!?!?」



 【透明化】と【エンチャント・ステルス】を使ってサーシャを追い掛けようとした暗殺者の鳩尾に膝を入れた。


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