第2話 まさかのアイテムゲット

「どうしたんですか、イルガ様? 私、何か変ですか?」


 ジッと見ていたせいか、何か変なのかと不思議そうに自分の体を見るサーシャに、俺は直ぐに違うことを伝える。


「いや、変なところはないよ。ただ、いつも通り元気だなって思っただけだから」

「勿論ですっ! イルガ様がいれば私も元気なのです!」


 ニパッと年相応な笑みを咲かせるサーシャは、別段嘘をついている様には見えない。

 本気で俺がいれば元気になれると思っているわけだ。


 俺からすればイルガの何がいいのかさっぱり分からないけど……サーシャは特別か。


 そもそもサーシャは、この屋敷に半ば奴隷の様な形でやって来た。

 何でも平民の平均魔力量の100倍もの魔力を持っていたかららしい。


 ここで、取り敢えず平民の平均魔力量を100だとしよう。

 サーシャはその100倍……つまり10000程の魔力を持っているわけだ。

 因みに俺の魔力は約100000、兄貴達は130000と155000くらいの量だとファンブックに書いてあった。


 おい、運営。

 兄弟に格差を付け過ぎだろ。

 ……チッ、化け物兄貴め。


 それで魔力量が多かったサーシャはマジックロード家の魔法士になるべく訓練を行ったが……結果は『才能無し』の烙印を押され、他の訓練生や兄貴達から虐められる様になった。

 しかし、ここで自分と同じ様な境遇のサーシャを放っておけず、サーシャを自分のメイドにする。

 イルガの唯一の善行と言ってもいい。


 その際イルガが父親に『僕のメイドに手を出したら魔力暴走を起こす』と脅しをかけたお陰でサーシャは虐めから解放され、こうして今は笑顔でいる。


 ……今思えばイルガ、元々頭のネジ飛んでないか?

 魔力暴走とか、一度起きたらイルガほどの魔力量なら誰も止められないぞ。

 と言うか、急に話変わるけどこの頃のイルガの話し方には慣れないな。


 ストーリーのイルガは上からモノを言う様な奴だったので、ファンブックでこの情報を知った時は随分たまげたものだ。

 やはりその人間を取り巻く環境が如何に大事なのかがよく分かる。


「さて……サーシャ、研究材料は何処にあるんだい?」

「あ、それはですね……えっと、付いてきて貰った方が分かり易いです!」


 やはりまだ小学生程度の年齢だから、メイドとは言え言動がたどたどしい。

 まぁ俺からすれば年相応で安心するが。


 俺は早く来てほしそうにぴょんぴょん跳ねるサーシャの姿に小さく笑みを溢して、彼女について行った。







 


 場所は変わってイルガの研究室。

 広さは30畳くらいだが、様々な器材や研究材料が置かれているせいで酷く狭く見える。

 そんな部屋で俺は……。


「———こ、これ……本当に俺の研究材料なのか……!?」

「はいっ! 頑張って見つけ出しました!」


 大きく目を見開いて驚いていた。

 それも、あまりの驚きに思わず素の口調が出てしまう程に。


 イルガの研究室の真ん中に居座る巨大な長机の上に様々な魔力の籠った植物や鉱物、果てには魔導具まである。

 しかし、俺の目に留まったのは一つの小さな輝く石だった。 

 

「……ど、どうですか、イルガ様? あ、これが気になるのですか?」

「あ、ああ……」


 サーシャが輝く石をそっと取ると、両手を俺の前に広げて嬉しそうに話し始めた。


「これなんですが……研究材料を運んでいた時に森でたまたまこの綺麗な石が落ちてたので拾って来ました! あ、えっと……お気に召しましたか……? それともやっぱり要らなかったですか……?」


 不安気に瞳を揺らして俺の顔色を窺うサーシャの肩に、俺は両手を置いた。


「———よくやった……よくやったぞサーシャ!」

「ふぇ……?」

「お前は最高のメイドだ! 何て有能で可愛い奴なんだ! 愛してるぞ、サーシャ!」

「ふぇ!? い、イルガさま!?」


 何故かサーシャが顔を真っ赤にして慌てふためいているが、今の俺は、自らの手にある輝く石に夢中だった。


 おいおいマジか……!

 こんなドンピシャなタイミングで【願い星の欠片】が手に入るなんて!!


 原作でイルガがこの石を使うのが11歳だからそれくらいの時期に手に入れた物かと思っていたが……まさかこの時期に既にイルガの手の内にあったとは、流石に知らなかった。

 

 ただ、11歳まで使っていなかったのを考えると……恐らくその時期にこの石の正体を知るキッカケがあったと言うことだろう。

 それが何かまでは不明だが……既に効果を知っている俺には必要ない。


「サーシャ、一週間の間はこの部屋に誰も入れるなよ」

「え、あ、はい! あ、あの……」

「? どうした?」


 俺は不思議そうに首を傾げるサーシャに訊くと、サーシャが言った。


「話し方……」

「あっ……」


 お互いに気まずい空気が流れる。

 サーシャは『指摘しては不味かったか』と言う様な顔で狼狽えている。

 かく言う俺も、先程の喜びはとうに冷めており、今はどう言い訳しようか必死に考えを張り巡らせていた。


 あー、マズいな……興奮で完全に口調作るの忘れてた……どうやって誤魔化そうかな?

 流石に即興の下手な嘘だと幾らサーシャとはいえ……サーシャ?


 俺が冷や汗をドバドバとかいていると、サーシャが突如何か思い付いた様にキラキラとした目で俺を見つめ出した。



「———もしかして……その話し方が本当の話し方なのですか……?」



 ……はい?


「えっ……?」

「やっぱりそうなのですね!? 私、本当に嬉しいです! あぁ、遂にイルガ様が私を信じて下さった……!」

「あ、ああ、うん。よく分かったな、さすがサーシャだ」

「ふわぁ……!! あ、ありがとうございます……!!」


 取り敢えずよく分からないが、何か勝手に納得してくれている様なので話を合わせる。

 そんな俺の言葉に更に目を輝かせて嬉しそうな笑みを溢すサーシャ。


 ……絶対彼女だけは守ろう。


 俺はサーシャのあまりの喜び様に罪悪感を感じながら、そう決めた。

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