第17話 ぶっ壊してやりますよ

 あわや兄弟喧嘩勃発しそうな雰囲気から少し経った頃、部屋に3人の煌びやかな衣裳を身に纏った女性が入ってくる。


 そう、俺達の母親だ。


 ゲームの世界というのと、そもそも大貴族だからと言うのもあり、皆が皆、とてもじゃないが子供を産んだとは思えない美貌の持ち主であった。

 

「ゲイル〜〜会いたかったですわ〜〜!!」

「母上! 一昨日会ったばかりですよ!」


 金髪金眼の縦ロールの女性が窮屈そうなドレスを揺らしてゲイルに抱き着く。

 これには流石のゲイルも気まずそうにしている。


 えっと……ゲイルの母親の名前なんだったっけ?

 ファンブックに載っていた様な載っていなかった様な……特に興味なかったから忘れたな。

 

 対する俺の母親とマイロンの母親は、一切俺達と話そうとしない。


 しかしその理由は大きく異なる。


 マイロンの母親がただ場所を慮って話し掛けないのに対して、俺の母親はそもそも俺など1ミリも眼中にないのだ。

 俺を産んだのは側室としての務め、ただそれだけ。


 これが他の兄弟を上回る能力を持っていたのなら違っていたかもしれないが……結果としてイルガは他の2人より劣っていた。

 そうすると、ただでさえ愛情がないのに才能もないとなれば、育てる価値もないと断定して無関心になる。


 それが———俺と俺の母親、エレノアの関係だ。


 その証拠に、先程からエレノアは、自分に子供などいないかの様に全く興味を示していない。

 ま、俺もエレノアには1ミリも興味などないのだが。


「当主様がいらっしゃいます」


 誰か良く分からない燕尾服に身を包んだ男の言葉とほぼ同時に、一瞬にして椅子に老人が現れた。











「———今日は我から、我が息子達に話さねばならぬことがある」


 部屋の真ん中に置かれた長いテーブルで食事を摂る俺達に、一際大きな椅子に腰掛けた金髪赤眼の老人———イルガの父親であるバルガス・フォン・マジックロードが言った。

 もうヨボヨボの爺さんのくせに、その覇気と未だ健在の様で、バルガスの言葉で俺を含めた全ての人間の動きが止まる。


 流石名門貴族の当主なだけあるな。

 正直兄貴達より恐ろしいわ。

 

 ただ1つ———一人称が『我』でなければもっと完璧だったのに。

 なんか厨二病っぽくて笑いそうになってしまった。

 最終的に、魔法使いなんて永遠の厨二病みたいなモノか、と自分の中で自己完結して何とか噴き出すのは防いだが。


「お前達も分かっているだろうが……我ももう歳だ。別に延命しようとも思わん。だが———」


 バルガスが俺達をぐるっと見渡して答えた。



「———我の座を継ぐ者はこの目で見ておきたい」



 その一言は、暗にこれから次期当主を決めると言っている様なモノだった。

 場の空気が下がる。

 誰もが食べる手を止め、当主の次の言葉を待っていた。


 ———俺以外は。

 

 そんな誰も話そうとしない空気の中、唯一の元庶民として物凄くこの空気が気まずかった俺は、手を上げた。

 それと同時に全員の視線が俺に移る。


「な……イルガ……!?」

「何と無礼な……」


 ゲイル親子は信じられないと言った目で俺とバルガスを交互に見る。


「……ふっ」

「……」


 マイロン親子は何故か小さく笑みを浮かべて俺を見た。

 そして当主は……何も言わず、ジッと此方を見ており、この場で最も取り乱したのは———。



「———い、イルガ……本当にいい加減にして……! お前はどれだけ私の立場を悪くしたら気が済むのッ!!」



 まぁ何とも意外にも俺の母親だった。

 黒髪碧眼という何とも珍しい見た目のエレノアはドンッと机を叩いて立ち上がると、キッと俺を鋭く睨んだ。


 ただ、俺にとってどこ吹く風だった。

 俺は小馬鹿にする様な笑みを浮かべて言い返す。


「何ですか、? 俺、何か悪いことしましたかね? 俺を産んだのは貴女でしょう? なら俺のせいにするのはやめて頂きたいですね」

「こ、この親不孝な———」

「———アンタに俺の母親を名乗る資格はない」

「な、なっ……」


 俺はエレノアの言葉を遮って睨み返す。

 これには流石のエレノアも言葉を詰まらせた。


「貴女は俺に1ミリでも愛情を持ったことがあるのですか?」

「そ、そんなの……!」

「ないでしょう? それどころか、子育てすらも全て貴女のメイドに任せていたじゃないですか。……同じですよ。俺は貴女を親とも何とも思っていないんです。だから俺にとって貴女の立場なんて……正直死ぬほどどうでもいいんですよ。だから———」



「———頼むから2度と俺に干渉してくれるなよ、エレノア」



 俺はそれだけ言うと、呆気に取られたエレノアから視線を切って当主を見る。

 当主は先程とは違ってニヤリと面白そうに子供の様な笑みを浮かべていた。

 俺はそんな当主を前に、肩をすくめる。


「クククッ……ガハハハハハハハ!!」

「「「「「!?」」」」」

「イルガ、お前……随分と変わった様だな?」

「変わったのではなく、吹っ切れたのですよ当主様」


 そう、先程の衝動は……間違いなくイルガのモノだった。

 イルガの記憶が俺の感情を揺さぶった。


 俺の返答を聞いたバルガスは、笑みを深めると……。



「———なら、お前の魔力が完全に消失したのも吹っ切れたからか?」



 バルガスの言葉と同時に———。


「随分と……物騒ですね」

「すいません、イルガ様。これも当主様からの御命令ですので」


 先程「当主様がいらっしゃいます」と言っていた燕尾服姿の男が———背後から短剣を俺の首元に突き付けていた。


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