第13話 校内苛め

アメリアが生徒会メンバーに選ばれたことで、彼女に対する嫌がらせは日に日に増していった。


それは彼女が光属性の使い手でウィリアムなど女子生徒に人気の高い男子生徒に気に入られたことも、嫌がらせを受ける要因にもなっている。


この苛めの首謀者はエリザ。


私ということにはなっているが、実際に私が彼女に嫌がらせをするように命じた記憶はない。


ただ、アメリアを不服に思う生徒たちが私を中心に集まっているのは確かだった。


「本当に最低ですわ、あの女。自分の身の丈も理解できないのか、今日も廊下でウィリアム王子にお声がけされておりましたのよ。その後もぺらぺらと楽しそうに話して! あの口をひん剥いてやりたいですわ!!」


「わたくしも見ましたわ。ルーク様と楽しそうに話されているところを。わざわざ中庭の木陰で隠れるように密会して、いやらしい。あの女は悪女です」


「そうですわ! 生徒会メンバーに選ばれてから、見廻りとか言ってわざわざ生徒会メンバーでもないギルバート様を誘って校内を歩き回っているとか。自分が殿方に気に入られていることを見せびらかしたいのかしら?」


「そもそもクラウス様があの女を生徒会メンバーに選んだのは、以前からの顔見知りで、クラウス様の気を引くためにわざとお洋服に飲み物をかけたそうですって。どこまでもあくどい女!」


「そもそも、光属性の適性を持っているからって、平民の癖に偉そうなのよ。お陰でサディアス先生の気も引けて、本人はご満悦でしょうけど。どうしてあんな性悪女が光属性なんて特別な魔法が使えるのかしら?」


「わたくし、それに関するある噂を聞いたのですが、あの女、面前では光属性とか言っているみたいですけど、本当は闇属性なんですって。あの時の水晶も魔法で操って、わざと壊したんですのよ。自分が闇属性なのがバレないのようにするために」


「もしかしてその闇魔法で王族の殿方たちを誘惑しているのではありませんこと? だってあんな庶民の女が、高貴で美しい殿方ばかりに気に入られるのはおかしいですもの」


この話が全部、デマや誇張したものだということはわかっている。


確かにウィリアム達はアメリアという女子生徒に惹かれてはいるが、当然それは魔法によるものではない。


もっと厄介な『ゲームプログラム』というものだろう。


結局のところ、女性陣の怒りの原因は男の事ばかりで、自分が意中の殿方に振り向いてもらえないからと妬んでいるに過ぎなかった。


それにしても、裏でこれだけ散々言われていたとはさすがの私も知らなかった。


私の隣では私以上にご立腹しているロゼがいた。


彼女の癖なのか、ストレスが溜まると親指の爪を噛む習性があるらしい。


「許せませんわね、あの庶民女! 一度痛いめに合わせないとわからないのかしら?」


段々嫌な予感がしてきた私は、すぐにでもこの場を離れたい気持ちでいっぱいになったが、それは許されそうになかった。


「どう思います? エリザ様!」


誰かが私の意見を求めると一斉に目線がこちらに向く。


私は焦りながらもどう答えるべきか、当たり障りのない答えに苦慮していた。


「皆さんのお気持ちはお察ししますわ。今度、わたくしの方からも殿下の意向をお尋ねさせていただきますので、ひとまずここはわたくしの顔に免じて、お怒りを鎮めになって」


その言葉を聞いた瞬間、周りの女子生徒たちの顔が少し晴れやかになった。


「さすが、エリザ様。頼れるのはいつだってエリザ様だけですわ!」


「わたくしもエリザ様とお話し出来て良かったです! 溜飲が下がる思いですわ」


どうも、アメリアが批難されるところでは、私はまるで女神のように慕ってもらえるようだった。


頼られて嬉しくないことはないのだけれど、おかげで破滅ルートには確実に近づいていると思う。


女性陣がいなくなると、いつものロゼとセレナだけが私の周りに残った。


ロゼの方は全く怒りがおさまっていないようだ。


セレナの方もギルバートがアメリアにご執心であることを知ってショックを受けている。


こうして見るとアメリアとはなかなかの厄介者である。


だからと言って、私がアメリアに危害を加えようとは今のところ思ってはいない。


と同時に、助けようとも思わなかった。


このゲームのヒロインなんだから、少しぐらいは苦労したっていいじゃないかという気持ちになってくる。


このまま進めば、どの道アメリアは意中の相手と両想いになり、しかもその光魔法で人々に認められ幸せになることが確定しているのだ。


バッドエンドがないわけではないけれど、今の彼女がそんなミスをするとも思えない。


そんなことを考えていると目の前からその噂の的、アメリアが教材を持って歩いて来るところが見えた。


ロゼはそれを見つけると皮肉な笑みを浮かべ、彼女に近づいていく。


嫌味の一つでも言いに行くつもりだろう。


さっきの話で盛り上がっていたこともあるし、そのロゼの勢いを私は止めることが出来そうにない。


「あらぁ、どこのみすぼらしい娘がいるかと思ったら、アメリアさんじゃありませんこと? こんな廊下の真ん中をあなたのような庶民が歩かれるとわたくしたち、大変迷惑ですの」


ロゼはアメリアの前に立ち、腰に手を置いて話しかけた。


私はこれから面倒くさいことになるぞと頭を抱える。


「それは失礼しました……」


アメリアはそう言って頭を下げ、廊下の端によけると私たちの横を通り過ぎようとした。


その態度が余計にロゼを不快にさせたのか、ロゼは過ぎ去ろうとするアメリアの腕を掴む。


「ちょっと、何を勝手に――」


腕を引かれたことでアメリアの持っていた教科書などの教材が手からこぼれ、廊下に散らばっていく。


少しやりすぎだと思い、私は慌ててロゼを止めようとすると、逆に私が倒れそうになって足が前に出た。


その瞬間、私の足先に何かを踏みつけた感触がする。


それはアメリアの教科書で、しかもその私のつま先は教科書の間に入り込み、中の紙をくしゃくしゃにしていた。


これはヤバいと思い、教科書から足をどけて謝ろうとすると、そこにまたタイミング悪くルークが現れる。


そして、私がアメリアの教科書を踏んでいる瞬間を目撃したのか、軽蔑をするような顔で睨みつけて来た。


「おい、エリザ! お前、アメリアの教科書に何をしている!?」


私はわざとじゃないと弁解したかったが、そう言って信じてもらえる雰囲気ではなかった。


私がゆっくり後退るとルークがアメリアの散らばった教材を拾い始めた。


何とも気まずい雰囲気である。


「エリザ様は何も悪くありませんわ! この女が勝手に――」


ロゼが弁解しようとしてくれたのだが、それが余計にルークを怒らしたらしい。


私たちを睨みつけて、きつい言葉で放った。


「言い訳はよしてくれ! どう見たってこれは苛めだろう。今度、同じような事があれば、この俺が許さないからな!!」


そう言ってルークはアメリアの肩を抱いて、廊下の先へ向かって言った。


アメリアは申し訳なさそうに振り向き私の顔を見ていたが、ルークは全く私たちを許す気にはないようだ。


あの石頭がと怒鳴りつけたくなったが、すべてが後の祭り。


教室から他の生徒たちが何事かと顔を覗かせ、こちらを見ている。


どう見たってこの光景、エリザがアメリアを苛めているようにしか見えない。


どうしてこうなったのか、私にも理解できなかった。

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