第12話 弟子にして下さい!!

 ———【闘神】に連れられて歩くこと10分弱。

 アレほど鬱蒼と茂っていた巨木が跡形もなく綺麗に切られている、少し開けた場所に辿り着いた。

 真ん中には一軒のこぢんまりとした普通の家が建てられている。 


「此処が儂の家だ」

「うわぁ……【闘神】様っ、これは全部【闘神】様がお造りになられたのですかっ!?」

「おう。儂の自信作だな」

「す、凄いですっ! お家を全部1人で造れるなんて……!!」


 何やらサーシャの興奮の仕方に、嘗て【闘神】と呼ばれて恐れられていた男は、まるで孫と接する様に嬉しそうに返している。  

 そんな横で、ぼーっと家を眺めていたセニアがポツリと零した。


「ん、よく分からないけど凄い」

「俺もセニア、お前の言っていることがさっぱり分からん」


 よく分かってないのに凄いってどう言うことですかね?

 俺の理解力がないのか?

 確かに現代文で小説の点数だけは悪かったけど。

 まあいいか。


「【闘し———」

「その名で呼ぶのはやめてくれ。もう捨てた名だ」

「じゃあマグナスさんで」


 俺がしれっと本名で呼ぶと、【闘神】改めマグナスさんが驚いた様子で瞠目した。

 

「お主……その名をよく知っているな」

「まぁちょっとツテがありまして」


 実際はただの知識チートなのだが、わざわざ本当のことを教える必要はない。

 と言うか、俺が転生者だと言うことはこの世界の誰にも教えることはないだろう。


「ふむ、まぁいい。取り敢えず此処はモンスターがウヨウヨいるから中に入ってくれ」


 そう言われて、俺達はチラッと後ろを見ると……ブラックサーベルやブラッディベアなどのA級モンスターが複数集まり、少し離れた所から此方をガン見していた。

 しかし、誰も決して巨木が無くなった場所には踏み入らない。

 恐らくと言うか十中八九、マグナスさんを恐れているのだろう。


「……やっぱマグナスさん凄いな……」

「……ん」


 因みにサーシャは、未だマグナスさんの家の壁を触ったりして目を輝かせていた。



  







「……お主の事情は分かった。ただ……」


 マグナスさんの部屋の中で、俺が【願い星の欠片】を使ったことなどの此処に訪れた理由を話すと、マグナスさんはコーヒーを飲む手を止めた。


「お主は……イルガは【願い星の欠片】を何処まで知っている?」


 何処まで知っているか……とは?

 

 マグナスさんのイマイチ要領を掴めない言葉に思わず首を傾げる。


 俺の理解では【願い星の欠片】は何かを対価にしてそれ相応の願いを叶える石、と言う程度でしかない。

 ファンブックにも、主役達が使ったわけじゃないので、それ以上のことは触れられていなかった。


「すいません、詳しくは知らないです」

「……そう、か」


 何か考え込むマグナスさん。

 そんな彼を見ながら、横でセニアが俺の耳元に口を寄せて聞いてきた。


「ん、彼は何者?」

「聞いてなかったのか? 生ける伝説だよ」

「……強いことしか知らない」

「ほんと大概失礼だな、お前」

「はっはっはっ! 良い良い。その歳で儂を知っとるイルガの方が珍しいんだ。あんなのもう数十年も前のことだ」


 俺とセニアのやり取りにケラケラと笑うマグナスさん。

 ただ、今回は完全に【闘神】のことを知らないこのお馬鹿ヒロインがおかしいだけだ。


 確かに【闘神】と呼ばれたマグナスさんが活躍したのは数十年も昔の話だが、今でも物語になったり実際に魔族との戦争があった地にはマグナスさんの昔の姿の銅像が建てられている。

 まぁゲームではマグナスさん自体サブストーリー的な感じでしか出なかったので、俺でも知らないことは多いが。


 一頻り笑ったマグナスさんは、サーシャが食べたお菓子の追加を持ってくると、俺にだけ威圧を掛けながら真剣な表情で尋ねてくる。


「ところで……イルガは儂の弟子になりたいんだったな」

「そうです」


 俺は威圧に耐えながら、頷く。


 流石に幾らこのチートボディを持ってしても、ストーリーの敵や主人公達の強さのインフレを考えるとストーリー終盤には完全についていけなくなる。

 更に俺は武術など全くしたことない、ど素人である。

 ただでさえトロールにも苦戦する今の俺では、絶対に生き残れない。

 

「俺は……この身体の力を引き出せていません。能力的には、この森のモンスターと引けを取らないはずなのに、毎回押されてしまいますしね」

「……確かに、魔力を失った者が魔法使いやモンスターに対抗するには、武術は絶対必要だ。だが……イルガ。お主は儂との修行で得た力を何に使う?」


 更なる威圧が俺に向けられる。

 この俺でさえ、冷や汗が止まらない程に。


 これは……完全に試されているな。


 それを肌で感じ取った俺は、ごくっと唾を飲み込むと、慎重に言葉を紡ぐ。


「……俺は、家族の中で落ちこぼれとして蔑まれてきました。今までは少し虐められるだけでしたが……後少しで当主戦が始まるんです」


 そう、後2年も経たない内に、マジックロード家では当主戦が始まる。

 その際、どう頑張っても魔力が無いのはバレるはずで……バレたら確実に兄貴2人に1番に殺す様に仕向けられるだろう。

 幾ら雑魚でも徹底的に排除するのが家のルールなのだから。

 そして、ストーリーでの破滅エンドを避けるため———。



「———俺は、この世界で俺の命を脅かす全ての敵から生き延びるための力が欲しい」



 真っ直ぐマグナスさんを見据えて言う。

 これが嘘偽りない俺の目的だ。

 彼には下手な嘘は見抜かれると踏んで、全て真実を告げようと思った。


 そしてそれが功を喫したらしく……。


「……よし、良いだろう。イルガ、お主を弟子にしよう」

「あ、ありがとうございます!!」


 こうして俺は、念願の【闘神】の弟子になることが出来た。

 

————————————————————————

 ☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る