夏祭り

 「見て見て!この浴衣いいでしょ?」

 「ああ、似合ってるよ」

 俺の隣で、高校生ぐらいのカップルがそんな他愛も無い話をしていた。

 俺は結局、何をしようという気も無いのに、この場に来てしまった。

 理恵は誘っていない。

 当然だ。あいつは今、あいつの彼氏のものなんだから、俺に誘える理由も義理もない。

 「悪ぃ、俺トイレ行ってくるわ」

 「おう」

 俺に理恵を誘って夏祭りに行くよう勧めた友達は、今さっきまで俺と一緒に出店を周ってくれていた。

 しかし、今トイレに行ってしまったから、俺は一人きりの状態だ。

 何をすれば良いのか、分からない。

 理恵を失い、行動目的も失い、空っぽになった今の俺は、熱気と活力に溢れたお祭りの雰囲気とは明らかにかけ離れている存在だろう。

 とりあえず、歩いてみよう。

 理由も訳もなく、歩き出してみた。

 景色をぼんやり眺めると、屋台の暖簾や看板、旗などが、提灯や電球の灯りに照らされて、とても綺麗に着飾られている。

 でも、俺はその景色を楽しむ事も出来ない。

 少し歩いたが、やっぱりさっきいた場所に戻ろう。それで、友達を待つ事にしよう。

 俺は振り返った。

 「…あ」

 「先輩!こっちこっち」

 今思えば、それもその筈だった。

 こんな賑やかで、楽しそうで、キラキラとした素敵な場所に、あの女の子が来ていないわけが無かった。

 「これやりましょ?」

 理恵は綺麗な浴衣姿で、隣の男の手を引っ張っている。

 …あぁ、そうか。

 俺は、この場にいちゃいけない人間なんだ。

 「っ!」

 気付けば俺は、行くあてもなく駆け出していた。

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