第14話 不本意な行動
どうやらこのゲームの世界は何が何でも私を悪者にしたいらしい。
『教科書足蹴事件』により、私の悪行は瞬く間に広がった。
校内ではアメリア反対派が多いこともあって、陰で私を応援する生徒も少なくはないが、私としては迷惑この上ない。
「ルーク様がわからず屋なだけですわ! エリザ様は何も悪いことなんてしておりませんのに」
ロゼは廊下を歩きながら、不満そうに零した。
そもそもロゼがアメリアにちょっかい出さなければこうならなかったのだが、その点については言及しないようだった。
それにロゼはなぜかルークがいないところでは少し強気で話す。
本当はあんまり好きじゃないんだろうなと思う。
その辺は気が合いそうだ。
「わたくし、ちょっとお花を摘みに行ってまいります」
私はそう言ってトイレに向かった。
淑女とは本当に面倒くさい。
トイレに行くだけでも普通に言えないのだから。
そう思いながらトイレの扉を開けると、目の前に水の入ったバケツが置いてあった。
私はそれを見て、困った顔をする。
「誰がこんなところに置いたのかしら? 危ないじゃない!」
そう言ってどかそうと持ち上げた時、目の前の扉がゆっくりと開き始めた。
先客いたのかと思って注目していると、更に後ろから誰かが入ってくるのを感じた。
後ろに注視してしまった私は誤ってバケツを勢い余って前に投げてしまった。
そして、気が付けば先客の頭に向かってバケツの水をぶちまけていた。
そんなバカなと思いつつも、目の前にいたのはあのアメリアだった。
「アメリアさん、そのぉ……」
びしょびしょになった彼女を見て謝ろうとすると、その前にアメリアが先に声をかけて来た。
「気になさらないでください。私がこんなところでぼぉと立っていたのが悪いんです」
そんなわけがないだろうと思いながらも、先に言われてしまうと言い返しにくい。
それに後ろには何事かと驚いて立っているロゼとセレナがいた。
「エリザ様、どうされたんですの?」
ロゼが私に尋ね、そしてロゼの後ろにいたセレナがびしょ濡れになったアメリアを見つけ、指をさし大笑いした。
「なんですの、その格好! ずぶぬれじゃありませんかぁ」
「ちょっ、セレナ!」
私がしてしまったことなのに笑うなんて失礼だろうとセレナの笑いを止めようとしたが、アメリアも恥ずかしそうに笑った。
「ほんと、私ったらドジで、お恥ずかしい限りです」
彼女は軽く髪をハンカチで拭い、うつむきながらトイレから出ていった。
ロゼは転がったバケツを見ながら、唖然とした顔で私を見ていた。
その後、アメリアは保健室で着替えを借りて、教室に戻るとそんな彼女を見てクラスメイト達がまた騒ぎ始めた。
ウィリアムも何かあったのだろうと勘付き、心配してアメリアに事情を聞きに行く。
しかし、アメリアは決して私がやったのだとは言わなかった。
私はただ、気まずい思いでアメリアを見ていた。
どうして素直に謝れないんだろう。
そんな風に思いながら今日も魔法実習を受けていた。
ルークはとっくに初級魔法を習得し、中級魔法の訓練に取り掛かっている。
私と言えば、未だに初級魔法の物体を動かす魔法でもたついていた。
そんな自分にイライラしてか、私はつい勢い余って呪文を唱えながら思い切り杖を振り降ろした。
その勢いでいつもより強い風を起こせたのはいいものの、方向が定まらず、全く違う場所に飛んで行ってしまった。
そして、何処からか悲鳴のような声が聞こえる。
私はもしやと思い、声のする方へ駆け寄ってみるとそこにはまたしてもアメリアが倒れていた。
「アメリア、大丈夫か!?」
サディアスが心配そうにアメリアに駆け寄る。
アメリアは大丈夫ですと言って、服についた土を払って起き上がったが、目の前には折れた杖が転がっていた。
「なんてことだ。杖が折れている」
サディアスは折れた杖を拾い上げ、周りを見渡す。
サディアスもアメリアが日頃から生徒たちに嫌がらせを受けていたのは知っていたので、今回もまたわざとアメリアを狙ったのではないのかと危惧していたのだ。
「これは風魔法だな。おい、風属性のグループ! これをやったのは誰だ!?」
こんな大騒ぎになって私ですなんて言えるはずがない。
身を隠すようにして、顔を逸らしているとアメリアはそんなサディアスに近づいて、折れている杖を受け取った。
「気にしないでください、ウォンバス教官。元々古い杖だったので、すでに折れかかっていたのです」
「しかしこれでは――」
「今日は見学にします。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
アメリアはそう言ってサディアスに頭を下げ、練習する生徒の邪魔にならない場所に離れて立っていた。
悪いことしたとは思いつつも、どうして本当の事をアメリアが言わないのかわからなかった。
私がやったことだとわからなかったとしても、杖が折れてはもう練習は出来ない。
それに彼女は平民で杖は平民が軽々と買えるような安い買い物ではない。
恐らくそんな資金は彼女にはないだろう。
私はとりあえず手紙でエマに新しい一般的な杖を買ってくるように頼むことにした。
アメリアの嫌がらせは飽きることなく続いていた。
座学の時間、生徒たちの中で手紙を回すことが流行っていた。
当然、講師に見つかれば没収され、咎められるのだが、それでもやりたがるのが子供というものだ。
その手紙は回りに回って、私のところにも届いた。
その手紙にはあることないことアメリアの悪口が書かれている。
誰だ、こんな幼稚な事をしているのはと思い、捨てようとしたところをセレナに見つかる。
セレナは講師に見つからないような小さな声で私に尋ねた。
「エリザ様、それはなんですの?」
興味津々のセレナに私は負けて、その手紙を彼女に渡す。
彼女はそれを見るとわぁと驚いた顔をして、手紙を読み始めた。
手紙を読むのに集中しすぎたのだろう。
講師が近づいていることにも気が付かず、セレナはずっと手紙に集中している。
そして、予想通り手紙は講師に見つかり、没収された。
「これは何です? ミス・ガルビアン」
講師は取り上げた手紙を見て、複雑な表情をする。
「これは全てアメリアの事じゃありませんか? こんなでまかせを誰が書いたんです?」
講師は手紙を見せつけて、教室内の生徒たちに尋ねるが答える者などいない。
ともなれば最後手にしていたセレナが説教を受けることになるのだろう。
「とりあえず、ミス・ガルビアン。授業が終わったら、私のところまで来なさい。あなたには話さなければならないことがありますからね」
そう言われて、セレナは運が悪いと肩を落とした。
周りの生徒たちもそんなセレナを見て笑っていたが、その手紙がアメリアの悪口であることはわかっている様子だった。
当の本人もそれは理解しているのだろうが、手紙の話になってもアメリアは顔色一つ変えずに授業に集中している。
悲しそうな顔でもすれば可愛げもあったろうに、あれでは悪口程度では気にならないといった態度に見える。
それでは余計周りからの反感を買うだけだ。
それがわかっていても、アメリアは自分の姿勢を崩さなかった。
彼女のその苛めや嫌がらせに屈しない姿は一部の講師や生徒に好印象を受けたが、大半の生徒にとっては面白くなかったのだろう。
私も最初は同情していた部分もあったが、段々アメリア態度に対し無関心ではいられなくなっていた。
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