第3話 願いを一つだけ叶えてやろう(対価付き)
転生して、1週間が経った。
この1週間で俺は大体の状況を把握した。
まず俺は予想通り9歳で、サーシャは7歳。
家での扱いも俺の記憶している状況と酷似しており、最近ではそろそろ次期当主を決めるのではないか……と使用人の間で噂されていた。
流石我が家の使用人。
彼らの言っていることはほぼほぼ間違っておらず、次期当主を決める争いが始まるのは、今から約半年後のことなのだ。
まぁ俺は当主の座に興味ないが……争いからサーシャも守るとなると、まだ今の俺の力ではほぼほぼ不可能に近い。
当主争いの間は、平気で食事に毒を盛られたり刺客が送られて来たりする。
因みにウチの親は息子にドライで『死んだならそこまで』と考えるクソ親なので、全く当てにできない。
よって俺は———この時期に【願い星の欠片】を使用することに決めた。
今なら、1週間籠っていてもサーシャへの危害は殆どないと思うので、まだ安心出来る。
それに俺は、兄貴達に雑魚と認識されているため、恐らく今なら何をしても気にも留めないだろう。
それらの考えから……俺は、感激するサーシャに主人として命令する。
「サーシャ」
「は、はい!」
俺の雰囲気の変化を感じ取ったらしいサーシャがピシッと背筋を伸ばして返事をする。
そんなサーシャの肩に手を置き、耳元でコソッと呟いた。
「これから俺は、やらないといけない事がある。だから、1週間この部屋に誰も入れるな」
「えっ……?」
困惑するサーシャに、俺はダメ押したばかりに言葉を付け足した。
「サーシャ……これはお前にしか出来ないことなんだ」
「わ、私にしか出来ない……」
「そうだ。サーシャにしか出来ないし、頼まないことだ。それに……1週間、誰も入れなかったら一緒に森に遊びに行こう」
「……っ、わ、分かりましたっ! サーシャがイルガ様をお守りします!」
サーシャは一瞬驚いた様に目を見開いたが直ぐにキリッと目に力を込め、覚悟を決めた様に頷いた。
何故急に森に遊びに行こうと言ったかというと……ファンブックでサーシャはイルガと森にピクニックに行くのが夢だったと書いてあったからだ。
まぁ原作では結局一度もピクニックには行かなかったし、そもそも言わなかったらしいが。
だが……知っている俺からすれば、こんな健気な子の小さな夢を知らないふりなどできない。
そう言う考えもあり、少し卑怯だが、より意欲を出してもらうためにここで言ったというわけだ。
「じゃあ、頼んだぞ……サーシャ」
「はいっ!」
サーシャが俺に頭を下げた後……扉を閉めて鍵を掛けた。
「———さて、始めるか」
俺は長机に置いてあった研究材料を全て別の所に退かして、【願い星の欠片】だけを机に置く。
その横には水と万年筆と紙を用意する。
「えっと……まずは【願い星の欠片】を粉々に砕いて……」
俺は、研究室に置いてある《硬化》の魔法がエンチャントされたハンマーで、丈夫な紙で包んだ【願い星の欠片】を砕く。
硬度自体はそこまで高くないので、直ぐに粉々に砕けた。
「よし、これでオッケーだな。それで次は……濾過した水に全て注いで、っと」
すると———透明だった少量の水が、突然金色に光り輝き始める。
そして直ぐに粉は水に溶けて水は少し粘り気のある金色の【星水】へと変化した。
……気持ち悪いな。
この何とも言えない粘りと臭いが……。
「まあインクとするならこれくらいが丁度いいのか……知らんけど」
俺は万年筆を【星水】に付け、綺麗な紙に言葉を書く。
《我、イルガ・マジックロードは全魔力を対価に、それに見合った身体能力の向上を
「よし、これで大丈夫なはず———っ!?」
そう書いた紙は突然強い輝きを放つと、一人でに宙を浮き始める。
ここまでの描写は流石になかったので一瞬ビクッとしてしまった。
しかし、特に何も起こる様子はない。
「な、何だよ……ビビらせやがって……」
俺は盾にしていたドラゴンの鱗をそっと地面に置き……最後の手順に入る。
「……初めて手、切るな」
俺はナイフを持ち、掌に当てる。
そしてこれから襲ってくるであろう痛みに目を瞑り……ぎゅっと握る。
「いってぇえええええ…………あれ……?」
俺は突然痛みの引いた掌を目を開けて眺めて何の傷も出来ていないことに驚く。
しかし、目の前には結構な量の血が浮いており、【星水】で書いた紙の俺の名前の部分に吸い込まれる様に吸収された。
すると———。
「うぐっ……!? こ、これは……!?」
突然全身から可視化出来るオーラのようなものが噴き出し始めた。
それは紙にどんどん吸い込まれていく。
恐らくこれが魔力だろう。
「こ、これはマズい……ぐぅぅぅ……ぁあああああああああああ———ッッ!!」
全身から一気に力が抜けて行く感覚に立っていられず地面に倒れ込む。
目がチカチカしてきた。
頭が割れる様に痛い。
全身が作り替えられて行くかの様に激痛が走る。
呼吸がし辛い。
耳鳴りのせいで、もはや自分が叫んでいるのかすら分からない。
「くそッ……こんなにヤバいなら、ちゃんと書いとけ……クソファンブック……ッ」
俺は、目の前で全ての魔力を吸い終えたらしい契約書が、溢れんばかりの光を放ったのを最後に———完全に意識を失った。
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