第14話 超絶キツイ修行②
「ごほっほごっ……や、やっと終わった……」
「ああ、やっと終わったな……10キロランニングが。次は腕立て・腹筋・背筋・スクワット500回な」
「鬼ですか師匠は!」
汗ダラダラな俺は、地面にぶっ倒れたまま叫ぶ。
風が時折吹くのが少し気持ちいい。
てか、こちとらもう既に動けないくらいなんだけど?
そんなことを思いながら睨むと、師匠が不思議そうに首を傾げた。
「まだこれでも1番優しいレベルだぞ」
「やはり師匠は人間ではなかったんですね」
「はっはっはっ! お主、やはり面白いことを言うな! ———とっととやらんか」
「…………はい……」
俺は何とか動けるまでに回復すると、一先ず腕立てから始める。
「い、1……2……痛っ!?」
「全然ダメだ。何だその腕立ては。しっかり頭を地面スレスレまで下げろ。あと腰を上げるな。勿論下げ過ぎてもダメだ」
「ちゅ、注文が多くないですか……?」
「お主がダメダメなだけだ」
くっ……確かに今まで一度も腕立てなんかしたことないけど……!
病弱だったからゲームしかしてなかったけどさ……!
何か言い返そうにも、全て師匠の言う通りなので言い返せないのが更に腹立たしい。
ただ俺は、50回くらいを過ぎると考えるだけ辛くなると分かったので、もうひたすらに無心で腕立てをすることにした。
「……ふむ、遅いな」
「もうドS過ぎるんだが、この師匠」
「し、死ぬ……マジで死ぬ……」
「嘘だな。お主の再生能力を持ってすればこの程度の修行など取るに足らんはずだ」
———7時間後。
俺が全てのトレーニングをやり終えた頃には、既に夜は暗くなっていた。
因みに筋トレを終えた後、石を避ける修行だったのだが……まぁ物凄くぶつけられた。
しかも加減すると言っておきながら、頭に当たれば普通に脳震盪を起こしそうなほどの威力で、である。
普通に野球の選手とかより断然速かったのはもはやバグだと思う。
そしてそんな物理連続攻撃が終わればやっと武術指南の時間だ。
ただこれは始めに言っていた通り、構えの姿勢やパンチを振り抜き方、蹴りの腰の入れ方などの本当に基礎的なことしか教えてくれなかった。
師匠曰く「お主には実践も武器もまだまだ早い」とのことらしい。
そしてこれでも物凄く色々と注意され、直されまくったのは言うまでもないだろう。
そんなこんなで真っ暗になって師匠の家に戻れば、待っていたサーシャが心配そうに駆け寄ってくる。
「い、イルガ様……大丈夫ですか……?」
「あ、ああ……サーシャか。大丈夫、じゃないかもしれん」
「ええっ!? ま、マグナス様!? 一体イルガ様に何をしたのですか!?」
サーシャが涙目で師匠に縋り付く。
流石に子供に泣かれると弱いのか、師匠は困惑した様にサーシャを見た後で俺を睨んできた。
ククッ、ほんの少しの仕返しだ。
「イルガ、お主は明日20キロ走れ」
「もう終わってるって……」
俺は今日より更にキツくなるのか……とゲンナリしながらソファーにもたれ掛かる。
そんなグッタリとした俺を見ながら、セニアがポツリと呟いた。
「ん、軟弱」
「お前も一度やってみてから言え」
「じゃあやる」
「…………本気で言っているのか?」
俺は思わずセニアの正気を疑う。
あの修行のキツさは、1度もトレーニングなどしたことがない俺でも、多分前世のどの部活とかスポーツのプロの練習よりもキツいと断言できる。
そんな修行をその場のノリでやりたいとか言う奴は間違いなく頭がおかしい。
俺からのドン引きの視線を全く意に介さないセニアは、相変わらず無表情でこくっと頷くと、師匠に向いた。
「ん、私もやっていい?」
「良いぞ。その代わり、女だからといって手加減はしないぞ」
先程までの柔和な笑みを潜め、ジッと鋭い視線でセニアを見て言う師匠の言葉に、セニアはあっさりと頷いた。
「ん、分かった。多分、イルガより出来る」
「喧嘩売っているのか貴様は」
「まぁそうだろうな」
「あぁ、此処に俺の味方は居ないのか」
「わ、私が居ますよっ!」
俺を貶す2人に傷心していると、サーシャが胸の前で両手を握って主張する。
そして俺が「ありがとう」と言えば、へにゃっとした笑みを浮かべるのだ。
その姿は懐いている犬みたいで、仮に犬の尻尾があれば、きっと大きくぶんぶん振っていたことだろう。
ああ、本当にサーシャは可愛いなぁ。
もはやこの世界で唯一の癒しと言っても過言ではないサーシャの頭を髪をすく様に優しく撫で回す。
何故か驚いた様な声を出していた気がするが、まぁ俺の空耳だろう。
「ん、イルガは鈍感」
「は? 何で?」
「せ、セニア様、イルガ様の悪口を言ったら私が許しませんよっ!」
俺の前に立って腕を広げて、セニアから俺を庇う様子を見せるサーシャ。
そんなサーシャの健気な姿に、セニアが思わずと言った感じで零した。
「……ん、サーシャ可愛い」
「ふえっ!?」
「良く分かってるじゃないか、セニア」
「い、イルガ様まで!?」
突然セニアに抱っこされて膝の上に乗せられたサーシャは、完全にキョトンとしていて現状を理解出来ていない様子だった。
「ん、このままでいて」
「ああ、同感だ。俺もサーシャには余計なことを見せない様にしているんだ」
「ん、ナイス」
「だろ? 我ながら完璧だと思う」
正確には俺じゃなくて本当の『イルガ』の方なんだけど。
こうして俺とセニアは此処に『サーシャの成長を見守る会』を設立することを決めた。
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