第11話 ついて来た奴と……

「———……何か、弁明はあるか?」


 俺は、目の前で正座する盗賊系ヒロイン———セニアを仁王立ちで見下ろしながら問い掛ける。

 横ではサーシャがちんぷんかんぷんと言った風に戸惑いながら、俺とセニアを何度も交互に見ていた。 

 そんな2人の視線を浴びたセニアは……。


「ん。弁明、ない」

「ならさては頭おかしいのか、おかしいんだな?」

「……? 別に頭はおかしくない。正常」


 全く悪びれなさそうに、相変わらずの無表情で言い放ちやがった。


 こ、このクソヒロイン……。

 どうせ今まで【エンチャント・ステルス】か【ハイエンチャント・ステルス】で隠れてついて来ていたんだろうな。

 俺らが必死こいてモンスターを倒している時も!

 ……そう思ったらイライラしてきたぞ。


 きっと今の俺は怒りを必死に抑えているせいか眉がぴくぴく痙攣していると思う。

 ただ、何とかセルフで怒りの溜飲を下げて1番理解不能なことを聞く。


「……なら、どうやって此処まで来た? 俺達は転移石で来たはずだが?」

「ん、団のお宝売った」

「……は? アギトは許可を出したのか?」

「ん、もち。私が、イルガを追うって言ったら全部くれた」


 無表情のままVサインをするセニアに、思わず俺は頭を抱える。


 わざわざアイツらの生活費のために残してやったというのに、まさかの使い捨て転移石に換金しやがるとは……馬鹿なのか?

 アイツらこれからどうやって生活すんの?


 まぁ仮に自滅しても、俺からすれば完全に自業自得としか言いようがないので、もう考えるのはやめた。


「はぁ……で、何でついて来たんだ?」

「ん、イルガと話したかった」


 俺は話したくなかったよ。


「ん、気配感知なら任せて」

「寧ろそれをやらないなら絶対連れてかないからな?」


 セニアを睨んで念を押すと、こくこくと何度か頷いていた。

 まぁ全然信用出来ないが。


「……い、イルガ様……この方は……」

「ん、私はセニア。イルガのマブダチ。宜しくサーちゃん」

「1回しか会ったことないだろ。それに何でお前マブダチって言葉知ってんだよ。いや他にツッコミどころ多過ぎて捌き切れんわ!」


 俺は顔に手を当てて、今すぐにでも追い出そうか迷う。

 横ではサーシャが、フレンドリーに手を握ってくるセニアに苦笑いを浮かべていた。


 ……よし、つまみ出すか。

 年下に気を遣わせるお前は一体何なんだ。


「ん、私はセニア」

「ナチュラルに心を読むな」


 そういえば俺がセニアとこんな関わってて大丈夫なのか?

 主にストーリー展開的に。

 てか、一応此処、超危険地帯なんだけど。

 

 イマイチ緊張感が生まれないな……と俺はゲンナリしながらも、取り敢えず先を進むことにした。


「ん、楽しみ」

「やっぱり頭おかしいだろお前」











 …………セニアの奴、めちゃくちゃ使えるんだけど。


 俺は3人で目の前を歩く体長1メートル程の蟻型モンスター———軍隊蟻の大行列から気配を潜めながら思う。

 

 セニアが合流してから、既に数時間が過ぎてそろそろ【闘神】の住処に着くのだが……モンスターと戦うことは1度もない。

 それどころか、そもそも視認する前にセニアが言うもんだから今回を含めた僅か2回しか出会っていない。

 まぁ巨木が多くて隠れるのが容易なのもあるだろうが。

 

「……お前、やっぱり凄かったんだな」


 頭のネジは何本かぶっ飛んでるが。

 いや、それはゲームしていて分かっていたことか……主人公も振り回されてたし。


「ん、余裕」


 セニアは「ん、もう居ない」と言って先々歩き出す。

 このマイペースヒロインめ……と思いながらも言ったとしても通じないので、小さくため息を零して固まるサーシャに声を掛ける。


「サーシャ。もういいらしいから行くぞ」

「は、はいっ! ……それにしても、セニア様も付与魔法使えるのですね……」


 サーシャが前を歩くセニアを見ながらポツリと呟く。

 心なしかシュンとして肩を落としている。


 行く時に「任せて下さい!」と相当張り切っていたので、役割が取られそうで心配なのだろうか。

 別に気にしなくてもいいのに。


 俺はクスッと笑みを浮かべると、頑張り屋さんなメイドの頭に手を置いて少し乱暴に撫でる。

 サーシャは「わわわっ!?」と頬を赤く染めながらも、別段嫌がってはいないようだ。


「い、イルガ様!?」

「お前は自慢のメイドだ。幾らアイツが同じ付与魔法を使っていても……俺はサーシャの方が信頼してるし頼りにしてる。だからそんな落ち込むな」

「……っ、はいっ……!!」


 嬉しそうにはにかむサーシャを見て、ホッと安堵のため息を吐く。


 サーシャ、落第の烙印を押されたからか自己評価が低いんだよな……。

 ま、【闘神】に鍛えてもらって兄貴を1発ぶん殴らせたら、サーシャも自己評価高くなるだろ。


「ん、今、聞き捨てならない言葉が聞こえた」


 そう言うのは、振り向いて此方を見るセニア。

 心なしかムッとしている……ような気がしないでもない。


「セニア、お口チャック」

「……?? お口にチャックはない」

「マジレスやめろ。てか何でチャックは通じるんだよ……」


 そんな事をしていたその時———。



「……っ」

「おいおいこれは……っ」

「ひぅ……」



 突然、物凄い爆発音と共に、息も苦しくなって立てない程の圧迫感に襲われる。

 いや、俺は精々息が少しし辛いくらいだが、問題はサーシャとセニアだ。


 サーシャは顔を真っ青にして身体を震わせて脂汗をダラダラと流していた。

 セニアでさえも無表情ながら、少し身体が震えているので、相当ヤバい。


 いよいよ来たか……。


「意外と遅かったな」

「いやいやどんな威圧感してんだよ……!」


 俺達の前方に、軍隊蟻の女王蟻(限り無くS級に近いA級)の頭部を持った、白髪赤眼の見た目50代くらいのダンディーな風貌の1人の男が現れる。

 その男は俺達を見るなり楽しそうに笑みを浮かべて女王蟻の頭部を投げ捨てた。


「済まんな。少し邪魔な奴がおって退けてたんだ」

「……取り敢えず威圧何とかしませんか?」

「……済まない。最近人と全く会ってないもんでな」


 男がそう言うと、フッと全身を縛るモノが無くなった。

 チラッとサーシャとセニアを見れば、2人とも地面に手を付いて大きく息を繰り返していた。


「2人とも大丈夫か?」

「ん、バッチリ」

「だ、大丈夫です……」


 俺が安心して男の方を向かうとしたら……真横に男がいた。 

 全く気配も動きも感じられなかった。


「お主は……儂に用があるのか?」

「まぁ、俺とこっちのメイドはそうですね。1人は……頭のネジが外れた付き添いです」

「ん、ネジなんて外れてない。外れているのは常識だけ」

「なら何十本もネジ外れてんな!?」


 そんな俺とセニアの言い合いを見ながら。



「ふっ……面白い子供達だな。よし、いいだろう。皆んな儂について来い」



 ———【闘神】が笑みを溢して頷いた。

 


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