第13話 超絶キツイ修行①
「———ふぁ!?」
「はっはっはっ! まぁ初めて見た奴は皆んなそんな反応をするもんだ」
そう言って長さ100メートル、幹の太さ10メートル以上の一際大きな巨木を持ち上げた師匠が俺を見て笑う。
俺は完全にドン引きである。
えっ……いや、それ何トンあるの?
人間どころかモンスターでも持ち上げられないだろ……。
「……師匠って本当に人間ですか?」
「む、お主は儂を何だと思っている?」
「小さくなった巨人」
寧ろこのチートボディ(最低でも普通の人間の1000倍の力持ち)の持ち主の俺でも出来ないことをあっさりやってのける師匠を人間とは呼べないだろ。
そんな人間居たら見てみた……いるな、丁度俺の目の前に。
「よし、お主には最終的にこれを出来る様になってもらう」
「無理に決まってんでしょ」
「いや、出来る」
何故か確信を持って頷く師匠。
そして本当に理解出来ないが、突然巨木を此方に向かって振るってきた。
俺は咄嗟に手で巨木を受け止める。
「し、師匠!? うぐっ……ぐぐぐぐぐ……ぐはっ!?」
「はっはっはっ! 確かに力の使い方を分かっていない様だな」
そんな声を聞きながら———俺は野球ボールの様に吹き飛ばされる。
俺は何とか地面に激突する前に巨木の枝に手を引っ掛けて速度を殺すも、手が滑ってそのまま地面に尻から落っこちた。
「い、いったぁ……な、何するだよあの師匠……」
俺は痛む身体を無理矢理起き上がらせ、辺りに視線を巡らせる。
目測ではあるが……軽く数百メートル吹き飛ばされたと思う。
俺のチートボディで思いっ切り目を凝らせば、それこそ数百メートル先の1センチもない蟻を見ることも出来る。
しかし、そんな俺の目でさえも師匠の家は見えない。
「———当たり前だ。儂の家は誰にも見られない様に細工してある」
「し、師匠!? どうやって此処に……」
驚く俺に、師匠がカラカラ笑ってとんでもないことを言った。
「ランニングで来た」
「やっぱ師匠って人間じゃないでしょう?」
「いや、その内お主も出来る様になる。儂が見るに、お主と儂の身体能力に差は然程ない」
……この師匠は一体何を言っているのだろうか?
「そんなわけないじゃ無いですか。俺ではあんな巨木を持ち上げられませんよ」
「だから儂は、まずはお主に身体の制御の仕方を教える」
まぁ文句を言わずについて来い、と続けると俺に手を差し出した。
「まず、1番簡単な力の制御は———」
「うおっ!? お、重い……」
家に戻ってきた俺は、師匠から渡された腕輪を付けた途端に身体が重たくなる。
勿論立っていられないと言うわけではなく……それこそチートボディを手に入れる前のイルガの身体能力と同じの様な気がした。
「こ、これは……《重力制御装置》ですか……?」
「そうだ。お主は儂の様に徐々に力を強くしたわけではなく、【願い星の欠片】の力で儂並みの力を手に入れた。だからお主の感覚がまだ身体の出力に追い付いていないのだ」
それは……確かにそうかもしれない。
言われてみれば、何度も違和感を感じたことがある。
トロールとの闘いの始めなんかは特にそうだった。
「勿論、これはただ体に負荷を掛けているだけだから、肉体の免疫や再生能力は何ら変わりない」
「つまり……純粋な身体能力だけが落ちてそれ以外はチートボディのままと?」
「そのちーとぼでぃが何かは分からんが、お主の言っていることで間違いない。まずはその身体で、自分の思う通りに身体が動かせる様になるのが先決だ。あの身体能力は謂わば宝の持ち腐れ、猫に小判だからな」
そう言って師匠がニンマリと笑みを浮かべ始める。
同時に何故か物凄く嫌な予感がした。
「これからお主に、武術を教えると共に……基礎トレーニングもしっかりと積んでもらう。基礎トレは自分の身体について知る良い機会にもなるからな。まぁ最初は軽めに設定して……ランニング10キロ、腕立て伏せ・腹筋・背筋・スクワット500回だ。それとそれが終わった後に儂が適当な力で石を100回投げるから、それを避けるなりキャッチするなり対処しろ、その後でやっと武術指南だ。まぁ最初は武術指南とは言えど、姿勢や体重移動、正しいパンチや蹴りのフォームを教えるだけだがな。そしてそれを毎日、最低でも半年はやって貰う」
頭おかしいんか、この人間モドキ師匠。
これで軽めは本当に意味が分からない。
「は、はい? し、師匠……? お、俺の聞き間違いですかね……?」
「違う」
「そ、そんなの無理ですって……」
俺は、その、聞いただけで容易に辛さが想像出来るメニューに思いっ切り顔が引き攣るのを自覚した。
少したじろいで後退り。
因みに今の俺は、反射神経や動体視力、耐久力こそチートボディのままだが、敏捷性や今出せる筋力の出力は完全に普通の人と何ら変わらない。
つまり、某歌詞の様に『心が身体を追い越して』いる状況である。
どれだけ反応出来ても、それに身体はついていけない。
更に仮に肉体の疲労は再生能力で回復するとしても……精神的な疲れは回復されない。
そもそも肉体の疲労が再生能力で再生されるのすらも危うい。
やばい、師匠の笑みが悪魔の笑みに見えてきたぞ……。
恐怖で震える俺に、悪魔の様な笑みを浮かべた師匠が告げた。
「さて———じゃあまずは、この周辺を10キロ走って来い。勿論……全力で、な?」
き、鬼畜……!!
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