紙装甲な悪役貴族の俺、膨大な魔力と引き換えにチートボディを手に入れる
あおぞら@書籍9月3日発売
第1章 魔力を対価にチートボディを
第1話 世界最高クラスの魔力持ちに転生
「———う、嘘だろ……?」
豪華絢爛で煌びやかな部屋。
電球ではなくシャンデリアが天井に吊るされており、ベランダと部屋を隔てる窓は全面ガラス張り。
部屋には一つ一つがウン百万円しそうな壺や絵、家具が置いてある。
そんな部屋で、思わず声が漏れた。
何故なら……此方もめちゃくちゃ高そうな姿見と呼ばれる鏡に映る自分の姿が、あまりにも見覚えがあったからだ。
気品を感じる高貴な金髪。
透き通った美しい碧眼。
女性が黄色の声を上げそうな程整った端正な顔立ちながら、目元にはくっきりと隈が出来ている。
身体は細く、身長もまだ低い。
その全てがどこからどう見ても俺がやっていた自由度の高いRPG———【勇魔大戦】のとあるキャラの過去の姿であった。
しかも……。
「よりにもよって悪役……!」
そう、俺が転生したキャラは悪役だった。
ゲーム終盤に出て来るくせに、魔法が強いだけで状態異常や物理攻撃に激よわで、魔法の対策さえすれば直ぐに死ぬ雑魚ボス。
付いた二つ名は『もやし』。
それが俺の転生した悪役———イルガ・マジックロードだ。
ただ、何故子供の頃の悪役の姿を俺が知っているのか。
ゲームに出て来るそのままの姿ならまだしも、今の俺は見た感じ9歳……日本で言う小学3年生程度にしか見えないこの身体で。
それは……俺の本来の身体が元々病弱だったため、『魔力』と『魔攻』以外のステータスが軒並み物凄く低いイルガに、少し親近感を持っていたからだ。
そのため、ファンブックで小さい頃のイルガの姿も知っていたと言うわけである。
「まぁ、逆に転生するなら一番嫌なキャラなんだけど」
だって前世は碌に外で遊べず殆ど一日を自室で過ごしていたんだから。
仕事も家で出来るモノだったし、何か必要なモノがあれば、お金を渡せば両親が買って来てくれた。
だから、殆ど外に出ていない。
「どうせ転生したんだし、念願の思いっ切り外で遊んだり、異世界ならではの剣を振るったりしてみたかったなぁ……」
大きな溜息が漏れる。
心の中で、愚痴が次々と沸き出た。
大体何で今世でも身体の心配しないといけないんだよ。
木登りとか川遊びとか海水浴とかウィンドショッピングとかしてみてーなぁ……ま、どうせ無理か。
イルガ、ストーリー上絶対主人公に殺されるわけだし———ん?
俺はそこで思い出した。
何故イルガの身体が激よわになったのか、という大事な情報を。
同時に———俺は笑みを浮かべた。
「ククッ、今世こそ、絶対に外で走り回るぞ……!」
その為に手に入れる。
対価を払えば願いを叶えてくれる超絶激レアアイテム———【願い星の欠片】を。
———完全に思い出した。
転生に気付いてから十数分。
遂に、イルガについて俺が知りうる全知識を思い出した。
イルガ・マジックロード。
魔法士の始祖の血を受け継ぐ魔法名家、マジックロード家の三男。
イルガが十歳になった年に、次期当主を決める『当主戦』が始まる。
魔力は世界でも有数の膨大な量を保持しているが、上の長男と次男はそれを超える魔力量を誇るため、常に見下されていた。
更に身体能力は至って平凡であり、身体能力の高い兄二人には逆立ちしても敵わない。
一方で想像力は兄二人を凌駕する程で、研究熱心な一面も持つ。
そして研究の際に手に入れた【願い星の欠片】と新たな魔法の開発のお陰で結局二人を退け次期当主の座に着く。
あとは……そもそもメンタルが弱いのが災いし、そこを魔族に上手く漬け込まれて身体を乗っ取られる。
そして魔族の力を向上させる為に学校中の生徒達を生贄として何かの魔法を発動させようとしたところ、主人公達メインキャラクター勢に倒されたというわけだ。
イルガは、この【願い星の欠片】を使うにあたって魔力を増やすための対価に肉体の弱体化を選んだ。
つまり逆に言えば、俺がこの膨大な魔力を対価にどんな状態異常も物理攻撃も効かないチートボディを手に入れることが出来ると言うことでもある。
この世界で魔力は重要だが、魔力がなくて困ると言うこともあまりない。
魔力体のモンスターには魔力剣を使えば何とかなるし、魔法も魔導具があれば大抵の魔法は使える。
日常生活には殆ど魔力は使わないしな。
……本格的に魔力要らねーな。
「よし、取り敢えず当分の目標は【願い星の欠片】を手に入れることだな」
あとは……身体を鍛える。
本当はもう一つあるが……この二つをやっていれば自ずと達成出来るので気にしない。
その他はどうでもいいか。
イルガは父親と母親に認めてもらう為に次期当主の座を勝ち取ろうとしたが、俺は正直次期当主に然程興味がない。
正直この世界のことは良く知っているので一人でも生きていける。
家族は俺にとってはほぼ他人のようなモノで、この家に一ミリも未練はない。
俺が真剣にこの家を出て行くことを検討していると……突然俺の部屋の扉を誰かがノックされた。
誰か何となく予測した俺は、口調を変えて『入っていいよ』と言うと、扉が開いてメイド姿の七歳くらいの少女がカチューシャと亜麻色の髪を揺らしながら、ひょっこりと顔を出した。
「イルガ様! つい先程、研究材料が届きましたよ! あ、おはようございます!」
「……うん、直ぐに見に行くよ。いつもありがとうね」
「感謝を言われるほどのことではありませんよ、イルガ様! 私はイルガ様のメイドですので!」
「……そうだね」
少女の名前は、サーシャ。
亜麻色の整えられた髪に、将来は誰もが振り向く美少女になるであろう整った顔立ちには輝かんばかりの笑顔を浮かべている。
彼女はまだ心優しかった頃のイルガから仕えているメイドで、最後の最後までイルガのメイドであり続け、主人公の毒牙に掛からなかった数少ないヒロインだ。
そして———イルガが主人公に殺されると共に死ぬキャラでもある。
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