第16話 兄弟
「———ふぅ、流石に緊張するな」
俺はマジックロード家の子息として貰った服に袖を通しながらため息を吐く。
一応イルガの記憶の中とファンブックでは家族を知っているものの、俺として実際に会うのはこれが初めてだ。
因みに今着ているのは、白を基調とした軍服の様なデザインの服だ。
胸元には、竜が杖を持った様な我が家の家紋が描かれたバッチ、肩から垂れるマントには我が家の家紋が刺繍されていた。
ズボンは俺が子供だからか、膝上くらいの長さの短パンだった。
「……窮屈だし動き難いな」
俺が、首元をどうにかもう少し楽にならないものかと弄ってみるも……まぁ大方予想通り大して変わらなかった。
諦めて部屋から出る。
「サーシャ、終わったぞ」
「大変良くお似合いです、イルガ様!」
サーシャがキラキラと瞳を輝かせて褒め称えてくれる。
その純粋な賛辞に、今まで殆ど何かを着て褒められたことがないのも相まって、少し照れてしまった。
俺は顔が熱くなるのを自覚しながら御礼を言う。
「……ありがとう。そう言って貰えると来た甲斐があった」
「そ、そんな! 私如きの称賛で満足などしてもらっては……」
「いや、お前だから嬉しいんだ」
俺からすれば、サーシャは絶対に信頼出来る相手であると言うのも大きい。
あと普通に妹みたいで可愛い。
ただ当のサーシャはというと……。
「ひぅぅ……」
顔を真っ赤にして撃沈していた。
どうやら俺もサーシャも、褒められ慣れてないせいで耐性ゼロらしい。
俺は何だか面白くて小さく笑みを溢した。
目的地の扉を開けると、俺の部屋ですら大したことないと思える程の豪華絢爛をこの世に顕現したかの様な煌びやかな部屋がそこにあった。
天井には巨大なシャンデリアが吊るされており、部屋の真ん中に10人程度なら余裕そうな長机に7つの椅子が置いてある。
「———おいおいイルガぁ……随分と遅いんじゃないかぁ?」
そして早速、俺より15センチ程身長の高い金髪赤眼の俺様系ビジュアルの中坊くらいのガキに絡まれた。
コイツはゲイル・マジックロード。
俺の3つ上の兄貴で、主に昔からイルガを虐めている1番の主犯だ。
まぁ中学生って思春期なのも相まって、1番虐めが多い時期なのでしょうがないと思っているが……正直鬱陶しい。
イルガはコイツを恐れていたみたいだが俺には関係ない。
俺は皮肉も込めて、笑顔で言ってやった。
「まだ集合時間になってませんけどね、ゲイル兄上」
「あ"ぁ? 1番下のお前が1番始めに来て当たり前だろうが!!」
ほら、挑発に乗って直ぐに熱くなる。
こんな奴が仮に当主なんかになったら世も末だな。
ま、これ以上は大人げないし、やめといてあげるか。
俺はキレるゲイルを無視して、既に椅子に座っている長男に挨拶をする。
「お久し振りです、マイロン兄上」
「ふっ……ああ、久し振りだな」
チラッと俺を見たマイロンは、何故か小さく笑みを浮かべてからメイドに持って来させたらしい紅茶に口を付けた。
長男のマイロンは確か今年で27歳のはず。
見た目は父親と同じ金髪赤眼、がっしりとした体付きで、精悍なイケメンと言った感じだ。
性格はクールで打算的だから、イルガを虐めたりはしていない。
大方、無関心と言ったところか。
ならさっきの笑みは一体何なんだと言われそうだが。
「おい! オレを無視するなッ!!」
「何ですか……ゲイル兄上」
俺の前に立ち、子供らしく怒りで顔を真っ赤にするゲイル。
余程自分より下だと思っていた俺に無視されたのが腹立たしかったらしく、俺に唾を飛ばす勢いで指差しながら喚く。
「イルガ、お前は自分の立場が分かっているのか!?」
「分かっていますよ、ゲイル兄上。俺は兄上と同じ、当主戦を戦うのですから」
俺が諭す様に言えば……遂に我慢の限界に達したのか俺の襟を掴んで怒鳴ってくる。
「こ、このクソイルガぁぁぁ……ッッ!! どうやらお前には思い出させてやらないといけないみたいだな……ッ!! 父上が来る前に棄権を選びたくなるくらいボコボコにしてやるよッッ!!」
ゲイルはそう吐き捨てると、俺の襟を掴む方とは反対の拳で、俺の顔面目掛けて殴り掛かって来た。
しかも身体強化まで施して。
ただ……世界最強の前衛と素早さ原作ナンバーワンのヒロインを相手にしていたせいかあまりに遅い。
この様子なら、俺の実力は既にゲイルとの一対一なら確実に上回っていると確信出来たので、適当にデコピンでもしてこの場を収めようかと思ったのだが……。
「———そこまでだ。もう直ぐ父上がお越しになる」
何とマイロンが間に入ってきた。
しかも魔法使いにしては随分速い動きで。
「あ、兄上……!」
「ゲイル、お前も少しはイルガの様に大人になれ」
「……っ、は、はい……」
どうやらゲイルはマイロンには逆らえないらしく、俺を睨みはするものの、大人しく自分の椅子に座った。
ならば俺も座ろうと椅子に向かっている途中で、すれ違いざまにマイロンが呟く。
「…………随分と、強くなったな」
「……そうでもないですよ。寧ろ、兄上の方が遥かに強くなった気がします」
たった一瞬の攻防だった。
お互いに探り合いを繰り広げたが、どうやら今回はどちらもボロを出さなかった様だ。
マイロンはそのままふっと軽く笑って再び椅子に座った。
……やっぱり当主戦での1番の障害物はマイロンだろうな。
俺は、あの一瞬である程度俺の実力を見抜かれたであろうことに、軽く戦慄を覚えた。
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