第3話「フジハタザオ」
「...No.10が帰還していないとの事だが、一体どういう事だ?」
カサブランカ内の、親のみが入れるスペースで。一人がそう放つ。
「こちらも探索要請を出して居ますが、本部の近くに発見は出来ませんでした。恐らく、更に遠くに居るかと」
「誠に申し訳ございません。あの日、No.10の部隊を担当して居たのは自分です。責任を持って、No.10の行方を調べますので、」
そう深々と頭を下げる一人に。冷たく告げる。
「いや、もういいよ。君には、残念だけど部隊の管理から外れてもらう」
「えっ」
思わず悲壮感を露わにしながら、その一人は顔を上げる。そんな様子には気にも止めず、その処罰を下した者は息を吐きその場の皆に向き直る。
「それでは、No.10の行方捜査は、あの"出来損ない"に依頼しましょうか。それくらいはまともに行えるでしょう」
「奴に誑かされないですかね?」
「その時はまた"あの時"と同じ様にするまでです」
その結論に、異論は無い様で皆が頷く。そんな中、罰せられた者は絶望を見せながら、思わずその人物にしがみつく。
「お願いします!今回の失態を繰り返さぬよう、精一杯指揮を行います!現状確認や戦闘員データの収集を怠らず、以後このような事は起こさぬよう最善のーー」
「聞こえなかった?君の指揮は、もう必要無いんだ」
「あ、、あぁ、」
無慈悲にも淡々と告げるその者を前に、崩れ落ちる。それでも尚手を離さないがために、手を払って踵を返す。
その人物がその場を去ると、それに釣られるように他の者達も部屋を後にする。
ただ一人残された部屋で、その人物は嗚咽のような言葉にならない声を漏らした。
☆
「現在より、大型レプテリヤの駆除に当たります」
手袋を引っ張りながら、目つきを変えて放つ。そんな無謀な事を言うイオに、カエデは目を丸くし詰め寄る。
「な、何言ってるの!?イオは今凄く危険な状態でーー」
「レプテリヤの駆除が俺の役目だ。保護する事じゃ無い」
「え」
イオの一言で、カエデは自身の事を話されているのを理解する。あくまで使命はレプテリヤの駆除であり、カエデを保護することでは無い。ならば、ここで朽ち果てても、大型を駆除する。そんな、最後まで任務を全うするという覚悟が、イオの瞳からは見て取れた。
だが、その覚悟を見据えると同時。カエデは首を捻った。レプテリヤの駆除が任務であり使命である。
ならば、何故自分は例外なのだろうか、と。
カエデは疑問視した。イオの考えや行動理由を。
そんな事を考えている最中、イオは僅かに機能するジェットを起動し大型に向かう。
ー相手は獣型。基本的に体は毛で覆われていて、守られている。だからこそ、最初にすべきなのはー
イオは分析を行いながらそう胸中で確認すると、共に。両手を合わせ、両腕が開く。と
「バーニングメテオ」
「ギィィ?」
体に覆う、体毛を。焼き払おうと、オーバーヒートした体内を全て放出しミサイルで使用する炸薬を利用する事で、衝撃と爆発を起こさせる。
が、しかし。
「ギィッ」
「!?」
どうやらびくともしない様で、その巨大な獣型に前足を叩きつけられる。
「ゴハッ!」
吹き飛んだイオは、瓦礫の中に打ち込まれ、姿を消した。
「イオッ!」
カエデは思わず声を荒げた。すると、その声に反応してか、大型はカエデに振り返り近づく。
「やっ、やめてっ」
言う事を聞かない身体を、必死に動かす様に。手のみで後退る。
「はぁ、はぁっ、近寄らないでっ!」
喰らう獲物を、捕獲するかの如く姿勢と相貌で、大型はこちらを見据えゆっくり近づく。
が、刹那
「ジェットブーストッ」
「ギ」
声と共に、瓦礫の中から。強大な爆撃砲が放たれる。ジェット噴射の威力を腕に移行し、核爆弾と併用して使用する事で、威力を増し攻撃する事が出来る。それにより、流石の大型も軽く吹き飛ばされ、隙が生まれる。だが、僅かに隙が出来るだけである。
攻撃特化型とされた、No.10の攻撃で、だ。
が、そんな小さな隙であるのにも関わらず、イオはジェットを使ってスピードを早め、大型に向かう。
「!」
その瞬間目に入ったイオの顔は、笑っていた。
それに目を剥くカエデだったが、次の瞬間。
「インパクトッ」
「ギャィィッ!?」
体毛の中に入り込み、直接皮膚にイオはミサイルを放つ。この、ゼロ距離攻撃には、大型も耐えきれずに鳴き声を上げ、暴れ回る。
これで、コアへの攻撃が可能となったと。そう思われたその時。
イオの体は急停止し、地面に叩きつけられた。
「ガッ!」
「っ!?イオ!」
そうだ。ゼロ距離の攻撃は後一回だっただろうと。イオは脳内で思い歯嚙みする。
体の限界が近かったというのに、どうしてこの作戦を選んでしまったのだろうと。不甲斐ない自分自身に憤りを感じる。
ー後、少しだったんだけどなー
一人で大型を駆除し、功績を挙げる。そんな事、望んではいなかったが、目の前のレプテリヤさえまともに駆除出来ないのでは、戦闘員失格である。
最後くらい、頑張ったと思って終わりたかったと。
そう思うと同時に、大型レプテリヤに蹴り付けられ、カエデの方向へと吹き飛ぶ。
「グハッ」
「イッ、イオッ!イオッ!しっかりして!」
揺さぶるカエデに、ノイズが入る。
ークソ、、大型も駆除出来なければ、ヒト型を本部に連れて行く事すら出来なかった。恐らく俺が廃棄されたのち、この大型に連れてかれ、ヒト型は記憶を取り戻すだろうー
この二日間を振り返って思う。
何の意味があったのだろうかと。
目を細めて、イオは思う。と、瞬間。
「イオッ!駄目だよ!絶対に、死なせない!」
「っ」
カエデは突如立ち上がると、服の中から本を取り出した。その本とは、いつも修理の際に使用しているものだった。
そんなものをそこに隠していたのかと、思うより以前に、イオは目を瞬かせる。
ー俺を、、助けるのか、?ー
この状況。普段のカエデを考えるならば、普通は逃げるだろう。なのに、何故、と。イオは僅かに機能する脳内で疑問を並べる。
「えと、えーとっ、これが、ここだから、、えーと、」
本とイオの体を見比べながら、なんの機材で、どの様に作られているか。何で造られているかを確認する。
が、それよりも前に。
「ギャィィーッ!」
こちらに、レプテリヤが勢い良く向かう。
「やっ!?こっち来たっ、どうしよう、、あっ」
カエデは咄嗟に、イオをするびかせながら運び、瓦礫の間に入り込む。すると。
「ギィィィ?」
レプテリヤは動きを止める。どうやら、見失った様だ。と、いうわけでは無く。
大型であるがためにこの小さな空間には入っては来られず、もしこの瓦礫ごと破壊する事があれば、それはカエデも共に破壊するという事になるだろう。
即ち、自分がレプテリヤにとってどんな存在なのかを、一回目の戦闘で学んだがために発案する事が出来た作戦である。
ーこれがあの状況で一瞬で出てくる、、やはり、普通では無さそうだ。このレプテリヤはー
そう思うイオは、それと同時に。ならばどうして先程までその行動をしなかったのか。レプテリヤという存在に恐怖心を持っていた事は明らかであった。それなのに、この作戦を瞬時に考えるだけの知能があるのにも関わらず、今の今まで逃げというそれを実行しなかったのだ。
それは一体、と。イオは自身の体を、顔を僅かに赤らめながら触り、本と見比べながらパーツを持ち上げるカエデを薄目で見据えながら、疑問を並べる。
それはどうしてだろうか。いや、今までもそのような事があった。一回目の戦闘でもカエデは逃げずに立ち向かい、自身の拠点へと案内した際にも、"分かっていて案内している"様子だった。
「っ」
そこまで考えて、イオはハッとする。全てを並べ、思考を巡らし察する。
カエデは、イオを守りたいのだと。
何故かは不明だった。最初に出会った際にカエデを守ったのは事実ではあるが、ここまでする必要性は無いと思われる。その理由は未だ理解し難かったが、恐らく。いや、それ以外あり得ないだろう。それが全て演技であるならば、今ここで助ける必要はない。
レプテリヤ間でも敵や味方といった概念が存在しないとは言い切れないが、今はそう割り切る事にし、自身はただただそのカエデによる
☆
「でっ、できたぁぁぁっ」
数十分が経ち、安堵のため息を大きく吐くカエデ。どうやら、修理が完了した様だ。
「っ」
それにより再起動されたイオは目を瞬かせ、現状を理解する。
「...まさか、、ここまでを、一人でやったのか、?」
「そ、そうだよぉ、、はぁ〜、疲れた、」
「凄いな」
本の力とはいえ、それを瞬時に理解し、身につけ、自身の手で行うとなると話は別だろう。故に、何を考えるでもなく、イオはそう感心を漏らす。が、対するカエデは、少し拗ねた様に口を尖らせた。
「...どうした?」
「そのぉ、その前に言うことあるんじゃ無いの?」
「ん?...ああ。ありがとう。本当に助かった」
「よろしいっ!」
ニッコリと微笑むカエデを他所に、イオは起き上がって放つ。
「それよりも、あの後大型はどうした?」
「えっ、あー、えと。なんか、来ないけど、足音が聞こえるからまだ近くに居ると思う。多分私達を捜してるのかな?」
憶測でものを言うカエデに、イオは胸中で否定を呟く。あのレプテリヤは大型である以前に獣型であった。即ち、獣型の特徴として鼻がよく利くのだ。
そのため、見失ったという事はあり得ないだろう。恐らく、カエデの保護を考え、何か策を考えているに違いない。ならば、その突破口を見つけるよりも前に叩く。
それが、最善だろうと。そう思い立った次の瞬間。
「それよりっ!駄目だよ!まだ起き上がっちゃ」
「ん?どうしてだ。折角、修理してくれたんだろ?」
「修理したけど、歩いたりするくらいしか出来ないよ!戦闘が出来る状態に直したわけじゃ無いもん。まず、こうして生きてる。それだけでも奇跡なんだから、有り難く思って寝てて!」
「な。それは困る。俺の役目はレプテリヤの駆除だ。悪いが、行かせてもらうぞ」
「えっ!?駄目だよ!」
突如として立ち上がったイオは、そう息を吐くのと共に放つと、瓦礫の外へと歩みを進める。そんなイオの背中に向かって、カエデは懸命に言葉を放つが、しかし。
「よっと」
「ギィヤァァァァ!」
「何っ!?」
「危ないっ!」
外に出たや否や、瞬時に理解したレプテリヤが、イオに向かって突進するかの如く速度で向かう。
それに一瞬で反応したカエデの力により、イオは手を引っ張られ、安全地帯である瓦礫の隙間へと戻された。
「もう!何やってるの!?なんでそんな無茶な事するかなぁ!?もう、イオのせいで場所バレちゃったじゃん!」
「...」
カエデとは対照的に、イオは目つきを変える。やはり、そうだと。あの反応速度、あれは確実にここに潜んでいる事を理解している速度であった。故に、自身の先程の予想は間違っていないと。再認識する。と。
「って、聞いてる!?少しは反省しなよ!」
「なぁ?」
「へっ」
突然、トーンを落として放つイオに、声を裏返して反応するカエデ。
「さっき、場所バレた。って言ったよな」
「え、、う、うん、」
「なら、なんで襲って来ないんだ?」
「っ」
ーこいつにも教えといて損は無いだろう。今のところはなー
そう結論付けたイオは、ハッとするカエデに伝える。
「やはり、あいつもお前狙いだという事だ。だから、お前に対して危害を加えないよう、細心の注意を払ってーー」
イオが、そこまで告げると同時。彼の背後にゆっくりと現れた鉄骨が。
突如大きく持ち上がり、その力で二人が隠れる瓦礫もまた持ち上がる。
「何!?」「嘘っ!?」
瓦礫が持ち上がり、外の光が差し込む。それに、目を細めながら見据えるその先に。
逆光に照らされたレプテリヤの姿があった。
ー嘘だろ、傷を付けずに二人を仕留める方法として、鉄骨という小道具を使用する事で成し遂げたって事かー
どうやら、大型にもなると、やはり頭もキレるようになる様だ。イオは仕方ないと、手袋を引っ張る。
「ここは仕方ない。おい、悪いが緊急事態だ。全力で戦わせてもらうぞ」
と、威勢よく足を踏み出したイオ。だったが。
「駄目!」
「なっ!?」
瞬間、カエデに手を引っ張られ、更に瓦礫の奥へと連れて行かれる。
「おい、どういう事だ。そのまま逃げ続けても仕方ない。あいつは出てくるまであそこにいるつもりだぞ?」
「うん!分かってる!ちょっと考えがあるの!」
「考え?」
腕を引っ張りながら、カエデは自信げに答える。
「さっき、イオの体直してる時に見つけたの。瓦礫の山の上に、大きな岩があったこと!」
「もしかして、それをレプテリヤに落とすとか言うんじゃ無いよな?」
恐る恐る、予想したものを口にするイオだったが、どうやら当たってしまった様で、カエデは頷き瓦礫の山を登り始める。
「凄いんだよっ!丁度端にあって、押したらちゃんと落ちる位置にあったの!」
生き生きとした表情で話すと、その岩がある瓦礫の上へと到着する。
「よっと!へへぇ〜、こう見えても、体力はあるんだっ!」
息を切らしながらも、瓦礫の山を登ったカエデはそう胸を張って笑う。そんなカエデに、呼吸すら少しも乱していないイオは、首に手をやる。
「おい。そんな事より、その作戦は確かか?」
イオは、あまり賛同出来ないといった表情で放つ。確かに、瓦礫の山は斜面になっているため、岩を押したら、丁度我々が先ほど居た位置に落下するだろう。現在は、我々を捜すレプテリヤがその場を占拠している。
即ち、岩を落とせば直撃するのは確か。ではあるのだが。
「正直岩を落とせる見込みはない。それに、あいつは獣型だって言ってるだろ?そんな事してる隙に、俺達の匂いを嗅ぎつけ対処されるぞ?」
そんな、イオの忠告とも取れる発言に、カエデは尚も笑顔を崩さずに続ける。
「大丈夫だって!私、こう見えても力強いんだよ?腕相撲で毎回勝ってたし」
またもや先程と似た発言をするカエデは、そう言ったのち、岩に手を添え力を込める。
「んん〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
力んで足を踏み込み、精一杯の力を込める。が、しかし。
「んん〜〜〜っ!」
「...」
一向に動く気配なし。
なんだか、遊んでいる様にしか見えない。そんな現場に、イオはため息を吐くと、次の瞬間。
「んん〜〜〜〜っ、、えっ?」
スッと。カエデの隣に、白い手が現れる。
「イ、イオ?」
「はぁ。正直お前を盾にして戦った方が早い気がするが、そんな単純な策が通用する相手とも思えない。俺も力になろう」
「〜〜〜〜っ!ありがとうっ!イオ!」
何故ここまで喜びを見せるかは不明だが、パァッと表情を明るくするカエデ。
「じゃあ、行くぞ」
「うん!」
イオの掛け声と共に、二人は同時に。全力を出し切るように思いっきり押し込む。だが、それでも尚。
動く気配は無い。
「んん〜〜っ、ぷはっ!...うぅ、全然動かない、」
現状に俯くカエデに対し、先程の発言がどれ程浅はかだったか理解したか。と、イオは内心で呟き、目つきを変える。
「悪いが、使わせて貰うぞ」
「えっ、何をーー」
「飛行システム、起動」
呟くと、足の裏が開き、ジェット噴射で体が浮く。ジェット機能は限界であったが、飛行システムはまだ問題無さそうだ、と。イオは僅かに微笑み、足を岩と逆方向に向けて、その威力で岩を押し出す。
「だっ、駄目だよっ!?」
「だが、何もしなくてもいつかは破壊される。俺の意思で壊れた方がまだマシだ」
イオはそう放ち、岩を大きく動かす。が、その時。
「ギギ?」
どうやら気付かれた様だ。レプテリヤが声を上げると共に、こちらに攻撃を行うため跳び上がる。
「ひゃっ!?う、嘘っ!?気付かれちゃった!?」
やはり、そう簡単にはいかないか、と。イオは心中で思う。更には、瓦礫の上であるがために、"誤ってカエデに被害を出す可能性"が極めて低くなった点も、レプテリヤには大きいのだろう。
大きく跳躍し、その威力を増して降下する。
が、刹那。
「よし。このくらいでいいだろう」
この光景に絶望し、策は無いかと見渡すカエデの隣でイオは小さく呟くと、手を叩き砂を落としながら、飛行システムで同じく飛躍しながら大きく後退る。
「っ!そ、そうだよっ!イオの考えが正しかったら、イオだけでも逃げればーー」
「いや」
ハッとし振り返るカエデに対し、イオは空中で否定を返す。
「悪いが、俺はレプテリヤを前にして撤退する事は、親からの命令か余程の事が無いと行わない」
「だっ、だからっ!今がそのよっぽどの事じゃ無いの!?」
カエデが焦りを見せながら声を上げる中、レプテリヤが近づく姿を一瞥し口角を上げ、イオは飛行システムを利用して思いっきりーー
イオの真下にあった、その大きな鉄骨を両手で殴る。
「じゃあな。ゴミ」
「ギィッ?」
レプテリヤが瞳孔を開いたのを感じた。と、次の瞬間。
イオの殴った鉄骨の先端。丁度良い位置に調整され設置された、先程の岩が。反対側を殴った事により大きく。勢いよく浮き上がった。
「ギャィィィッ!?!?」
レプテリヤは勢いよく降下した自身と、勢いよく迫った岩では避ける事が出来ずに、思いっきり激突する。
「お前のさっきのやつ。参考にさせてもらったよ」
「テコの原理だっ!」
ニヤリと微笑み、嘲笑うかの様に放つイオに続いて、カエデは無邪気に笑って付け足す。その言葉の意味は、またもや理解出来なかったが、まだ終わりでは無いと。イオは飛躍して、吹き飛ぶレプテリヤに向かって高速で向かう。
と、先程体毛を燃やし、皮膚が露わになった部分に向かって。イオは右手を前に出し、腕から手先にかけて開いて。
ブースターを起動した。
「これで終わりだ、消えろ。インパクトッ!」
そう口で放ってから、物体に到達し触れると大爆発を起こすミサイルを放つ。それを、近距離で放った事により、イオは巻き込まれながらーー
大爆発が起こる。
「きゃっ!?」
「ギャォォォォォォォンンッ!?」
「ごはっ!」
その風圧で吹き飛ばされたイオは、瓦礫の山に激突し血を吐き出した。
「イオっ!イオ!大丈夫!?」
その姿に、すぐさま駆け寄り、声をかけるカエデ。そんな必死の姿が届いたのか、イオは起き上がる。
「あ、ああ。なんとかな、、でも、もう右腕は使えなさそうだ」
そう呟いて見つめる視線の先。そこには、イオの右腕の、関節から先が転がっていた。
「そ、そんな、」
「まあ、駆除は出来たんだ。問題なーー」
「私が折角直したのにぃ!?」
「そっちか」
カエデの言葉に落胆するイオ。だったが。その瞬間。
「ギャォォォッッ!!」
「「っ!?」」
先程の大型が、起き上がった。
「え、ど、どうして、」
「クソッ、、そうきたか」
睨むイオの先。レプテリヤに撃ち込んだ場所から、パラパラと、粉々になった石が落ちていた。
「ど、どういうこと?」
「恐らく、体毛を焼き払われた事により、そこに攻撃が来ると予想していた獣型は、俺の修理をしてる間に、そこに石や瓦礫を敷き詰めておいたんだろう」
「そ、そんな事出来るの、?」
「普通なら出来ないが、大型の獣は体毛が強い。石を持ち上げる程の耐久力はあるだろう。だからこそ、先に燃やさなきゃいけないんだがな」
即ち、石を敷き詰めても落ちないという事だ。先程の攻撃の際、もっと良くターゲットとなった部分を確認しておけば良かったと。イオは自分に苛立ちを覚える。
「な、何かないかな、」
対するカエデは、またもや策を見出そうと、懸命に辺りを物色する。そんな中、フラフラと一人。イオは立ち上がる。
「っ!駄目だよっ!?もうイオは限界に近いんだからっ!」
「だが、それと同等。獣型も相当なダメージを喰らってる筈だ。隙を突いて、もう一度あの場所に、今度こそ正確に撃ち込めば」
イオはそう放つと、飛行システムを起動しレプテリヤへと向かう。
「でもっ!駄目だよ!そしたら、今度は本当にイオがっ、」
そう叫ぶカエデを無視しながら、イオはレプテリヤの周りを浮遊して放つ。
「サーチミサイル」
そう口にすると共に、イオの手からは無数のミサイルが発射され、先程焼き払った部分へと向かわせる。
だが。
「ギュュッ!?」
大した効果は無さそうだ。やはりレプテリヤの皮膚の破壊は、容易では無いという事である。そう脳内で呟いた。と同時に。
「グッアッ!?」
前足で蹴り付けられたイオは、大きく吹き飛ばされては鉄骨に叩きつけられる。
「ごふはっ!」
思わず口からは大量の血が溢れるが、体内機能には大きな損傷は見受けられず息を吐く。
ーコアの破壊には、やはり相当な規模の攻撃を要するって事か。分かりきっている事ではあるが、それを放てるのは恐らく残り一回。俺の腕の本数だろうー
レプテリヤと距離を取りながら、イオは飛行システムを使用して宙を浮遊する。すると。
ならば、と。イオはある策を実行に移そうと、上昇する。
「これならどうだ?サーチミサイル」
「ギギ?」
先程と、同じ攻撃をレプテリヤに放つ。こちらの声が聞き取れているかは不明だが、同じ攻撃だったために、深く気にせずこちらに跳躍する。
が、刹那。
「掛かったな。バーニング、バースト」
ニヤリと微笑み、イオが放つと。
「ギギッ!?!?」
ミサイルがレプテリヤの皮膚に到達すると同時に、そのミサイルは炎上し、体毛を燃やす。
即ち、ミサイルが直撃する事により爆散し、事前に内蔵していた白燐がそれによって大気に触れ燃え上がる。そして、燃料に使用していたベンジンも同じく仕込む事により、更に燃え盛る事を可能としたのだ。
これならば、流石の獣型の体毛も弱くなっている事だろう。そう理解したイオは、また傷口を塞ぐ様な突破策を見出さないと確信し、レプテリヤに向かって高度を下げる。
と。
「チェーンメタル」
イオは突如腕から鎖を発し、レプテリヤの体を巻きつける様にしながら、最後はそれを突き刺す。
「ギャゥ!」
ーこの調子なら、確実に隙が作れるー
イオは微笑みながら目つきを変え、最後の一手を口にした。
「プラズマ」
「グギィィィ!」
このまま弱らせて、空いた弱点を狙いフィニッシュ。イオはシミュレーションを行い、実行しようとしたが、刹那ーー
「ギャャャャャャャッ!!」
「何っ!?」
突如、レプテリヤはその突き刺さった鎖を前足で掴み、それを大きく振り上げる。
「グッ」
その鎖の先。それを放った張本人であるイオは、大きく振られながら瓦礫に何度も衝突しては貫通する。
「ゴハッ!」
このままでは問題だと。イオは咄嗟にチェーンを解除し、鎖と別離するがしかし。
大きな力で振り回されていた事により、イオは切り離したと同時に遠くに吹き飛ぶ。
「ガハッ!」
大きな威力で叩きつけられたイオは赤い液体を吐き出すと、目の前にノイズが入っている事に気づく。いや、それ以前に、ヒビが入っているのだ。
ーマズい、、このままだとヒト型の捕獲も獣型の駆除も出来ない、最悪な状況が現実になってしまうー
何か無いかと辺りを見渡すが、とても戦闘で使えそうなものは存在していなかった。また、視界は歪み、右腕は無く、飛行システムも活動限界に達していた。
唯一使えるのは左腕。最後の一撃のみだ。
そんな事を思いながらも、眼前には獣型が走って近づいて来ていた。
どこまでも執着するレプテリヤだと思いながら、イオは「向こうから近づいて来てくれる事」に感謝し、最後の賭け。左腕を前に出した。
「来い。俺はNo.10、戦闘員。使命はレプテリヤの駆除だ」
そう目つきを変えて覚悟を決めると、同時。
レプテリヤがイオの五十メートル付近に近づいた、その瞬間。
「インパクトッ!」
「ギギ?」
イオから見て右から。強大な一撃がレプテリヤに撃ち込まれる。
「ギャゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
どうやら、コアに到達した様だ。
獣型は、かつて無い程の断末魔の叫びを上げ、ゆっくりと地面に倒れ落ちた。
「な、何だ?」
状況の理解が出来ないイオは、動揺しながら"それ"が発せられた方向に視線を移す。と、そこにはーー
「イオッ!大丈夫!?」
こちらに駆け寄る、カエデの姿があった。
「い、今のは?」
「ふふふ〜。真似してみちゃった」
ニッと。笑顔を向けるカエデに、イオは眉を潜め呟く。
「まさか、今の、お前が、?」
「おまっ、って、カエデだって!...はぁ、まあいっか。そう!私が撃ったんだよ?どうっ、凄いでしょ!?」
胸を張って、誇らしげに放つカエデとは対照的に、イオは耳を疑う。先程のあれを、カエデが撃った。まさか、隠しているだけで、カエデにも戦闘システムが備え付けられているという事だろうか。
「いやあり得ない、」
「何言ってるの?あり得なくはないよっ。私、イオの体直してたでしょ?だからその時、本も見てたし構造は知ってたんだよね。その、さっきイオのとれた右腕を見て、ピーンッときちゃったの」
「ど、どういう事だ?」
未だ理解の出来ないイオに、カエデは変わらず自信げに語る。
「イオの腕が取れたのは、このミサイルの、発射時の圧力に耐えられなくて、それを放つ勢いが関節の接続部分に負荷を与えていたからだと思う。その証拠に、腕が取れただけで、発射部分に大きな外傷も見られないし、関節で取れてたのもそのせいだと思うんだよね」
と、カエデはそこまで言うと、先程レプテリヤにそれを撃ったであろう場所を振り返りながら指差し、「あれ」をイオに示す。
「っ!」
そこには、イオの取れた、右腕の関節から先があった。
「だから、右手っ、使わせて貰ったの!」
満面の笑みを送るカエデに、イオはあっけらかんとする。そうか、後一発しか撃てない状況だったのは、関節部分だけだったのだ。だから切り離された腕は、既に銃火器として確立しており、もう一度放つ事は可能だったということだ。
「は、はは、」
イオの口からは、思わず乾いた笑いが吹き出た。どうやらこのカエデという、知能の発達したヒト型には、知恵という面での勝算は無いらしい。それが吉と出るかどうかは不明だったが、今はカエデが味方である事に安堵しながら、イオは感謝を口にした。
「ありがとう。本当、助かった。お前のお陰だ。俺には思い浮かばなかった」
「えへへ〜、、って!だからカエデだって!」
優しく微笑むイオに、カエデは尚も名を口にしない事に頰を膨らませる。と
「でも、どうしてだ?」
「え、?」
「お前は狙われてない。それは、前からだったが、レプテリヤはお前に攻撃する事は無いはずだ。それなら、ただ捕まりたくないのなら、俺を置いて逃げられる瞬間は沢山あった筈だぞ」
イオは、素朴な疑問を口にする。それに、カエデは口を窄め少し悩んだのち、目を逸らし下を向き呟いた。
「そりゃあ、、イオが心配、だから」
「...」
カエデの答えに、イオは口を噤む。正直、本当の事を言ってくれるとは思ってはいなかったが、これは素直な胸の内と言えるのだろうか。疑問しか湧かないイオは、思わずそれを口にする。
「そこだよ」
「え?」
「どうしてお前はそこまで俺にこだわる?助けられた恩を感じているのは分かるが、それ以上の事してるぞ。俺を修理する事も、今回の事も。俺は既に、お前のお陰で中型のレプテリヤを駆除する事に成功してるんだ。もう、それ以上の報酬は要らない」
「...そうじゃ、、ない、のに」
「え?」
小さく唇を噛んで呟くカエデに、イオは訊き返す。すると、カエデは突然顔を上げ、少し怒った様子で口を開く。
「それじゃあ?イオはどうなの?レプテリヤが狙ってるのは私なの分かってるのに、どうして私を差し出さずに倒そうとしたの?」
「それは、使命だからだが」
「じゃあそれはどうして?その使命を実行するのは何故?」
「な、何、?」
カエデの圧と質問に、動揺を見せるイオ。
だったが。
「それは、命令を下した者のためだ」
あえて、親という言葉を濁した。いくら記憶を無くしていようと、自身を気にかける存在であろうと、相手はレプテリヤである。現在のこれも、誘導尋問の様なものかもしれない。だが、イオが深く考えるよりも前に、カエデは続けた。
「そうでしょ?私も、イオのためにそうしてるの」
「だから、そこが分からないんだろ。どうして俺にそこまでーー」
「なんか、、その、分かんない、」
「え?」
「言葉に出来ない、、その、想い、、というか、えと、えぇ〜っと、」
何故か、カエデは顔を赤らめ俯く。どういう事なのだろうか。やはり、レプテリヤにしか分からない事なのだろうか。
「と、とにかくっ、その、そういう感情なの!イオには分かんないと思うけどっ!」
「...やはり、俺には分からないのか」
当たり前である。レプテリヤの駆除のみが、我々戦闘員の使命なのだから。その様な、無駄な知識は必要が無い。レプテリヤの感性を得てしまったら、それこそ情が湧く可能性だってある。
故に、そんなものは必要の無いものだ。
だが、どこか悔しかった。
気になった。何故か、興味が湧いた。
少し悩む様に視線を落とし、表情を曇らせるイオを見て、カエデは少し悩んだのち手を差し伸べた。
「...ねぇ」
「ん?」
それに反応し、イオは顔を上げる。
「じ、じゃあ、私が、教えてあげる。その、私の今感じてる想い」
「え?」
眉間にシワを寄せるイオに、カエデは恥ずかしそうに視線を僅かに逸らして返す。
「イオは、私が一方的に恩を返す事に疑問を抱いてるんだよね?...なら、私にも、その分恩返ししてよ」
「何?その、俺に想いというのを教える行為は、お前への恩返しとなるのか?」
手を差し出すカエデに、イオはわざとそんな疑問を投げかける。レプテリヤの感覚を教えれば戦闘員もまた、レプテリヤの様な考え方を得てしまうかもしれない。それは、仲間を増やす行為に直結するのだ。
それを理解したイオは、今度はこちらがと。カエデの発言からボロを出すためあえて放つ。それに、カエデは無言で頷いたのち。
「うん。だって、イオはそんなの要らないって思うだろうし、必要ないでしょ?」
と、返す。
「確かにそうだが。だったら、それはお前にとってメリットになるのか?」
「うん。だって、、この感情はきっと、一人じゃ虚しいものだと思うから。二人が持ってないと、成立しないものだと思うから」
何故かまたもや頬を桜色に染め、カエデは今までとは違った、優しく可憐な笑顔をイオに送った。
言っている意味は分からなかった。
あえて難しい言い回しにしているのか、それを説明出来ないのか。はたまた、それも全て作戦なのか。それすらも、理解出来なかった。
まだ、もう少し誘導尋問をする必要があると。イオは更なる疑問を口にしようとした、が。
それなのにも関わらず。気付いたら、残された左手はーー
カエデの差し出された左手を、握っていた。
「えっ」
「あ」
お互いに、動揺を見せる。どうやら、二人共この様な答えを出すとは思っていなかった様だ。
それに、何故かカエデは微笑み、イオの手を引いた。
「んっ!」
「よっと、」
「肩、貸すよ?」
「いや、問題無い。レプテリヤに助けられる程、弱ってはいない」
「ああっ!またそうやってぇ。カエデだってば!」
立ち上がり、いつもの様な会話を交わす。
いつもの変わらない状況なのにも関わらず、イオの表情はいつもより柔らかく、吹っ切れた様に見えた。が、その瞬間。
「あ、だが。期間を決めよう」
「え?」
ふと、我に帰ったイオは歩き出しながら、カエデにそう促した。
「俺の修理が終わるまでの間だ」
「えぇっ!?」
「ん?妥当な決断だと思うが」
カエデは先程とは打って変わって、悲しそうな表情を浮かべる。その判断の理由は述べなかった。勿論、言える筈が無いからだ。
あくまでも本来の目的はレプテリヤの駆除であり、カエデという異彩を放つレプテリヤを捕獲する事が、今の自身の任務である。
故に、カエデのその願いというものは、ただ修理を行なっている最中にこなすサブミッションでしかないのだ。それに、ただその想いとやらに興味があるというだけの理由で、予定以上の時間をカエデと過ごすわけにもいかないのだ。
ー少し自分勝手の様な言い方だったが、仕方がない。このヒト型が満足するならばそれでもいいが、あくまで俺の目的を最優先だー
これで諦めてくれても問題無いと言うように、イオは心中で思う。が、対するカエデは顔を赤くし、覚悟を決めた様に強気で発した。
「わっ、分かった!その間で、教えるから!その感情。私で、教えてあげるから!」
「...私で?私がじゃないのか?」
「ふぇっ!?え、えぇっと、その、えぇ〜〜」
疑問に思った点を、素直に口にしたまでだったのだが、カエデはまたもや俯いてしまった。やはり、何を考えているのか分からない。
そうイオは苦笑しながら息を吐くと、釣られて歩き始めるカエデに一言を添えた。
「ちなみに、あれはインパクトじゃ無くてジェットバーストだ」
「そ、そんな細かいとこいいでしょ!?そんなネチネチ言ってるとモテないよ?」
「なんだもてないとは」
カエデと、ほんの僅かに顔を見合わせながら、恥ずかしさを紛らわせるべく前を向いて交わす。
が、刹那。
「ぐあぇっ!?」
「えっ!?」
突如、左腹に衝撃が走り、次の瞬間イオはーー
数十メートル先に、吹き飛ばされていた。
「イオッ!」
カエデは反射的に声を上げたのち、その原因であるものの方向へ顔をゆっくりと向ける。
「嘘、」
「ギィィャァァァァァッッ」
そこには、先程コアを破壊した筈の、獣型のレプテリヤが存在していた。
「な、なんで、、生きてたの?」
カエデを一瞥してイオの方へ向かうレプテリヤを見つめながら、力無く呟く。
「クソ、、まさか、俺とした事が」
向かってくるレプテリヤを目にし、イオは歯嚙みする。
そう、この獣型のレプテリヤは。
コアが、一つでは無かったのだ。
「ゴアッ!」
先程のお返しであるかの如く突進されたイオは、傷だらけの体を更に傷つけながら転がり吹き飛ぶ。
「イオッ」
カエデの声も、力を無くしていた。
そう、即ち打つ手なし。ということだ。
カエデの案も既に底をつき、イオの体も既に限界を越えている。
だが。
「レプテリヤは、、駆除する」
「...イオ、」
イオは、立ち上がった。火花が散り、基盤は剥き出し、音声や視界情報にもノイズが入っていた。だが、立ち上がった。
これが、命令であり職務であり、使命であるからだ。
「来い。ゴミ」
イオは目つきを変えて、未だにこちらに向かうレプテリヤに対し挑発的な言葉を放つ。
既に、頼みの綱は切れていた。
先程の突進で、左腕に損傷を負っていたのだ。これでは既に、コアを破壊する程の威力は放てないだろう。
唯一残った左腕さえも使え無かったが、それでも尚、イオは諦めずに足を踏み出した。
「ギャィィィィィィィィィィィッッ!」
やけくそ。最後の足掻き。それを言ってしまったらそれまでだろうが、イオはそれを、任務であると認識した。
が。
「プラズーーグッ!?」
体の限界故に、攻撃スピードが遅れ、言葉を放つよりも前にレプテリヤに爪で切りつけられる。
「ガッ」
鉄骨に叩きつけられたイオを見て、カエデは何か無いかと辺りを見渡すが。
そこには何も無く、イオは抵抗無くレプテリヤに裂かれる。
と、思われた、次の瞬間。
「ギギッ!?」
カシャカシャと。辺りから小さな鉄が転がる様な金属音が響き、レプテリヤが手を止める。するとーー
突如、イオの背後にある瓦礫の中から、大量の細かなものが現れ、それが目の前で集まったかと思われたその時。
「っっとぉ!」
我々戦闘員の様な姿に変化し、目の前のレプテリヤを思いっきり蹴り付けた。
「ギャゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
その威力は、蹴りとは思えぬ程凄まじく、レプテリヤは大きく吹き飛ぶ。
「お、お前」
「えっ、、何、?」
目の前に現れた、黒い軍服に身を纏い、白手袋を付けた。青黒い、ツンツンとしたパーマが特徴的な彼。そう。
「No.190」
「久しぶりッス!何やってんのかと思ったら、一人で駆除してたんッスね!?抜け駆けは無しって、約束したじゃないッスかぁ!」
元気に笑うそれ。それは間違い無く、後輩であるNo.190だった。
「約束なんてしてない。それよりも、今はレプテリヤの駆除だ」
「相変わらず釣れないッスねぇ。ま、そこが先輩らしいんスけど」
息を吐いて、ゆっくりとよろけながら立ち上がる。すると、No.190も戦闘態勢に入った様で、首を回して目つきを変える。
「相手は獣型レプテリヤ。大型だ。コアの数を見誤った。コアは二つ。一つは破壊済みだ」
「りょーッス」
言葉と声音自体にはやる気は感じられなかった。それがイオの腹立たしいと感じる部分であり、会話を交わしたくは無い理由の最もなものだった。
だが、何を隠そうNo.190はハイブリッドである。
故にーー
「頼むぞ、No.190。健闘を祈る」
「任せてくださいッ!」
そう放つと同時。No.190はジェットを起動しレプテリヤに音速で近づく。
「ギギッ!?」
その速度と気迫に、思わずレプテリヤも目を丸くする。と、彼を視界に収めた次の瞬間。
彼はレプテリヤの腹を思いっきり蹴る。
「ごめんね〜」
「グガェッッ!?」
と、足が腹に減り込んだと共に、足が破裂した様に弾け、レプテリヤの腹が砕かれる。
「ググギッ」
だが、負けじとレプテリヤも重点を前に倒し、No.190を踏みつけようとする、ものの。
「おっと〜」
瞬間、No.190は先程の細かな金属体へと変化し分散する。
「グギッ」
それに疑問符を浮かべるレプテリヤの背後、その金属体が集まり、またもやNo.190の姿に変形すると、刹那。
「バイバ〜イッ!プレスッ」
「ガィィィィィィィィィィィッッ!」
衝撃を真上から与え、踏みつける。
そう、No.190。彼はハイブリッドでありーー
マイクロマシンの集合体で出来ているのだ。
「っしょ!これで大丈夫そうッスねぇ。大型相手によく一人でここまで戦えましたね!正直驚きッス!」
「...お前が言うか?」
レプテリヤの上で、目を見開き驚くNo.190に、イオはジト目を向ける。
「いやいやっ、それは先輩が頑張ってくれたからですって!先輩が一人で頑張ってくれなきゃ、僕でもキツかったッスもん」
嘘をつけと。イオはため息で愚痴をかき消した。と、そののち続ける。
「そんな事はない。それに、、これは一人でやったんじゃ無い」
「えっ、それって、」
イオが吐き捨てる様に言ったのち、カエデの方へと視線を向ける。
「へっ、あ、は、はいっ!初めましてっ!」
頭を下げるカエデに、No.190は目を剥き、動揺を見せる。
「あ、あれってレプテリヤじゃないッスか!?書類にあった、ヒト型ってやつッスよ!」
「お前、勝手に読んでるのか、」
さらっと問題発言をするNo.190に、イオは頭を押さえる。だが、あのレプテリヤは、どうやらヒト型で間違いない様だ。
「ど、どうなってんスか?あれ」
「いや、まあ、話すと長くなるんだが」
慌てて問うNo.190に、イオは息を吐く。
が、その時。
「っ!イ、イオッ!それとっ、そのっ、もう一人の人っ!危ないっ!」
「えっ」「何?」
カエデが慌てた形相でそう声を上げ、それに二人は反応する。と。
「ギィィィィッ!!!」
「「っ!」」
No.190の足場であるレプテリヤ本体が、突如咆哮を上げるや否や勢いよく飛び起きる。と、No.190はそれにより飛び上がりながら、飛行システムを起動する。
「しぶといっスねぇ。こいつ」
「おい、コアをちゃんと破壊しなかったのか!?」
「あぁ〜、、壊せたと思ったんスけどねぇ、」
あははと、苦笑いでNo.190は頭に手をやる。それに嘆息すると、イオは口を開く。
「コアは直接破壊しないと駄目だ。外側からの圧力じゃ破壊出来ない。貫通させないと」
「やっぱそうッスよねぇ、、侮りました、よっと!」
No.190は噛みちぎろうと口を大きく開けて振り下ろすレプテリヤを空中で分解しながら避けると、舌を僅かに出して微笑む。
「あっ、いい事思いついたッスよぉ。これでさっきのは無駄じゃ無くなるッス!」
そう放った瞬間、足を分解させて先程プレスで負わせた傷から体内に侵入する。
「外側から無理なら内側からッスよ!」
足にはブーストシステムが組み込まれている。即ち、体内で元の状態に修復したのちそれを起動すれば。
「これで終わりッスよ!」
晴天の空を背に、ニカっと爽やかに笑ってNo.190はとどめを刺そうとする。
が。
「がはっ!?」
「「っ!?」」
イオ、カエデ共々、目を疑う。
優勢であった筈のNo.190は突如口から血を吐き出し、飛行システムがストップ。地に叩きつけられた。
「なっ、No.190、どうした!?」
イオが僅かに立ち上がり、彼に駆け寄る。
「こいつ、、なかなかッスねぇ。コアの周りの圧力が半端じゃねーッス」
「何、?」
イオは改めて分析システムを起動する。がしかし。圧力という、目に見えないものまでは検知出来ないのだ。更に。
「あいつん中、やべぇくらい暑いッス。完全修復は無理そうッスね」
そう呟きながら、レプテリヤの傷口から数個のマイクロマシンが飛び出してはNo.190の元に向かい、足への修復を始める。
「クソッ、、だから直ぐに分析システムをフル稼働しろって言ってるだろ?」
「あれ疲れるんスもん」
「疲れると比にならない重傷を負ってると思うが?」
「ギヤァィィィィッ!!」
声を上げて近づくレプテリヤに、イオは目つきを変えて構え、No.190に愚痴を零す。
力があるのに本気を出さない。No.190の悪い癖だ。
ーそれがカッコいいとでも思ってるのかー
僅かに歯嚙みし、イオは思考を巡らす。既に限界を越えた体は、レプテリヤのコア破壊をする程の威力は出せないでいた。
ークソッ、左腕さえ使えれば、、後一撃、っ!ー
イオが拳を握りしめ悔しさを露わにした、その時。
「先輩。正直火力は先輩の方が強いっス」
「ああ、でもそれが出来る体じゃないから問題なんだろ?」
イオは、ゆっくり立ち上がるNo.190に、苛立ちを見せる。すると、No.190は突然左側に立ち、小さく告げる。
「なら」
No.190は呟くと、イオの左手を掴んで前に出す。
「?何を、」
と、瞬間。
No.190の右腕が崩れ、イオの左腕に纏わり付く様にしてマイクロマシンが変化する。
「まさか」
No.190の右腕と、イオの左腕が繋がった状態で、声を上げる。
「これならどうッスか?先輩」
「っ!...ああ、どうなっても知らないぞ?」
ニヤリと、「いつもの」不適な笑みを浮かべて、イオは目つきを変える。それに、No.190は。
「りょうかいッス」
と微笑むと、瞬間。
「グォォォォォォォォ!!」
遠くから近づくレプテリヤ。それが僅か二十メートル付近にまで差し掛かったと同時にーー
放った。
「「バーストインパクトッ!」」
「グギッ!?ガァァァァッ!?!?」
今まで以上に大きな一撃。その強大さに、暴風が起こりカエデは地面にしがみつく。
その一撃により、レプテリヤは断末魔の叫びを上げ、あたりは閃光に包まれた。
それは、コア。どころで無くレプテリヤ自体を粉々に、灰にした。
「はぁ、はぁっ!ちょ、容赦なさ過ぎッスよぉ」
見ると、No.190の右腕は、肩にかけて燃えて砕けた様な跡と共に消滅していた。
「コアを破壊するのにはやむ負えない事だ。お前なら、これくらいの威力でも吹き飛ばないと予想してたからな」
「そうッスけどぉ〜、、信用の仕方が鬼畜過ぎません?」
ハイブリッドで無ければスクラップになっていただろう。相手がNo.190で、助かったと言うべきか。
まだ、やって欲しい事があるのだから。
「はぁ、はぁ、、い、今の、、イオ、、が?」
カエデが、恐る恐る顔を上げて小さく呟く。そんな事は露知らず、イオはNo.190に向き直る。
「悪いな、助かった。お前が居なくては駆除は成し遂げられなかった」
「いやぁ、いいンスよ、そんな改まって」
少し照れた様にはにかむNo.190に、イオは淡々と続ける。
「そんな時に立て続けで悪いが、もう一つ頼みがある」
「なっ、後輩使いが荒い人ッスねぇ」
その微笑みは苦笑へと変わり、No.190は冷や汗を流す。それに、イオは表情一つ変えずに続ける。
「恐らく、俺を捜しに来たんだろ?」
「え、ああ。そうッスけど」
冷や汗混じりにNo.190が、イオの言葉にそう返す。それに、「やはりか」と呟いたのち、顔を上げる。
「悪かったな。恐らく、本部側も心配しているだろう。早急な対応が出来なかった点は、失態だ。申し訳無かった」
イオはそう呟き頭を下げる。その意外な姿に、カエデが目を見開き微笑む。
「いやいやっ!全然平気ッスよ。それなら、僕じゃ無くて親に言って下さい!というか、、珍しくないッスか?先輩が報告不足なんて」
No.190が手を振って返すと、イオは顔を上げて目を逸らす。
「実は、不覚にも戦闘中に通信システムが故障してしまってな。報告すらまともに出来なかった」
「あ、そうだったんスね!二日も連絡無かったんで心配したッスよ。ま、とりあえず無事で何よりッス」
No.190はそう笑う。と、イオは僅かに微笑んだのち、真剣な表情へと変わる。
「それよりも。
「えっ、あ、あれってそん時に、、って事は昨日から一緒に居るんスか!?」
「声が大きいぞ」
No.190が動揺を見せ放つと、イオは呆れた様に小声で耳打ちする。それに「すいませーん」とニヤリと笑って返すNo.190。
「だが、記憶が無いみたいでな」
「あぁ〜、だから襲って来ないんスね?」
「そうだな。だが、それも時間の問題だろう。それが本当かも未だ不明だ」
イオがカエデを一瞥して言うと、No.190もまた、目の隅で見据えて続ける。
「それだったら、本部に連れてった方が良くないッスか?」
「そうなんだが、、何故か拒むんだ」
「それもう確定じゃないッスか!?」
No.190が声を上げると、イオはうるさいと視線で指摘したのち、押し黙る。やはり、カエデはこちらを騙しているのだろうか。
分からない事だらけであるが故に、信用に値しないのは仕方のない事だ。
イオは複雑な感覚のまま息を吐くと、今度はNo.190を真っ正面から見据えて告げる。
「そこで頼みがある」
「お、とうとう本題に。で、、なんスか?」
No.190が目を開いて返すと、イオは一呼吸置いて伝えた。
「本部にあいつの事を報告してくれないか?俺の代わりに」
☆
ーん〜、、何話してるんだろ、、気になる...ー
カエデは、身を乗り出しながら、聞いて良いのか定かで無い会話を「聞こえてきた」というていで説明出来るよう、あくまで自然を装いながら耳を傾ける。
が、しかし。
ーうぅ〜、聞こえない、、なんの話だろ、、ハッ!も、もしかしてー
カエデは、一つの可能性を見出し、目を剥く。
ー二人は、、デキてる、?ー
冷や汗を流しながら、口に手を持って行き二人に視線を向ける。
ーキャァーッ!そ、そこのカップリング!?いやいや、可能性が無いとも言えない、、だって私より遥かに前から話してるのは向こうだし、、それに、ー
そこまで脳内で呟いたのち、目の前で会話している様子を視界に収め、ほんの少し寂しそうに目を細める。
なんだか、イオが楽しそうだと。
ーあんな風に、如何にも自然体みたいな感じで、私には話してくれないのに、、私は、、二人の邪魔なのかなー
そう表情を曇らせながら視線を落とす。"その時"自分はどこに居るのだろうかと。そう思うと同時に。
「へっ!?」
すると突如、No.190がこちらに向かってズカズカと足を進める。
ーな、何何何何っ!?も、もしかして、やっぱり私が邪魔だから止めに来た!?ー
脳内で、カエデに「俺のNo.10に何してんだ」という発言をNo.190が放つ妄想を繰り出し、顔を真っ赤にする。と、対するNo.190は至って平然とした態度でそう切り出す。
「君が、ヒトが、、いや、カエデ、って言うんだね?」
「へ、あ、はい、、そう、でぃす、」
ーなんかめちゃくちゃ変な答え方になっちゃった!?ー
カエデは、突然話しかけられたが故に、声が裏返る。その、慌てた様子と、顔を背ける姿を見据えながら、No.190は思い返す。
『本部に報告、、僕がッスか?』
『ああ。そうだ』
真剣な表情のイオとは打って変わって、No.190は首を傾げる。
『普通に連れてけばいいじゃ無いッスか』
『いや、そういうわけにもいかない。俺は今連行出来る状態で無ければ、道中に現れるレプテリヤや、記憶を思い出したあいつを駆除出来る状況でも無い』
『なら、僕が連れて行きまスよ?報告面倒なんで』
No.190がサラッと答えると、イオは頭を悩ませる。それは、最善の策なのだろうか、と。
数分の間思考を巡らせたのち、決断を出したイオは口を開く。
『分かった。そうしてくれ』
胸の奥が締め付けられる。その理由は分からなかった。
そんな、僅かに苦しそうな顔をしたイオを思い返しながら、カエデに目線を合わせるように屈む。
「...君、記憶喪失なんだって?」
ーい、いきなり直球に来たっ!?ー
カエデは、自身の境遇を知っている者を前にし内心焦りを覚えた。
「あ、え、は、はい、そうです」
小さくなるカエデを前に、No.190は顎に手を添える。
「そうなのかぁ、それは辛いね。凄く寂しかったでしょ?目覚めて何も覚えてなかったら、僕は立ち直れないかもなぁ」
宙を見上げ、悶々と頷きながら「あ、でも忘れてたら忘れた事も分からないのか」と付け足す。そんなNo.190の姿を眺めながら、カエデは目を開く。
ーあ、なんだか凄く良い方そう。良かった、、で、でもこんな優しい方にイオを取られたら、私勝てないかもー
少し微笑んだのち、急に顔色が悪くなるカエデに対し、No.190は手を前に出し、その手をマイクロマシンに崩しながら笑顔を送った。
「僕のマイクロシステムを使って体内に侵入して、記憶回路を弄ればなんとかなるかもしれないけどね」
ーやっぱヤバい方かもしれないー
カエデは、サラッと放つNo.190に肩を震わせながら脳内で改めた。すると、No.190は目つきを変えて、本題だと言わんばかりに口を開く。
「それにしても、なんでNo.10をそこまで尊敬するの?」
「え」
先程、本人からも問われたものである。それを、今日。いや、先程会ったばかりの者に投げかけられ、答えを渋りながらも口を開くカエデ。
「...大切、だからです」
「大切?」
「はい、、私は、助けて貰ったので」
同じ回答を述べた。だが、No.190は尚も続ける。
「助けて貰ったって、、君、記憶がないだけでレプテリヤなんだよね?」
突如突きつけられた現実に、カエデは視線を落とす。
「...分からないです。正直、その、レプテリヤを見ても何も思い出さなかったですし、話を聞いても、ピンと来ませんでした」
そう答えるカエデに、No.190は嘆息する。
「そっか。でも、少なくとも僕達とは違う存在で、データを見ても君はレプテリヤだと思われる。...それで、僕達は戦闘員。それが意味する事、分かる?」
「え、それって」
顔を上げて聞き返すカエデに、No.190は優しくも力強い声音と瞳で伝える。
「そう。つまり僕達は君の敵だ。味方でもなんでもない」
「そ、それは、、分かってます。でも、イオと、一緒にいたいんです。始まりは助けられたからかもしれないですけど、今はそれ以上に、その、、とにかく、イオの側にいたいんです」
「...理由は説明出来ないみたいだね。でも、No.10。そのイオは戦闘員で、君は駆除対象なんだよ。それでも、いいの?」
「っ」
カエデはそれを受け、イオが先程小さなレプテリヤを容易く駆除していたのを思い返す。きっとイオは、使命に従順である。故に、カエデもまたあのレプテリヤと同じようにして、
自身が
それでも、と。カエデは目つきを変えて口を開く。
「でも、私は、イオと一緒にいたい」
「本当に?僕達の目的は、今も既に君を駆除する事だとしても?君が記憶を取り戻したら、それまで。レプテリヤとして認識されて、駆除されるかもしれないんだよ?」
「いいです。私は、イオと一緒に。本当はそうなりたくないですけど、もしそうなるのが確定した事象であるとすれば、私はそれまででもいいから。イオと一緒にいたいです」
カエデの真っ直ぐな視線を受けながら、No.190は表情を曇らせる。
「"本当の君"を、先輩が駆除しようとしていても?本当の君を、先輩は知らなくても?それでもいいの?...記憶が無いから君はこうして交流してるけど、それは本当の君じゃ無い。そこでどのくらい先輩との仲を深めても、本来の。本当の君じゃ無いんだ。それって、悲しいじゃん」
No.190の的確な言葉に、カエデは一度寂しそうな顔をして唇を噛んだものの、直ぐ覚悟を決めて顔を上げる。
「...大丈夫です。それは、レプテリヤである記憶を取り戻した私であり、今の私では無いので。貴方の主張の通りだと仮定すると、私は本物では無い。かといって、記憶を取り戻した私も、
「っ」
その、全てを覚悟している様な。それなのにも関わらずそれを望む本気の姿勢を受けて、No.190は思わず目を見開く。
それ程までの、「想い」。というやつなのだろう。
No.190はその双眸に圧倒され、苦笑しながら頭に手をやる。
「ははは、なるほどね。今はその私とは違うかぁ。...それは上手いこと言われたなぁ」
笑うNo.190に、力強い表情で鼻を鳴らすカエデ。すると、笑い終わったNo.190は少し呼吸を整えたのち、そう口にする。
「そっか、そんなにか。だったら、僕も力になってあげないとね」
「え、?ど、どういう意味ですか?」
優しく放ち、身体の向きを変えようとする中、カエデは前のめりになって疑問を投げた。が、しかし。それに答えることはせず、代わりに。
「先輩、、いや、その、イオは。確かにいっつもブレなくて、何考えてるか分かんないけどさ。動揺してると思うんだよね。君にそうやって、理由も無しに慕われて」
と返した。
「え、そ、そうなんですか?」
意図した返しでなかった事に、一瞬驚いたものの、直ぐに気を改めて放つ。
「たまに言ってる事とやってる事が違かったり、前と矛盾した発言をする事もあるかもしれないけど、大目に見てあげて欲しい。先輩は、悩んでるんだよ。こういう事に慣れてないから、葛藤しながら会話をしてるんだ」
そこまで、背を向けて顔だけを僅かにこちらに向けながらNo.190は言うと「だって」と付け足し、足を踏み出した。
「先輩は"あの時"から、ずっと孤独だから」
「え、」
歩き始めるNo.190の背中に、目を見開いて、その発言に声を漏らす事しか出来なかった。
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