第19話 期末試験

アメリアに散々嫌がらせを繰り返しながらも、日々時は過ぎていく。


そして、来週には今学期の学末試験が行われるのだ。


座学で7科目、技術で2科目、武術2科目の計11科目もある。


確か、ゲームのエリザは座学に関しては悪くなかった記憶があった。


座学だけなら10位以内には入っていたし、総合でも中盤より上の成績を保持していたと思う。


だから、私もどこかで安心していた。


きっとこの瞬間ぐらいは悪役チートスキルが発動するだろうと。


気が抜けたせいもあってか、テスト勉強を始めたのがテスト当日の一週間前。


基本、一夜漬けで何とかなるだろうからと多少小説を読むなど、勉強以外のこともしていたが、私なりには頑張ったと思う。


しかし、この世界でも実力は実力としての実績が出るようだった。






「さすがウィリアム様。座学で2位、総合でも1位ですわ!」


ウィリアムの周りにいる女子生徒がそう騒いだ。


「ルーク様も素晴らしい実績ですわ。技術と武術両方とも2位、総合で3位ですもの」


ルークの周りでも女子生徒たちが騒いでいる。


私達三人と言えば、掲示されている成績表を見ながら、呆然と立ち尽くしていた。


「エリザ様、結果はどうなっておりますの?」


ロゼが覇気のない声で聞いて来る。


私もここまで来て嘘をついても仕方がないと思い、正直に答えた。


「座学32位、技術58位、武術35位、総合36位ですわ」


ついでに私の学年の生徒は全部で60名だ。


ロゼもははと笑いながら答える。


「わたくしなんて、座学35位、技術40位、武術38位 総合39位ですのよ」


そして、セレナに関しては完全に泣き声だった。


「あんまりですわぁ! 学期末の試験がこんなに難しいなんて聞いておりませんもの! 座学は43位だし、技術は30位だけど、武術は51位! 総合47位なんてひどすぎますぅ」


確かに酷い成績だ。


セレナに関しては、本気で勉強し直した方がいい。


「そもそも武術なんて淑女に必要ですの? 淑女は殿方に守ってもらえればいいじゃないですか!?」


セレナは涙目でそう訴えて来た。


確かに私達貴族の女子に武術は不要に思えるけれど、警護をする付き人を持てる婦人などそうはいない。


特に男爵家ともなれば、基本自分身の安全は自分で守るものであり、護身術程度は身につけた方がいいし、いざとなれば家を守るために多少戦うこともあるだろう。


男子生徒に比べたら、まったく厳しくない稽古なのだが、それでも貴族の女子には荷が重いようである。


「武術は大事だぜ? 俺の武術の順位、見てみろよ! 1位なんだぜ!!」


自慢げに話しかけてくるギルバートに、今まで泣いていたセレナの顔がすぐに晴れやかな顔に戻り、手を握りしめてギルバートを褒め始めた。


「さすが、ギルバート様!! ウィリアム様やルーク様という武術に長けた殿方が多い中で1位を取られるだなんて! まるで我が国の英雄の騎士様のよう」


そうかなぁと褒められたギルバートは照れくさそうに頭を撫でる。


けれど、そんなギルバートに言っておきたいことがある。


「にしたって、座学も技術も60位、つまり最下位って全く自慢出来なくってよ?」


「なんだよ! 魔法技術だけで言えば、俺の方が点数良かったのに!」


子供かというような態度で反抗して来るギルバート。


確かに、魔法技術の順位で言えば私は最下位だったけれど、製薬技術ではそこそこの点数を出している。


何でもかんでも下位のギルバートと一緒にだけはされたくない。


それにどうした、悪役令嬢スキル!


全然発動していないではないか!?


「しっかし、アメリアってすごいんだな。座学はルークより上の3位だし、技術にいたってはダントツの1位! 武術だって女子の中じゃ、トップの8位で、総合が2位って歴代女子のトップなんじゃねぇの?」


ギルバートはアメリアの成績を見て、感心した声を上げる。


その事実だけは三人とも聞きたくはなかった。


ちゃんと発動しているじゃないか、主人公スキル!


とは言っても、あの真面目なアメリアだから並々ならぬ努力はしてきたのだと思う。


授業中はいつも集中しているし、予習復習は欠かさない。


武術の稽古もやる気のない令嬢たちとは違い懸命にやっていたし、手先も器用だから製薬もうまかった。


だから、この成績は頷ける。


いくら私が悪役令嬢の役目をもらえたからって、こんな努力は出来ない。


それにエリザの成績が中の下であっても筋書にはさほど問題がないのだろう。


「そう言えば、座学の1位ってリオ・ハールゲンって書いてありますけれど、どなたなのかしら? しかも技術も4位って、これだけの優秀な生徒なら目立つ気がしますけれど」


セレナの疑問を聞いて、そういえばと私もその名前に目をやった。


忙しくてすっかり忘れていたけれど、このリオという少年が最後の攻略対象の一人なのだ。


「あら、知らなくって? 彼、入学試験をトップで合格し、講義なんて受ける必要がないぐらいの頭がいいそうですわよ。入試試験も今回の座学もオール満点。武術の試験はボイコットしているから、総合順位は下がっていますけれど、製薬技術も魔法技術もかなり高いとか。技術点が少し落ちているのは恐らく実習に参加していないから、サディアス先生辺りが減点したのでしょうね」


とロゼがセレナの疑問に答えた。


そう、彼は私たちより2つ年下の天才少年なのだ。


こうしてまだ登場していないのは、彼が人前に出るタイプではないから。


ゲームでも確か主人公と出会ったのは科学室の中だし、他のキャラクターと絡んでくるのはもっと先のイベントだったと思う。


恐らく、今生徒の中でリオと会っているのは、アメリアぐらいじゃないかな。


それはそうと、私は自分の成績表を見て、大きくため息をついた。


こんなに低い点数を取るつもりではなかった。


この成績は私が帰宅した際に、家族全員に見られるわけだし、何よりもエマに怒られる。


ウィリアムはあんなに成績がいいのに、婚約者の私がこんなのでいいのか。


しかし、だからと言ってアメリアのような努力家になれる自信などない。


あれもまた一つの才能であり、ヒロインスキルの一つだと思うから。


そして、期末試験が終わるとすぐに夏の長期休暇が始まる。


当然、私はヴァロワ領にやっと帰ることができるというわけだ。


夏のバカンス中のエリザと言えば豪華絢爛に過ごして、優雅に遊んでばかりだった気がする。


その間にウィリアムとアメリアの関係が深まっていくことも気がつかずに愚かなものだ。


「エリザ様、本当にこのままでよろしいのかしら!?」


突然、私の横でロゼが叫んだ。


私の頭の中はもうバカンスの事でいっぱいなのに、なぜロゼがそこまで必死なのかわからなかった。


「今更、成績の事で悩んでも致し方ないんじゃありません?」


「そのことじゃありませんわ! アメリアの事ですわ!」


その言葉を聞いて、私はこれから起きるだろうある事件のことを思い出した。


そう、夏の長期休暇に入る前の我が学園を大きく揺るがす大事件だ。


自分がエリザだったからすっかり忘れていたけれど、エリザがやらないならロゼや他の者が実行する。


この世界はそういう仕組みだった。


そして、この後に起きる事件は、エリザにとっても大きな出来事に一つになる。

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