自我を持ちはじめた闇の仕事人 VS 絶対に命令を守らせるボス

長田桂陣

第1話

 私は闇の掃除人。

 幼い頃、組織に拾われてから、ボスのもとでその技術を磨いてきた。

 いまや一流の仕事人なのです。


 仕事は必ずやり遂げます。

 その為にも、ボスの命令に逆らうことは許されません。

 命令は絶対です。

 そして、今も薄暗い路地裏で闇の仕事を完璧に終えたばかりです。


 カラン……


 物音!

 私の仕事は極秘裏に行われなくてはなりません。

 ボスの命令が頭をよぎります。


『リリよ。目撃者は例外なく始末しろ!』


 ……イエス、ボス。

 命令は絶対逆らうことは許されない。

 私は警戒しながら物音のした方へ歩みを進めます。

 やがて、暗闇の中に小さな人影を見つけました。

 訓練された私の目はある程度なら暗闇を見通すことが出来るのです。

 それはボロの服をまとった子供です。

 この辺はかわいそうな浮浪児が多くいます。


『リリよ。目撃者は例外なく始末しろ!』 


 私に刷り込まれたボスの命令が脳裏に聞こえます。

 イエス、ボス。ボスの命令は絶対です。


『ただし、子供は見逃しても良い。子供は将来の宝だからな。クックック』


 逆らうことは許されない非情なる鉄の掟なのです。


 私は浮浪児に近づくとポケットからお菓子を取り出します。

 もちろん、目撃者の口を封じるためです。

 もぐもぐ。

 美味しいか?

 よし、任務完了……


『リリよ。任務遂行後は速やかに立ち去れ。痕跡を残さぬよう余計なことは一切するな』


 イエス、ボス。

 あとは速やかに現場を立ち去るだけです。

 いえ! まだ何かが居ます!

 私は周囲を見渡して気配を探ります。

 感情に流されてはいけません、冷静に状況を判断するのです。


 にゃ~(ΦωΦ)


 猫だ。

 黒猫、足の先が白い靴下猫さんです。

 ボスの命令が再び私の頭をよぎるのです。


『リリよ。任務遂行後は速やかに立ち去れ。痕跡を残さぬよう余計なことは一切するな』


 イエス、ボス!


『だが猫ちゃんは別だ。猫ちゃんは可愛い、癒やされるので触っても良い、クックック』


 私は黒猫を驚かせないよう静かに近づきます。

 そっと手を伸ばしたところ逃げられてしまいました。

 後を追おうとした私は、またもやボスの命令を思い出します。


『嫌がる猫ちゃんを追いかけてはいけない。これは絶対の掟だ、クックック』


 イ……イエス……ボス。

 掟は非情なのです。

 私情を挟むのは許されません。

 やはり、私はボスの……あの男の命令には逆らえないでしょうか。


『リリよ。仕事で辛いことがあったときはお菓子を買って帰るのだ、クックック』


 私は命じられたスイーツを買って帰るため、お菓子屋に向かいます。

 利き腕は懐でしっかりと獲物を握り。

 もう一方の手で浮浪児の手を引いて。


 おしまい

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自我を持ちはじめた闇の仕事人 VS 絶対に命令を守らせるボス 長田桂陣 @keijin-osada

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