第4話「ルリハコベ」
ズカズカと、遠くからNo.190が近づく。その、一人でやって来た姿に、イオは首を傾げた。
「どうした?ヒト型を連行すると言ってた筈だろ?」
「いやぁ、やっぱ近くで見て思ったんスよねぇ。あれはかなりの強敵ッスよ」
「何?」
イオは、その一言に目の色を変える。
「やはりそうなのか?俺の分析システムは何故か反応しなくて、確認する事が出来なかったんだが」
目の近くを触り眉を潜めるイオに、No.190は苦笑を浮かべて返す。
「そっ、そうなんスよ〜。やっぱハイブリッドは違いますねぇ」
はははと。不自然な笑みを浮かべるNo.190に、イオは目を細めたが、直ぐにため息を吐いて「そうか」と呟く。すると。
「じゃあ、やっぱ面倒ッスけど、一回本部に戻って報告してきまス」
「そうか。俺は修理が終わるまで大きな動きは出来ない。早急に頼むぞ」
「ウッス!」
蹌踉ながら告げるイオの言葉に、No.190はそう軽く返事を返すと。
「じゃあ、行って来るっス!直ぐ戻りまスからぁ!」
と声を上げ、カサブランカのある方向へ走り出した。
『直ぐ戻る』
そう言ったNo.190は、それからーー
ーー我々の前に顔を出す事は無かった。
☆
『そ、それ、どういうことですか!?』
カエデは、No.190が口にした「イオはずっと孤独だ」という発言が引っ掛かり、イオの居る方向へと歩き始める足を止めさせる様に、声を上げた。
その声はどうやら届いた様で、No.190は歩みを止めて、少し振り返る。
『まぁ、ある時期が来たら。...いや、その時が来たら、本人から聞くといいよ。僕が、どうこう言う話じゃ無いしね』
それだけを返すと、またもや体をイオの方へと戻し、足を踏み出す。そんな後ろ姿に、カエデは怪訝な表情で放った。
『どうこう言う話じゃ無い事を、どうして貴方が知ってるんですか?貴方は、、一体なんなんですか?』
そう問うと、No.190はゆっくりと歩きながら、少し考える素振りをしたのち、今度は振り返らずに答える。
『ただの、先輩の後輩ッスよ』
☆
「はっ!」
目を開き、真っ暗だった世界に少量の光が差し込む。
カエデが起き上がった場所は、いつもの拠点である地下室であり、あの後この場に戻りそのまま疲れによる睡魔に襲われたのだと思われる。
「はぁ、はぁ」
カエデは、隣でスリープモードになっているイオを見つめ、表情を曇らせる。
ーイオが、、孤独、?だって、戦闘員って言ってたし、大勢の兵士が居るんじゃ無いの、?ー
あの時、No.190が放った発言が、ずっと気がかりだった。あの場で
そんな事が脳を巡る中、突如イオが再起動を始め、その光と音に驚き、カエデはビクッと肩を震わせた。
「び、びっくりした、」
そう呟いたのち、カエデは目つきを変える。
No.190は言っていた。本人から聞けばいいと。
恐らく関係を深め、打ち解ける事によって達する事の出来る条件であろう。更に、イオとの約束もあるのだ。
カエデの感じている「これ」を、イオにも与える。
そんな、同じイオとの距離を縮めるという大きな目標があるのだ。悩んでいる暇は無いと。
カエデは頰を軽く叩き、考えを改める。
「よしっ」
気合いはばっちりと言わんばかりに頷くと共に、隣のイオが起き上がる。
「今日は早いんだな」
「へっ!あ、うん!そうっ!っていうか、今日はイオが遅かったんじゃ無い?」
えっへんと胸を張って返すカエデに、イオは至って平然とした態度で放つ。
「いや、それは無いだろう。俺はシステム上、同じ時間に起動する様になってる。言った筈だが」
「あ、いやっ、、もう!イオは分かって無いなぁ!こういう会話するもんでしょ同棲始めたら!」
「なんだどーせいとは」
首を傾げるイオに、呆れた様に、怒っている様に。だが、どこか嬉しそうにぶつぶつと何かを呟きながら立ち上がる。
「ほら!早く修理するよ!今日の分終わったら、やる事があるんだから!」
そんな真っ赤な顔をして放った言葉に、イオはただ首を傾げた。
☆
その日の昼下がり。僅かに日に角度が見られる時間帯。イオとカエデは地上に足を踏み出した。
「どうしてわざわざ外に出るんだ?直るまで部屋に居るべきだろう」
イオは、カエデに余計な情報を得てしまいたくは無いと。自身の修理を理由にして地下室へと戻ろうとするものの、カエデは一瞬ハッと気づいた様子を見せたのち、イオの腕を掴んで否定を口にする。
「い、いやいやっ!だから、私言ったでしょ?イオに教えるって」
「...それを教えるためには外に出なきゃいけないのか?」
イオが怪訝に訊くと、カエデは迷いなく強く頷いた。そんな姿に落胆したのち、イオはあれを了承したのは間違いであったかと頭を抱えた。
だが、既に賛同してしまったのならば仕方がないと。イオは渋々頷く。
「分かった。俺は完全に復旧出来ていないし現場処置出来る状態じゃ無い。危険だから、極力直ぐに戻るぞ」
表向きにそう伝えたのち、心中で理由を見つけて早急に戻ろうと付け足した。
裏腹な考えを持つイオとは対照的に、それでも尚嬉しそうなカエデは跳び上がる様に軽快に笑ってこちらに背を向けた。
「分かった!じゃあ、早く行こ!」
温度差を感じる相手にため息を吐きながら、イオは同じく彼女を追う様に歩みを始めた。
カエデと同行する事数分。永遠と続くと思われていた廃れ、ヒビ割れた、偉業と栄光溢れる荒地の戦場に、突如それは現れた。
「なんだ、、あれは」
目の前には、先端が欠け、辺りには塊となった溶けた鉛の様なものが積もっている大きな地面の膨らみが現れた。
「知らない?あれは、山だよ!」
「山か、どこかで聞いた事がある。地形の変化によるものは見たことがあるが、あそこまで大きいのは初めて見るな」
嬉しそうに指差すカエデを差し置いて、イオはそれに近づき凝視する。
「地形の表面が動いて出来るのが普通だけど、あれは単体だから溶岩が積み重なって出来たものだね」
カエデがそう解説を口にすると、続けてイオを覗き込む様にして促す。
「イオは、この辺りを探索してるんだよね?それなのに、あんまり土地感覚は無いの?」
「ああ、俺は初期型だからな。あまり燃料の持ちは良くないから、遠くの探索は任されない」
「へ〜。じゃあ、ここからは初めてなんだね!」
笑顔で返すカエデに、イオは何故その様な表情をするのか疑問に思いながらも、ただ静かに頷いた。すると、突如カエデは深く頷き、数歩前に出る。
「今日はイオにいろんな初めてを見せてあげるからっ!ほら、早く次行こう!」
「あ、ああ」
急かすカエデに、イオは困惑気味に返す。本来であればもう少し地形を分析しておきたかったのだが、仕方が無いと。嫌々ついて行くイオは、カエデに釣られてか、何故か口元が綻んでいる様に感じた。
☆
あの日は、その後カエデが言う名物というものを見て回った。
謎の砕けたオブジェクトや、何かの名残である建造物。今までレプテリヤの駆除を目的とし景色すら目に留めていなかったイオには、どれも新鮮でカエデによる解説は参考になっていた。
そのため、イオは。
「地形情報。上手く利用すれば、レプテリヤ駆除に役立ちそうだな」
と呟く事が多かったが、その度にカエデからは「ほんと社蓄!」とお叱りを受けた。
意味は、分からなかったが。
だが、それからというもの。毎日点検や修理ののち、二人で外を歩く様になった。
初めの頃は、前の山を中心とした周辺のみの探索であり、イオもカエデに付き合うという行為としか感じていなかった。が、段々と周辺であったものが、更に先に進む様になり、イオの感覚も少し変化していった。
ある日には、既に荒廃した何かしらの跡地に足を運んだ。
「あれはねー、ドラマチックなんだよ」
「なんだ?ドラマチックとは」
「実はあの場所に男女が行くと、結ばれるんだって!そういう伝説があるの!」
「む、結ばれる!?何かでかい生き物が居るのか?...そんな、どうしてそんな自ら死に急ぐ様な事をするんだ?」
「むっ、結ばれるってそういう意味じゃ無いよ!」
またある日には、既に形の無くなった、重大な建造物であったものに足を運んだ。
「ねぇ、、ここ、大勢の人が亡くなったのを後世に語り継ぐための施設だったみたい」
「亡くなる?」
「...壊れちゃうの。戦闘員で言うなら、破壊されちゃう、、みたいな」
「そうか。だが、仕方のない事だ。使命のためには犠牲は付きもの。我々は元々、そのために生まれ、そのために生きる存在だ。それに直面しても、なんとも思わない」
「やだよ」
「どうしてだ?当然の義務だが」
「誰も、、欠けちゃ駄目だよ。使命のためでも、消えても仕方がない存在なんて居ないよ、」
「...それは、、お前の意見か?」
「...うん、、私は、イオに、居なくなってほしくない」
その日は震えた手で、カエデはイオの袖を掴んで離さなかった。帰りまで。いつもの地下室に戻るまで、ずっと。
また別の日には、とうとう廃れた街を越え、地面に緑が現れた。
「なんだ、、これは」
「凄いっ!やっぱ本当にあるんだ!」
「これは、、見たことが無いな、」
「これはねっ、植物っていうの!私達と同じで、動いて、息をして、成長してるんだよ〜っ!」
「う、動くのか?こんな大量のものが居たとは、、レプテリヤとは違うんだよな?」
「違うよ!まぁ動くって言っても、地面からは動かないの。上に伸びるだけ」
「なるほど。だが、今は動いてないみたいだが」
「長い目で見ると動いてて、空気中の物質。二酸化炭素を取り込み、地面から水分を吸収し、日の光を受けて伸びて行くんだよ」
「水分、、ああ。あの、空から降るあれか」
「うんっ!そう」
「あれが起こる時は、初期型である俺は外に出してもらえないからな。防水機能が俺には搭載されて無い」
「あ、やっぱりそういうところはロボットなんだね〜」
「だからロボットとはなんだ」
その日は、どこか。イオはいつもより優しい目をしていた様に見えた。
☆
あれから更に一週間程が経ち、修理は完了へ向かっていた。
「よしっ!今日の分完了!もう少しで完全に直りそうだね」
やり切ったと息を吐いて工具を片付ける中、それじゃあとカエデはパタパタと棚へと向かった。
「...今日は何をするんだ?」
ほんのりと薄ら笑いながら、イオはそう切り出す。それに、カエデは棚の前から戻ってくると、手に何か紙を持って微笑んだ。
「ねぇねぇ!イオはさ、"花火"って、、知ってる?」
「...花火?火は、、炎の事か?」
「そう!この間見た植物の中に、特徴的な色を持った綺麗なのがあったでしょ?」
カエデの発言に、いまいち何を言いたいのか疑問に思いながら、イオはあの日の事を思い返して「ああ」と呟く。
「あの、美しいやつか。あれは、、良かったな」
少し遠い目をして呟くイオに、カエデは続ける。
「そうそう!あれ良いよね!それが、花って言うの」
「花というのか、、あれは植物とは違うのか?」
「植物って分類の中の一部だよ!そして、その花火っていうのが、あの花に見える炎の事を言うんだっ!」
ウキウキと体を揺らしながら。
「本当はちょっと違うんだけどね」
と呟いた。
「それが、、どうしたんだ?」
そんな姿に、イオはずっと疑問に思っていた事を口にする。と、カエデはその手に持っていた紙をイオに見せる様に前に出して放った。
「私、ずっとそれがどんなものかって考えてたんだけど、昨日棚の掃除してたら写真が見つかったの!」
「写真、?写真はデジタルで保存されるものでは無いのか、?」
「違うよっ!元々はその映像を紙に印刷して楽しむものだったの!そして、これがその写真を印刷した、紙媒体のもの!」
「おお、凄いな。どんなーー」
「駄目っ!」
どんなものがあるのかと覗き込もうとしたイオを止める様に、カエデは言い終わる前に割って入る。
「な、なんだよ、?」
「今日は、一緒に見ようと思って。私もまだ全部見てないの」
それを一緒に見る必要があるのか。それにそこまでの時間を有するだろうかと。イオは首を傾げたが、カエデのソワソワとした様子で電気を消す姿を見据えながら優しく嘆息した。
「花火はね、イベント事の時に見るものなの。まぁ、種類が色々あるらしくてそういうのじゃ無いのもあるみたいだけど、大掛かりなものもあるみたい」
カエデは就寝する際に使用している豆電球だけを付け、僅かな光を頼りに壁に写真を貼っていく。
「色んな形があるけど、大切な人と観る傾向が強いって。...そう、、書いてあったの、」
声を小さくしながら、僅かに耳を赤らめ作業を続けるカエデに、イオは背に向かって放つ。
「...あの、一緒に見ようとする理由は、そういう伝統があるって事でなんとなくは分かるんだが、どうして電気を消すんだ?」
イオの突然の問いかけに、カエデは肩を震わせ振り返る。
「ちょっ、ちょっと!もっと、そこに対して反応してよ!」
「そこ?」
「う、うぅ〜〜っ、」
イオが首を傾げると、カエデは珍しく黙り込んでしまった。その様子に、出会った当初がチラつく。
すると、気を改めたのか、カエデは一度咳込むと答える。
「花火はね。夜に打ち上げられるの。花火の明かりで照らされて、それが空のコントラストとなって。それが、美しくて、素敵で、儚い。そういうものなんだよ」
「...だからそれを再現しようとしてるのか?」
「うん!なるべく、その感覚を味わいたくて」
全てを貼り終わり、カエデは元気に振り返って放つ。それに。
「だが、写真は光らないぞ。部屋を暗くしたら見えないんじゃないか?」
「っっ!いっ、いいの!いちいちうるさいなぁ!」
カエデは顔を赤くし、怒りを見せている様だった。そんな様子を、憤りを感じている理由すら分からずに無言で聞き入れるイオだった。
「じゃっ、じゃあ!この、懐中電灯で照らすからいいよ、」
「見えづらいのは変わらないと思うが、、そこまでして再現したいのか」
ジト目で返すイオに、カエデは「いいの!」と押して了承させたのち、体がギリギリくっつかない程度の位置で隣に座った。
その後、部屋には沈黙が流れた。薄暗い一室の中、写真をただ照らして見つめるだけの、異様な現場に、イオは場の悪さを感じた。
「お、おい。こんなのでいいのか?ーーっ」
呟きながら、隣のカエデに振り向いた、その時。
カエデの瞳から、液体が溢れているのに気づき、目つきを変える。
「な、なんだそれは」
前もどこかで見た事があったが、それとは量が明らかに違かった。そんな、心配と興味を含んだイオの問いに、カエデはハッとして目を擦る。
「あ、あれ、?な、なんで、、なんでだろ、綺麗だけど、、そんなっ、そんなんじゃ、」
掠れた声で呟きながら、その液体を拭き取る。そんな姿にイオは安否を問おうとしたが、何故か触れてはいけない気がして。
イオはただカエデを横目に、花火の写真に視線を移した。
またもやその場には沈黙が流れる。先程までは空間の異様さに意識がいっていたため気づかなかったが、目を凝らして見ると花火と言われたそれの美しさに釘付けになる。写真上でも、その大胆でありながら可憐さを兼ね備えた見た目に感服し、実際に見たらどれほどのものなのだろうかと想像を加速させる。
元々、こんな感覚は無かった。
美しいという単語は知っていた。概念や意味も理解していた。だが、それを自身で体験した事は無かった。いや、寧ろ必要無かったのだ。
今でも尚、必要とは思わない。自分の使命から逃れようとも思わないし、貢献出来るのであれば命令はいくらでも受け入れよう。それでも、カエデとの遭遇から、幾つもの「知らない」を知った。単語は勿論。感覚もまた、そうだ。美しいなんて感覚は、先日に花を見た際に初めて芽生えた感覚であった。
その時はそれが何かは分からなかったが、今ではハッキリしている。これが、美しいという感覚であり、感動というものなのだろう。もう一度言うが、戦闘員である事を誇りに思っており、名誉でありそれに全てを懸ける意識は変わらない。だが。
これも悪くはないと。それだけが、感覚として宿っていた。
そんな事を長々と考えている内に。ふと、右肩に感触が伝わる。
「っ、、お、おい」
どうやら、小さく切り取られた、光らずとも輝く花火に見惚れながら思い耽る内に、カエデは眠ってしまった様だった。
レプテリヤは時間では無く、感覚で寝ていると以前カエデから話されていたため、そういう事なのだろう。
「...」
自然と、起こす事はしなかった。今までの様に、この隙に本部に戻ろうともしなかった。ただ、右の肩から腕にかけて感じる、熱と柔らかな感触を受けながら。何故か落ち着きを感じるこの状況を受け入れ、照らしていた懐中電灯が逸れた、微量の光のみの空間に薄らと現れる小さな写真をぼんやりと見つめた。
No.190は今日もやって来なかった。本部への通達をすると話してから、何日が経ったであろうか。まだこちらへ本部側が向かえる状態で無いのか。道中で何かがあったのか。
そんな様々な事を考えては消えていった。
もう、既に薄らと気付いていたのだ。
ーそうか。俺は、、見捨てられた、のかもなー
目を細める。辛いなんて感情は無かった。だが、それを受ける程の失態を行っただろうかと。そんな疑問と、
それだけが浮かんだ。
ただ、だからと言って、それが確信であるかも不明な現状であるが故、この場からは動こうとはしなかった。
留まる理由がそれだけかと問われれば安易に頷けはしなかったが、それを見て見ぬフリしてイオは右に感じる僅かな熱を受け止め、明るく冷たい彩度の無い写真に逃げ込んだのだった。
☆
カエデの要求により花火というものを閲覧した日から数日の事だった。
「...やはり、無いな」
「え?」
突如、イオは何かを察知し呟いた。
「腕の関節部分のパーツが見当たらない。恐らく、修理したてで遠出をしたために、何処かに落としてきたみたいだ。花火とやらを見た日には確かにあった筈だ。まだ大した時間は経って無いだろう」
「えっ、そ、そうだったの?...でも、見たところ、別に悪いところは無さそうだけど」
カエデは、顔色を悪くし小さく返す。それに、イオは至って平然とした態度で口を開く。
「部品は一つ程度だ。過ごす際には問題無い」
イオの一言に、ホッと胸を撫で下ろしたカエデだったが、「だが」と付け足した彼にまたもや身を引き締める。
「戦闘時は別だ。この耐久度じゃ攻撃が撃てない。たった一つでも無くなると問題だ」
「え、」
弱々しく、カエデは口から漏らす。その様子を察したイオは、息を吐く。
「別に、落としたのは俺の責任だ。お前が気に病む必要は無い」
それに「でも」と呟くカエデを前に、内心。外へ連れ出したカエデのせいでもあるがと。胸中で思い嘆息した。
「ど、何処行くの?」
するとふとイオは立ち上がり、出入り口へと向かって階段を上る。
「探しに行く。いくら修理してくれるとは言え、パーツが無ければそれすらままならないだろ。紛失する前に回収すべきだ」
そう前を向いたまま放つイオに、カエデもまた立ち上がり、足を踏み出した。
「私も行く!」
その一言に、面倒だからいいと言いかけて、ハッと我に帰る。自身とした事が、任務を忘れていた。今現在自分に出来る貢献は、このヒト型を監視する事であり、逃げない様拘束する事である。それも、記憶を無くした状態のままでだ。故に、イオは一呼吸空けて返す。
「...分かった。余計な真似はするなよ?あくまで今回は部品の回収だ」
イオがそう放ち、カエデは元気よく頷く。そののち、二人はゆっくりと地上へと繋がる出入り口を開いた。
が、その先に見えたものは。
「「...」」
「雨、、だね」
「この現象の名称か?」
少し俯き気味に呟くカエデに、イオは空を見上げながらいつもの様に淡々と訊く。それに、カエデは無言で頷くとイオは少し間を開け頭に手をやったのち、口を開く。
「まぁ、これなら仕方がない。早急な回収を行いたかったが、今日はやめておこーー」
イオがそこまで放つ中、ふと部屋へと引き戻したカエデに振り返る。と、そこには。
「よっと!」
大きな、透明な膜に覆われた武器の様なものを持ってカエデが現れた。
「なっ」
思わずイオは退いた。まさか、とうとう記憶が戻ったのでは無いかと。だが、そんなイオを横目に、カエデはそれについた部品をスライドさせて展開すると、それを肩にかけて振り返った。
「これっ、傘って言うの!貸すからっ、これに入れば大丈夫だよ!」
「...」
いくらそのガジェットがあるからと言って、こんな状況で外出するのかと。イオは答えを渋るがしかし。その部品が無いと問題であるのも事実である。故にイオは、首を縦にふり、やれやれと息を吐きながらもその傘に身を投げ込んだ。
「ふふ〜、イオも好きだねぇ」
「どういう事だ?」
傘の中の、カエデの笑う横顔を見据え、イオはふと考える。ずっと、自身の好奇心や心の向くままに発言及び行動をしていると考えていた。イオにこだわり、イオを助けようとする行為自体も、カエデの興味本位故のものであると予想していた。だが、僅かに。
イオの脳裏には、別の解釈が過った。
「...まぁ、助かった」
「っ!」
自身を思っての行動なのでは無いか、と。息を吐きながらも、二人は息を合わせて足を踏み出した。
その後は、いつもの通りを利用して緑の生い茂る場所へと到達した。それと共に、二人の会話が突如途絶える。
故に、カエデは改めて理解する。
ーあれ、?私、今相合傘してない、?ー
突如、顔に血が上り顔が真っ赤に染まる。
ーど、どうしよ、、どうしよう、、これって、この状況ってー
震えながら、カエデは少し顔を上げ、僅かにイオの表情を見据える。だが、隣の彼は、いつもと同じ表情で固定されていた。
ーあ、あれ?もしかして、焦ってるの私だけ?ー
突如、カエデの頬には冷や汗が伝う。良く考えれば、全てはカエデの主観であり、自身が楽しんでいるだけでは無いかと。
長らくこうして接する時間を作ってはいるものの、それによって距離が縮まったかは未だ不明である。カエデは親密になれていると錯覚していたが、イオはどうだろうかと。
ー良く考えたら、、イオは私への接し方変わってない気がする、ー
これは、進んでいるのだろうか。ゆっくりと発展していけば良い。そんな考えもあるが、現に我々に時間は残されていないのだ。
今回はハプニングが起こったため行わなかったものの、修理は既に完了に向かっていた。
ーあと、、私達には、、私がイオと居られる時間は、どれくらい残ってるんだろうー
急に、不安が押し寄せた。別に元々居なかった存在である。あの部屋ではずっと一人だったのだ。何を寂しがる必要がある。そんな感覚は生まれない筈である。
それでも、と。
ーこの気持ちは、、無かった事にしたくないー
大きく息を吐き、覚悟を決める。
今日は。
今日こそは。
て。
てて。
ー手を、、繋ぐっ!ー
傘を持つ手が震える。ゆっくりとイオの手へと視線を向ける。
ーどうしよう、傘持ってるし、、上手く繋げないー
通常でさえ行えないものである。それを、雨の中、一つ傘の下で手に傘を持っている状態で。どう成し遂げれば良いというのだろうか。
今日はやめておこう。そんな弱気な考えが僅かに横切るものの、慌てて首を振る。
今日手を繋がなくてどうすると。それがゴールでは無いのだ。
ーそうだよ。今日はまず一段階目!繋ぎ方も考えると更に段階踏む様だし、、その後は腕組んじゃったりしてっ、、そ、そそ、それに、後半にはキスでっ、、その後はぁぁー
身体を震わせながら、湯気が出てしまう程に顔を真っ赤にする。と、そんなカエデの隣で。
「だ、大丈夫か?顔が赤いが、、オーバーヒートしてるのか?」
「へっ!?あ、う、うん、、その、ある意味、そうかも」
あはは。と、カエデは慌てて笑顔を作る。そののち「引き返すか?」という問いに首を振ったのち、カエデは改めて思考を巡らす。
ーあ、、危ない危ない、、そ、そうだよっ、その、あ、あれと比べれば、手を繋ぐくらい、、全然ー
尚も震えるカエデに、イオは不安げに顔を覗く。それにより、カエデは更に顔を赤らめる。
ーや、やっぱ無理かもぉぉー
思わずそっぽを向き顔を振る。それに驚いた様に肩を震わせたのち、イオはジト目を向けた。
ーど、どうしよ、、まずは、イオに傘を持ってくれないかお願いして、、その後、私もイオの手の上に添えて、一緒に傘を持つ形でー
シュチュエーションを考える内に、過激な事ばかりが浮かび、目の前が眩む。
ーっ!それはエッチ過ぎるよぉ!ー
そんな事を悶々と考える内に、イオは何かに気づいて声を上げる。
「ん?なんだ?」
「えっ、?ああっ!イオっ、見て!」
「おお、終わった、のか?」
頭上に広がる景色が、いつもの如く広がる鮮やかな青色に戻っていた。
「通り雨だったみたいだね!」
「通り雨?」
「少し経てば無くなる雨の事!」
傘を最初とは逆に部品を引き、閉じたカエデはそののち振り返り、笑顔を浮かべる。
「そうか」
その姿に思わず口元を緩めながら、イオはそう小さく返した。すると、イオはそれと同時に。
「っ」
ふとカエデの肩に目をやり、目を丸くする。
イオが居た方と逆側。つまりカエデの左肩に、大きなシミが出来ており、服が変色していた。
「...」
少しの思考により、その意味をイオが理解したと共に、晴れ間が広がり日光が我々に降り注いだ。
「わぁ。さっきまでのが嘘みたいだね」
空を見上げながら、カエデはしみじみと目を細めながら優しく微笑む。
そんな姿が、日光に照らされているからか、とても輝いて見えた。と、それと同じく。
「綺麗だな」
「へっ!?」
「花、、って言ったか」
「あっ、あぁ〜!花っ、花ね!」
辺り一面に広がる花畑の、色とりどりな花々も、輝いて見えた。
「ん?花じゃなかったか?」
「ううん、合ってる、けど、」
カエデは口を尖らせ、目を逸らしてしまった。そんなカエデを横目に、イオはふとしゃがんで花に手をやる。
「本当に綺麗だな。上手くやれば採取出来そうだが、、これを親が気に入るかどうかはさておき、何かに使えるんじゃ無いか?」
イオは小さく零すと、花にやった手に力を込める。と、それを目撃したカエデは同時に。
「っ!駄目ぇっ!」
「なっ、なんだ!?」
突如声を荒げるカエデに、イオは何が起こったのかと慌てて振り返る。すると、またもや顔を僅かに赤くしてズカズカと近づく。
「駄目だよ!お花さん達も生きてるって言ったでしょ!?引き抜いたら死んじゃう、、いや、壊れちゃうの!綺麗で美しいと思うなら、そんな事しないで!」
「お、お花さん、?」
「そっ、そこはいいから!」
イオが困惑気味に返すと、カエデは更に赤らめ放った。
それから数秒。カエデは落ち着いたのか、小さく悟す様に伝える。
「摘んで帰っちゃったら、その花の命はそこまでなの。つまり、壊れて、その美しいと思う色すら、のちに消え去っちゃうんだよ?」
「何っ、そうなのか、?」
以前植物も生き物だと話を受けた。戦闘員であるイオには、その原理も、感覚も、まず生命というものすら理解に乏しいものであったが、カエデの現在の話を聞くに、それが生物というものなのだろう。
「...不便だな」
「え?」
「だって、こいつは大きな動きが出来ないんだろ?縦に伸びるだけと聞いた」
花を掴んでいた手を離し、立ち上がったイオは小さく語り始めた。そんな問いにカエデは頷くと、イオは続け様に放った。
「それなのに、引き抜くだけで壊れる、、いや、死んでしまうんだろ?そんなの、何の意味があるって言うんだ?」
そう零すイオはカエデを見据えていたが、どこか遠い目をしている様に感じた。そんな彼に、カエデは少し間を開けて声を小さくして問いた。
「イオはさ、、子孫繁栄って、知ってる?」
「ん、なんだ?」
「えっ、えと、そう、そうっ、いう、意味じゃ無いんだけどねっ、」
聞き返しただけだというのに、カエデは何故かオーバーヒートした様にまたもや真っ赤になる。
「その、イオは、どうやって生まれたの?」
「...俺は、親が製作して、作り上げられた産物だが。それがどうかしたか?」
既に、素性を隠すつもりは無かった。以前のイオであれば、ここまでさらっと事実の公表はしなかった筈だ。何故だろう。それは、イオ本人でさえ、理解出来なかった。
「その、花、、はね、受粉っていうのをさせて、花を増やしていくの。それこそ、イオの言う、親がイオ達戦闘員をいっぱい造った様に」
少し慌てながら、カエデは懸命にそれを伝える。それを、無言で聞き入れながら、イオは頷いた。
「その受粉っていうのをするために花はこんなにも綺麗な色になって、成長してきたの。だから、、その、歩ける様に進化すればいいって言っちゃったらそこまでだけど、今みたいな形が存在するのにも、全部。ちゃんと理由があるんだよ?」
「理由、か」
「たとえ不便でも、機能が私達みたいに発達してなくても、植物は植物なりに進化して、部分によっては私達を超えてるの。だから、小さくて簡単に破壊できるものでも、そういうのを、考えなきゃいけないと思うの」
ー何、言ってるんだろ、私ー
カエデは、寂しそうな表情で、それを告げながら考えた。きっと、イオに分かって欲しかったのだ。あの時。レプテリヤだからといって、産まれたばかりの命を亡き者にしてしまった時から、ずっと。
それを受けたイオは、悩む素振りを見せ、直ぐに理解は出来ていない様子であった。それはそうである。そんな意識は、今まで存在しなかったのだから。
そうなる事を察していたカエデは、今はそれでいいと。イオに微笑んで近づく。
「無理に納得しようとしなくていいよ。分からない事は分からないもん。だからこそ、私がこれからもイオに教えーー」
「こんにちわ」
「「っ!?」」
カエデがイオの肩を叩き、優しく放つ途中。二人の背後。いや、二人の頭上から、何者かの声が放たれる。
「何、?」
「ングェ?ちがかったん?グォィィ、あれでいい聞いてたが」
「嘘だろ、」
思わずイオは退く。頭上からゆっくりと降下しながら現れたそれは、影のような見た目と、真っ赤に染まった双眸。輪郭は強張っており、触覚らしき頭の上のものは、短かった。
更にはウネウネとオーラの様に浮かび上がる、まるで陽炎の様な体と、我々と同じ様な見た目及び体格、そして、全身が黒尽くめではあったものの、何か服らしきものを装着している。
だが、明らかにそれはーーー
「レプテリヤ」
「えっ」
イオが呟くと共に、カエデは目を見開く。そう、そこに居るのは間違い無く、レプテリヤである。しかも、ただのレプテリヤでは無く。
ーこいつはマズいぞー
その見た目から導き出される答えは、ほかでも無い。隣で震えるカエデと同様。
「ヒト型か」
「グヒ?なんか、会話できてるっぽき?」
「ヒト型というのはやはり会話も可能なのか。本当に、底が見えないな」
退きながらもニヤリと微笑むイオは、挑発的にもそう口にしながら、分析システムを起動しスキャンする。
ーやはりヒト型、、コアは中心部かー
目を細め、それを理解すると同時に、イオはその異変に気づき目の色を変える。
そう。今までカエデの分析が出来なかったのはヒト型であるが故のものだと考えていたのだが、そうではないのだろうか。はたまた、ヒト型にも種類があり、現在の分析システムでは計れない個体も存在するのか。
イオがそう疑問に感じていると、地に降り立ったそのヒト型は、足を着くや否や口を開いた。
「まぁいい。おめらぁ、ミツマタァ、知ってんかぁ?」
「ミ、、ミツ、マタ、?」
「みつ、、さん、、三股!?だっ!?い、イオ!?聞いちゃ駄目だよ!やっちゃ駄目だからね!」
「な、どういう事だ?知ってるのか?」
赤面して慌てるカエデに、意味も分からずイオは聞き返す。が、対するヒト型は痺れを切らした様に頭を掻いて割って入る。
「さんまたぁ?違うなぁ。ミツだミツマタァ!」
「ミツ、、そ、それって、お花、」
「花、?」
顎に手をやり小さく零すカエデに、イオは一言で訊き返す。
「グゥ、、こっちではそういういいかたする聞いたんだけどナァ、知らねんならもういい」
すると、そのヒト型はため息を吐いた。と、思われた次の瞬間。
「ソレ探せ言われてんだヨウ。邪魔するなヨン?」
首を回してその場を後にしようとする。そんなヒト型に、イオは待てと。背中に向かって声をかける。
「悪いな。お前、レプテリヤだろ」
「ングゥ?そうだ」
どうやら、レプテリヤという名称は我々が個人的に相互している名では無かった様だ。
その新たな発見にイオは微笑みながら、目つきを変える。
「じゃあ、ここで駆除させてもらう」
「えっ」
「アァン?なんだぁ」
イオの発言に、カエデが驚いた様に声を漏らす。
「だ、駄目だよっ、、この人、敵意は無いみたいだし、それにっ、」
「そうは言っても相手はレプテリヤだ。俺は任務を遂行する」
イオはそう言うと足を踏み出す。その光景を前に、カエデは苦しそうな表情を浮かべる。するとそれに反応し、そのヒト型も足を踏み出したが、その矢先。
「アンエ?そこのお前」
「へっ!?」
突如、カエデに目線を向け、注意深く凝視する。
「お前、、どっかで、」
「よそ見をするな」
「グギッ」
ヒト型が小さく呟くと共に、イオがジェット機能を駆使してレプテリヤの顔面を殴る。
それにより吹き飛ぶ姿を見つめながら、イオは胸中で思う。
ーさっき、、面識がある様な反応だったな。...やはり、カエデはヒト型であり、レプテリヤが手を出さないのはそのせいかー
前から分かっていた事なのだが、胸の奥がモヤモヤとする。なんだろうか。システムエラーは、起こっていない筈なのだが。
「イオッ、、駄目だよ、、いくらレプテリヤでも、何も悪い事はしてなーー」
「ぉんもいだしたっ!」
「「っ!?」」
遠くから、煙に巻かれながら高く跳躍するヒト型は、大声で祝福の声を上げた。
「お前ッ、持ち帰る!」
「えぇっ!?」
今度は目の色を変えて、そのヒト型はカエデに向かって急降下する。が、彼が到達する前に。
「グヒッ」
イオがヒト型を腕で防ぐ。
「どうだ?これで駆除する理由が出来たんじゃないか?」
「...う、うう、、で、でもっ、、その...うん、分かった、お願い」
どうやら、ヒト型は同族であるカエデを元の星へと連れ帰ろうとしている様だ。ならば、今までのレプテリヤも全てそれを思ってやって来たのだろう。一番最初。カエデと出会った日に現れた中型レプテリヤ。奴の地面に向かって攻撃していたのも、カエデが地下に居る事を知っての事かもしれない。と。
会話の出来るレプテリヤは、重要なサンプルとなると踏んだイオは、カエデの時と同じく情報を聞き出そうと口を開く。
「どうした?連れ帰るんじゃ無いのか?」
「連れ、、と、り、戻す」
ー取り戻す、か。まあ、レプテリヤ側からしたらそういう感覚なんだろうなー
ヒト型を弾いたのち、イオの数十メートル先に着地したレプテリヤを見据えながら、更に切り出す。
「そうか。それは、誰の指示だ?」
「ガースさまだっ!」
「っ!」
ヒト型が掛け声の如くそう名を放つと同時に、イオに向かって触覚の様なものを伸ばし、既のところで避ける。
「ッ」
ーガース。それが、親玉の個体名かー
イオは、カエデの事で会得した誘導技術を巧みに使い、ヒト型に情報を吐かせることに成功する。それに乗っかり、イオはジェットシステムを起動し飛躍しながら、更に続ける。
「ガースか。聞いた事が無いな」
「てめぇん、、ガースさま、を、知らんの?」
「ああ。その偉大なるガースさまって奴の事、教えて欲しいんだが」
順調だと。イオは内心ほくそ笑みながら爽やかに放つ。
が。
「ゴチャゴチャうっせぇーな!お前なんかっ、ガースさまの事を知るのにいちおくまんねんはえーってんの!」
「なっ」
そう怒りを含めた言葉と共に、そのヒト型は大きく飛躍し、イオの目の前に到達する。
予想外であった。奴が、空中にも適しているなんて。
「クッ」
イオは、突然の事にミサイルを撃ち込み避難する。が、しかし。
「クソッ、」
それを間近で受けた自身にもまた、大きなダメージを受け、イオは歯嚙みする。
だが、そんなイオの眼前に。
「いてぇな」
「何っ」
ヒト型が、至って平然と戻った。と、思った刹那。
「ぐほぁっ!?」
腹のあたりから鋭い触覚が生え、イオの腹を貫く。
「イオッ!」
カエデの叫びも虚しく、イオはそれを引き抜かれると共に地面に力無く叩きつけられた。
が。
「触手、、やはり、ヒト型はレプテリヤの超越した姿。...大きさは関係ない。レベルは、大型レベル。...いや、それ以上、特大レベルだ」
ゆっくりと立ち上がるイオの表情はニヤリと微笑んでいた。
「イオ、?」
「ヒト型レプテリヤ。レベルを中型から特大に変更。直ちに駆除ーー」
知能の発達したヒト型は、それだけではない。その知能を活かして敵を追い詰める事の出来るセンスと能力を持ち合わせている。
故に、情報収集に力を注いでいる場合ではないとイオは大きく足を踏み出し。
「します」
背中から現れた大きな砲台二つを発射した。
「グヒッ?」
その速度は、レプテリヤの最高速度以上。いくら地上とヒト型の居る空中に僅かな距離があったとしても、避ける事は極めて困難である。
だが、そのレプテリヤは避ける事はせずに。
「よっ」
「「っ!?」」
腕の関節から手先が大きな口の如く変形したかと思われた矢先、その攻撃を飲み込む。
「なっ」
「面白い」
するとヒト型も、まるでイオの真似をするかの様にニヤリと微笑むと、それをそのまま返す。
「マズいっ!」
ただでさえ発射スピードの速いあの攻撃を、上下の重力差を加えて更に速度をつけ落下する。その光景にいち早く気づいたイオは、早急にジェットブーストを地面に行い、自分のジェット威力を倍増させてカエデの回収に急ぐ。
「っ!イオッ」
「とりあえず隠れてろっ!」
イオが必死の形相でカエデに告げると、瓦礫の裏に隠れ込みその一撃を耐える。
「...ふぅ。あんれ?奴らどこいったぅ?」
「ここだっ!マヌケッ」
皆を見失ったヒト型に、イオは空中から彼に向かって放つ。
一度見失ってくれた事をいい事に、カエデの位置がバレない様に、あえて遠くの上空からイオは攻撃を仕掛ける。
「喰らえっ、メテオバーストッ!」
「グゥゥンッ」
どうだ、と。イオは得意げに放つがしかし。
「!」
それをヒト型は手で押さえ、それを次の瞬間。
飲み込んだ。
「クソッ、またかっ」
「グヒヒ」
だが。
「フ」
ニヤけるヒト型に返す様に、イオは微笑む。
「掛かったな。それは、バーニングバーストだ」
「グフッ」
イオの言葉に続いて、取り込んだ筈のそれが発火し、爆発を起こす。
「ギィィィィィィィィィッ!!」
「残念だ。メテオ」
「グブッ」
それにより体が焼けるヒト型に対して、イオは冷徹な瞳でトドメの如く追い討ちをかける。
メテオにより、地面に叩きつけられたヒト型は、燃える炎を纏い、蹲っていた。
そのように見えたが。
「クフッ」
「何っ」
彼は笑い、その炎を全て飲み込んで、威力丸ごとーー
ーー頭上のイオに返した。
「嘘だろっ」
威力は大きいが、速度は速くないそれに、イオは避ける事が出来たものの、その先で。
「!」
拳を構え接近する、ヒト型が現れた。
「マズーーごはっ!」
イオは、流石の二回連続攻撃には対応しきれず、その拳をそのまま受ける。
「がはっ!」
それ故に大きく吹き飛ばされたイオは、瓦礫の山に激突した。
ーあれでも吸収できるのか、?なら、一体どうやってー
たとえ威力の高いものを撃とうと、そのレプテリヤには全てを吸収出来る程の力を持ち合わせている。ならば、責めるだけ無駄では無いかと。
イオは、自身が攻撃型なだけに頭を抱えた。
ー相手が悪いなー
目を細め、攻め方を変えなくてはと考え直したが、その矢先。
「っ!グッ」
突如前方から、高速でヒト型の触角がこちらに向かい、それがイオの足に巻きついた。
「何ッ!?」
それに対応するよりも前に、イオは持ち上げられ、空中で振り回される。
「グハッ!?」
「オイオイ、あいつどこやったyo?」
「知るかっ、よっ!」
イオは空気抵抗を受けながらもそう掠れた声で返す。と、それと共に。
「プラズマ」
自身を掴む触手に向かって、電撃を流した。
すると。
「グギィィィィィィィッ!!」
「っ!」
どうやら、予想とは反してヒト型は呻き声を上げた様だ。と、それを認識したと同時に。
「いてぇなぁっ!」
「ぐあっ!」
振り回していたイオを突然離し、その威力故にまたもや大きく吹き飛んだ。
「ぐぅぅっ」
が、イオはその威力に負けじとジェット機能を駆使し空中で体勢を立て直すと、低空飛行をして今度はーー
「チェーンメタルッ!」
背中から、四本程の鎖を放った。
「グギ?」
それをヒト型に絡めつけ、イオは微笑む。
先程のプラズマが、この攻撃吸収型レプテリヤに通ったのだとすると、即ちこれのダメージ加算方法は内部からの攻撃であると。そうイオは理解し歯を見せる。
「それなら方法はいくらでもある」
そう放ったそののち、イオは少し間を開け小さく付け足す。
「プラズマ」
「ギャィィィィィ」
中型に行ったものと同じ、チェーンを伝わせて体の内部に電流を流す。この方法ならばと。イオはチェーンが切れないよう注意しながら、ヒト型の周りを浮遊し流し続ける。
だが。
「クヒッ」
「は?」
ヒト型はしゃがむ様に大きく体を落とすと、電流を全て吸収する。それに、イオが目を疑った。その瞬間。
「ギャィ!」
更に大きな触角を背から生やし、それで巻きついたチェーンを破壊する。すると。
「面白いわざだなぁっ!」
「嘘だろっ」
ヒト型は微笑んで口にしたのち、受けた全ての電気を、そのままイオに返す。
「ぐぁぁっ!?」
それを避けようと体を反らしたものの、それが僅かに擦り、電流が体を支配する。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「イオ!」
戦闘員の身体に電流は弱点である。自身の放った電気にプラスし、レプテリヤの波長が合わさった新たな攻撃。それは、戦闘員の体の信号を狂わせる要因となるのだ。
「ぐあっあっ!」
思わず制御が効かなくなった体を地面に叩きつけると、耐えきれずすぐさまカエデが駆け寄る。
「イオッ!イオ!しっかりして!」
「ク、、う、うぅ、」
「ちょっとシグナルが狂うだけ。電気は大した量じゃ無いから、少し安静にしてればーー」
「駄目、だ」
「えっ」
カエデの忠告を遮って、イオは起き上がる。その体からは、何度も火花が散り、電子回路が所々剥き出しになっていた。
「ここで駆除しなければ、」
「駄目だよ!今戦ったら」
「駄目なのは、、お前の方だっ」
「え、」
またもや、深刻そうにカエデの言葉に割り込む。
「ヒト型のレプテリヤが狙ってるのはお前だ。だからーー」
「オオゥ!ここにいたかぁ」
「「っ!」」
イオが言い終わるよりも前に上空に現れたヒト型に、二人は絶句する。と。
「いいからお前は逃げろ!」
「っ!待って!イオーー」
イオは、突発的にカエデを手で強く押し、瓦礫の陰へとやると、腕を上げてミサイルを起動する。
「失せろっ!ゴミ!ジェット、バーストッ!」
「グ」
瞬間、眩い閃光と共に、爆発音が広がった。その後、空中には大きな爆発とその衝撃が広がり、カエデは耳を押さえて体を縮こませた。
「う、、ハッ!い、イオ!」
それが収まったのち、カエデはハッとしてイオの方へと向き直る。
ーマズいよ、今のイオがそれをやったらー
慌てて、カエデはイオの元へと駆けつける。すると、そこにはーーー
「はぁ、はっ、はぁ。だ、大丈夫だったか?」
「イオが大丈夫じゃ無いでしょ!」
案の定。イオの右肩から下が破壊され、数メートル先に右腕が放り投げられていた。
「や、やっぱあの部品は必要だな。一撃さえ撃てない」
「嘘、、そ、それじゃあ、左は、?」
「ああ。左も、、パーツがない」
「えっ!?あの時、紛失したパーツは一つくらいだって、」
「両手合わせて一パーツだろ」
「そんな事無いよ!プラモデルとか作った事ある!?」
何故か怒るカエデに、イオは首を傾げる。が、次の瞬間。
「危ない!」
「はっ」
イオは、またもやカエデを押し出し、上空から降ったヒト型の攻撃を左腕で防ぐ。
「グフッ!」
「イオ!」
「あ〜。いってぇ、、ギリギリだったぁ」
腹に僅かに凹んだ跡が見られるヒト型が、首を回して呟く。すると。
「やっぱ効いてないか。面白い構造してるな、お前」
「こうぞう?はは。面白いのはお前らだ」
イオが弱々しくヒト型にそう放つと、レプテリヤを弾き、カエデに向き直る。
「出来る限りバレないところに隠れてろ。それか、俺が時間を稼ぐから地下に帰れ」
「え、でも、」
何を言っているのだろうかと。イオは我ながら首を捻る。おかしい。カエデを守っていたのは貴重なサンプルだったからだ。回収するためだった。恐らく、イオは本部から既に処分扱いを受けているのだろう。ならば、自身でカエデを連れて行かねばならないというのに。
そんな重要なサンプルを一人で帰らせるなんて、正気の沙汰じゃないと。
イオは自身の口から放たれたその発言に失笑しながら、立ち上がる。
「グヒ?まだやんの?」
「ああ。俺は戦闘員No.10、、いや、イオ。使命は、親の防衛であり、レプテリヤの駆除である。今ここで見逃したら、俺が生まれた意味がなくなるだろうよ」
「ヒヒ。めんどくせぇ奴らだな」
そうそれぞれが口にすると、一斉にお互いに向かって飛び上がる。と、それと共に、その場を離れようとしないカエデにイオは強く放った。
「お前はいいから早く行け!」
「っ!」
カエデは体を震わせた。どうするべきだろうか。だが、ここに居ても敵う筈が無い。自身を探している相手だ。今一番捕まらない様にしなければならないのはカエデだ。
ならばと。カエデは歯を食い縛り、拳を握りしめて踵を返した。
「クッ!」
それでいい。まるでそう放つかの様な安らかな表情と共にイオは。ヒト型に攻撃を放った。
「インパクト!」
「グヒャィ!」
☆
「はぁっ、はっ!はぁ!」
カエデは、血が出る程唇を噛んで走り続けた。背後では、イオが自身を逃すために今もまだ戦っている。もう既に、限界は越えたというのに。
カエデは、"その時"の想像をしてしまう。
もうその時は目の前だった。
嫌だ。
離れたく無い。
第三者から見れば短かったかもしれない共同生活。それでも、その一ヶ月以上の時間の一日一日はどれもこれも鮮やかで、深くて、濃いものだった。
嫌だ。
イオは命の恩人である。あの時も、こうやって助けてくれたでは無いか。
嫌だ。
それなのに、また逃げるのだろうか。
嫌だ。
恩返しなんてただの自己満足の言い分だ。何一つ返せていないではないか。
嫌だ。
「嫌だっ」
カエデは小さく漏らすと、それと同時に。
「っ!」
綺麗な花畑の中。僅かに光が反射しており、目を凝らす。
「あれって、」
それを凝視したカエデは何かに気づき、足を進める。すると、それは。
「これって、もしかして」
蝶番の様な見た目をした、何かのパーツだった。これは、何処かで見た事があると。カエデは目つきを変える。
この長い時間。毎日イオの修理を行なってきた。でもーー
ーー一番救われていたのは、カエデ自身だったのだ。
そうだ。もう既に分かっていた。行動は一つしか無かった筈だ。もう、自分に嘘なんかつかないと。カエデは覚悟を決める。
嫌だ。
そうだ。
イオが死ぬのは、絶対に嫌だ。
「嫌だ、、やだよ、、しなないで、、やだ、絶対に、絶対に」
そうだ。最初から。
あの日、見たこともない異常生物レプテリヤに襲われたあの日に、助けられた時から。
イオの事が。戦闘員No.10の事が。
大好きだったのだ。
「絶対にっ!助ける!」
カエデは目つきを変えて、突然体の向きを変えて来た道を戻る。
早く。一刻も早くと。
カエデの足と心は一直線で、イオに向かっていた。
☆
「バーストインパクトッ!」
「クヒヒ、無駄だて分からないのか?」
ヒト型はその余裕な表情を崩す事無く、イオの攻撃を吸収しては返すを繰り返していた。その原理を理解しなければいけないと思考を巡らせていたものの、このままではそれ以前の問題である。
考えている内に壊されてしまっては元も子もないとイオは考え、カエデと共に造り上げたその"新機能の一つ"を、イオは起動した。
「喰らえっ」
ヒト型の攻撃がイオに向かう。
吸収型のレプテリヤは相手の攻撃を吸収したのち、それに自分の攻撃を含めた倍の威力で返す事が出来る。
だが、今のイオはそれをーー
「クッ」
ーー更に、吸収した。
「グェッ!?」
「残念だったな。これは、俺達の事をどれだけ勉強しても得られない」
イオは飛行しながらそう力強く、低く放つと、そののち「だってこれは」と付け足し、そう告げる。
「あいつと俺の。共同制作品だからだ」
「ギィッ!」
外さない様に、ギリギリにまで迫って、イオはそう伝えると共に吸収したそれを。
そのまま返した。
「ギャィィィィィッ!」
「へっ!?や、やった、?」
それにより、大きな爆破が起こる。
その爆破に耐えながら、カエデは足を進め、イオの元へ密かに戻る。
「...効いた、?」
その爆発が起こった場所を遠目で見据えると、そこにはレプテリヤがよろめいていた。
即ち、その一撃は効いたという事である。
が、しかし。
「フゥゥゥ、お前おもしれぇな。同じ事返してくるやつは初めてだ」
「...何様だ、」
イオは、淡々と。いつもの様に冷静な表情で返すものの、その一撃故に左腕は限界に近かった。
ーあの攻撃は、厳しいか。出来るとしても後一回、、一回で仕留められるか?ー
イオは内心そう不安を感じながらも、取り繕ってレプテリヤに近づく。と、それと共にーー
「グヒッ」「ふっ」
ーー二人は同時に飛び上がった。
ーとりあえず普通の攻撃で様子見だなー
先程の一撃により、意識が変わった事を理解したイオは、この後のヒト型行動を観察するべく大きな攻撃は控えて攻めた。だが。
「オイオイ、よえぇ、よえぇけど、、なんだ?」
肩からのミサイルやインパクト。プラズマなど、レプテリヤを仕留める最後の攻撃では無いものを使用しヒト型に放つ。
「...」
それを見つめるカエデは、ふと顎に手をやった。
このレプテリヤの吸収の原理は何だろうか、と。今までの攻撃を考えた上での結論ならば、大きな攻撃は吸収出来ない。それが、事実であると考えるがしかし。
カエデには引っかかる点があった。
それならば、何故あの時プラズマや内側からのバーニングバーストで攻撃が通ったのか。内側からの攻撃は、チェーンを使った際は通用しなかった筈である。だが、現在を見るとプラズマやバーニングではびくともしていない。
何があれを起こしたのか。何が原理なのか。理由は何なのか。
カエデはただ懸命に、それを考えた。僅かなこの情報源で、結論に辿り着くために。
するとそれを思う中、イオが放ったサーチミサイルに驚いたヒト型が、無防備なまま攻撃を受けていた。
「っ!」
それで、カエデは理解した。
「そういう事ねっ!」
カエデは小さくガッツポーズをすると、浮遊するイオの元へとゆっくり向かった。
と、対するイオは、ヒト型からの反撃が大きく、それを避けるので精一杯に等しかった。
「クッ」
と、そんな時。
ヒト型が吸収し溜めた攻撃の数を集合してイオに放つ。と、それがーー
「ぐはっ!?」
「クヒ」
ーー脚に擦り、ジェット機能が狂う。
「いっ、、くっ、ああ」
それには、流石のイオも対応出来ずにそのまま地に叩きつけられた。
すると。
「はっ、はぁ、大丈夫、?イオ、」
「なっ!?何帰って来てるんだ!?駄目だってあれ程、、っ」
イオが声を上げると、カエデは少し怒った様に、涙を浮かべてこちらを睨んだ。何か、良くない事を言っただろうか。カエデのためを思っての発言だったのだが。イオが、そう疑問を感じていると、カエデは小さく口を開く。
「...心配したのは、こっち」
「え、?」
涙目で見上げるその姿には、悲しみや怒りといったものとは違う、何か大きな覚悟の様なものが見て取れた。
「イオ。私、決めたから。イオにこうして助けてもらってたら、ずっと恩返し出来ない。...だから、もう少し、私に頼って欲しいの」
「...そんな事、言ったって。それに、恩返しも何も、」
イオがそう答えを渋っている中、カエデは力強い表情で頷く。それに目を見開いたのち、イオは微笑むと、分かった。と呟く。
「オォい!あいつはどこだぁ!」
「...あまり長くは話せなさそうだな。お前を頼るって言っても、まだヒト型の情報が得られてない。まずはそこからだな」
そう零し、立ち上がろうとするイオを、カエデは止めて放つ。
「待って。私、分かったの」
「え?分かったって、、ヒト型の情報をか?」
イオの問いに、カエデは強く頷く。その双眸に、嘘は無さそうだった。
「まず、あのレプテリヤさんは全てを吸収出来るわけじゃ無いの。自分で受け止めなきゃいけない。吸収の能力は自分で発動させないと機能しないの」
「つまり、、俺の様に機能を起動させなきゃいけないって事か?」
「そうそうっ!話が早くてありがたい!」
イオの答えに、カエデは笑顔で返す。そののち、またもや目つきを戻して続ける。
「それを踏まえて、あのレプテリヤさんが攻撃を吸収出来なくする方法として二つあるの」
「...と、言うと?」
「まず一つ目は、吸収をするつもりがない時に隙を突く方法。そして、もう一つは威力の高い攻撃を直撃させる事」
カエデの放った定義の二つに、イオは納得する。今までヒト型に攻撃が通った瞬間を思い返すと、確かにその二つのどちらかに当てはまっていた。その事実に、イオは目を剥き頷くと。そんな彼に。
「だから」
と、そう前置きして、カエデは作戦を耳打ちした。
☆
「クソォ、あのやつ。奴を逃したなぁ。仕方ない、そう遠くにはいてない筈だな」
ヒト型は小さくそう呟くと、高く跳躍してカエデを探そうと試みた。がしかし、そんなレプテリヤを止める様に、数メートル先の隣で、もう一つの影が飛び上がる。
「グギ?」
「まだ駆除出来てないだろ?逃げるなレプテリヤ」
「おめ、まだやんの?」
レプテリヤは飽き飽きだと言わんばかりに首に手をやると、これで仕留めると言わんばかりにイオに向かう。だが、それに対してイオは向かう事はせず、寧ろ。
ヒト型と一定数の距離を保ちながら飛行した。
「グヒ?んで逃げる?逃げてんのはおめぇの方じゃねか?」
ヒト型は憤りを見せながらイオを追う。すると、イオは飛行しながら、背中を開いてミサイルを無数飛ばす。
「フヒ、こんな豆でっぽー」
それを笑いながら、吸収する程のものでも無いと弾き飛ばす。
ー効かないか、それならー
イオは突如踵を返し、空中で止まると高速で向かうレプテリヤに向かってーーー
「プラズマ」
「グフ!?」
電流を放った。がしかし。
「ヒヒ」
「チッ」
それも全て吸収され、イオは舌打ちをする。が、直ぐに立て直し、吸収されたそれを返されまいとまたもや距離を取り逃げる。
「おめ、、まだ逃げんのかよ」
「まだ終わりたくないんでね。喰らえ、バーニングブースト」
「ク」
遠くから、火力を最大に。一点に集中させて放つ。だが、それもまた吸収され、イオは逃げる。
「どした?どんどん俺を強化させる事になるぞ」
「そんなつもりは無いがな。ホーミングランチャー」
イオは空中を飛行しながら、肩から幾つものサーチミサイルを飛ばし、着実にヒト型にダメージを与える。
がしかし。
「ヒヒ」
「クソッ、またか」
行う事数分。イオの放つ全ての攻撃が吸収され、焦りを見せ始めた。
「どした?このままじゃお前も終わる。そうやってずっと逃げてても、体力が限界だろぉ?」
「なんだ体力とは。燃料ならこの間変えたばかりだ。インパクトッ!」
イオはヒト型の挑発をも避けながら、攻撃を撃ち込むが、どれもこれも吸収されてしまう。このままではマズいと感じたイオは、一撃に込めて。
「これならどうだ」
左腕を曲げてミサイルを飛ばす。
速度は先程の砲台のもの以上。避けられる筈は無い。更に、威力は近距離で撃てばイオも砕ける程である。
それならば、あるいは。
イオはそれに可能性を賭けた。だが。
「ゴクン。ごちそ」
「嘘だろ、これも、」
イオは、それすらも吸収するヒト型に絶望し、力無く飛行システムを解除してゆっくり降下する。
「ハハ、壊れちまったかぁ?」
ヒト型はそう笑うと。
「じゃああの世でくつろぎな!」
と放つと共に、今までの。イオの全ての攻撃を含んだ一撃を、返す。
それにハッとしたイオは、目の前に迫るそれを既のところで避け、空中へと飛躍する。
「オウ。いのちのきけんは、まだ察知できるみたいだな」
ヒト型が微笑み、イオが飛び立った先。更に上空を見上げると、そこには。
「!」
「ああ。お前は、出来なかったみたいだな」
イオが背中から四つの発射口を出してはヒト型に向け、目つきを変えた。
と、その瞬間。
「終わりだ。メテオバースト」
イオは四方向に飛び出たそれから放つ攻撃に加え、手から放つメテオバーストを空中で融合させて、ヒト型に直撃させる。
これならば、吸収は出来ない。そう思われた、次の瞬間。
「ぶねぇ」
「!」
なんと、それを僅かな瞬間でーー
ーー避けたのだ。
「何っ!?」
イオはまたもや絶望を見せた。腕は壊れていなかったものの、あれ以上のものなんて存在しない。
「...」
「ヘヘヘ、どした?終わったかぁ」
ヘラヘラと、挑発的に笑うヒト型の言葉を無視して、イオはーー
「ハッ!」
「!?」
ーーニヤリと。どちらが悪か分からない様な、不敵な笑みを浮かべた。
「終わりはお前だ」
イオは腕に、全力の一撃を繰り出すべく力を込めながら、ヒト型の上空をグルグルと周る。
「アアッ!?俺がっ、おわり?」
「ああ!」
イオが叫ぶと同時に、全力の一撃を左腕から放ち、それがヒト型を掠る。
「ハハ、お前、馬鹿だな」
最後の一撃を外したイオに向けて、ヒト型は笑う。と、そんなレプテリヤに、ゴミを見る様な目で。イオは告げた。
「何も気付いてないお前はもう、、終わりだ」
「!?」
その言葉が、その表情と声音で本物である事に気づき、ヒト型は慌ててイオが見据える先。先程から変な音が僅かに聞こえている背後へと、振り返る。
すると。
「何ッ」
「クッぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
そこには、イオの右手を両手で持ち、今にも爆発しそうなそれに耐える、カエデの姿があった。
「こいつっ!?」
「言っただろ?終わりだって」
「スエ?」
それに気を取られたヒト型に、イオはまたもや左腕で溜めた一撃を放つ。だが、既に吸収する事を忘れたヒト型はそれを避ける。
と、その放った一撃はヒト型を通り過ぎ、その背後に居たーー
ーーカエデの掴む右手へと入る。
「ゲェ!?」
「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
目を剥くヒト型の視線の先で、カエデは苦しそうに顔を歪めながら声を上げる。すると、そちらに顔を向けるヒト型の視線をこちらに戻す様に。イオが低く放つ。
「前に教えた筈だ。俺はアップグレードして、お前と同じく吸収出来る様になったと」
「なにぃぃ!?」
即ち、最初からヒト型に当てるつもりは無かったのだ。最初から放っていた小さな攻撃の数々は吸収させるためにわざと放ったものであり、その全てを吸収した一撃を、わざとイオが地上に降りて撃たせたのも、背後で構えていたカエデに吸収させるためであった。即ちーー
ーーイオが放ったもの。そして、レプテリヤが放ったもの。全ての攻撃が集結し、カエデの持つ右手に、蓄えられているのだ。
「うっ、うぅぅぅぅぅぅぅぅっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ」
「もう少しだっ。もう少しだけっ、我慢してくれっ!」
カエデは、火傷する程の熱と腕に侵食する様な激痛に耐えながら、必死の形相で歯嚙みしヒト型を見続ける。
「グフッ」
「ぃぃぃぃぃぃっ!イオッ、、イオォォォォォォォッ!」
そして。
「そして、これで最後にしてやる」
「ク」
イオは最後の一撃に相応しい攻撃を選び、左手をレプテリヤに構える。
「残念だが、お前はあいつが背後で攻撃を放とうとしている事を。脅威であるのを分かっていながらも命令により傷つけられない。もう終わりだ」
「ギィィィィィィィィッ!」
ヒト型は、そう歯嚙みすると、その瞬間。
イオは放つ。
「インパクト」
今までは左腕のために抑えてきていた。その鬱憤を晴らす様に、思いっきり。今までで一番のインパクトを放った。すると。
「うんんんんんんあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
それと同時に、カエデもその全てを込めた一撃をヒト型に返した。
「グヒィィィィィィィ!!!」
が、しかし。
「グヒッ」
「なっ」
「嘘、」
既のところで、二人の一撃をーー
ーーヒト型は避けたのだ。
「ヒヒヒヒ」
それに、絶望を露わにした一同だったが、瞬間。
「イオッ!今っ!」
カエデは、突如目つきを変えて、感覚がないほどに麻痺した腕を動かしてポケットに入った先程のイオのパーツを取り出すと。
イオに向かって放り投げる。
「っ!それって、、ああ!なるほど、任せろ!」
すると、それに驚愕の表情を僅かに見せたのち、イオは背中から鎖を出しーー
「グエ?」
ヒト型の真上を通過していたパーツに巻きつけ掴み取る。
「よしっ」
そののち、イオは鎖を自分の前にまで持っていき、ボロボロの左腕にそのパーツを固定させると。
「ググ!?」
イオは先程放った一撃を飲み込み、ヒト型が避けた事によりこちらに向かっていたカエデの一撃を。
その左腕で、吸収した。
「これで、本当に終わりだ」
「ヒヒッ!?」
その光景に引きつった笑みで逃げ惑うヒト型に対し、イオは背中から生えた発射台からの攻撃と同時にーー
「ゴミ」
ーー全てを吸収した一撃を、放った。
「ガッ!?ギィィィィィィィッ!!」
その攻撃は、あまりにも強大だったが故に、その場一帯を閃光と振動が襲う。その爆破が起こるのを察したイオは、放つと共に壊れかけのジェットシステムをフル起動し、カエデを回収して覆い被さる形で抱きしめ瓦礫の中へと避難する。
「クッ、うぅぅぅぅぅぅっ」
「んんんんんんんんんっ!」
轟音と衝撃に耐えながら、二人は強く身を寄せ合ったのち、辺りが静かになったのを確認し目を開ける。
「ん、んん、へっ!?」
目を開けた先の、その光景。それに、カエデは目を剥き顔を真っ赤にして動揺を見せる。カエデの火傷し皮膚が剥がれ、真っ赤に、ボロボロになってしまった手には、イオの手が握られていた。
「あっ、へっ!?やっ、こ、こんなっ!?あ、いや、こういうのも、、あり、かな?」
「何やってるんだ?」
少し微笑みながら顔を赤くするカエデに、淡々と。冷静にイオは声をかける。
「え?あ、それは、、っ!?」
そんなイオに、カエデはあははと照れ笑いをしながら目を向けると、その先には。
イオが左手でカエデを支える姿があった。
「あ、え?」
カエデは何かを察し、自分の握っていたイオの手をまじまじと見る。すると、それは。
イオの体とは繋がっていなかった。
「あっ、やっ、」
「ん?どうした、?」
「こういうのじゃ無いのっ!」
突如顔を真っ赤に染めて声を上げるカエデに、イオは慌てて身構える。
どうやら、またもや怒っているらしい。戦闘が終わった後くらい、素直に喜んでもらいたいものだ。
「これは、、ノーカンッ!」
「え?それはどういう、?」
「ん、、なんでもない。...もう、、大丈夫、」
「おう。そうか」
カエデは、少しムッとしながら、イオの腕の中から出ると、一度息を吐く。そんな姿を見据えながら、イオはそのままの気持ちを口にした。
「...その、、ありがとう。これ、、それに、作戦も」
「えっ!?あ、うん、、それは、その、イオだけに戦わせるわけには、、いかなかった、から」
左腕の部品を指差しながら、珍しく感謝を口にするイオに、カエデの方が動揺しながら返す。すると。
「そんな事言っても、、お前は戦闘向きなものじゃないだろ、」
少し目を逸らして、拗ねたように放つ。それに、カエデは何かを察して、頰を赤らめると、少し間を開けて歩きながら放つ。
「確かに、私は弱いかもしれないけど」
「いや、別にそういうつもりで言ったつもりじゃ」
カエデが口を尖らせながら放つと、イオはジト目で返す。それに、カエデは少し間を開けて優しく微笑んで振り返る。
「イオの事、、失いたく無いから。だから、弱くても関係ないよ」
「...どうして、そこまで、、いや、」
イオはそう小さく呟くと、一度ため息を吐いてほんのりと笑う。
「ありがとう」
「っ!」
「理由を追求するのは良くないんだろ?お前はよく俺が発言の意味を考えていると不機嫌になる」
「そっ、それはっ、自分で考えろって事!なんで分かんないかなぁ!?」
どうやら、またもや怒らせてしまった様だ。カエデはイオの一言に声を上げた。
「はぁ」
「ため息吐いた!?またかみたいな感じ出さないで!それはこっちの台詞なの!それに、突然何もしてないレプテリヤさんを殺しちゃうのはなんなの!?そんな事、して欲しく、無いのに」
カエデは最初こそ声を張って怒りを見せていたものの、段々と声を小さくし、寂しそうに目を逸らした。それに、イオもまた表情を曇らせて放つ。
「悪い。お前がそれを嫌うのは知ってるが、俺は戦闘員。レプテリヤの駆除が使命だ」
イオは、哀しそうに顔を伏せるカエデに「だから」と付け足すと、真剣な表情で続ける。
「すまないが、レプテリヤの駆除をやめる事は出来ない。...でも」
イオはそこまで告げると、カエデに追いつく様に同じく歩き、その先を見つめ口を開く。
「花は、無事だよ」
「っ」
目の前に広がる花畑。カラフルに彩られた、美しい花々は、いつもと変わらず華麗に咲き誇っていた。その光景に、カエデはハッと何かに気づいた様にイオに顔を向ける。
「もしかして、わざと花から遠ざけて戦ってーー」
「グフフ」
「「!?」」
カエデは驚愕と共に放とうとしたその時。二人の背後から、聞き馴染みのある声が響き反射的に振り返る。
「お前、、まだ」
そこには、至る所に穴が空き、腕の方向が逆の方へと向いて、ボロボロになりながらもゆっくりとこちらを睨んで立ち上がる先程のヒト型の姿があった。
「イ、イオ、」
「クソッ」
イオの陰に隠れるカエデを守る様に左腕を横に伸ばしてレプテリヤを睨むと、その瞬間。
「お前だぁ、」
「...ん、?」
「てめぇらがっ、てめぇらがぜーいんっ!全部悪いんだぁぁぁっ!」
「「!」」
突然、ヒト型は声を荒げ空に向かって叫ぶ。それに、二人は肩を揺らすと、ゆらりと。レプテリヤはおぼつかない足取りで歩みを進めながらニヤリと微笑んだ。
「馬鹿だ」
「...何?」
「馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ばかぁぁぁぁっ!」
「お前、」
まるで狂った様に声を上げるヒト型に、イオは眉間にシワを寄せる。すると、続けてヒト型は小さく笑って告げた。
「俺に全力で戦うとか馬鹿だなぁ。俺は戦うつもり無かったのに、、馬鹿だぁ。俺と戦った事、後悔するよ」
「どういう意味だ、?」
「ハハハ!俺なんかに本気出した事後悔させてやるよ!直ぐに分かるさ。お前らがどれ程馬鹿かをよぉ!ハハハ!ハハハハハハハハハハハハハハハッ...ハ?」
声を荒げて笑うヒト型に、言い終わるより前に時限式爆破型ミサイルが撃ち込まれ、それに気づいたそののちーー
ーーヒト型は大きく爆発する。
「イ、、イオ」
「...すまない。でも、あれは危険だし、これが俺の使命だ」
予想通り表情を曇らせるカエデに、イオもまた言葉を濁した。
「...ん、」
その言葉に、仕方がないと言うようにカエデは短く零すと、ただ何を言うでも無く立ち尽くしているイオの服を掴んだ。
「...と、とりあえず早めに戻ろっ!イオも相当疲れてると思うしっ」
「疲れ、?」
「あ、ああ!は、早く戻って修理しなきゃ!右腕も。左腕の補強もしなきゃだしっ!」
カエデの一言に、イオが首を傾げると、慌てて修正した文を口にする。それに、イオは「ああ、そうだな」と、小さく笑みを浮かべ答えると、カエデもまたはにかんで足を踏み出した。
「ちょっと待てっ、そういえば、パーツは左腕の方しか見つかっていないが、右は、」
「あ、そうそう!右はーー」
「イオさん、と、言いましたね」
「「え、?」」
カエデが問われた疑問に目を見開くと同時。突如瓦礫の後ろから現れた"それ"に声をかけられる。
「...え、貴方は、?」
「っ!マズい、下がってろ、」
「えっ」
それに、カエデは近づき声をかけたがしかし、イオは突如目の色を変えて左腕で前に出るのを押さえる。それと共に、正体を探るべく分析システムを起動し"それ"を見据える。
「...間違いない、」
「...え、?」
イオは、先程よりも険しい表情で生唾を飲むと、一呼吸を開けてそれの正体を睨みながら口にした。
「...こいつは、レプテリヤ。さっきの奴よりも、、ヤバそうだな、、ヒト型レプテリヤだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます