第8話「シオン」
イオとガースが放つと同時、その荒れ果てた地には大きな爆破が起こる。それから逃げる様に、イオは飛行システムを起動し飛び上がり、ガースもまた大きく跳躍した。すると。
「もう少し頭のきれる存在かと思ったんだがな。随分と馬鹿な選択をする」
そう呆れた様子で放ちながら、ガースは背から生やした触角を蠢かせながらイオに向かわせる。が、イオも負けじとジェットブーストをかけながら避け、腕先から放たれる小型追尾弾でガースに攻撃をする。
「悪いな。俺は、お前らが知っている戦闘員よりも馬鹿だ」
イオが清々しい笑みでそう声を上げると、攻撃の頻度を更に上げる。がしかし。
「おせぇよ」
「っ!?」
先程までイオの数メートル先。イオよりも地上に近い位置に居た筈だというのに、声が聞こえて来たのは、背後。
ー馬鹿なっ!?この数秒で、裏を取られたのか!?ー
イオが目を剥き、異様な事態に戸惑いながら振り返ると。
「ごふぁっ!?」
ガースの顔を見るよりも前に、横腹に蹴りを入れられ吹き飛ぶ。
「グッ」
だが、それに耐えたイオは、空中でジェット噴射をし空中で向きを変えると、その勢いを殺す。が。
「根性はあるな。馬鹿なだけある」
「っ!?」
ガースはその一瞬の隙すら許さず、瞬時に目の前に現れると、今度は勢いを消させないというように、地面に向かってイオを蹴り飛ばす。
「ガハッ!」
「失せろ」
「クッ!」
地面に叩きつけられたイオに、触角を突き刺そうと放つがしかし、既のところで寝返りを打つかたちでそれを避ける。
「っと」
すると、勢いそのまま立ち上がり、イオは息を荒げながらも放つ。
「ば、馬鹿はお前だろ。俺を排除したら、カエ、、いや、そのフレアってやつの居場所が分からなくなるぞ?」
「いや、それはない」
「なっ」
さらっと否定を返されたイオは、目をピクリと動かし歯嚙みする。
「どういう事だ?」
「ラミリスを完全に殺したいのであれば、もう少し用心した方が良かったな。...いや、その時お前はもう倒れていたか」
「何?」
イオは、その一言に目の色を変える。そんな言い回し、他に無いだろう。即ち、ラミリスはまだーー
「あいつが、生存してるって言いたいのか、?」
「言いたいじゃない。事実だ。ラミリスが液状化し、お前らの後を追いかけたんだ。故に、俺は既に貴様らのアジトを知っている」
「っ!?」
思わず動揺を露わにする。恐らく、イオが倒れ、カエデとイクトで地下に向かっている際だろう。それを察したイオは、体を震わす。
ー嘘だろ、?あの時、駆除に失敗してたのか、?ー
駆除ののち、必ず後処理をするイオは、今までその様な過ちを犯した事は無かったのだが、その際は倒れており、その場に居たのはイクトだったのだ。イオには、どうする事も出来ない。
ーあいつ、、だからしっかりと駆除後分析システムで確認しとけとー
この場には居ない戦闘員に、イオは怒りを覚える。だが、それならばと。尚更疑問が浮かぶ。
「なら、、何故だ?」
「ん?」
「何故場所を知ってるならそこに行かなかった?俺が外出してる今、連れ帰るなんて容易い事だろ?」
イオは目を細め、疑いの目を向ける。すると、ガースはその様な事も分からないのかと首をゆっくりと横に振ると、顔を上げ答えた。
「そんな事をしたら貴様らの様な存在と同じになる」
「何っ?」
「俺は律儀な存在だからな。現在フレアと共に居る貴様に一度話をしておこうと考えたんだ。それに」
ガースは、眉間にシワを寄せるイオにそこまで告げると、一呼吸置いて付け足す。
「ただ連れ帰る事も、お前に否定されこうして戦う事も、俺には容易い事だ。どっちみち、結果は同じだからな」
「っ!?」
イオはその自信に満ち溢れた、いかにもな挑発を受け、歯軋りする。拳を握りしめ、またもやブーストを始める。こいつには。
こいつだけには、カエデは渡さないと。
イオは強く足を踏み出す。が、それを遮る様に、ガースはふと口にする。
「にしてもお前。戦闘員ってのは人工的に造られた存在なんだろ?それなのに、息が上がったりするんだな」
「...何が言いたい?」
低く唸るイオに、一方のガースはニヤリと微笑んで伝える。
「いや、ただ。もっと呆気なく終わりそうだな、と思ってな」
「チッ、随分と調子に乗ってるみたいだなっ!」
イオが叫び、ガースに向かう。それと共に近距離でミサイルを放ち、それを受けたガースの顔面に蹴りを入れる。
「よっ」
それによりバランスを崩したガースに追い討ちをかける様に、横腹に蹴りを入れると、そのまま顔面に向かってゼロ距離でミサイルを放ったのち、イオは飛躍する。
が。
「足りねぇよ」
「っ!」
ミサイルによる煙の中から同じく跳躍して現れたガースが、目の前に迫って来た。と、その直後、同じく腹に蹴りを入れようとして来たものの、イオは反射的に脚で防ぎ殴りを入れようとする。がしかし。
「クッ」
「おせぇんだよ」
それは背からの触角で防がれ、それにより疎かになった足を別の触角で掴まれ放り投げられる。それに、またもや空中で留まる事により威力を消すと、こちらもと言うように背から粘着式ミサイルをガースに放ちながら、腕で徹甲榴弾を放つ。それすらも避け粘着式以外を見極め触角で撃ち落としながら、イオに接近戦を行うガース。そんな中、イオはカエデを考えていた。
身勝手な事をしてしまったと。知らないところでこんな強大なレプテリヤと戦闘を行うなんて。
ーフッ、カエデに、また怒られてしまうな。戦う意思のないレプテリヤに、手を出してー
そんな事を思いながら、イオはほんのりと微笑み攻撃を続ける。
と、それをしながら行なっていた分析を終え、イオはガースの情報に目をやる。
相手はヒト型のレプテリヤ。個体名はガース。コアの位置は普通のレプテリヤ同様胸の位置に一つと、これまでのヒト型と比べると極端に平凡であった。
何かを隠している可能性もあるが、今までの様に特殊な攻撃をしてくる気配も無ければ、その様な素振りすら見せない。ヒト型は何かしらの特殊な特徴を持っていたのだが、それはその中でも上位の存在であったからなのだろうか。そうイオは悩む。
ガースにはそんなものを使わなくとも勝てるという自信から見せていないのか、はたまた本当に存在しないのか。それの答えは見つからなかったがしかし。これだけは言える。
「ごはっ!」
「本当に馬鹿みたいだな。お前は」
「ぐはっ」
全力で向かったイオを、華麗に。いとも容易く捻じ伏せるガース。
これは、間違い無いと。
ー確かに、レプテリヤ内で慕われている存在なだけあるなー
特殊な能力なんてもの知るか。それを隠していようがいまいが、それ以前の問題である。イオは、触角だけの攻撃と、その異常なまでの運動神経に、圧倒されたのだ。
「クッ、ごはっ」
「やはり根性はあるみたいだな」
それでも尚立ち上がるイオに、ガースは淡々と告げる。
「にしても、人工的に造られた存在であるお前らも、血を吐き出したりするんだな。どうしてわざわざそんな不要な部分を残しているんだ?」
「しっ、知るかよっ」
イオは口元に付いた赤黒い液体を腕で拭き取りながら吐き捨てる。
「そういう情報は、そのもの自体の方が知らない事が多いもんだぞ」
「なるほど、俯瞰的に観察し観測出来るものがそれを制す。それ自体にはそれが当たり前であるが故に答えどころか疑問すら湧かない。か、ならば、自身で調べる事にする。貴様を解体してな」
「やってみろ。俺も、お前の隠した能力を見させてもらう」
「無理だな」
ブーストをかけた状態で跳び出すと、イオはガース殴る。と、見せかけミサイルを放ち、予想通り触角でそれを防いだガースは、それによって視界が僅かに妨げられる。その隙を狙って、イオは頭上に飛び上がる。と。
「俺だって、それくらい出来るぞ。チェーンメタル」
イオは空中でそう叫ぶと、背中から鎖を四本程出しガースに向かわせる。
「真似事が」
がしかし、視界が妨げられていた筈だというのに、ガースはそれを避けて触角でイオを追い詰める。だが。
「真似事でも、一を十に出来れば」
イオが掛け声の様にそうぼやくと、先程躱された鎖の向きを変更させ、伸ばした触角を掴む。
「っ」
「な?」
イオがニヤリと口角を上げると共に、大きく振ってガースを飛ばす。だが、空中で一回転し直ぐに軌道をイオの方向へと戻す。
「なっ、ジェットも無いのに、、どうなってんだ」
歯嚙みし零すと、イオも負けじと鎖を腕の代わりの様に動かしガースを狙いながら、腕でミサイル。肩から追尾弾を放ち、ガースに着実にダメージを与えていく。
「...」
ガースは無表情のままだったがしかし、鎖が肩を抉り、横腹を抉り、まるでレプテリヤの触角の如くダメージを与え続ける。だが。
「そんな甘い考えで俺に挑もうとするな」
「っ!」
四本の鎖と両手から放たれる攻撃、更には肩からも同じく攻撃を続けていた。それなのにも関わらず、ガースはその間を抜け、イオの目の前に来たのだ。更に、驚いたのはそこではない。
目の前に現れたガースには、傷が見受けられなかった。
ー何っ!?既に回復してー
「ごはっ!」
イオが驚愕し、脳内でそれを思った瞬間。現実に引き戻される様に、腹に拳という名の一撃を喰らう。それによって飛ばされるが留まり、イオは負けじと攻撃方法を追加する。
「これでも足りないか、、なら、チェーンメタル、プラズマ」
イオはその鎖に電気を流し、更に殺傷性を高める。がしかし、それをいとも容易く避けながら、ガースは変わらずズンズンと接近する。
「クッ、させるか。インパクト」
「っ」
イオはたまらず腕からインパクトをガースに向かって放ち、それにより距離を取る。相手は触角による攻撃及び、殴りや蹴りなどの接近戦がメインである。更には触角にも長さの制限があり、それ以上の距離を保つ事が出来れば、イオの圧倒的有利になる。筈だというのに。
ークソッ、距離をとってもとっても近づいてくる、、まるで、それが怖くない様に、、っ!ー
イオは、そこまで考え理解する。ガースの特殊な部分。それはーー
「分かったか。俺に脅しは効かない。俺の身体は、不死身だ」
「っ!」
突如背後に現れたガースは、それを放つと共にイオを蹴り付ける。が、二度も同じ手は喰らわないというように、鎖で体を包み守ると、それを弾けさせガースを退けたのち、蹴りを入れる。が、それに対しても防ぐガースに、予想通りだと。脚から小型ミサイルを飛ばし、ダメージを与えると距離を取る。
ー不死身、?それがこいつの能力、、いや、だがあり得ない。レプテリヤのコアは生命線であり、それが存在する以上、不死身になるはずがないー
イオは眉を顰めてガースを見据える。再分析を行うものの、確実にコアは存在していた。それ故に、イオは察する。ガースは不死身では無く、再生が恐ろしく早いが故に駆除される事を恐れないのだと。
「ならっ、教えてやるよ。お前に恐怖を」
「随分と面白い事を言うな」
イオが宣言し空中で更に飛び上がると、ガースはそれを追う様に触角を伸ばす。それをイオは避けながら、全身から大小様々なミサイル及び爆弾を放つ。がしかし、それを全て避けるガースはイオに向かい続け放つ。
「口だけは達者な奴だな」
「ごふぁっ!?」
突如、イオの右脚に衝撃及び激痛が走り、口から赤い液体を溢す。
ー何っ!?まさか、下から、?ー
そう。何本もの触角に追われていたため、そちらにばかり気を取られていたものの、どうやら大回りをしイオの死角となっていた足元から攻撃されたのだ。と、その時になって理解する。
「クソッ、させるか」
イオは、それを確認し近づくガースに、誘き寄せたと言うように、突如背から鎖を出して放つ。
「フッ、だから無駄だと言っただろ?」
「本当にそう思うか?」
鼻で笑うガースに、イオはニヤリと。試す様に笑ったのち、鎖を僅かに触れさせる。
「っ」
「ちょっとビリッとするかもな」
その鎖には既にプラズマを放っていた様で、それに触れたガースは僅かに隙が出来る。
「やはり生命反応のある生命体に過ぎない。一定量以上の電気を受けたら体は直ぐには反応出来なくなるぞ」
イオはそう不敵な笑みを浮かべ、気合いで突き刺さった触角を引き抜くと、今度はガースの背後に回り込む。
「これで終わりだ。ゴミ」
イオの一言に、ガースは振り向いた、と瞬間。
「インパクト!」
「っと」
「!」
ほんの僅かに遅れたためか、ガースはイオの一撃を避け、反撃のため眼前に近づく。
だが。
「フッ、予想通りだ。間抜け」
「何、?」
イオはニッと口角を上げ放つと、勢いよく近づくガースに向かって腹を開きーー
ーーイオは放つ。
「ジェットストライカー」
「っ!」
その場一帯が爆発し、焼き払われるくらいの衝撃が襲う。幸い、辺りはヒビ割れた土に破壊された瓦礫が散乱する、いつもの光景だったがために、安堵する。花は、無事だと。
「っと、、はぁ、はぁ、、これで、、どうだ、?」
今まで、数多くのレプテリヤを葬ってきた一撃である。その衝撃は凄まじく、それを放ったイオ自身も、破損をし被害を負って、ゆっくりと降下する。その先には、それによって舞った砂埃や煙が浮遊しており、ガースの状態が確認出来なかった。が、刹那。
「っ!」
瞬間、イオの目の前に触角が現れ右の横腹を抉る。
「がはっ!」
横腹が剥がれ、中の基盤が見え隠れしながらイオは思わず崩れ落ちる。そんな姿のイオに、ガースはその煙や砂埃の中からゆっくりと現れる。
「誰が、、間抜けだって?」
「クッ」
そこに現れたガースは無傷であり、再生が完了したのが見て取れた。
ーあ、あれでも、駄目なのかよー
イオは思わず歯嚙みする。ラミリス相手にも通用し、イクトの協力もあったものの駆除に成功した一撃である。それなのにも関わらず、ガースはそれを受け、直ぐに再生してみせたのだ。それに、ありえないと。イオは拳を握りしめ信じきれない現状に愚痴を漏らす。すると。
「はぁ、、哀れだな。そんな姿になって」
「ハッ、、ラミリスにも言われたな、そんな事」
「言いそうだな」
「だが、その後もっと哀れな姿になったのはあっちだ」
イオは、挑発的に微笑みガースに放つ。それを、無言で見つめたのち、イオの目の前でしゃがみ込みふと口にする。
「お前が何もしなければ、俺だってお前をこんな事にはしなかった。大人しく、フレアを返してくれさえすれば良かった。それだけなのに、、哀れだな」
「そう、簡単に渡すかよ。カエデを」
イオは何を思うでも無く、そんな言葉が口をついて出た。その言葉には、嘘や偽りなんてものは存在しなかった。
「はぁ、言ってくれるな。フレアは元々俺らと共存していた。それを奪ったのはお前だ」
淡々と放つガースを、イオは睨みながら考える。本当にそうだろうか、と。カエデを奪ったのはイオでは無い。更には、こんな結論を出す様にイオを変えてしまったのは、カエデでは無いか、と。そう脳内で思うと同時に、ニヤリと笑って掠れた声で返す。
「恨むなら、カエ、、いや、フレアを恨むんだな」
「何言っているかは不明だが、そういう結論を出すならば話は早い。ここで消させてもらう」
ガースはそう呟くと、既に対抗策が無いイオに触角を放ちとどめを刺そうとする。それに思わずイオが目を閉じた。が、それがイオの顔目の前に到達した瞬間。
ガキンッと。
「何、?」
「な、」
突如鈍い音が響き、イオは目を開く。
「なんだ、これ」
目の前には、イオを触角から守る様にして、盾のようなものが現れていた。
「...これは」
それに興味深そうに呟くガース。それを横目に、イオはその盾が出てきたであろう部分を辿って見据える。
そこは、イオの腕だった。
「なっ」
即ち、イオの腕から出ていたのだ。だが、こんなものは今まで見たことがないと、そう焦りを覚えた、その瞬間。
「あ」
『イオの体にもナノマシンが入ってるから、もしもの時はそれで生成する事も可能に!』
ふと、カエデの言葉が脳を過る。そうだ、忘れていた、と。
ーそういえばNo.190のナノマシンを俺の中にも搭載したと言ってたな、、なら、これはー
イオがそう思うと同時、ガースは一度触角を戻してから、再び向かわせる。
「興味深いが、その反応。お前もよく分かっていないみたいだな。それなら、破壊して俺が確認する」
そう吐き捨てながら、今度はイオの顔面に触角を向かわせる。だが。
「ソード」
「!」
イオは手に付いていた盾を振り上げると同時に呟くと、それがサーベルに変形し迫っていた触角を斬りつける。
「なるほど、、これは使えるな」
感心した様に呟くイオと同じく、ガースもまた脳内で理解した。
ーなるほど。あれは変形が出来るのか。俺らと同じ様にー
フッと。自身の真似事しか行わないイオに嘲笑すると、触角を向かわせながら、同時にガース本体も向かう。
「お、シールド」
イオがそれに気づき呟くと、それはまたもや盾へと変形し触角を防ぐ。すると、それによって全ての触角を防いだ事を確認したイオは、それを剣の様なものに変形し杖代わりにして立ち上がる。
と。
「フレイムバースト」
「...」
こちらに向かうガースに向かってそれを放った直後、剣を振る。
「っ」
直前に放ったフレイムバーストで、目の前が爆発し視界が妨げられたのを利用し、その瞬間を狙って剣で斬りつける事に成功する。がしかし。
「ぬるぃよ」
「っ!ジェットサポーター!」
その短時間で、斬りつけたはずのガースの顔が再生し終わっているのを目撃し、イオは慌ててそう叫ぶと剣だったものを投げる。と。
イオは背中からジェットを出し飛び出すと共に、空中でサポーターに変形したナノマシンとジェット先が合体する。そう、ナノマシンは先程のジェットストライカーで負傷したジェットの先端部分を補強したのだ。
「興味深い」
空中に逃げるイオを見つめガースはそう呟くと、同じように飛躍して追尾する。
「させるかっ。高電圧プラズマ」
イオは空中で向きを変えガースに直ると、そちらに向かって体からレーザーの様なものを出す。だがしかし、それも同じ事だと言う様に。鎖の時と同様、華麗に避けてみせる。
「まだまだだ。小型手榴弾」
それを避けた先を予想し、イオは小型爆弾を左手から放ったのち、空中で一回転してナノマシンを分解する。
「飛行システムオン。ナノテク、ソード」
イオは呟く様に放つと、ナノマシンはサーベル型に変形し右手で握られ、ジェット飛行と飛行システムのジェットをフル稼働させてガースに向かう。
「何っ」
「おらっ!」
先程の手榴弾を触角で破壊したのち現れたイオに、僅かに声を漏らしたものの、その剣を既のところで防いだガースは口角を上げる。
「変形は、元々俺達レプテリヤの能力だ」
「そうかよ」
イオもまた口角を上げて返すと、背から鎖を出して背後から狙う触角をそれぞれ防ぐ。
「お前、四本が最大の様だな」
「だからなんだ。それで十分だ」
挑発的に笑うイオに、現実を見せる様に、ガースは一度触角で剣を弾き距離を取ったのち、腕を変形させて剣を作り出す。
「っ」
「言っただろ?変形は俺らの能力。お前らはほんと、真似事ばかりだな」
「俺からすればお前がだけどな」
ニヤリと。いつもの強敵に遭遇した際に見せる笑みでイオは声を上げると、六本程の触角を四本の鎖で防ぎ斬りつけ対応し、ガースの腕についた剣を、ナノマシンのサーベルで弾く。
「それだけだと思ったか?」
イオは僅かに息を漏らしながら零すと、肩からミサイルを。横腹から高圧線レーザーを。腕から追尾弾、足から小型徹甲榴弾をそれぞれ放ち、全機能を駆使してガースを追い詰める。それを、残りの二本の触角で防ぎ破壊しながら避け、イオの接近攻撃を剣で対処していたガースだったが、次の瞬間。
「どちらが本物か、見せてやる」
「っ!」
突如背から、更に四本の触角が現れたかと思った矢先、それが一本の巨大な触角に固まり、先程抉り取ったイオの横腹を狙う。
「クッ、シールド」
それを一瞬で見据えたイオは、慌ててナノマシンを盾へと変形させてそれを防ぐ。そののち、その勢いで回転し、その中でナノマシンを槍の様なものに変換させてガースに突き出す。
「っ」
「どうだ?リーチはっ、こっちの方が長くなったぞ?」
イオが試す様に告げると、ガースもまた微笑み、先程の剣を今度は同じ槍にへと変形させる。
「クソッ、それも出来るのか」
「舐めるな。ガキ」
接戦であった。何かに変形するとガースもまた対応し互角の力を見せる。だが、リーチの長い槍を"持っている"イオの方が、コントロールが疎かになっていた。故に。
「クッ」
「どうした?狙いが悪いぞ」
追い詰められ始めたイオは、目つきを変え、同時に向かう触角に対し盾に変形させて防ぎ、槍に戻すと、刹那。
「おらっ」
「っ」
それを、投げる。
「間抜けが、唯一の武器を投げるとは、、っ!まさか」
その奇行にため息を吐くガースだったがしかし、イオのその自信に満ち溢れた表情に何かを察し、振り返る。と、そこには。
「っ」
槍は既にナノマシンに分解されており、それが小さな塊にそれぞれなってガースの周りを囲んでいた。
「行くぞガース、耐えろよ。レーザーカッター」
「クッ」
イクトが行っていた、ナノマシンをそれぞれに分解して固め、そこから不規則にビームを出す戦法。それを行いながら鎖で触角の動きを封じ、更に全身から攻撃を放ちガースを追い詰める。だが。
「馬鹿は必死に考えても馬鹿だな」
「何っ」
ガースは両腕を盾に変形させて、それを全て防ぎながらイオに突進する。それに目を剥き更に滑空する事で避け、ナノマシンを回収すると、今度はそれを二つに分散させて腕につける。
「なら俺もそれをさせてもらう」
「ハッ、やはり真似事でしか対抗出来ないみたいだな」
「ああ。だからこそ、早急なラーニングがこの場を制す」
イオが放ち、両腕についたナノマシンを拳の形に変形させてメリケンサックの様なものにすると、続けて接近戦を続ける。そこからも、両者一歩も譲らない接戦が繰り返された。接近戦にガースが拳で対抗したのち、剣で破壊すると、それをまたもや分散させてレーザーで追い詰め、それを盾で防いだ瞬間、ナノマシンを剣に戻して斬りつけ。それを盾で防がれたのち、相手が剣に戻す一瞬の隙を狙って槍にし投げ、それをまた分散させてレーザーを放つ。
同じ様な攻撃法ではあったが、それは着実に両者の力を削り始めていた。それに気づき、イオがそのままケリをつけようと背中から砲台を出して左右の横腹から高圧線レーザーを出し、それを全て腕で受け止めたのち、分散させたナノマシンに対応しているガース目掛けて巨大な一撃を放つ。
「真似事ばかりじゃない。これが、俺の本来の力だ。インパクト!」
だが、それにも涼しい顔をして対応し避けると、イオの右側に現れる。それは、先程抉られた横腹の方向であった。それに目を剥いた、イオは。
微笑んだ。予想通りだと。
先程と同様、傷を負っている場所を狙ってくるだろうと予想していたイオは、それに気づくと同時に向きを変え、腹を開きまたもや放つ。
「ジェットストライカー」
「何っ」
同じく、その場一帯には巨大な爆発と轟音、及び衝撃が走る。それに、全てを終えたとイオが地に戻り息を吐いた。その瞬間。
「だからあめぇよ」
「っ!」
突如、真上に現れたガースにイオはギョッとし退きながら、慌ててナノマシンを手元に戻して剣の形にし防ぐ。
「クッ!あ、あれを、、避けたのか!?」
「だから。あの程度で勝った気になってんのが甘いんだよ」
「クッ」
イオは、必死で地面に踏ん張りガースの一撃を防ぐ。だが、その矢先。
「っ!」
パキッと。イオの体から音が漏れ出て全身が軋む。それにより、ハッと思い出す。
カエデは、修理にイクトの力を借りたと言っていた。それは即ち、アップグレードのためにナノマシンを入れた。と言うよりかはーー
ーー体の破損部分の補強のためにナノマシンを使用したのだ、と。
「クソッ」
それを理解した時には既に遅し。補強をしていたナノマシンを取り出し武器として使用していたが故に、イオの体は既に限界を越えており、次の瞬間。
「がはっ!」
言うことを聞かなくなった体は、ガースの一撃にいとも容易く吹き飛んだ。
「ごはっ」
それによって数メートル先に吹き飛ばされたイオは、瓦礫に激突し力無くもたれかかる。そんな姿を見据えながら、ガースは近づき口を開いた。
「どうしてそこまでする。フレアは大した情報源にはならないとあれ程言ってるだろう」
「ち、、違う、」
「何が違う。他の理由があるわけでも無いだろ?」
その、分かっていると言わんばかりのガースの姿勢が気に入らなかった。フレアは、いや、カエデは。そんなものの、そんなちっぽけなもののために渡さないんじゃない。イオは歯嚙みし顔を上げ、ガースを見据え放った。
「俺は、、カエデと。...フレアと、、もっと一緒に居たいんだ、」
「っ!」
その本気の表情と声音、言葉に、ガースは目を疑う。これが、本当に戦闘員なのか、と。
「一緒に居たい、、だと?ありえない。...どうせ、そうは言っても連れて行くんだろ?研究のためだとか抜かした事を言って」
ガースは震えた声でそれを放つ。だが。
「違う。...俺は、もうあの場所にカエデを連れて行く事はしない。...カエデを、誰にも奪わせない、、俺は、あいつと一緒に居るって、、決めたんだ」
「何故だ、、何故戦闘員であるお前がそんな事っ」
少し前まではイオにも分からなかっただろう。この感覚、この胸のざわめき、この切なさ。分からなかった。だからこそ、カエデには疑問を投げかけ続けていたのだ。だが、今なら分かる。
「俺は、、カエデを失いたくない。あいつが俺に抱いていたものと同じ感覚だ」
「そうか、お前、、お前はもう、戦闘員じゃ、ないんだな、」
その強い視線と言葉に目を見開き、ガースは理解する。そうか、イオは既に気づいてしまったのだと。だが、それを理解しても尚。いや、それを理解したからこそ、ガースは目つきを変えた。
「ふざけんな」
「何、?」
「ふざけんなよ。そうやって、、自分の気持ちに気づいたらわがままにそう駄々こねて。それまでそいつらに見向きもしないで駆除してたんだろ?」
「...それは、」
イオは、以前の自身であればもち太郎も駆除していたであろうと思い返し、目を逸らす。その反応で図星であると察したガースは一歩近づき声を上げる。
「な?そうなんだろ?ふざけんなよ。そうやって今まで駆除してきた相手に感情を持って、そしたら今度は連れて行かないでくれって言うのか?都合が良すぎんだろ、ゴミ」
「...クッ」
一歩、また一歩と、ガースは怒りを露わにしながら近づく。それに対し、イオは何も言い返せなかった。寧ろ、返せる言葉が見つからなかったのだ。すると、そんな様子のイオに、ガースは胸ぐらを掴んで引き寄せ声を荒げた。
「たとえどんだけ喚こうがフレアは連れて行く。今まで無慈悲に俺らを駆除し続けたお前を、今度は俺が無情にも破壊してやるよ」
「...ハ、、好きにしろよ」
「ああ、そうさせてもらう。そして、絶対に取り戻してやる、フレアを。俺の、大切な妹を」
「...えっ」
最後に付け足されたその予想外の言葉に、イオは目の色を変え声を漏らした。
☆
「きゃっ!」
地下に居るというのに、目の前で爆破が起こったかの様な衝撃がカエデを襲い、思わず声を上げる。
「な、何、?」
「キュ〜」
「地震かな、?大丈夫、、大丈夫だよ、もち太郎」
カエデは、寄ってくるもち太郎を抱き上げながら、地下の入り口付近を見据える。
ーイオ、、大丈夫かな、?ー
胸の奥がザワザワとし、嫌な予感がした。この揺れは、普通では無い。何かしらのレプテリヤが現れたのは間違い無いだろう。それに、冷や汗をかき立ち上がる。
まさか、イオが、関係しているのでは無いか、と。
そう思った矢先。
「キュッ!」
「あっ!だ、駄目だよっ!あっ、ああ!駄目!外は危なーーって」
突如腕から飛び出したもち太郎は、勢いよく入り口に向かって行き、突進した事で外へと出る。と、どうやら同じ気持ちだったのだろう。外から、地下に居るカエデを見下ろし喉を鳴らす。それに、カエデは浅い息を吐いて微笑む。
「そっか、、もち太郎も心配なんだね、」
ぼやくように呟いたのち、よしっと。カエデは目つきを変えて足を踏み出した。
「待ってて、イオ。絶対、孤独にはしないから」
☆
「い、妹、、なのか?」
イオは、緩んだ口からそう言葉が漏れ出た。その発言に、ガースは目を丸くしたのち睨む。
「お前、妹という概念も、知っているのか」
「あ、ああ。カエデ、、いや、フレーー」
「カエデでいい。面倒だ」
「あ、ああ。カエデから、教わったんだ」
イオが事実を話すと、ガースは無言になり手を離す。
「ごはっ」
それによりまたもや瓦礫に叩きつけられたイオは血を吐き出す。
「あいつが、、そんな事を、」
「お前、、つまり、カエデよりも先に生み出された存在って事だな、?」
「言い方が違うが、意味は合ってる。...そうだ。俺の後にフレアは産まれた。だが、俺が気をつけていなかったばっかりに、」
そう呟くと、ガースは思い出した様に歯嚙みする。どうやら、過去に何かがあった様だ。
「俺はあの母星をまた輝かせたかった。ただ、それだけだった。だから俺は懸命に生きた。そして、俺は時期に長になった。...だが、そればかりに気を取られ過ぎてたんだ。フレアの事を、きちんと見てあげられていなかった」
悔やむ様に話し続けるガースに、イオは察する。フレアは逃げ出したのだろうか。その点は不明だったが、ガースが気が付かない内にこちらの星へと来たのだと察する事ができる。
「お前こそ、今更なんじゃ無いのか?」
「っ!」
イオの一言に、ガースは途端に目つきを鋭いものへと変えて振り返る。
「ふざけるなよ。俺はフレアに謝りに来た。そして、また一緒に過ごそうと。今度はちゃんと、兄として近くに居るからと。そう誓うためにやってきた。お前らの様に後戻り出来ない状態の様にはなっていない」
「そうかよ、」
「ああ!そうだ。絶対に取り返す。たとえ記憶が無くなっていようともだ。一緒に、また少しずつ思い出していけばいい。だから、返してもらう」
「っ」
乾いた笑みを浮かべるイオの胸ぐらを、またもや掴んでガースは力強く宣言する。その様子に、イオはハッとする。
自身と、望んでいることは一緒では無いかと。
ただ、大切なものと、一緒に居続けたいと。そんな願望を、望んでいるのだ。あの狭い地下室で、ずっと。カエデともち太郎と共に、過ごしたいと。イオも同じく、望んでいた。同じ願いだった。だからこそイオは、声を上げた。
「俺だって、、俺だってあいつと一緒に居たい!居続けたいんだ!」
「何、?」
「確かに、俺はレプテリヤには無情に駆除を続けて来た身だ。それに、カエデの時も、最初はお前の言う様に捕獲が目的だった!だが、だがな。そこで俺は変わった。いや、変えてくれたんだ。あいつが。そんな、俺の全てを変えてくれた奴と、もう会えないなんて、絶対に御免だ」
イオは、戦闘員の中でもかなり落ち着いた雰囲気であり、クールな物言い故に周りの戦闘員からは距離を取られていたものである。だが、そんなイオが、今はどうだろうか。大切なもののため、こうして声を荒げている。
それに面食らいながらも、ガースは引けを取らずに声を荒げイオに殴りを入れた。
「それは俺も同じ事だ!」
「ごはっ!」
「願いが同じだからって俺達が同じだと思うなよ?お前は、絶対にあってはならない事をしてるんだ」
「がはっ!」
「俺はただ妹と。家族ともう一度共に過ごしたいだけだ!」
「があっ!」
「俺らレプテリヤから奪ったのは、お前らの方だぞ!?」
ガースはイオを殴り続けながら更に声を上げ続けた。
「ふざけんなっ」
「ぐはっ」
「返せよ」
「がはっ」
「フレアをっ!俺の大切な妹をっ、返せよ!」
瓦礫にもたれかかるイオを、何度も。何度も殴りながら放ち続ける。それほど、ガースも本気だということだ。その様子に、自身を重ね、イオはほんのりと薄ら笑った。と、同時に。
「ギュゥ〜ッ!」
「何っ」
「っ!」
突如、ガースの腕に、もち太郎が噛み付いたのだ。それに目を剥く一同であったが、少し前まで幼体だったもち太郎の一撃が大きなものになる筈も無く、ガースはため息混じりに放つともち太郎を蹴りつける。
「邪魔だ」
「キュ!」
「っ!もち太郎!?」
その光景に、イオは目を剥き歯嚙みする。
と。
「ん?」
「許さない、」
イオは、基盤が剥き出しになり、至る所からバチバチと火の粉が散りながらも、ゆっくりと。だがしっかりと立ち上がった。
「お前だけは許さない。俺が、悪かったんだとしても、、許せないっ!」
「何?」
睨み付ける様なイオの形相に、ガースは眉間にシワを寄せる。あんな小さなレプテリヤ。戦闘員であれば見向きもせずに駆除するものだろう。それなのにも関わらず、どうしてここまで怒りを見せているのだろうか、と。先程からイオの、戦闘員とはかけ離れた行動や反応に、ガースは怪訝な表情で近づいた。
「随分と多くの事を学んだみたいだな、フレアから」
「ああ。返せないくらいな」
お互いに真剣な表情を浮かべながら、ジリジリと近づく。既に飛びかかりそうなイオは、既に大きなダメージを受けている事からそれが出来ずにもどかしい様子である。それを理解しているからか、一方のガースは無理に接近する事は控えている様子である。
そんな、嵐の前の静けさの如し空間に、甲高い声が割って入る。
「あ、あっ!居たっ、、やっと、見つけたっ!みんな、、何やって、、って、、え、」
遠くから走って現れたカエデは、イオの姿に笑顔を浮かべたものの、段々と露わになる全貌に笑顔が消えていった。
「カエデ!お前は来るな!早く戻れ!」
「...カエデ、?」
イオが叫ぶと、ガースは興味深そうに目の色を変え、カエデに向き直る。
「えっ、な、何、?」
「駄目だっ!こっちに来るんじゃーー」
「えっ、も、もち太郎!?」
カエデは、イオの忠告を耳にも留めず、もち太郎の姿に目を見開き駆け足で駆けつけた。それに、駄目だと言ってるだろうと。イオがカエデに向かい声を上げる。
「で、でもっ!もち太郎がっ!もち太郎が!」
「だが一番危ないのはお前なんだ。狙われてる。早く地下に戻って、、いや、場所もバレてるから無駄か、」
「えっ、バレてるって、私達の居場所、、知ってるの、?あそこの、」
カエデがイオの言葉に不安げな表情を浮かべ、奥で立つガースに目を向ける。と、そのガースは、無言で。何か言いたげにカエデを見据えたのち、歯嚙みして小さく呟いた。
「そいつが、、カエデか、?」
「え、あ、ああ。だったらどうしたんだ」
その、先程とは違う雰囲気に、イオもまた怪訝な表情を浮かべ返すと、ガースは拳を握りしめカエデを睨む。
「そいつは、、いや、こんなの、フレアじゃない」
「「!」」
震えた声で放つガースに、イオは勿論。話の見えないカエデもまた、目を剥いた。
「ど、どういうことだ、?」
「どういうことだはこっちの台詞だ」
「わ、私、、フレアじゃ、無かったの、?」
その場の全員が困惑の表情を浮かべる。今まで、散々レプテリヤにカエデはフレアと呼ばれていたのだ。更には先程までその話をしていた。だが、フレアの兄がそういうのならば間違いは無いのだろう。そうイオは脳内で考え、カエデに振り返る。
なら、カエデは一体誰なのだ、と。
そう思った矢先。
「ふざけんな、」
「えっ」「何?」
ガースは歯軋りして怒りを露わにする。
「ふざけるなよ。俺の、俺のフレアはどこに行ったんだクソ野郎!」
「なっ、カエデっ!逃げろ!」
突如触角を背から更に出してイオに向かうガースに、カエデに避難を促したのち、腕を開いてミサイルを放つ。だが。
「どこだ!?」
「っ!」
「イオッ!」
ガースは触角を使っていとも容易くミサイルを撃ち落とすと、その勢いのままイオの胸ぐらを掴み瓦礫に叩きつける。
「がはっ!」
「...何処だよ。フレアは!?」
「そ、んなの、知るかっ」
「お前、ずっと楽しんでたんだろ?俺が必死で何でもない奴を追い求める様を」
「ち、ちがっ」
ガースは、怒りに任せて更に力を強くしていきながら声を荒げる。
「何処だよ!?フレアはっ!何処にやった!?」
「やめてぇぇっ!」
ガースを止める様に、イオの目の前に割って入り押し出す。それによってガースが退き、そのお陰でイオは解放される。
「ごはっ!ごほっ!」
「大丈夫?」
座り込み咳き込むイオは、そう声をかける目の前の姿を確認するべく顔を上げる。
そこに居たのは、カエデだった。
「お前、」
「やめてっ!イオに手を出さないで!」
「駄目だカエデッ!カエデはフレアじゃ無い事が分かったんだ!手を出さない保証はもうない!」
「でもっ!」
そう声を上げるカエデ。その手と足は小刻みに震え、声は先程より掠れている様に思えた。ああ、と。イオは思い返し微笑む。
一番最初。カエデと初めて出会い、中型レプテリヤとの戦闘を行っていた際にも。この様な事があったと。長い様で短かった時間。だが、一番様々なことを知った大切な時間。それを思い返しイオは微笑む。
と、そんな最中。ガースは怒りに任せ、目の前に突如現れたカエデをーー
「邪魔するな。紛い物が」
「あがっ!?」
「っ!」
触角で殴り、大きく吹き飛ばされる。
「カエデェェ!?」
もち太郎と同じくぐったりと倒れ込むカエデの姿に、イオは絶望に目を見開く。そんなイオに、ガースもまた絶望の表情を浮かべながら近づく。
「おい、、どこだ、、どこだよっ!俺の、俺の大切なっ、」
「黙れよ」
「何、?」
イオは、先程とはまるで違った低い声で、ガースに吐き捨てる様に放つ。すると、それに怒りを見せるガースに、イオはボロボロの体で立ち上がり声を荒げた。
「お前の事など知るか。絶対に許さない。このゴミが!」
イオは叫ぶと同時に地面を蹴りガースに向かい、近距離でミサイルを放つ。
「なっ」
それを受けたガースだったが、相変わらずの回復力故にビクともしない。が、それは想定済みだと。イオは更に直接の殴りを何発か入れたのち、腹を開いて放つ。
「っ!」
「ジェット、ストライカー」
近距離で受けたことで、ガースは粉々になる。この一撃は、放つイオの体をも破壊するものである。故に、普段であったら二発が限度であるがしかし。このボロボロな体で、三発目を、放ったのだ。
だが、それでも尚再生すると察したイオは、そのままジェットブーストで進むと、散らばったナノマシンを回収し破損部分を補った。と、その瞬間。
「許さないのは俺の方だ。馬鹿が」
「タイミングバッチリだなゴミ」
ナノマシンを回収した直後、背後に現れたガースに、振り向き
「ごはっ!」
「なめんなよ。俺だって、キレてんだよ」
殴りを入れながら、声を上げるガースだったが、瞬間。
「っ!」
イオはその間でナノテクでサーベルを作り腕を切り取った。
「ナノテク、レーザーカッター」
「っ」
イオは短く告げると、剣であったそれが分散してレーザーを放ちながらガースを追い詰める。それと同時にイオは鎖を放ち体に巻き付けプラズマを放ち、全機能で追い撃ちをかける。再生が間に合わない程早く。再生が追いつかない程の密度で。イオは目の前がノイズだらけで、機能がオーバーヒートし全停止する目前までそれを続ける。が、刹那。
「グッ」
イオの足元。地面から触角が生えて脚を突き刺し吹き飛ばす。それにより思わずバランスを崩したイオは、一瞬の隙が出来てしまい、ガースに直接接近され殴られ、吹き飛ばされた。
「ごはっ!」
「...フレアを、返せ」
ガースはそればかりを口にし、数メートル先で倒れ込むイオを睨み付ける。だが、イオもまた拳を握りしめる。もち太郎と過ごした日々と先程の光景。カエデと深めた毎日と、先程の光景。それぞれがチラつき、イオはそのまま立ち上がる。ガースがフレアの事となるとこうも理性を失い声を荒げてしまうのと同じく、イオもまた。
カエデが大切で仕方がないのだ。カエデとの暮らしが。もち太郎と皆での日々が。かけがえのないそんな日常が。大切で仕方がないのだ。
ーそんな大切な日々をぶっ壊す奴は、、俺が、ぶっ壊すー
目つきを変え顔を上げると、瞬間。イオはガースに向かってブーストを更にかけて向かう。
「っ!」
その速度に、僅かに目を剥いたガースだったが、まだまだだと。腕を剣に変形してタイミングを合わせて斬りつける。だが。
「っ」
それは、ナノマシンであり、本物は。
「なめんな」
「!」
背後に現れたイオが蹴り付ける。だが、それを既のところで触角で防ぐと、その矢先。イオはそのまま崩れて地面に手をつき、ガースの足元に鎖を巻き付けバランスを崩させたのち。
「バーニングバースト」
その場を爆破させ跳躍する。と、その中から触角を出して現れたガースだったが、それにも鎖で対応しながら接近戦を行い、イオは殴りを入れる。
「グッ」
その隙に脚をかけ足元に注意を引き寄せたのち、イオはかかったなと言わんばかりの表情で。
「インパクト」
「っ!」
一番の一撃をガースに撃ち込み吹き飛ばした。
「はぁ、はっ、はぁ、、か、カエッ、デッ!だいじょ、、ぶっ、か、」
その隙に、イオは火の粉が飛び散るボロボロの体で、必死に進みカエデの元へ歩みを向ける。
「イ、イオッ!わ、私より、イオの方が、、それに、もち太郎も、」
カエデは、苦しそうに腹を押さえてはいたものの、ゆっくりと立ち上がる事は出来た様だ。その姿にイオは安堵の息を漏らしたものの、油断は出来ないと目の色を変える。
「悪い、ガースは恐らくこれでは終わらないだろう。だから、もう少し俺が相手してなきゃいけなそうだ。カエデは、もち太郎を連れて先に戻っててくれないか?俺が、ここは収めておく」
「えっ、、そんなの、やだよ」
「...大丈夫。俺は、、いっつも、結局何故か破壊されないんだ」
「っ!」
カエデは、イクトから話されたイオの過去を思い出し、目を見開く。多くの仲間を、目の前で失ったのだ。いつも、自分を置いて。その事を察して押し黙るカエデ。
「だから、問題ない。もち太郎を、頼む」
「あっ」
イオがそれだけを残すと、ガースの方向へと向き直り、背を向ける。その背中が、遠ざかってしまう気がして。もう会えないのでは無いかと錯覚してしまって。カエデは思わず声を漏らし手を伸ばした。すると、それに気づいたのか否か、イオは振り返ってそれを告げる。
「そういえば、返事がまだだったな」
「えっ」
真剣な顔だが、どこか優しく微笑む様に。イオはカエデに、長く悩んでいたものの答えを放った。
「俺も、カエデの言う好きってやつだったんだと思う」
「っ」
長く考えていた。未だ「好き」という言葉の意味は分からない。どういう感覚なのかも、これが本当にそうなのかすら、分からない。だが、それでも。カサブランカを前にして、背を向けたそれが答えなのでは無いかと。イオはそれを、知らない「好き」という言葉で言語化した。
「イ、、イオ、」
「俺も、ずっと、一緒に居たいと思ってる」
「っ!...で、でもっ、ならっ、行かないでよ!」
「一緒に居たい。だからこそ、行くんだ」
カエデが何か言いたげに口をパクパクとしているものの、既にイオの覚悟は決まっていると。足を踏み出しブーストをかけてガースに向かった。
自分勝手な自身を許してくれ。そんな言葉を放つ代わりに、イオは頼んだぞ。と、それだけを告げ飛び出した。
「クッ、、調子に乗りやがって。...戦闘員如きが俺に勝る筈が、、っ!」
ガースは、吹き飛ばされた先で起き上がり、イオに目をやる。が、そこに居たのはーー
ーーカエデと微笑み話す、イオの姿があった。
その風景が、光景が。何処かフレアと自分を重ねてしまうところがあり、ガースは目を見開き思い出す。
『お兄ちゃん!』
『どうしたフレア?』
『今日のご飯なにー?』
『今日は俺が狩ってきた大型獣を、俺が調理してやろう』
『えぇ〜、、お兄ちゃん味付け薄いからやだぁ、』
『文句言わない。若い時から健康に気をつけるもんだぞ』
『...いつ死ぬか分かんないのに?』
『....ああ、、そうだ、』
『えぇ、、ケチ!』
『ね、ねぇ、、お兄ちゃん、?大丈夫、?』
『大丈夫なわけがないだろ!?親が殺されてんのに、、なんでお前はそんなに元気なんだよ!?』
『...そ、そんな、、お、お母さんとお父さん殺されて、、平気なわけないじゃん!』
『なら分かるだろ。お前はいいよな、長の後継じゃ無くて。こっちは、、大変なんだよ』
『お、、お兄、、ちゃん、』
『なんでっ!なんでそんな事言うの!?お兄ちゃんなんてっ!お兄ちゃんなんて大っ嫌い!』
「っ!」
フレアとの記憶を、会話というかたちで思い起こし目を見開く。そうだ。悪いのは全て自分だ。だから、ただ謝りたい。それだけで良いのだ。無理に連れ帰る事なんてしなくても良い。フレアが望むなら、それでいい。ただ、フレアの言葉を、聞きたかった。ガースがそう思い、顔を上げた。その瞬間。
「ごふぁっ!」
「くらえぇっ!」
突如目の前から勢いよく現れたイオに、顔面を殴られ青い液体を吐き出す。
ただ謝りたいだけなのに。
イオは大切なものを守るためにガースを殴り続ける。
ただもう一度会いたいだけなのに。
カエデが逃げられる様、一瞬の隙すら与えず殴り続ける。
イオは大切ものを守りたいのだ。
無抵抗で殴られ続けていたガースは、突如触角を生やしてイオに打ち付け吹き飛ばした。
そんなもの、と。
「ごふぁっ!」
「そんなの、俺だって同じだ!そんなものっ、俺の想いに比にならないっ!」
大きく吹き飛ばされたイオは、空中で向きを変えるがしかし、体の限界はとうに越えている。故にバチバチと体から発火する様に音を立てながら爆ぜる。バランス感覚もボロボロであった。がしかし、歯を食い縛り拳を握りしめ、必死の形相でイオは向かった。
それに向かってガースもまた、歯を食い縛り拳を握りしめ、必死の形相でイオに向かった。
イオは鎖を四本出し、肩からは砲台。腕からはミサイル、手からは銃口を出し。全ての触角を出し、腕を剣のかたちにするガースに向かった。イオは先程同様一歩も譲らず、攻撃を緩めず、全機能で対抗した。が、しかし。
それよりも上を行く攻撃密度で、ガースは本気の力を見せつける。と、その時。
「ふざけんな。俺の想いの方がっ、強いに決まっている!想いというものすら、分からないお前らより絶対っ!」
「っ!」
ガースの上げた一言に、イオは目を見開き僅かに動きを止める。
「分かってないくせにっ!分かった気になって、結局真似事ばかりじゃないか」
続けて放たれたそれに、イオは険しい表情を浮かべる。と、次の瞬間。
「がはっ!」
手を止めた隙を狙って、ガースはイオに殴りを入れる。その威力は先程とは比べ物にならない力であり、一撃の重さが桁違いであった。故にイオはまたもや吹き飛ばされ、今度は空中で留まる事が出来ずに地面に打ち付けられた。
「ぐふはっ!」
「フレアはっ!フレアは何処に居る!?」
未だ尚そう声を荒げながら、ガースは跳び上がり、触角を向けながらイオに降下する。それに、イオは諦めを感じながら強く目を瞑った。
だが、その矢先。
「ギュゥ!」
「何っ!?」
「なっ」
突如背後から大きく跳躍したそれが、ガースの腕に噛み付いた。
「も、もち、太郎、?」
その正体に、イオは思わず声を漏らした。が、その直後。イオはハッと目を開き、目つきを変えた。
「何やってるんだ!?逃げろと言っただろ!?」
「キュキュゥゥッ!」
声を荒げるイオだったものの、それを聞き入れるもち太郎は噛み続ける。
ークソッ、、やはり言葉が分からないのか。少し理解してくれる様になったと思ったんだがー
イオがそう悩む中、ガースは噛み付いたレプテリヤをなかなか取ることが出来ずに声を上げる。
「クソッ!?なんだよこいつっ!どけよ!俺はっ!フレアに会いに行かなきゃいけないんだ!」
「っ!」
ガースの反応及び腕を見てイオは理解する。もち太郎、先程同じ様に噛み付いた時よりも噛み付く力が強くなっていると。特大級を更に凌駕するガースの力でも引き剥がすことが出来ない程強く、鋭く、必死にもち太郎は噛み付いていた。その姿に目を丸くしていると、背後から今度はカエデが現れる。
「イオッ!やっぱり逃げる事なんて出来ない!」
「...カエデ、、駄目だ!逃げろとっ、、逃げろと言ったはずだ!」
イオが慌てて声を荒げると、カエデは真剣な表情と声音で遮り放つ。
「イオは、自分勝手だよ。ここまで来てまだイオを置いて逃げろなんて言うんだもん」
「そ、、それは、」
「でも、私も凄くわがままだからこれでお揃い。...いや、私はイオよりも自分勝手だからもっとわがままな事させてもらうよ」
「そ、それって」
イオが弱々しく口にすると、カエデは歩き出しながら口を開く。
「コード14106。アクセス。アームに変更」
「なっ」
カエデの言葉と共に、イオの体からナノマシンが飛び出し、カエデの元へ集まる。
「体の補強部分が無いから、絶対に動かないでね」
カエデが振り返り言うと、瞬間。
「しつこいぞ!?この邪魔虫がっ!」
「キュ!」
「インパクト」
「っ!」
ガースがもち太郎を引き剥がしたと同時に、カエデがそれを放ちガースに直撃させる。と、その後、慌ててカエデは走り出し、声を上げる。
「アクセスッ!ブースター変換!」
カエデの声に反応して、それが足に付きジェットとなって速度を速める。と、それによって。
「っと!キャッチ!」
「キュ!」
「よく頑張ったね、、もち太郎」
既のところでもち太郎を受け止め、胸を撫で下ろすカエデ。だったが。
「あれっ!?あれれれっ!?キャッ!?」
制御が効かないのか、カエデは突如バランスを崩し不器用な動きで地に向かって行く。
「なっ!?危ないっ!」
すると、イオは反射的にジェットを起動しカエデを回収する。
「おい。何やってるんだ」
「あ、えへへ、その、、真似してみちゃった!」
「真似してみちゃったじゃない。なんだ、、さっきのは、」
イオがカエデともち太郎を抱えながら、ゆっくりと地上へと戻って行く。その間、カエデは説明をする。
「えっと、、さっきのはイオにナノマシンを入れる時に付けたちょっとした機能で、」
「アクセスコードを覚えさせる事によって、それにより反応する様にしたのか」
「うっ」
どうやら図星の様だ。カエデは肩を震わせ俯いた。それに、呆れて息を吐くイオだったが、その様な機能を勝手に取り入れる事ができる才能。やはり、侮れない存在だとイオはジト目を向ける。それに、何故だかは不明だが顔を赤らめるカエデ。
すると、刹那。
「ふざけんなよ、、幸せ見せつけてんじゃねぇ、、フレアは、、フレアは何処に居る!?」
ガースが飛躍し上空から声を荒げる。それに、地上で見上げるイオは睨みながら返した。
「だから知らないと言ってるだろ」
「だったらさっさとくたばれ。お前らは用無しだ!」
ガースが叫ぶと共に急降下し、イオ達に向かう。
「イッ、イオ!イオは動かなくて良いからっ!もうその体じゃ限界だし、、それに、」
「いや、問題ない」
「で、でも、」
不安げに放つカエデに、イオは声のトーンを落として口にする。がしかし、続けてイオは優しく、そう付け足した。
「だが、、手伝ってくれないか、?俺一人では無理そうだ」
「...っ!う、うんっ!任せて!」
「キュゥ!」
「もち太郎も行くの!?」
カエデは目を輝かせたのち、隣で同じく意気込むもち太郎に声を上げる。すると、イオはそれとは対照的に目つきを変えると「来るぞ」とだけ零し飛び上がった。
それに続いてカエデともち太郎も、任せてと言わんばかりに足を踏み出す。
「フレアを返せ!」
「俺はカエデの事しか知らない。お前の様なヒト型など見た事は無いぞ?」
「ならフレアは何処だ!?」
「知るか。ラミリスが間違えたんじゃ無いか?カエデを見てフレアと言ってたからな」
ガースとイオはそんな会話を交わしながら、先程同様の攻撃を続ける。
「俺はフレアの事も知らないし、お前の事も正直大して知らない。だからこそただのレプテリヤだ。...だが、今までとは違う。そう簡単に、破壊して良いものでは無いと。カエデに教わったからな」
イオは、まるで敵意はないと言う様にそう声を上げる。が、それを聞いたガースは、歯嚙みし怒りを見せた。
「ふざけんな。さっきまでカエデを守るとか言って戦ってただろ」
「それは、お前が攻撃してきたからだろ」
「最初に
「違う。お前と、、もう争いたく無いと言ってるんだ」
イオの、震えた声にガースは目を剥き憤りを感じる。目の前のイオというものは、相手を想い、この様にレプテリヤに対しても感情移入する存在に成り下がってしまった。それに、ガースは言葉に出来ない怒りが湧き、声を荒げて触角に続いて手足を伸ばした。
「戦闘員如きが、立派に語ってんじゃねぇ!」
「っ」
数本の触角のみならず、手足までもがそれの如く蠢きイオに向かう。それに驚愕しながらも、既のところでそれを避け滑空する。がしかし、それにも対応出来ない程の触角及び手足でイオを取り囲む。
「クソッ!これじゃ埒があかないな、」
思わず声を漏らすイオだったが、対するガースは歯嚙みし、更に怒りを膨張させながら接近を行った。
「今更そんな綺麗事言っても遅いんだよ。俺は、お前らのせいで全てを奪われた。生活も、未来も、そして、親もだ」
「っ!」
イオはハッとする。親。レプテリヤにもその様な存在が居るのだと理解すると同時に、我々戦闘員の行ってきた事の意味を理解した。ガースだけでは無い。以前交戦を行ったグレスもラミリスも、そして、もち太郎の親もまた、奪った可能性があるのだ。それを察したと同時。それにより手が止まったイオにガースは一撃をお見舞いする。
「がはっ!」
触角による大きな一撃。それに吹き飛ばされたイオを追いかける様に接近し、今度は拳で一撃を喰らわせた。
「ごはっ」
「お前らの、、お前らのせいだ」
「がはっ!」
そののち、更に数発殴りを入れ、最後に脚で蹴りイオを吹き飛ばす。それに続いて触角を打ち込もうとした、その矢先。
「ギィィッ!」
「なっ!?クソッ!邪魔だ!」
突如もち太郎が跳躍して現れたかと思うと、触角に噛みつき、それを歯で噛み砕きながら本体であるガースに向かって行く。
「馬鹿なっ、、こんな、ちびっ子に!?」
その光景に目を疑うガースは、大きく触角を振り、もち太郎を振り落とそうとするものの、その力は強くなかなか落ちてはくれない。その隙に立て直したイオは、ガースに向かうと、相手もそれに気づき視線をそちらに向ける。
「離せ!今の相手はあいつだ!」
ガースが目の前にまで迫ったもち太郎を蹴飛ばすと、続けてイオに向かう。が、しかし。
「インパクト!」
「クッ」
今度は地上から、カエデが攻撃を放つ。
「邪魔すんなって言った筈だ!?」
「相手は、イオだけじゃ無い。私達もだよ!」
「クッ」
インパクトを触角で防いだガースは、以前の様に吹き飛ぶ事はせずに空中で留まる。すると、その隙にと言わんばかりにイオが接近しミサイルを飛ばす。
「クソがっ」
「悪いな。だが、今までもそうだった。レプテリヤを相手にする時は、戦闘員が大勢で相手していたからな。正々堂々は戦闘員には通用しない」
イオは今にも崩れそうな体でニヤリと微笑み、ガースの周りを飛行しながら追尾弾を撃ち続ける。それに続いて、カエデもまた、地上からの援護を続ける。
「バーニングバースト!」
「クッ」
「バーストカッター!...って、、あれ?これがバーニングバーストだっけ?ああ!もう!分かんないけど、凄いやつ!」
カエデは無理にイオの真似をしようとしながら援護を続ける。そんな中、それを触角で防ぎながらガースはイオに向かう。
「お前のせいだ!さっさと、フレアに会わせろ!」
「っ」
イオは追尾弾を放ち続けていた。がしかし、それすらダメージが与えられている様子は無く、どんどんとガースは近づいてくる。それに目を剥き後退りをしようとした、刹那。
「ギャイ!」
「おまえっ!?どいつもこいつもしつこい野郎だ!」
もち太郎がまたもや跳躍しガースに噛み付く。その隙に同じく距離を取りながら追撃を続ける。そうしながら、ガースを見つめイオは思う。
確かに、戦闘員は大量のレプテリヤを駆除してきた。それは、今までも、恐らくこれからも変わらないだろう。ガースが頂点の存在であれば、今ここで条約でも結べば争いは終息するかもしれない。だが、それでも終わりはしないだろう。戦闘員は親を守るために生まれた存在。故に、レプテリヤが居る限り駆除はし続ける事だろう。それに直面したレプテリヤにも、そんな思いがあったのだ。辛くて苦しくて、それを怒りにする事でしか発散出来なくて。そんなどうする事も出来ない苦しみと、ガースは戦っているのだろう。だが。
だがそれがどうしたと言うのだ。大切なものを奪われたのは、レプテリヤだけでは無い。戦闘員だって、大勢奪われたのだ。
No.2。No.3。No.4。大切な存在。仲間だった一同を、イオはずっと頭のどこかで思い続けてきた。大切だった仲間を、レプテリヤという存在に奪われたのだ。だからこそ、イオは戦える。
ーこの場では、俺とお前は同じだ。対等な立場だ。だからこそ、力は抜かない。大切なものを目の前の存在に奪われて、今尚大切な存在を守ろうとしている。存在は違うが、立場は互いに同じだから。手は抜かない。絶対に、守り切ってみせるー
イオはそう目つきを変えて全身から攻撃を放つ。それに気づいたガースもまた、目の色を変える。
攻撃が強くなったな、と。
「真似事ばかりだとか言っていたが、それでいい。俺は、、俺らは、互いに真似をしあってここまで来た。カエデは今も尚俺の真似をして。そして、俺はカエデを見て、見続けてこうなった」
「知るか。それはただの結果論に過ぎない」
それに対抗する様に、ガースもまたイオに全力で向かう。
が、しかし。
「プラズマ!」
「クッ!」
カエデの一撃が、ガースの背中に直撃する。それにより一度動きを止めたガースは、ゆっくりと。カエデの方へ振り返り歯を食いしばる。
「邪魔だ」
「「っ」」
その、今までとは違う声音に、イオとカエデは動揺を見せる。すると、その瞬間。
「邪魔なんだよさっきから。お前から消す。こいつの目の前で、それを奪う」
「っ!待てっ!やめろ!」
突如標的をカエデに変え、ガースは地上に急降下し向かう。
「へっ!?や、やめてっ!やめてぇぇぇぇ!」
カエデは、こちらに向かうガースに全ての機能で対抗するものの、自身を不死身と名乗ったガースは、そんなものにはビクともせずにカエデの目の前にまで到達する。それに、カエデは足がすくみながらも、ナノマシンを盾に変換しようとする。がしかし、既にガースは眼前にまで到達していた。
「カエデッ!」「キュゥ!」
イオはブーストをかけて即座に向かい、もち太郎は噛み付く力を強め止めようとする。だが、それで止まる様なやつでは無いと。イオは歯嚙みする。
マズい。このままでは。
イオの脳内に、最悪な結末が過ぎる。必死に手を伸ばす。届くはずのない距離から。懸命に。間に合うはずない場所から。イオは声を上げ続けた。
だが、その抵抗虚しく、ガースはカエデに向かって触角を放った。が、その瞬間。
「っ!」
『お兄ちゃん!大好きっ!』
「!」
息を呑む。ガースをただ見つめるカエデの姿が、やはり何処かフレアに見えて。
ガースは伸ばし向かわせた触角を全てカエデの周りの地面に突き刺し留まる。
「...え、?」
「...な、」
自分でも分かっていない様だった。フレアに見間違えたわけでも、考えを改めたわけでもない。ガースは、カエデをフレアと重ねてしまって。反射的に、気づいたら体がそう動いていたのだ。
「あ、ああ、」
「え、えと、」
その状態で留まりカエデを見つめるガース。それにどうして良いのか分からずに視線を泳がせながら、冷や汗混じりの笑顔を作るカエデ。その瞬間、ようやっと気づいた様子で、ガースは目を剥く。
「フレア、」
そう、僅かに呟いた、次の瞬間。
「離れろっ!」
「ごはっ!」
イオがブーストをかけた状態のまま現れ、ガースを蹴り飛ばす。
「イオッ!」
それに、カエデは何か言いたげに名を叫んだ。それは、イオも分かっていた。カエデをフレアと重ね、手を出さなかったこの事実に。
「...クソッ、、クソッ!何処だよ!?」
声を上げ、ガースは膝をついて立ち上がる。その姿は、相変わらず無傷であった。
「...」
それに、イオは何を言うでも無く構える。すると、今度は触角や手足を変形させもしないで。そのヒト型の状態のままイオに向かう。
「返せよっ!返してくれよ!フレアを!」
声を荒げながらイオを、素手で殴るガース。それに、何を告げれば良いか分からずに、イオはただそれを避け防ぎながら聞き入れた。
「返せよ!頼むよっ!俺のっ、、俺のたった一つの、、家族なんだっ」
"家族"そんな一言に、イオは怪訝な表情を浮かべる。
「頼むっ!あいつは関係無いんだ!俺よりも小さいし、、レプテリヤの中でもか弱い奴なんだ、、だからっ、だからフレアを単体で歩かせなんてしたら、すぐっ!」
「っ!」
ガースの必死の言葉に、瞬間。目を剥き力無く手を下ろす。
「ごはっ!」
「イ、、イオ、?」
それによって殴られたイオは後退りながら険しい表情を浮かべる。ガースの妹、フレア。それは、ガースよりも小さく、カエデの様な存在。そして、弱々しい。それを並べた瞬間、イオの脳内に忘れかけていた「その言葉」が過ぎる。
『前回のやつは小さかっただけに弱々しかったからなんとかなったが、今回はどうだろうな』
『前回とは違い、現在はハイブリッドが居ります。たとえ強大な奴が来ようと、なんとかなるでしょう』
ふと聞いてしまった、親の会話。そして、それの結末は。
「返せよ!」
「ごはっ!」
「イオ!」
「ギュルルル」
殴られ倒れたイオに、カエデともち太郎が声を上げる。だが、対するイオはゆっくり立ち上がり手を横に出す。
「待て」
「えっ」
「...俺が、殴られる」
「キュ?」
眉間にシワを寄せるカエデに、イオは真剣な表情で告げる。
「...俺らが、、全て悪いから」
「!」
「ふざけんな」
「ごはっ!」
そんな態度に更に怒りを感じたガースは、イオに殴りを入れる。だが、その一言にカエデはハッと何かに気づいた様に目を剥いたのち、険しい表情で崩れ落ちる。
「大した事言いやがって!」
「がはっ!」
「返せよ!」
「ごはっ」
「返せよっ」
ガースは、弱々しく叫びながら殴り続ける。その様子に居ても立ってもいられなくなったもち太郎は間に入ろうとするものの、カエデに抱き抱えられ動きを止める。
「キュ?」
「...」
「返せよ!」
イオは既に限界を越え、そのまま倒れ込むと、ガースはその上に乗って殴りを続ける。
返せ。そんな言葉をただ、ずっと。ロボットの如く言い続けた。だが、その声は段々と掠れ、小さくなっていった。
フレアの安否を問い続け、居場所を訊き続けるガースだったが、本当は、何処かで理解しているのだろう。
だからこそ、カエデもガースも、瞳から液体を溢れさせているのだろう。
掠れた声で叫び、大量の水分を双眸から流しながらガースは殴りを続けた。その水滴が、上に乗ったガースから、イオの、水なんてものが出るはずのない瞳に滴り落ち、頰を伝った。
「キュ、?」
その皆の様子に、もち太郎は疑問符を浮かべる。そんなもち太郎をギュッと抱きしめ、カエデもまた啜り泣いた。
☆
あれから数分後。段々と殴る力が弱くなっていったガースは、とうとう殴るのを止め、力無く立ち上がった。立ち上がる事が出来ないイオが見上げたガースの姿は、何処か苦しそうな。残酷な程快晴な空に反比例する様な顔をしていた。そんな姿に耐えきれなくなったのか、カエデは顔を拭ったのちもち太郎を離して、ガースに向かう。
「っ」
それに殴られるのでは無いかとギュッと目を瞑るガースだったがーー
カエデは、ギュッと。
ガースに飛びつく様に抱きしめた。
「えっ」
「辛かったね、、ごめんね、私、フレアちゃんじゃ無くて、」
「...」
あっけらかんとするガースに、カエデは震えた声のまま告げる。それに、ガースは抱きしめ返す事は無かった。そんなガースに、カエデは少し間を開けたのち、付け足す。
「でも、」
「...」
ガースはゆっくりと、カエデの頭に目をやる。と、カエデはゆっくりと顔を上げ、くしゃくしゃになった顔で、崩れそうな笑顔で感謝を口にした。
「イオを、、殺さないでくれてありがとう」
「っ!」
『お兄ちゃん!ありがとう!』
その声音と表情に、思わずフレアの顔がチラつく。それに、とうとう耐えきれなくなったガースは、歯を食いしばり、大きく鳴き声を上げながら、カエデを。フレアにしてあげられなかった力で、抱きしめ返した。
☆
更に数分が経ち、イオはナノマシンにより僅かに回復したのか、ゆっくりと立ち上がった。それに続いて、カエデもまたガースから離れ、寂しそうな笑顔を送った。すると、ガースはまたもや苦しそうな顔をしたものの、直ぐに首を振り改めると、息を吐いて放った。
「...悪かったな、、俺らの手違いだったというのに」
少し冷静さを取り戻したのか、ガースは小さく謝罪を放った。それに、イオもまたバツが悪そうに目を逸らした。
「いや、、俺の方こそ、すまなかった、、お前は元から、話し合いで解決しようとしてくれてたのに、」
「互いに大切なものがあるんだ。それは仕方ないな」
拳を握りしめるイオに、ガースもまた目を逸らしてそう呟いた。その様子に、何を言うでも無く、見つめる事しか出来なかったカエデに、ガースは振り向き見つめ返す。
「...イオ。お前は、、幸せにしてやれ」
「ふぇっ!?」
「...俺が、出来なかった分までな」
「...」
突然の発言にカエデは赤面し肩を震わせたものの、対するガースとイオは真剣な表情で視線を送り合う。
「ああ。当たり前だ」
イオが、少し間を開け力強く頷くと、一度ガースは僅かに微笑んだのち、踵を返す。
「...イオを、あまり困らせるなよ?程よいわがままさでいればいい」
「わ、分かった、」
ガースは、優しい声で。まるで、妹にかける様な言葉を残す。すると、そのままその場を後にしようとする。が。
「ちょっ、ちょっと待って!」
「ん?」
それを、カエデは慌てて止める。
「その、、これから、どうするの、?」
それは、この後何処に行くか。そんなものを聞いている様子では無かった。全てを察してしまったがために、放った言葉だった。だが、それにさらっと。ガースは即答する。
「もうお前らに用はない。とりあえず、一度母星に帰るよ」
「そう、、なんですね、」
「それって、」
「「?」」
ガースの言葉に表情を曇らせるカエデ。すると、イオが割って入る。
「それって、、カエデを、俺に任せるって、、言ってくれてるって事か、?帰るなら、、妹では無くとも、連れ帰った方がいい、だろ?」
恐る恐る、イオは放った。ただ忘れているだけだったらどうしようか。それによって思い出し、連れ帰る事を決断してしまったら、本末転倒ではないか、と。そうは思いながらも、ガースを認めているからこそ、その真意をはっきりしておきたかったのだ。先程の言葉に込められた意味。それを汲み取れていなかったわけでは無いが、それでもしっかりと確認しておきたかった。と、それにガースは目を丸くしたのち、怪訝な表情でそれを告げた。
「何言ってんだ。そこのカエデは、フレアでない以前になんなのかも分からなかった」
「...え、?」「何、?」
まるで時が止まったかの様に、周りの音が途切れ、真空になった感覚が襲う。と、ガースはカエデに向き直り、"それ"を見つめ、そう伝える。
「まず、カエデ。お前は、レプテリヤでも無い」
「へ、?」
「なんだと、?」
イオは、その言葉と共に、ゆっくりと振り向く。すると、そこに居た、震えながら険しい表情で聞き入れるカエデに。イオは胸中で呟く。
お前は、一体何なんだ、と。
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